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転生②

「この剣に斬れぬものはない!! 全てを斬り伏せる魔剣!! その名もミストルティン!!」


「却下。 なんだその棒切れは。 この俺の高貴さに見合うだけの美しい武器を持ってこい」


「えぇ…… これで125本目ですよぉ……? いい加減、私も疲れてきたのですが……」


 この女神とやらが持ってくる武器はどれも美的センスに欠ける。血生臭い斧、派手さだけは一丁前な成金が好きそうな剣、極め付けはこの棒切れ。


 バカにされているように思えて仕方がない。


 ──俺の我慢はもう限界だった。


「はぁ…… もういい。 俺が直々に選定する。 あそこに浮いてる武器を全部降ろせ」


「えぇ!!? そんな事していいってマニュアルには書いてないんですよ!!? 私、怒られちゃうじゃないですか!!」


「わかった。 そこまで言うなら選ばせてやる。 あれを全部まとめて持ってくるか、降ろすか、どっちか選べ」


 ルリは一瞬、ぽかーんとした表情を浮かべると、言葉の意味を理解したのか顔を真っ赤にし、瞳に涙を溜める。


「泣けば許されるとでも思っているのか? 早く選べ。 俺は他人に時間を奪われるのが心底嫌いなんだ」


 雑魚天使は嗚咽を上げながら宙に舞う武器の群れを一瞥すると、パチンと小さく指を鳴らす。


 武器達はふわふわとこちらに近づいてくると、俺の目の前にガシャンと音を立てて落下した。


「やれば出来るじゃないか、ロリ天使」


「……わ、わだじ…… 女神なのにぃ…… こんな扱い…… ひどいよぉ……」


「女神がどうした。 俺は九条 一星だ。 丁重に扱え、不敬だぞ」


 これぐらいの要求は当然の権利だろ。

命がけで魔王を倒しにいくんだぞ?この女神もどきの数倍は偉大だと言っても過言ではないはずだ。


 その場にへたり込んで泣きじゃくるルリを無視し、俺は床に散らばった武器達を物色する。


 どれもこれも悪趣味だな。貴金属を使えば高級感がでるとか思ったら大間違いだと製作者に説いてやりたい。


 結局、この中には俺の琴線にふれる武器は見当たらなかった。もっと他に無いのか…… 俺は部屋中を隅々まで見渡す。


 そして、次の瞬間、全身に電撃が走った。


 先程武器が浮いていた場所に一つだけ残ったその剣は、刀身が少し太めで漆黒の西洋長剣。恐らくプラチナを利用しているのであろう輝く両刃と刀身の黒とが相まって、見るからに気品が溢れている。柄に埋め込まれている宝石は恐らくダイヤモンド。世界最大の大きさに近い1100カラット、あるいはそれよりもさらに大きなものだろう。……この俺でもあのサイズの物は初めて見る。

──すばらしい。


「おい、ロリ天使。 あの剣だ。 あの剣をさっさとここまで運んでこい 」


「……ふぇ? あれってどれですか? 全部降ろしたと思いま──」


 ルリは真っ赤に腫らした目を俺が指差した方向へと向けると、「あっ」と小さく呟いて言葉を続ける。


「そういえば商標登録がまだでした。 何分新作ですので……」


 パタパタと羽を羽ばたかせ、剣を握ると、俺の前に舞い戻ってくる。着地するや否や、剣を俺へと手渡す。


 様々は美術品を見てきた俺だが、これほどまでに完成された品は初めて見た。


──美しい。あまりに美しすぎる。


「歴代魔王の中で最も高傑で、武に秀でていたと謳われるヴィルスハイト。 彼の魂を食らい、魔王の力その物を得る事に成功した新造魔剣です」


 高潔な魔王の魂だと。高潔な魂を持ち、現世では王と言っても過言ではなかった俺に相応しい剣じゃないか。


──もはや迷いなどない。


「これにする。 そうと決まったらさっさと俺を生き返らせろ」


「あぁ、ようやく解放されました……。 それでは商標登録を──」


「──二度も言わせるな。 俺は他人に時間を取られるのが心底嫌いなんだ。 そんな事、俺を生き返らせた後でもいいだろう」


 再び、ルリは目に涙を溜め出す。本当に小学生を相手にしているようで、さすがの俺も少しだけ罪悪感が湧いてきた。


「わ、わかりましたぁ……。 初めてなので安全な場所に送り届けられるか不安ですが…… がんばりますっ!!」


 ん? 今こいつなんて言った?


 こいつの言葉と同時に、俺の身体は光を放ちながら足元から消えていく。


「おい!! ちょっと待て!! い──」


「──あ! 言語のことならご心配なく!! ちゃんと現地の方々とお話しできるようにしておきますから!!」


 そういう問題じゃない!!!


……そう叫びたかったが最早声を出せる状態ではなかった。ランダムリスポーンってヤツか…… リスキルされそうな場所だけは勘弁してくれよ……?


 俺は身体が完全に光になると同時に気を失った。




「はぁ……。 ようやく行ってくれたよぉ……。 先輩が帰ってくる前に片付けなきゃ」


 心の底からホッとした様子で胸を撫で下ろしたシエラは、再び指を鳴らす。


 地面に散らばった武器達は宙へとゆっくり浮かび上がると、ふわふわと元の場所へと移動を始める。


 額の汗を拭い、ルリが達成感に満たされた表情を浮かべたその時──


──ドォオオン!!と落雷のような轟音が辺りに反響し、純白の部屋の壁に大きな風穴が開く。


「ああああぁ!!! もう地獄なんて一生行かない!! 熱いし臭いしで最悪よ!!」


 大穴から現れた女性の叫び声にルリはビクリと身体を震わせる。 恐る恐る振り向いた視線の先。


 右手に真っ黒な炎のような物を握った先輩女神の姿があった。


「お、おかえりなさい、先輩……!! ……あれ? その手に握ってるのはなんですか?」


「ただいまルリ! これはね、ヴィルスハイトの魂よ! 地獄の底を探し回ってやっと見つけたの! あとは剣にこれを食わせれば、ようやく魔剣ヴィルスハイトの完成よ……!! ここまで本当に長かったわぁ……」


 満面の笑みで魔王の魂を掲げる先輩女神。ルリはギョッとした顔で口を開く。


「え!? じゃあ、あの剣ってもしかして今はただの剣なんですか!?」


「空の魔石が埋め込んであるから何かしらのスキルは付いてるかもだけど…… まぁ、そうね。 今はそれなりに切れる剣ってとこかしら? 」


 先輩女神の言葉を聞くや否や、ルリの瞳から光が消え、その場に崩れ落ちた。

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