日常②
雨が上がり。
煉瓦造りの建物からゾロゾロ出てきた露店商達は濡れた石畳の上に大きなゴザを引く。
忙しなく商品を並べ、彼らは俺達を迎える準備をしている。
「お兄ちゃんはもっとすごい鎧にしないの? 皮の装備だけじゃ絶対あぶないよ?」
「軽装が好きなんだよ。 重い防具は動きを鈍らせるし、武器が振りにくくてな」
子供達はうーうー唸りながら俺の前を歩く。
普段は我先にと駆け出すはずの串焼きや砂糖菓子の屋台には目も暮れない真剣な様子だ。
……必死に考えてくれているのだな。
「あ!そうだ! お兄ちゃんって盾とか持たないの!?」
何かを思いついたような素振りで俺に問いかけるソフィア。
「あると便利だろうが、出来れば持ちたくないな。大体両手で剣を握るし」
「「「じゃあけってーーーい!!!」」」
一斉に走り出す子供達。
その後ろを俺はゆっくりと追う。
街並みを見ながらふと思ったが、なぜファンタジーの世界というのは西洋建築が多いのだろうか?
大きな大陸になると、どこの世界も出来上がるものは大体同じなのだろうか?
子供達は小汚い看板を吊り下げた防具屋の前で止まる。
店装は古いが、俺も贔屓にしている店だ。この胸当ても脛当ても実はここで購入した。品質はこの辺りでは最高峰だが、価格交渉に一切応じてくれない堅物店主には俺も手を焼いている。
……この子達に購入出来る物があるのだろうか。
「お兄ちゃんはここで待ってて!!」
ソフィアは俺にそう声をかけると、防具屋の扉を開ける。
まあ、この子は利口だ。
金額の釣り合わない店で買い物はしないだろうし、きっと問題ないか。
思い返せば、この子のおかげで俺は商才を存分に振るえている。
薬草の判別や子供達の取りまとめ。
販売、製造以外のプロセスは全てソフィアに任せているのだ。年長者とはいえまだ8歳だというのに見事な手腕だ。
俺が商売人としての全てを叩き込んで鍛えてやりたいところだが……。 名残惜しいことに別れが近い。
気力回復薬の製造は手作業で何度も作って見せ、既に伝えている。
だが、製造方法を覚えたとしても今度は材料の確保が問題だ。
家畜の肝臓はこの世界では捨てられるだけ。
新鮮な物を安くで買い叩けばいい。
しかし、当然子供達が狩りをできる訳がない。
雄鹿の角は安くで仕入れられるルートが必要だ。
それから・・・
◆◇◆◇
「──おまたせ、お兄ちゃん!」
ソフィアの声にハッと我に返った。
街全体を赤く染める夕日。鳴り響く教会の鐘。
巣へと戻る鳥達の慌ただしい羽音。
思っていたよりも時間が経過していたようだ。
「結構かかったな。おっさん、強敵だっただろ?」
子供達の一人が大事そうに抱えている、布に包まれた何か。間違いなく銀貨25枚では足りないはずだ。
……相当粘ったのだろうな。
「ううん! すごい優しかったよ!」
いつも率先して商品を運んでくれる力持ちの男の子が俺の前に進み出る。
彼は満面の笑みを浮かべ、両手で包みを渡してくれた。
「にいちゃん! いつもありがとう、旅に出ても僕たちのこと忘れないでね!」
「いつでも帰ってきてね!!」
「絶対いつか!! 今度は僕たちがお兄ちゃんを助けてあげるからね!!」
子供達はみんな拍手と思い思いの言葉を投げてくれる。
……そうか。
旅立つ俺に餞別の品を贈ってくれようとしてくれていたのか。
この世界の奴らはどいつもこいつもお人好しばかりだ。元の世界の奴らは俺や家族に取り入って利益を得ようとする者ばかりだったというのに。
不思議でならない。
仕事に必要な技術、製法はもう伝えている。
これ以上俺から絞れる物はもう何もない。
これだけの人数が毎日食っていくんだ。
金はいくらあっても足りないはずなのだぞ。
「お兄ちゃん、泣いてるの? どこか痛い?」
「あぁ、ちょっと砂埃が目に入ってな。 ……開けていいか?」
「「「うん!!」」」
言われてから気づいた。
痛みも無く、悲しいわけでもない。
俺はなぜ、涙を流したのだろうか。自分でもわからない。今までの人生において初めての経験だ。
服の裾で顔を拭い、包みを開ける。
「……見事な一品だ」
沈みゆく太陽をその身に写しながら姿を現したのは腕当て。傷ひとつなく磨き上げられ、不死鳥の紋様が掘り込まれた銀色に輝く鋼の籠手。
……しかも金属製のはずなのにヤケに軽い。
このクラスの装備だと金貨5枚は下らない筈だ。
俺は籠手に指を二本押し当て、ステータスの詳細を確認する。
銀鳥の腕盾
状態
付与:軽量化
スキル
斬撃耐性
斬撃を受ける際のダメージを軽減する。
説明
盾というよりは籠手に近い形状をしているが、その強度は通常の製法で作られたそれに勝るとも劣らない一品。
一般的には軽装を主とする者が咄嗟の斬撃を受ける時に利用する事が多い。
との事だ。
「こんな高価な物、本当に俺が貰ってもいいのか……?」
「お兄ちゃんに使って欲しくて頼んだんだよ? 受け取ってくれないほうが悲しいよ」
「だが、金貨5枚はしたんじゃないのか? 明日からちゃんと生活できるんだろうな?」
子供達は顔を見合わせて笑う。
相当時間をかけていたようだからな……結構な金額の値引き交渉に成功したのだろう。
予想通りソフィアは指を三本立てて俺に見せつける。
ほぼ半額じゃないか、大した物だ。
「銀貨30枚!! お世話になってるお兄ちゃんにプレゼントって言ったら軽量化の付与までタダでしてくれたの!」
「!?」
……なるほど、人情で動くタイプの商人か。
俺と相性が悪いはずだ。
それにしても値引きしすぎだろ……。 大赤字のはずだ。
「ねえ!! 着けてみてよ!!」
子供達が目をキラキラと輝かせながら俺を見上げる。彼らの期待に応え、右手を新品の腕当てに通す。
おー!と感銘を上げる子供達。
今日はなにかと歓声を受ける。アイドルにでもなった気持ちだ。
……やはり軽いな。剣を抜いて振ってみるが、邪魔にならず、重すぎることも無い。
「どう!? どうお兄ちゃん!?」
「あぁ、十分動ける。大事に使わせてもらうよ」
俺の言葉にガッツポーズをする子供達。
手入れを怠らないようにしなければな。
次にこの子達と会う時にボロボロだと傷つけてしまうかもしれない。
手入れするための油や布を買おう。
──そんな事考えていた時だった。
「九条!!! 大変よ!!!」
背後から鬼気迫る勢いで俺を呼ぶフェリシアの声。
この感じはロクでもないことに巻き込まれそうな気がする。出来ればこのまま走り出してしまいたいところだが、仕方なく振り返る事にした。
「……何かあったのか?」
「獣牙族が攻めて来たの!!! しかもあの重牙のガンドルグが!!! 姉さんはもう先に門に向かってる!!! わたしたちも早く行かないと!!!」
「ガンドルグ……だと!!?」
──嘘だ。
戦士でない者が大勢いるこの街を……あいつが……ガンドルグが……攻めてくることなどあり得ない!!
考えるよりも先に身体が動く。
何か叫びながらフェリシアも俺の後ろに着いてくる。
確かめなければならない!!!あいつの真意を……!!!
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