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やはり子供はいい

ガンドルグと狩りを始めて3ヶ月。


 羽も想定以上の効率で集まり、彼女達が旅に出るまでに必要だと提示して来た金額の倍以上を稼ぐことができた。


最近ではガンドルグと釣りや昼寝をしたり、この世界の事について色々教えてもらったりしている。


 ガンドルグ曰く、10年ほど前に魔族と人間との間で大きな戦が起こり、人間は敗北。


 この世界最大の武力を誇っていた王都は壊滅し、人間の力の象徴であった巨大な城は今や魔王城と化してしまっているとの事。


 当時はこの辺でも亜人と人間との間で戦が起こっていたそうだが、ふらっと立ち寄った旅人に戦の首謀者達は討たれ、戦争は終結。


今はお互い付かず離れずの距離でうまく平和にやれているらしい。


 もちろん情報収集だけでなく、狩りも変わらず行っている。

 ガンドルグの奴、羽もゴブリンのドロップ品も持っていかない上に肉まで折半してくれる。


 あまりに申し訳ないので礼として街で買った酒をたまに持って行ってやることにしている。


 遠吠えを上げながら喜んでくれる姿と左右に高速で揺れる尻尾が実に可愛らしい。


 そして、ガンドルグのおかげで食事事情も大きく変わった。エリシアの言った通り、ノイジーピジョンの肉は非常に美味だ。


 元の世界で世界一と謳われた鶏肉を何度も食してきたが、それにも引けを取らないほどジューシーで、塩を振って焼くだけで十分美味だ。


 また、個体ごとに味や食感も多少の違いがあるため、4ヶ月間ずっと食べ続けているが一向に飽きない。


 今まで食べていた獣臭い肉やヘドロのような根菜スープの生活にはもう戻れないだろう。


 ガンドルグに出会う前は食事の時間が苦痛でしかなかった。何かを食べなければ生きてはいけないこの身を何度呪った事か……。


 だが、旅に出ればこの肉は安定供給出来なくなる。

……調理の研究は最優先だな。


 今日も今日とて肉を焼く。

闇夜を照らす焚き火の灯りと、肉が焼ける香ばしい匂い。

 この肉をパンに挟むだけで最上級のローストチキンサンドの完成だ。


「ね、ねぇ、九条? それってノイジーピジョンのお肉だよね? すごく美味しそうだなぁ………」


 キラキラ輝くエリシアの瞳。

ここで断ったとしても、この女は地の底まで俺を追いかけ、確実に肉を奪うだろう。

それ程までに彼女の食にかける情熱は異常だ。


……まあ、今日はガンドルグの尻尾がご機嫌に躍るほどの大量だったし、多少はいいか。


「今日はたくさん獲れたからな。好きなだけ食べてくれて構わないよ」


「ほんとに!? やったぁ!! みんな、好きなだけ食べていいって!ちゃんとお兄ちゃんにありがとうって言うんだよ!!」


……ん? みんな???


「おい!!みんなって──」


 暗さ故に視認できなかったエリシアの背後から喚きながら雪崩れ込んでくる10人ほどの小汚い子供達。


 肉が……肉が骨になる……

次々と炎の中に放られる肉。その全てが焼けた端から骨になる……


火炎ぶふぇひじゅ!」


 鳥の脚を口に詰め込んだエリシア。

彼女の炎魔法が更に肉の消化を加速させる……。

やめてくれ……俺はまだ、一口も食べてないんだ……!!


 いつの間にやらフェリシアも参加している。

お前は今日もサボりか!!?? 知ってるんだぞ!!!

 最近狩りに行くとか言いながら木陰で昼寝してることをな!!! 自分で狩りにいけよ!! 俺から肉を奪うな……!!


「「「「ごちそうさまでした!!」」」」


「ありがとう九条!!やっぱりノイジーピジョンっておいしいね、私1番好きなお肉かも!!」


「まあ、礼くらいは言ってあげるわ。ありがとね」


 イナゴだ……こいつらはイナゴだ……。

文字通り骨の髄まで吸い尽くされている……。 もはや怒りを通り過ぎて無だ。


「はぁ……」


手元に残った固いパンを齧る。


しょっぱいな……。


 気力無く頭が垂れる。

そんな俺に気を遣ったのか、年長者であろう7〜8歳くらいの三つ編み幼女が駆け寄ってきた。


「私、ソフィア。 お兄ちゃん元気ないの?」


「……九条だ。 あぁ、少し……な」


 無いに決まっている。

俺の毎日の楽しみが一瞬のうちに食い尽くされてしまったのだからな。


「よしよししてあげるね!おかあさんが元気無い時によく撫でてくれてたの!」


 小さな手が俺の頭を撫でる。

子供は純粋だな……その純粋さが身に染みる。

そこにいる暴食魔法使い(バキュームカー)自称ハンター(クソニート)とは大違いだ。


「そうか、ソフィアのお母さんは優しい人なんだな」


「うん……すごく……優しかったよ」


 俺を撫でる手が止まる。

優しかった……か。


「九条、この子達はね、みんな流行病や魔獣との戦いで家族を失っているの」


 エリシアが俯く。この子達に自分を重ねているのだな。今まで彼女が子供達の面倒を見ていたのだろう。子供達はエリシアに抱きついて離れない者や彼女との別れを想像して涙を溜める者までいる。


 毎夜出かけていたのはこの子達の世話をしていたからなのだな。

恐らく、旅に出る事を今日伝えたのだろう。


「そうか、それならこれからは俺たちが旅立つまで毎日来るといい。 そこのお姉さんが君達のために美味しい肉を用意してくれるぞ」


 指さされたフェリシアの顔が引き攣る。

俺の肉を勝手に食ったのだから当然の報いだ。

働けニート。


「……しょうがないなぁ。 よし、お姉さんに任せなさい!!」


「フェリシア……九条……二人とも……ありがとね」


 別れが寂しいのはこの子達だけではないのだな。

エリシアは翡翠色の瞳いっぱいに涙を溜めて、必死で泣くまいと堪えている。


 だが、俺達が旅立ってしまった後はこの子達の面倒を誰が見るのだろうか。


 この子達の手で生活していくだけの手段を考えていかねばならない。


──なんなら雇用して、新規事業を立ち上げてみるのも悪くないかもしれないな。


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