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パーティ

 石煉瓦を積み上げて作られた西洋建築が立ち並ぶ通り。

緻密な計算によって嵌め込まれた石畳。他の家々と比べて少し背の高い、大きなベルが垂れ下がった塔。

父に連れられて行ったドイツのローテンブルクを思い出す。

 当然、あちらのように立派に塗装されているわけでもなく、街中に色が溢れている訳ではない。


 だが、それが非常に素晴らしい。

まるで中世のヨーロッパにタイムスリップしたようだ。絵画の中で見るような世界が俺の眼前に広がっている。


 京都に訪れた外国人の気分はきっとこんな感じなのだろうな。気持ちが昂る。


 そんな俺と対照的にがっくりと肩を落とし、トボトボと無様に歩みを進めるフェリシアはため息混じりに呟く。


「あんた、商人でも無いのによくあんな金額で売りつけたわね……正直見直したわ……」


「ね!九条が居てくれたおかげで狩りも捗ったし2倍近く高い金額で買い取って貰えたし良いことばっかり!!本当にありがとね!!」


俺の前に躍り出て、むぎゅっと俺に抱きつくエリシア。

 豊満な胸を押しつけ、上目遣いで見上げてくるその姿には何か込み上げてくる物がある……。

そういえば、こんな純粋な視線を俺に向けてくる女なんて居なかったな。


今まで近づいてきた女共は決まって容姿がどうとか家がどうとか金がどうとか。


本当にうんざりするようなヤツらばかりだった。


……しかし、街のど真ん中で抱きつかれるのは意外と恥ずかしい。

エリシアも周りの視線に気づいたのか、顔を赤らめてそそくさと俺から離れた。


「役に立てたならよかったよ、あのおっさんが騙しやすくて助かった」


「あのおじさんは強敵よ!?私なんていつも銀貨+1枚高く売れれば良い方なんだから……」


 フェリシアはこれ以上ない所まで肩を落とし、項垂れる。

珍しいこともある物だ。こいつは絶対に落ち込むことなどないと思っていた。


「商談に勝つにはまず情勢を知ることだ。そして嘘を一つだけ混ぜ込む。真実しか語らない者と最初から嘘で塗り固めた者が言う言葉では重みが違うからな」


「へー、ちなみにさっきはどんな嘘をついたの?」


「あれを見てみろ」


 俺が指差したのは裁縫屋前の立て看板。

言葉だけではなく、文字が読めるようになっていたのは嬉しい誤算だ。


「えっと……ノイジーピジョンの羽、大袋一杯…………銀貨20枚ぃ!!!?」


「おじさんに銀貨10枚も多く売りつけたの!?九条ってば本当にすごいのね!!」


 間抜けな声を出して目をキョトンとさせたフェリシアと、ぴょんぴょん飛び跳ねながら笑みを浮かべるエリシア。


 そうだ、俺は天才だ。褒め称えよ愚民ども。

どうせなら戦闘でもその反応を見せてくれればよかったものを。

まあ、それどころじゃ無かったのはわかるけどな。


「あの看板は俺たちが店に入る直前に出された物だ、あの店主が知るはずもない。 修理代金と門番の話は本当だ。なんなら門番の装備品もエラく傷んでいる様に見えたからな。槍にも需要があってもおかしくないと思って吹っ掛けてみた」


「意外と抜け目ないのね……まあ、認めてあげるわ、なかなかやるじゃない」


「剣士としての実力もそうだけど、商才もあるなんて!!……私達に足りない所を全部補えるし、フェリシア……その……ダメかな?」


 小首を傾げてフェリシアに視線を送るエリシア。また置いてけぼりか。

全く、人を差し置いて話を進めるのはこいつらの趣味か?


「はぁ…… まあ、前衛無しの女世帯じゃ魔物どころか盗賊相手でも危ないし、仕方ないわね…… スキルも魔法も使えないにしても居ないよりマシだわ」


「やったぁ!!! じゃあ改めて……」


 エリシアは俺に向き直る。

陽光に照らされて輝く黄金色の髪が宙を舞う。

彼女は淡い緑の瞳をキラキラと輝かせ、俺に向かって両手を差し伸べる。


「九条、私たちと一緒に旅に出ない!? 私、実はこの町で一番の魔法使いなの!! フェリシアは口が悪いけどハンターとしての素質はたしかよ!! 一人旅よりは安心だと思うの!!」


 旅に出たくても前衛を張れる人間がいなくて出発出来なかったといったところか。

 俺を助けたのがエリシアだというのであれば、鶏共の動きを止めた麻痺の魔法の他にも槍の攻撃魔法も使えることが確定している。


 あの男女も性格は終わっているが、三体のゴブリンの頭を一矢で射抜く精密な射撃は悪く無かった。


こちらとしては戦略の幅が広がる手駒は喉から手が出るほど欲しいところだが……


「……2人はなんのために旅に出たいんだ?」


 相手の真意がわからない。

見ず知らずの俺を手当てし、住む場所を与えると言ったこいつらは底なしのお人好しなのだろう。

 だが、まだ信用はできない。

俺を介抱したのは懐柔し、剣士としてパーティで使い潰すため。

 俺が使い物にならなくなれば、魔剣を奪って殺す。

その可能性は否定できない。

相手を信用しきると碌な事がない。


「……私たちはね、お父さんとお母さんを探しに行きたいの」


 明るく手を差し伸べていたエリシアの表情が少し曇る。

先程の明るい口調と比べて声量も控えめだ。


「私達の両親はさ、10年前の魔王討伐戦の時に徴兵されて以来、帰ってこないのよ。 まあ、死んではないと思ってるんだけどね。 母さんは国が誇る最高峰の魔法使い、父さんは国王の親衛隊に選ばれるほどの戦士だったって聞いてるし」


 姉に比べ、妹の口調は軽い。

最悪の答えを一片たりとも考えてなどいない。

 ……10年もの月日だ。 子供を置いて帰郷しない親などいるものか。

 恐らくエリシアは察しているのだろう。

それでも、答え合わせをしたいと言う事か。


 動機は重々解った。

 それでも、まだ信用に値するとは言い難いがな。


「わかった、君達と同行しよう。 ただ、旅に出るには準備がいる。 しばらくあの部屋を間借りさせてもらうが構わないか?」


 「うん……うん……!!!もちろん!! 通行手形を発行するには半年かかるし、出発は半年後!!それまでに九条も準備を終わらせて!!」


 今まで見たエリシアの笑顔の中でも最上級の笑顔だ。太陽みたいに眩しい、なんて例えがあるが、一切影のないこの笑顔はそれこそ太陽そのもののように思える。

 今まで散々、芸能人やらモデルやらを目にしてきた俺が、そいつらにさえなんの感情も抱かなかった俺が不覚にも──


──可愛いと思ってしまった。


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