2年生になった瞬間
太陽の光が徐々に緩み始めた放課後。校舎3階まで階段上ってすぐは、各扉から声や音が聞こえてきたり、なんかのチラシやポスターが貼ってあってにぎやかだ。その前を無視して、右に向かってずっと歩く。だんだん何も聞こえなくなり、きゅっきゅっという自分の足音だけが響き出した先にある、何も貼られていないドアを開けると…
「自分だけの楽園!」
6畳程度に、地味グレーな机が3つ。両側の壁には本棚が設置され、本がぎっしりと狭い部室だけど、僕一人だけで使う分には十分な広さだ。
しんとした静けさも、僕にとっては心地よい。
ここは、月夜野学園高等部・植物研究会の部室。学園ができた当初からある研究会だそうだけど、地味な印象が強いのか、昨年は3年生の部長と、1年生の僕の二人だけのひっそりとした研究会だ。
今年に至っては、新入生が誰も入らず、ついには僕一人の研究会となってしまった…
研究会存亡の危機かと、友達数名を幽霊部員にすることも考えたけど、部費を多く使うわけでもないし、学園内の植物育てに貢献しているしと、そのまま活動は許された。
顧問の先生もいるが、テニス部の顧問と兼任で、あっちの方が大会に出たりと忙しい花形部活動のため、我が植物研究会は、早い話ほっとかれている=僕の自由に活動できる!というわけ。
僕は、岡本大弥。月夜野学園高等部・2年。“ダイヤ”なんてインパクトのある名前だけど、完全に名前負け。特に目立たず、かと言って地味すぎるわけでもなく、友達もいて、成績も極端に悪くない、そして残念ながら彼女はいないという男子高生だ。
両親が植物を育てたり、植物園で色々なものを見るのが好きだった影響か、僕も植物に強く惹かれていくようになり、この研究会に入った。新種を作るとか、生態を細かく分析とか本格的なことはやらず、ただ好きな草花を育てたり、季節の植物を見に行ったりと、ゆるく活動できるところが気に入ったからだ。
今までは先輩と相談しながら、学園内の植物育てに力を入れていたけど、今年からは僕一人に任されることになった。植物、特に花関連に詳しい先輩に教わりながらも楽しかったけど、自分だけの考えで進められるのも楽しみだ。
「夏に向けて、花壇に植えるもの決めないとなあ~。とうもろこしとか野菜も育てたいけど、学内で合宿されたときに、勝手に取られちゃうかもしれないよなあ…」
季節は4月半ば。気候もいい間にいろいろ作業を進めたいと思い、僕は図鑑とパンフレットを手に頭を悩ませていた。
これからは自分の好きに研究会を動かせることにワクワクしつつ、うまくいかないと予算減額や研究会存亡の危機にさらされるので慎重に…と考えていた瞬間だった。
ガラッッ…!!!!!!
ノックもなしに、部屋のドアが開かれた。突然のことにびくっとなり、そちらに目を向けると…
「どちらさまでしょうか?」
白衣を着たストレートのボブヘアの女性が、無表情でこちらを見下ろしていた。
見た感じ、学生ではなさそうだ。でもこんな先生、うちにいたっけ?
というか、こんな校舎の端にある地味研究会に何の用?
僕は愛想笑いを浮かべながら、ぼんやり考えていた。