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空中散歩

 翌日。

 太陽が東に低く、まだ空気の冷たい時分。


 雲も(まば)らな快晴の空を飛翔する影があった。眼下に眺める雄大な自然が広がるエンバンティアの風景。


 穀倉地帯に波打つ金の絨毯に、赤や黄に色付き始め、色調豊かな木々が広がる丘陵。河川と街道がそんな大地に線を引いている。


 隊列をなした渡り鳥の群れを下に見るのは新鮮な光景だった。


 空を駆けるそれは、エンバンティア全域で空中移動サービス事業を展開する合同会社|Skyward Journeyスカイワード・ジャーニーAir Taxi(エアタクシー)である。


 変わり者のエルフと日本の実業家が共同で起業した会社だ。魔法科学図書館も出資と、開発協力を行っている。


 魔法科学図書館で開発された羽のように軽い合金フェザリウムを使用した機体が、後方のゴンドラ型の客船を引く形で運行する。

 

 車輪のないバイクのような機体に(またが)るのは本日運転士を務める半妖精(ハーフピクシー)の女性。

 シルクのような艶のある髪が見る角度によって七色に変化するストラクチュアルカラー。尖った耳に防塵用ゴーグルのベルトが掛かっている。胸に付けた名札にはアウロラ・ウィンダリアと名が刻まれている。


「落ちないように気を付けてね。昼前にはあなたたちの目的地に着くと思うわ」


 鈴を鳴らすような澄んだ声でアウロラは今日の客に声をかける。


「こりゃ絶景だ、魔法とは何でもありだな……」


 初めての経験に感嘆を漏らすのは堀井だった。ゴンドラから身を乗り出す。ゴンドラは剝き出しで屋根もないが、不思議と風を感じない。


 鳥との衝突や雨風を防ぐための結界が張られているとのことだ。


 堀井の装いは、レザーの胸当てにベルト、そこにワイストポーチを下げている。防水仕様のブーツに、厚手の布地のクロークを上に羽織って、肩には布でくるまれた棒状のものを掛けていた。


「うー……気持ち悪いぃ」


 隣のシートで(うずくま)っている佐伯が青い顔で(うめ)く。堀井とは対照的に手ぶらである。


「飲み過ぎだ万桜(まお)


「しげっち、俺の倍は呑んでたよな……バケモンか」


 一夜の盃を交わした二人はまるで昔からの友人のように親しくなっていた。そこそこの歳の差はあるのだが、裏表のない佐伯の態度に堀井は好感を持っている。


「まったくだらしないわね、万桜」


 アウロラが振り返らずに呆れた声を掛ける。


「なんだ、知り合いか?」


 その時、アウロラの機体とゴンドラが大きく揺れた。堀井は慌ててシートに掴まる。どうやら横風に煽られたようだ。


 態勢はすぐに立ち直るが、その揺れも今の佐伯には(こた)えるようだった。


「頼む……アウロラ、もっと労わった運航をしてくれ……」


 手で口を抑えながら、今にも死にそうな声でアウロラにそう訴える佐伯。アウロラはその言葉を無視して堀井の質問に応える。


「魔法科学図書館の職員はフリーパス持ってるからね。スポンサー兼協力メーカーだから仕方ないけど、まぁこき使われてるわ。万桜はいい加減あたしを指名するの辞めて欲しいんだけどね」


 そう言って「ちっ」と軽く舌打ちをする。


 一晩一緒に飲み明かして佐伯の好みはおおよそ把握していた堀井は、何となく事情を察した。佐伯は口は悪くズケズケと物を言うが、本性はどっちかというとMよりだ。あとは相当の面食いに違いない。


「あなたは?万桜に連れがいるのは珍しいわ。さっきの様子だと使えないのよね、魔法」


 堀井はバツの悪そうな顔をする。もちろん佐伯には話してあることだが、この国出身の者にとって魔法の使えない外国人は単なる異教徒である。

 

 大抵の者は気にせず受け入れてくれるが、中には良く思っていない者もいる。特に魔法の得意な種族にその傾向は高い。


 エンバンティアには様々な種族が暮らしている魔法国家だ。


 種族には得手不得手もあり特徴は異なるが、住民はほぼ例外なく魔法を使うことができる。信仰する女神に祈りを捧げることで。


 それは外海の国である日本から来た者も女神の加護を受けることができるのだ。


 しかし、同時に自身の今までの信仰を捨てることになる。それが出来ないものに魔法を扱うことは出来ない。


「長いこと信じてたものを、そう簡単には捨てられんのさ」


「ふぅん……ま、簡単に鞍替えする誰かさんよりよっぽど立派だと思うよ、あたしは」


 意外なことを言われた。内心嫌われることも覚悟していた堀井は、呆けた顔をする。


「ふふ、罵倒でもされると思った?」


「あ、いや、まぁ、ちょっとした嫌味くらいは覚悟したが……」


「行き過ぎた言動があるのは知ってる。あたしの種族は特に信仰が厚いからね。許せとは言わないわ、あたしもそーいうの苦手だし。でもね、あたしたちは魔法があるから女神様を信仰しているわけじゃないの。逆の立場だったらきっとあなたと同じ」


「……ああ、理解はしてるつもりだ」


 堀井は脇に立てかけていた長い布の包みを手元に引き寄せると、シートに寄り掛かった。横ではいつの間にか佐伯が寝息を立てていた。よだれをを垂らしながら間の抜けた顔をしている。


 堀井は自分の羽織っていたクロークをそっと隣の友人にかけながら小さく「すまんな……」と呟いた。


「何か言った?」


「すまん、少しだけゆっくり飛んでくれないか」


 アウロラは手をひらひらさせて返答をした。先ほどよりもゆっくりと流れる景色を見ながら、堀井は静かにぎゅっと拳を握った。

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