出会い紡ぐ絆
捉えた人物は興行師の男であった。後日行われる収穫祭の見世物として、魔獣を持ち込んだということだった。甘かった管理のせいで逃げ出し、街で大暴れしたというのがことの顛末である。
佐伯の活躍によって事態は大きな被害を出すことなく収束した。興行師の男は街の警備団に連行されていった。
一時は騒然としていたが、民衆たちもすでに散らばった瓦礫などの片付けに精を出していた。この程度の被害であれば、祭りへの支障も心配しなくて良さそうだった。
佐伯も後片付けに参加しようとしたところで声を掛けてくるものがあった。
「あんた魔法科学図書館の人だろう、助かったよ。本当にありがとう」
齢の頃は40代~50代といったところ。先ほどの一件で間一髪のところを佐伯に救われた男だった。年齢の割に筋肉質ではあるが、中肉中背でこれといった特徴もない。指に翻訳の指輪をしている。
「いいっていいって、大した怪我がなくて良かった。もしかして、おじさん日本人?」
「ん……まぁ、な」
どこか歯切れの悪い回答。佐伯は顔色は変えないが、相手の観察は怠らない。若くして単身の仕事を任せられるのはそれなりの実績あってのものだ。
「名乗ってなかったな。俺は堀井重匡。刀工をしている」
そう言って佐伯に握手の手を差し出す。佐伯はそれに応じる。
「刀工……鍛冶師か。珍しいな。佐伯万桜だ、よろしく」
「珍しいのはそっちだろう、あんな魔法は初めて見た。地面から剣が生えたぞ。剣を生む魔法なのか?」
魔獣の爪が堀井を襲ったあの瞬間に見たもの。常人の身の丈の倍はあろう巨大な諸刃の剣が、足元の石畳から天を衝く勢いで伸び、次の瞬間には五体の欠けた魔獣の亡骸が地に伏していた。刃を流れ落ちる魔獣の血が、剣に反射する堀井の慄いた顔を塗りつぶした。
その後の騒動のどさくさの後には、魔獣を屠った剣も興行師の男を捉えた刀剣もいつの間にか消えていた。
「いや、あれはそんな大層なものじゃないよ。あ、おじさん鍛冶師ならさ、こーいうの聞いたことないかな」
魔法の質問はサラッと流しつつ、逆に質問を返す佐伯。戦闘において自分の魔法を知られることは、自身を不利にすることを佐伯はよく弁えていた。どこで誰が聞き耳を立てているかわからない。
佐伯は話題を逸らすために、自身がここに来た目的を伝えた。普段から鉱物を扱う鍛冶師であれば、なにか噂を聞いたことがあるかもしれない。
「もしやあの洞窟のことか……」
期待して聞いたわけではなかったが、思わぬ返答が返ってきた。何か知っていそうな面持ちである。
「え、あんの?」
よもやこんなところで手掛かりを得ることになるとは思っていなかった佐伯の声音には、若干の落胆が入り混じった。正直なところ観光を楽しんで帰る気満々だったのだが、これでそうもいかなくなった。
ちょうど昼時だったこともあり、堀井がお礼を兼ねてご馳走すると申し出たので、食事をしながら話を聞くことになった。
***
「で、なんでここにいるんだ?おっさんよ」
佐伯は今朝と同じ公園のベンチに座っていた。違うのは隣に四十を過ぎたおじさんが座っていることと、お互いの手にあるファストフードであった。
近隣に生息する野兎の挽肉を焼き上げ、採れたての野菜とともに、街原産の小麦粉でこんがりと焼いたブレッドに挟み込んだ界隈で人気のいわゆるB級グルメ。サクサクの揚げたてポテトフライとともに。
佐伯はジト目の視線を横に送る。
「し、仕方ないだろう。思いの外、残りの路銀がわずかだったんだ」
言い訳しながら手にしたバーガーに食らいつく堀井。「うま」と声が零れる。
「いい歳なんだろ?計画的に使えよ。これだって無理して払わなくったって良かったんだぜ」
そう言って佐伯も同じようにかぶりつく。「うま」と声が零れる。
「しかしな……」
堀井の声音からは、何かのっぴきならない事情があるように感じ取れた。そもそも、国交が樹立して数年は経つといっても、本土に暮らす日本人はそう多くない。産業も通貨も価値観も、すべてが違う場所で過ごすにはそれなりに理由と覚悟が必要だ。佐伯も来たばかりの頃は驚きと戸惑いの連続だったことを思い出した。
「FluffyTailを知ってるか?」
確かに聞き覚えのある言葉に佐伯は目を見開く。
「その顔は知っているようだな……」
どこか哀愁を含む声に大方の察しはついた。佐伯にも覚えがある。
「リアルけも耳娘可愛い過ぎんか」
「それな!」
割とエンジョイしていた。
意気投合した二人の話は夕刻まで盛り上がり、その後夜の街に消えた。
FluffyTail(ふわふわのしっぽ)。獣人の娘たちが特産の葡萄酒を振る舞う人気店。心のオアシスである。姉妹店BeastClaw(獣の爪)は、野性味溢れる逞しい獣人の男たちが優しくエスコート。
昼間に劣らず賑わいを見せ、明るい夜は更けていった。