呪いと福音
とある地に刀神を崇める神社に使える刀匠の一族がいた。
一族にある時、一人の天才が生まれた。
その少年は三つの福音の持っていた。
彼の見出した素材は、刀匠だった父によって最高の刀を生み出した。
少年が持っていた一つ目の福音は素材の眼。
その刀は、少年が見つけた使い手は、その刀の力を余すところなく引き出すことができた。少年は人の才能を見抜くことができた。
少年が持っていたのはもう一つの福音は素質の眼。
そして少年は金属に愛されていた。
どんな金属を扱うにも、その特性や性質が少年には手に取るように分かった。
少年は若くして一族を担う刀匠となった。
しかし、それが悲劇の始まりだった。
少年が見出した素材は高額で取引がされた。
その利権を求めた一族たちは、血塗られた利権争いに身を落とした。
少年が見出した才能ある者は、少年の刀が譲り受けられた。
しかし、その刀の魔力に取り込まれた悪意ある者がそれを奪い取った。
その刀によって多くの無為な命が奪われた。
少年は家族に愛されなかった。
母は少年を金の成る木と言った。
父はその才能に嫉妬し、少年を殴った。
そしてある日自身に絶望し湖に身を投げた。
少年は一人になったとき、自分の姿が変わっていることに気が付いた。
才能には代償があった。
少年は人の倍早く齢をとった。
幼いとき共に遊び学んだが十歳になったころ、少年は既に二十歳の身体となっていた。
友は去り、利権にまみれた大人だけが周りに残った。
少年は自身が打った刀を手に取って、柵を断ち切った。
一つの一族が終焉を迎えた。
少年は姿を消した。
福音は呪いとなった。
少年を縛る一番の呪い。
それは、事件を経てなお、少年は自身が求める最高の刀を打つことに囚われていたことだった。
放浪の果て少年が辿り着いたのは、まだ見ぬ未知の素材を宿した大陸だった。
すべてを失っても、少年は刀に縋る。
少年はそれしか知らず、そして執着していた。
それが修羅の道だと解っていても。
呪いをその身に少年は最高の刀を求め続けている。