黒狼戦の後始末(協会)
何とか日坂さんを宥めて、とりあえず無効化ダンジョンを攻略し終えた。
黒狼の心臓を吸収したことで回復してなかったら出来なかったことだ。
その時体の感覚と闇夜の力を試したけど、まーたとんでもないことになっていたよ。
その中でもあることがとても嬉しかったんだが・・・素直に喜べないこともある。
まず一つ。日坂さんにガチギレされた。
俺と日坂さんの約束。
無事に日坂さんの元へ帰るというのは、無理をしないという面も含んでいる。
だから二十六層は対策出来るか、圧倒的になるまで突破しなかったわけだ。
日坂さんを守るために戦うことは出来た。でもそれ相応に無茶が必要だったのだ。
でも今回それをすっぽかして負けると判断しても戦闘を続行した。
すぐに体が動かずとも、正気を取り戻した瞬間に戦闘を中断して逃げることは出来た。
それをしなかったからめっちゃ怒られた。それはもう怒られた。
ダンジョンを攻略して、ホテルにいる時も何かこう・・・ぷんぷんしてた。
可愛いなぁとは思ったけど、そればっかり見てると何かまた目を合わせてくれなくなるので程ほどにしたけど。
問題二つ目。鉱石あんまり取れなかった。
これはまぁぶっちゃけどうでも良いんだけどさ。
帰りに日坂さんに早く病院に行けと圧を掛けられたので採掘もほとんど出来ないままに戻ってきてしまったのだ。
まぁこれは問題と言うか、自業自得な部分が多いので文句は言えない。
武器はまた別の方法で手に入れた方が良いだろう。
問題三つ目。これが一番問題なんだが。
「どうしてにゅういnなんでもないっす」
「・・・」
日坂さんのジト目が痛い。
何とこの度、怪我やらなにやらの検査で入院することになりました☆
どうも俺の体に起きている変化やら何やらを調べるらしいが・・・はぁ。暇だなぁ。
数日後、冒険者協会
「・・・それで?彼は今回も?」
「はい。見事に問題を起こしました。ああいえ、悪い事ではないのですが」
「彼は大人しくでき・・・ないだろうなうん。それは私でも分かるぞ」
冒険者協会本部で、立浪仙波は協会長に報告を行っていた。
当然報告内容は戸村宗次について。
『無効化ダンジョン』で彼の身に起きた事全てが日坂経由で浮島に伝わり、そこから立浪に情報として伝わったのだ。
それを受けて協会長も半分くらい諦めた様な顔でいる。
何せ彼が冒険者になって約半年。問題が無かった月が殆どないレベルだから。
扱いに困るという意味では日坂も同類なので、あの二人は彼の中では変わった意味で特別扱いになっている。
報告書に目を通し終わると、一瞬逃避するかのように上を向く協会長。
「・・・事実か?」
「事実だそうです。二人とも同じことを話しているそうですし、検査の結果も明らかに異常だとか」
「特に肉体面か」
「はい。彼の肉体は、既に通常の人間のそれではないようです」
別に体が怪物に変わったとかそういうわけではない。
ただ人間としての構成そのままで、調べられる数値だけが異常な数値を叩きだしているのだ。
細胞を調べてもそれはただ強靭な人間だとしか分からない。
だがその強靭さが、人間のそれではないだけで。
そしてもう一つ。
「やはりあの鎧は生きていたか」
「桜木たちの報告から、そうではないかと考えられていましたが」
「そこはまだいい。問題はそれがまた成長したという事実だ」
「そうですな。彼がまた手に負えなくなりましたな」
「いやそうでもなく。いやそこもそうなんだが」
本当に問題なのは、特殊個体の成長だ。
今のところ、ダンジョンに出現した特殊個体モンスターは手に負えない限りは現地の冒険者が対処している。
無理な場合協会から冒険者チームが派遣されて討伐しているが、それは迅速に行われている。
被害が広がらない様に、ダンジョンの封鎖を短期間で済ませるという意味ももちろんある。
もう一つ、ある懸念事項があったために早く倒されていたのだ。
それは戸村宗次も驚いた、特殊個体モンスターの成長だ。
放置した時間が長い程、特殊個体が強くなっていくとしたら?
それが人間が追いつけない程に強くなってしまったならば、一体どうすれば良いのか。
「発見次第討伐は行っておりますが・・・」
「それは分かっている。問題なのは、未だ人類が到達していない範囲で特殊個体が生まれていた場合だ」
もし人間が手を出せない場所で、特殊個体が生まれていたら。
それが誰にも知られずダンジョン内で成長し、さらに強大な個体になっていたのなら。
もしそのモンスターが上の階層に上がってきたら。
最大の問題点はそこだ。
「しかしそこはどうしようも無いでしょう。手のつけようが無い」
「分かっている。分かってはいるんだがなぁ」
その問題が起きた場合責任を取らされるのは協会長だ。
もちろんそうならない様にしているし、起きてしまった場合でも責任を取る心づもりも済んでいる。
だがそれでも、やっぱり自分のせいじゃないうえにどうしようもない出来事が待っているというのは気が重くなるものだ。
「はぁ・・・ほかに問題は?」
「彼の体を解剖すべきだと騒ぐ連中がでましたな」
「問題だなぁ!」
「安心してください。既に彼らについては解決しておりますので」
「もうか?昨日の今日だろう?」
「単純な話です。彼の戦闘映像を見せただけですので」
「豊宝竜か」
「はい。それと僅かですが、今回の無効化ダンジョンでの戦闘も」
冒険者が義務として装着しているカメラが役に立った。
そこに納められた映像を見た者達は総じて顔を青くしていた。
さらにそこで、協会の人間はこういうのだ。
もし彼の機嫌を損ねた場合、我々は何もしないと。
そう言われてしまえば何もできない。
彼に抵抗できる人間はもはや協会にしかいないのだから。
「まぁこちらの想定以上に彼らの動きはありませんでしたが」
「何だと?」
「どうも、彼のご両親が関係しているようでして」
「・・・そうか。確かに彼らなら。騒いでいたのはダンジョン調査チームではないのだがな?」
「はい。医学界の方々です。彼のご両親とお知り合いで?」
「いや。だが彼の祖父については知っている」
協会長はそういうが、彼もそこまで詳しいわけでもない。
だが彼の祖父がとある界隈では有名で、かなりの資産家であるというのは調べればわかる。
当時に、彼の孫に手を出すと言い出した者はこれから業界を干されるであろうことも容易に想像できた。
医学業界のみならず、財政界にも顔が利く大物人物だ。彼の一言が無くとも、周りの人物たちがご機嫌取りの為にそうするのは間違いない。それだけの影響力、人脈を持っている。
まさかそんな人物がかのバーサーカー少年の祖父だとは夢にも思わなかったが。
「彼は既に退院していたな?」
「はい。すぐにでももう一つのダンジョンに行く時期も聞かれましたが、そちらは暫く後だと伝えてあります」
「よくやった。暫くは大人しくしてもらった方が良いだろうな」
戸村宗次の特殊冒険者になる為の試験。
特殊ダンジョンの攻略の片方。海外にあるそこに行く時期の話だ。
試験なので協会から指示を受けた時期に向かうことになっていたのだが、それは今回の件もあり時期をずらした。
今すぐに彼を海外に出すのは不味いと判断した結果だ。
それについて、後日あちらの冒険者協会に伝えた所快諾された。
それにはとある貴族のお偉いさんが関わっているらしいが・・・それを彼らが知ることは無い。
「暫くは様子を見ながら、簡単なクエストを受けてもらうとするが、それでは逆に問題か?」
「いや。暫くはそれで問題ないかと」
「何?彼の目的を考えるのなら、強い敵と戦うことを回避させるのは嫌がりそうだが」
実際その通りだ。
もし協会からそのような要請をされたのなら、期間にもよるが文句を言うのは間違いない。
事情があるのは理解してくれるが、それ俺には関係ないよね?じゃあ戦ってもいいよね?と。
そしてそれを止めることは出来ない。
強さの面でもそうだが、常に彼を見張る必要があるがそこに人手を割けないという問題もある。
しかし立浪はそれでよいという。
「今回は彼女がこちら側なので」
「・・・なるほどな」
協会長の脳裏に、完全に尻に敷かれている戸村の姿が思い浮かぶ。
何となくその姿に自分を重ねてしまい嫌な汗が流れる。
彼は協会ではトップだが、家の中では最下位だ。
「う、うむ。それなら問題は無いな」
「まぁあの状態の女性は強いですからな」
立浪は今回の件で彼が入院している病院に赴いているが、その際の姿を見ているので間違いないと思っている。
下手に動こうとしただけでじっと見つめられては大人しくなる彼の姿を見れば誰でも大丈夫だと思うだろう。
彼は戦いが絡むと大変アレだが、それ以外では比較的普通な面がある。
特に日坂巡が絡むと落ち着く。彼女の存在自体が彼に良い影響を与えているのだろう。
冒険者として、生物として圧倒的な強者である彼が彼女に頭が上がらないのは見ていても何故か違和感のない光景ではあった。
「その他は特には?」
「特には。彼が手に入れた黒狼の毛皮の取り扱いくらいでしょうか」
「そちらは既に決まっているから問題は無いな」
黒狼の毛皮については既に利用法が決まっている。
協会が保有するとある魔道具の為に全て協会が買い取ることに決まったのだ。
「以上だな。下がっていいぞ」
「かしこまりました」




