現れるは雷の大狼
気配が読みにくく、位置を察知しずらいゴーストナイト。
奴らのとの戦闘を完全に回避することは難しかったが、それ以外は問題は無く七層を突破した。
課題の一つであるグレートウルフは今俺達がいる階層、八層に存在している。
この階層の階段近くに何もない広間が存在している。
そこの奥の壁の中心が凹むようになっており、それを押すことで部屋の中にグレートウルフが出現する仕組みだ。
マップがあるのでそこまで行くこと自体は問題ない。
八層のモンスターである『デミデビル』も広間の中には入ってこない。
問題は俺が戦ってる最中に日坂さんがどうするのかだ。
広間の外では万が一があった時に俺が対応できない可能性がある。
中にいてはワンチャン俺達の戦いに巻き込まれる可能性がある。
でもその問題自体はすでに協会も想定していたので、姿を隠す、敵に狙われないための魔道具以外にある魔道具を貸し出してくれた。
既に広間の前には着いている。そこで日坂さんが鞄から物を取り出す。
「それじゃあ確認ですけど、端っこにいったらすぐにそれ使ってくださいね」
「はい!流石に巻き込まれると一瞬だろうし気を付けないと」
日坂さんの手元には水晶玉がある。
それは込められた魔力に応じて周囲に結界を貼る魔道具だ。
昨日寝る前に俺の全魔力を込めている。
実験段階では俺の攻撃を受けてもびくともしなかったので恐らくそれで問題は無いはず。
制限として魔道具使用中はその場から動いてはいけないという縛りがある。
だが身を守る物としてみるならこれ以上のものはないだろう。
広間に入り、日坂さんが広間の角に移動する。
その後持ってきた魔道具を全部発動して狙われない、攻撃を食らわない状態になったのを確認する。
そして奥の壁を押すとその部分が凹み、俺の背後が光る。モンスターが出てくる兆候だ。
「よし、楽しみ・・・闇夜?」
モンスター出現の光が収まるにつれ、何もしてないのに鎧から闇が漏れてきた。
いつもとは違う漏れ方だ。これは・・・何かを俺に伝えようとしている?
「何が・・・っ!」
光が収まる前に、光の中から殺気を感じた。
同時に危機を察知、それに従い横に飛ぶ。
すると一瞬前まで俺がいた場所が、雷の魔法で打ち抜かれた。
「雷だと!?」
警戒レベルを上げる。
同時にこちらも魔法を発動し、考え得る限りの強化状態になっておく。
グレートウルフは、想像通りの巨大な狼だ。
高機動と巨大な爪、牙から繰り出される攻撃は脅威としか言いようがない。
だがグレートウルフは魔法を使えないモンスターのはず。
しかし今まさに、俺は雷の魔法で攻撃された。
つまりそれが意味することは
「お前が警戒したのはこれか・・・」
光の中から出てきたのは、黒い狼だった。
サイズは聞いていたグレートウルフの大きさより小さい。
それでも俺より全然デカいけど。それに体の周囲に電気がバチバチと流れている。
まさかの。まさかまさかの特殊個体というわけだ。
「戸村君!?」
「大丈夫いけますよ!!」
想定していなかった事態に、日坂さんが悲鳴の様な声を上げる。
それに対して安心させるように、出来るだけいつも通りを装って返事を返す。
俺達の聞いていた話は、ここの罠は特殊個体が出てこないという情報だった。
そもそもグレートウルフを出現させる為だけの罠であるということ。
今まで協会所属の冒険者が何度も使用したが確認できなかったことが根拠だった。
その為今回、俺は特殊個体と戦うことを考えてはいなかった。
闇夜の時もそうではあるが、あいつの時はこちらから求めてはいた。
なのでこれは俺にとって、本当の意味での緊急事態ということになる。それも初めての。
そんな状況で、俺の中に浮かんだ感情は・・・歓喜であった。
それを自覚して、もはや病気だなと心の中で自嘲する。
闇夜が警戒を促すほどの存在。
ただの奇襲なら、問題なく対応できた。
鎧となり、今の今までまともに俺に対してアクションしてこなかったあの闇夜が、警戒する程のモンスター。
嬉しくないわけがない。
「クックックック」
「グルルルル」
ほぼ同時に大きく呼吸する。
そして放つのも同時だった
「■■■■■!!!!」
「■■■■■!!!!」
闇を纏った状態で叫ぶと、音が闇属性を帯びて攻撃に転用できる。
その威力はなかなかのもので、通常ダンジョンの格下モンスター相手ならそれだけで殺せるほどだ。
その絶叫が、ただの咆哮で相殺された。
この時点でこいつはランドワイバーン以上の敵なのが確定した。
だけどまだ余裕はありそうだな。
「なら確かめさせろ・・・!!」
ランドワイバーンの時には使わなかった闇魔法を全開で使用する。
闇の腕で間合いを伸ばすと同時に突っ込む。
黒狼は腕に対し雷を撃つことで迎撃。
突っ込んできた俺に対しては爪を振るうことで反応してきた。
俺の動きに対して両方まとめて対処してくるとは。
迫る爪をこちらも爪を生やして対抗する。
「おっ!?」
上からの振り下ろしと、下からの振り上げ。
その関係上力の籠め具合は俺より黒狼の方が有利なのは分かっていた。
だがそのうえで、相手のパワーは俺の想定を超えていた。
完全に俺と同等・・・いや、それ以上か。
そうしていると、片方の空いた爪が俺に襲い掛かる。
流石にそれは受けられない。
受けた爪を姿勢を変える事で下に受け流す。
そのまま体を回転させると同時に足に闇を集中。
圧縮した刃を形成して向かってきた凶刃を迎え撃つ。
「オラぁ!!」
「グラァ!」
今度はこちらが勝った。
腕ごと弾き飛ばす事に成功したのだ。
しかし体勢の問題で追撃が出来ない。
出来る限りすぐに立て直して闇の腕を伸ばすがそれは普通に雷で撃ち落とされる。
「ふひははは・・・あぁ。完全に想定外だわ」
強い。ただそれにつきる。
今までも強いと感じるモンスターはいたが、それでも俺より強いかもと思わせるのはいなかった。
だがこいつはそんな有象無象とは違う。
パワーでは完全にこちらを上回っているとみていい。
速度の面でもそうか。人間と狼で比べ合いになるとは思えない。
魔法面は同等・・・いやこちらも負けているか?
ゲームの為と無駄に制限を掛けていた俺では分が悪いと見るべきか。
纏めると、完全に俺が不利だ。
だが一つだけ勝っている部分がある。
先ほどの受け流しで確信したが・・・技術面では俺の勝ちだ。
俺程度の流しが成立するのなら、こいつはさほど利口なわけではなさそうだ。
「なるほど。ムサシはこんな気持ちだったのか?」
そしてこの対立構造に、不思議と俺は既視感を覚えていた。
そう。俺とムサシの関係性に似ているのだ。
圧倒的なステータスを押し付けてくる俺と、磨き上げた技術で敵を斬るムサシ。
能力に違いはあれど、今の俺と黒狼の関係性はまさにそれだろう。
これは・・・マジで良い経験になりそうだ。
それに何気に初めてか?能力的な格上と真正面から戦うのは。
イイネイイネ・・・楽しくなってきたネ?
相手は狼。獣だ。人じゃない。
こいつとの経験は直接ムサシとの戦いに使えることは無い。
だが間違いなく活きる。間違いなく俺にとって素晴らしいものになる。
ならばその血肉の一遍も残さず、俺の物にしなければならない。
思考が研ぎ澄まされる。今まで以上に視界がクリアになる。
体から漏れる闇が粒子一粒一粒までしっかりと見えてきた。
だからだろうか。その言葉は無意識で口から発せられた。
「『闇夜装填』」
ガチリと頭の中でギアが変わる音がする。
同時に鎧を纏っていた闇が消え、各部分に圧縮、放出される。
独特の排出音を出しながら消えていく闇の粒子。
頭はここまでやってはいけないという。
心はどこまでもやらなければという。
ゲームの為。ムサシに勝つ為。ある程度の制限をした方がより苦戦して経験値になる。
現実の為。日坂さんの為。確実な勝利を目指しありとあらゆる制限を開放し即殺する。
相反する思考と思いがぶつかって・・・
「ブッコロス」
俺は考えるのを止めた
最初の時点で、日坂の目には彼らの動きは見えていない。
気が付いたら雷が撃たれてたし、戸村はすでにそこにいなかった。
だが出てくるはずのグレートウルフではない違うモンスターが出てきたことは分かった。
予想していなかった緊急事態に思わず声が出るが、戸村は問題ないという。
実際彼の一瞬のぶつかり合いは拮抗しているように見えた。
最初こそ戸村が押されたが、次には黒狼の腕が弾かれる。
それに本当に楽しそうに笑う戸村を見て、すぐに日坂も安心した。
あの笑顔なら問題ないと。鎧蜘蛛の時と比べると遥かに余裕のある顔をしていると。
だがその考えが間違いであることにすぐに気が付いた。
戸村の様子がおかしい。
「戸村君・・・?」
日坂がそれをしっかりと見たのは鎧蜘蛛との戦いが初めてだった。
糸を食らい動けなくなった戸村が、危機を打開するために何かした時。
目にもとまらぬ速さの攻撃とはああいうのかと、その時はそんなことを思った。
だがそれ以上に。何も見てないない。感じていない様な戸村の様子がとても怖かった。
今の彼は、その時の彼に近い。
それがマズイとは思わない。ただ冷静じゃないのはすぐに分かった。
だから前と同じように声を掛けようとしたが、その前に状況は動いた。
黒狼から再び雷を放たれる。
「あっ!」
雷に撃ち抜かれる戸村を想像して、悲鳴にも似た声が出る。
だがそれは現実とはならなかった。
戸村はその場にはいなかったのだ。雷が放たれる前から。
「え・・・?」
見間違いでなければ、今戸村は黒狼の攻撃が出るより前に動いていた。
偶然かと思ったが、再び立ち止まった戸村に対して放たれた雷を同じように回避したのを見てようやく確信する。
だが日坂の脳内を駆け巡ったのは驚きではない。疑問だった。
なんで戸村君はああやって動いたのだろうと言う、恐らく誰もが考えもしない疑問。
彼は、今黒狼の動きを読んで動いている。
常に頭を回転させてなければ出来ない。理性的な動き。
だが雰囲気から分かる。恐らく今彼はそんなことを考えて戦っていない。
ただ目の前の敵を倒す事のみに集中した状態。
そこまで理解が出来たからこそ疑問なのだ。
なんで、相手の攻撃を待ったのかと。
今度は戸村から動いた。
強烈な勢いで踏み込む音と、ガラスの様な何かが割れる音が何度も何度も広間に響く。
同時に鎧から漏れる闇が広間中を駆け巡る。
戸村がそのパワーと闇の波紋足場を利用して高速移動しているのだ。
黒狼はそれを目で追うことは出来ないようで、音の聞こえる方に目を向けるが既にそこに彼はいない。
完全に黒狼の視界から消えると、死角から戸村が襲い掛かる。
寸でで戸村に気が付いた黒狼が体を動かして回避を試みるが、完全に避けることは出来ず爪が僅かに肉を斬る。
それが急速な勢いで繰り返される。
黒狼も良く直撃を貰わない様にしているが、その身は徐々に赤い血が目立つようになる。
そのままでは負けると思ったのか、一度黒狼は雷を全身から放出して強引に彼の動きを止めにきた。
突然の全方位反撃に戸村の動きが止まる・・・かと思いきや、分かっていたのか体の動きと反対方向に向けて急制動を掛けて回避して見せた。
「グルゥ」
「」
雷は暫く止まらず、黒狼の体を守っていた。
それは徐々に静まってはいったが、消えるのではなく黒狼の体を覆う様に纏まっていく。
それが完全に収まる・・・戸村の闇の様な状態だ。雷を黒狼が纏っている。
「・・・まなンダ?」
「!!」
息をのむ。彼の声は雷の音で聞き取りずらかったが、何とか聞き取れた。
モンスターが相手の動きを見て自分に反映する。
そんなことがありえるのだろうか。
そんな困惑する日坂をしり目に黒狼が動き出す。
雷が弾ける爆音とともに、姿が消えた。戸村も消えた。
そこから先、日坂はもう戦況を理解することも出来なかった。
分かるのは時々ぶつかりあう二つの物体があるということ。
闇と雷がぶつかり合い、あたりに破壊をまき散らしているということ。
戸村の全力の攻撃にも耐えた結界が、心もとなくなるとは思いもしなかった。
だが日坂の心にあるのは恐怖ではなくて・・・
「戸村君・・・」
ただ大事な人への思いだけだった。
「勝って・・・宗次君!!」
「!!!」
その瞬間、戸村宗次はさらなるステージへと進んだ。




