三層へ
他者視点ありです。
8月25日 最新話の主人公と比べた時に表現で勘違いされそうだった部分を変更しました。
冒険者は、活動している階層からさらに下に行く場合どのくらいの期間を掛けるものなのか。
答えはない。基本的に人それぞれだ。
だけど平均的には行くと決めてから凡そ一週間かける。
下の階層への準備を整えるためだ。
装備の更新、必要な道具の補充、その階層の環境の調査。
その他もろもろ情報収集。それらをしていると、何だかんだ時間がとられる。
「戸村さん」
「はい」
「三階層に向かいましょう」
「はい・・・はい?」
こんな風に軽いノリで向かうものではない。
「本当に来たよ・・・」
「戸村さんが二層で留まってることの方が問題ですから」
強い人は下に行けってことなのはわかる。
だけど俺別にまだちゃんと冒険者やるって決めたわけじゃないだけど。
まぁ適正階層がもっと下だと評価されたのは素直に喜んでおこう。多分褒められてる。
それにネズミとコウモリを倒しまくった結果、レベルも一上がっている。
斧を振るのも心なしか楽になっているような気もする。
よほどのことがない限り三層でも大丈夫だろう。
確かここの敵は・・・
「いましたよ」
「そうそうゴブリンゴブリン・・・三体いるんですけど」
「大丈夫なので行ってください」
「えぇ・・・」
行きますけど。
「囲まれないようにだけ注意してください」
「あ、その辺は慣れてるんで」
「・・・慣れてる?」
ゴブリン。
ファンタジー作品では当然と言っていいほどにその名が出ている代表的なモンスターだ。
最近では最強系だったり王道の胸糞系だったりと非常に出番が多い気がする。
そんなゴブリンの危険度だが、これがかなり高い。
一層二層で苦戦せず、舐めてかかると痛い目を見る。というか遺体になる。
・・・おもしろくはないな。
奴らの強さは、今までのモンスターにはなかった連携力にある。
これまでのモンスターは基本連携をしない。
隣で同種族が倒されても何も思っていないのかといったレベルで仲間意識がない。
しかしゴブリンは違う。明確に仲間意識がある行動をとってくるのだ。
隣にいた同種がやられると怒るし、自分たちの数が相手より多ければ慢心する。
そのせいで一時期ゴブリンはモンスターではなく、人間として扱うべきだとかいうわけのわからない主張をしていた連中が出てきた。
そいつらはすぐに話題にもならなくなったけどな。
まぁ倒したらドロップ品と魔石だけ残して死体が消えるのは流石に人間とは言えないわな。
「ギッ!」
「ギゴガ!!」
「ギギィー!!」
「何言ってるのかさっぱりわからん」
こちらを見つけると何かしゃべってる・・・様な声が聞こえる。
武器を振り回して何をはしゃいでいるのやら。
どうやら桜木さんのことには気が付いていないらしく、ゴブリン達は俺を囲むように動き始めた。
対しては俺は囲まれないように・・・は動かなかった。
「はっ!?」
後ろで桜木さんが思わずといった声を上げる。
だがこれでいいのだ。先もいったが、慣れている。
俺を取り囲み、足を止めずぐるぐる回っているゴブリン達。
ブサイクな面を眺める趣味は無いし、さっさと倒して・・・
「は?」
たまたま前に来たゴブリンの目が視界に入る。
その目には、ある感情が浮かんでいた。
俺を取り囲んで
それを認識した瞬間、頭の中で変な音がした。
「コロス!!」
目の前にいたゴブリンを剣で突く。当然まるわかりの攻撃は避けられる。
そして剣を突き出した姿勢の俺に反撃しようとゴブリンが剣を構え
上から体を両断された。
「はいつぎィ」
それを確認することもなく次の獲物に狙いを定め、剣を前に出し体ごと突進する。
ゴブリンは剣を躱すことはできたが、俺を避けることができずに衝突しそうになる。
衝撃に備えようとしたそのすきを、下から蹴り上げる。
「ギギ!」
「知ってるよ」
背後からの攻撃を斧を後ろに置くように構えて防ぐ。
その後体を回転させ、ゴブリンの体勢を崩したら剣を首元に突き刺しておく。
そのまま剣を手放し、斧を両手で持ち上げて後ろで倒れていたゴブリンの頭を叩き潰す。
刃が地面に少し刺さる。
引き抜いて首に剣が刺さったゴブリンの様子を確認すると
「あ?まだ生きてんのかこいつ」
剣を抜こうと、足掻いている。
だが無駄だろう。手応え的に簡単に抜けない所まで入った。
それに抜いたところで死ぬことには変わりない。
「じゃあ死ね」
そうして足掻くゴブリンに、俺は斧を叩きつけた。
桜木から見た、戸村という少年を一言で表すとするならば、天才という一言につきる。
まさにダンジョンを探索するために生まれた天才。
冒険者になりたてで、鬼に勝てるだけの実力はもちろんとして。
何より評価すべきなのは、レベル差をものともしないその胆力だ。
精神的な超人。
初めは彼に冒険者であることを強制することになると覚悟していた桜木の心をわずかにだが救ったのは彼がそうだと思ったからだ。
さらに本来の目的はダンジョンにはなく、あくまでダンジョンは利用できる便利な場所程度の認識だったのもよかった。
それならば協会側と彼の間でそこまで大きな齟齬は生まれないだろう。
持ちつ持たれつ。そんな関係を結べると考えた。
今日桜木がタイミングよく戸村に出会ったのは偶然ではない。
いつ彼が来てもいいように待機していたのだ。
そして彼がその気ならば、ダンジョンにともに潜る。それが罰として桜木に与えられた仕事だった。
本来の予定では、桜木のエスコートで二階層まで行く予定だった。
予定が変わったのは、想像以上の速度で戸村がダンジョンに慣れていった為。
初めのうちはどこかぎこちなく動いていた。
戦いの動作一つ一つの間に不自然な硬直が存在していたのも気になった。
だが戦うほどにそれらが消えていく。まるでそれが本来の姿であるかのように。
「天才的なのは、冒険者としてではないようですね」
戸村に聞こえない程度の独り言。
それが戸村の評価が変化したことを示している。
彼の才能は、冒険者としてではない。
あるのは戦いの才能。地を行き、空を飛び、群れを成すモンスターを相手に全く苦戦しない。
彼が冒険者としてそれなりに経験があるのなら何ら不思議ではない。
しかし彼のダンジョンへの入場歴は今回で二回目。
今回彼がやった動きを他の冒険者がする場合、恐らく数十回はダンジョンに行ってそれなりに戦わないといけないことだろう。
特に今回のゴブリン戦。これはダメだ。
初めのゴブリンは、剣を突き出した動作の勢いのまま回転して斧を上から振り下ろした。
二体目は突進の姿勢を保ちつつ蹴りをおこなえる状態にしていた。
最後のゴブリンに関しては、あれほど動いていて正確に首元に剣を突き刺すとは。
まさに戦いの天才。才能のすべてをそこに振り切っているのではないかと思うほどに。
だがそれ以上に目についた部分がある。
彼の精神性・・・狂気的な面についてだ。
「狂戦士の名に恥じない戦い様ですね」
「うっへ。やめてくださいよそれ。恥ずかしいんですから」
今話しかけても、彼にそんな一面があるとは思えない。
だが戦闘中。いや、敵に侮られた場合というべきか。
その時にだけ、まるで火山の噴火の様に内から狂気が漏れ出る。
もう数秒もすれば死ぬであろうゴブリンを、我慢ならないといった具合に殺すなどまさにそうだ。
「それにしても随分と変わった動きをするのですね」
「あー。まぁそうですね。癖なんですよ」
「癖・・・ですか?」
「はい。俺基本的に武術とか武道とかの才能無い?んですよ」
「無いというのは・・・覚えが悪いということですか?」
「いや物覚えは天才的ですけど・・・何かこう・・・使うタイミングが悪いというか」
話を聞くと、彼は【アークオリンピア】内での友人に何度か戦い方を教わったことがあるらしい。
ライバルの動きを参考にして、自らに活かすというのはどこでもやられていることだろう。
しかし彼はそれが全く意味を成さなかった。それどころか弱くなった。
技のキレは完璧なのに、肝心のタイミングがずれてしまう。
結果、その友人からは才能が無い?と言われたらしい。
?が付いているのが重要なんだとか。
手抜き→武術アリ→普通→本気
といった感じで強さが分かれるらしい。
「攻撃は読まれるし、防御は穴だらけ。回避するにもワンテンポ遅れたりと散々でしたね」
「それは・・・大変でしたね?」
「ハハハ。まぁ時間は無駄にしましたね。完全に無駄ではないのがギリギリ救いでしたけど」
「それでは結局。戸村さんの戦い方は一体どういうものなのでしょうか」
「簡単ですよ。何も考えてないんです、俺」
「・・・はい?」
「目の前に敵がいるじゃないですか。その時にどう殺すかとか、考えないんですよ」
「それは・・・」
そんなことがあり得るのか。
どこを狙うべきか、何に注意すべきか。
敵を前にすれば、考えることはいくらでもある。
もちろんそれだけになっては動きが固くなることは承知している。
ではだからといって、何も考えないのはどうなのだ。
桜木は戸村の言うことがさっぱり理解できなかった。
しかしつい先ほど戦いぶりを見たばかり。あれが何も考えていない結果なのか。
「それではあの動きは」
「考えるより先に体が動いたーってやつですね」
「・・・天才ですね」
「え?・・・まぁそらね」
少しだけ照れくさそうにする戸村を見て、桜木の中に彼に対する小さな畏怖と謎の不安感が生まれた。
彼にある二面性にではない。
彼の持つ、絶大的な戦いの本能に。
意識せずとも殺し方が浮かぶ。
相手の攻撃を躱す最適解で体が動く。
もしダンジョンがこの世界に出現しなかったら、彼の才能は表に出ることはなかっただろう。
いや。ゲームの中では活かせたかもしれないが。
だが既に彼の才能は世に出始めている。
冒険者研修生による鬼の討伐。その情報は既に各国の冒険者協会に回っている。
そのうえで、今回の事を報告したらどうなるか。
「戸村さんは」
「はい?」
突然話の流れを切って名前を呼んできた桜木に、目を丸くしながら返事をする戸村。
彼は普通の人と比べるとおかしいのだろう。
だがそれでも、まだ子供。
何より他人の為に自分の命を懸けることが出来る優しさも持っていると、桜木は知っている。
だからこそ、言わずにはいられなかった。
「あなたは恐らく、これからいろいろな大人の事情に巻き込まれると思います」
「え?なんですいきなり」
「ですから・・・強くなってください」
「・・・はい?」
「誰にも邪魔されないくらい。誰からも認められるくらい」
彼が自分の意思を貫ける様に祈る。
冒険者という道に彼を引きずり込ませた。そんな失態をした自分でも、それくらいは許されるだろう。
「あなたはまだ子供ですから。我慢しなくてもいいくらい・・・強くなりなさい」
「・・・まぁ、言われなくても強くなりますよ。そうじゃなきゃ勝てないんで」
願わくば、彼の願いが叶う時が来ますように。
そして彼が道を誤らないことを。
桜木は、心の底からそう願った。
実は今同時に投稿してる作品の書き直しをしているのですが、
色々書き換えてたらもはや別物なっていました。何で・・・?