食い倒れ妹
新章ですが短くなる・・・はずです。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
この日、戸村家には珍しい現象が起きていた。
普段は家のムードメーカー。家事などを担当している妹。
千尋が何故か朝から一言も喋っていない。
朝起きた時点で妹の異変に気が付いていた俺とリアはアイコンタクトにて状況確認を行う。
(なに?あいつ不機嫌?女の子の日?)
(そんなわけないでしょ。昨日の夜からあんな感じよ)
(夜?何かしてたか?あのバカと喧嘩した?)
(テレビを見てたら急になったのよ)
ここまで一言も喋っていないが、お互い完璧に意思疎通を完遂した。
結局昨日の夜に何かしらがあったからこうなっているしか分からなかったけど。
残念なことに昨日の夜俺は家にいなかった。
三十層の突破記念で日坂さんと外食していたのだ。
家に帰ったのは日坂さんを送り届けてからなので、俺が家に帰った時には既に千尋は寝ていた。
その為何があったかさっぱり。
まぁ別にこういう千尋は時々見かける。
そういう時は大体とある事が原因なんだが・・・
「・・・お昼」
「「はい」」
別に怒ってるわけじゃない。ただ自分の中でずっと何かを考えているためものすごく雰囲気が悪くなるのが千尋だ。
そのせいで俺もリアも何かここに居づらい。
でもしっかりとご飯は作っている。
今日はサンドイッチのようだ。
って、何だこのサンドイッチ。
「めっちゃ手込んでね?」
「照り焼きチキン。卵サラダ。ハムとレタス」
「俺のはローストビーフもあるぞ・・・」
ああうん。こっちだったか。
「昨日のテレビってパン?」
「あー・・・うん。そうだったわね」
成程完全に理解した。
千尋を知っている者は大抵すぐに気が付くんだが、我が家で最も食にうるさいのは千尋だ。
グルメであり、味にうるさい。だからこそ俺がダンジョン産の肉を持ち帰ると飛んで喜ぶ。
そんな千尋だが、彼女はグルメ系のテレビ番組を見るとたまーに今みたいになる。
それは大体。遠すぎて買いに行けない店の紹介だったり、小遣い的に手が出せなかったりが原因。
要するに、食べたいけど食べられない物が紹介されるとこうなる。
その間頭の中ではどうにかしてそれに近い物を食べようと脳がフル回転している。
昼飯の献立的に今回はサンドイッチが紹介されていたようだ。
この無駄に手の込んだ具材は自分が満足する為のもの。
普段ならもう一つ二つくらい種類が少ない。
「てっかうまっ」
「あら。これ卵焼きなのね」
「卵焼きサンドかぁ。出汁巻きなんだっけ」
「そうみたいね。私は好きよ」
普段から千尋の料理は美味しい。自分が美味しい物を食べる為に料理してるから当然だ。
だがこういう時の料理は普段より美味しい。
溜まった不満やらを解消すべくさらに力を入れる。
なので理由さえ分かってしまえば、俺とリアにとってはサービスタイムだ。
うーん。この小倉サンドも美味しい。
餡子も千尋が作ったやつだな。あいつが好きな甘さだし。
まぁこれなら、食べ終わった時には千尋も元に
「ダメだっ!!!」
「っ」
「おっと。大丈夫か?」
「え、えぇ。ありがとう」
その時千尋が急に叫んだ。
それに驚いたリアが持っていたサンドイッチを落としかけたが隣にいたから俺がキャッチできた。
「おい千尋あぶねぇって」
「あ、ごめんお兄ちゃん。お姉ちゃんもごめんね」
「いえ。大丈夫よ」
うーん?元に戻ったというか、一回転した?
ダメだって言ってたよな?つまりこれだと満足いってないと。
「はぁ。もう面倒だから聞くけど、今回は何が食べたかったんだ?」
「・・・実はさ」
千尋は昨日の夜見ていたテレビ番組の事を教えてくれた。
その時やっていたのは、俺の予想通りパン屋の紹介。
ただ別の県の田舎にあるパン屋らしく、中学生がノリと勢いでは行けないんだとか。
「そこで出てたサンドイッチが美味しそうだったと」
「それだけじゃなくて全部・・・」
「ああそう。んで?何がダメなんだ?十分美味しいけど」
「そうよ。何かダメなの?」
「・・・小麦がダメなのぉ」
「「・・・」」
こいつついにそこまで拘り始めたのかと思わず呆れる俺とリア。
相変わらず食に対する熱意がすごい。
しかし小麦がダメとは何だ?
そのパン屋では特定の農家から仕入れてるとかそういう話?
「それもあるんだけど、問題はそっちじゃなくてね?」
「はぁ」
「ダンジョン小麦を使ってたの!!」
「ダンジョン小麦?」
「へぇ。そらまたすごいパン屋だな」
奥多摩の食物ダンジョンの様に、食材が出てくるダンジョンは意外と多い。
専門じゃなくてもドロップ品が実は食べられるってパターンがあるからだ。
でもそんなドロップ品には偏りがある。
まずドロップ系だと肉系が多い。時点で魚介・・・は肉っちゃ肉か。
まぁとにかくそっちの系統ばっかりある。
野菜だったりキノコだったりってのはそれが発生する環境があるダンジョンに行かない限りまず手に入らない。
「んでダンジョン小麦は取れるダンジョンが限られるパターンなんだけど」
「あら。じゃあ宗次が取りに行けばいいじゃない」
「まぁそうだな。今度行ってこようか?」
「・・・え?そんな軽い感じ?」
「言っておいて何だけど、良いの?」
「まぁ俺にも事情があってだな」
実は昨日、お疲れ様会に行く前に桜木さんからとあることを言われているのだ。
それは・・・
「え?来月まで三十層より下に行っちゃだめ?」
「そんなことあるのね」
「何か俺達が更に下に行くために必要だって言われてさ」
そういわれるとこちらとしてはなんとも言えない。
実際今日の朝も電話で浮島さんから協会からの命令として同じことを言われている。
その理由自体は教えてくれなかったから、いまいち納得はしていない。
「じゃあ何でそれに従ってるのよ」
「三十層より下に行けないだけで、他のダンジョンには行けるからだよ」
「あ、なるほど」
二人ともそれを聞いて納得してくれたようだ。
日坂さんに色々教えるってのもあったし、ある意味丁度良かったのかもしれない。
「ま、そんなわけだからな。暇つぶしに行ってきてやるよ」
「やったー!!ありがとうお兄ちゃん!!」
「はいはい」
「でもあなた。どこにそのダンジョンがあるか知ってるの?」
「ふっふっふ。今回は知ってるんだなこれが」
奥多摩のダンジョン調べたときについでに調べたからな。
ダンジョン小麦が手に入るのは、『主食ダンジョン』と呼ばれているダンジョンだ。
「『主食ダンジョン』?」
「世界中で主食として食べられてるモノだけがドロップするダンジョンだな」
なので米も小麦も芋もトウモロコシもある。
珍しいのは鮭かな。日本だとアイヌ民族の主食だとか漫画で知った。
ただここドロップ品以外は割と普通のダンジョンだからな。難易度は通常ダンジョンと変わらない。
階層自体はニ十層程度だからそこも普通だ。
「ただし鮭は倒すと切り身を落とす」
「それは食べられるの・・・?」
「いつも通り謎の紙に包まれてるから」
「ああそうなんだ。それで?小麦は?」
「普通に収穫する」
基本植物のモンスターとかがいない限り収穫だよね。
「あと別のダンジョンにウィートレントってのがいる」
「何それ?」
「小麦のトレント?そんなのもいるのね」
「小麦ってウィーっていうの?」
「『wheat』よ」
ただそっちは気軽に行ける距離じゃないのであきらめましょう。
何せ海外のダンジョンだしな。
「一番近い主食ダンジョンなら、朝一から行けば昼頃には帰ってこれるかな」
「へぇ。意外と近いんだね」
「だって奥多摩にあるし」
「え」
「今奥多摩は空前のダンジョングルメブームだよ」
その割にあんまり有名じゃないのはどうしてだろうか。
あれかな。微妙に交通の便が悪いからかな。
「じゃ、じゃあついでに食物?ダンジョンの方もいける・・・?」
「行けるぞー」
「・・・うん。分かったよお兄ちゃん」
「おや?」
話を聞いていくにつれて戻っていた機嫌がまた変な方向に行った気がする。
すぐに自分の分のサンドイッチを食べ終わると立ち上がる。
「お皿洗いだけ任せて良い?」
「え?あ、ああ。良いけど」
「今からちょっと・・・ほしい物メモってくる」
「あ、はい。ん?待てよ?そんな大量に欲しい物あるのかってもういねぇ!?」
「あの状態で満足してなかったんだから当然でしょ。ほら、早く食べちゃいましょう」
「えぇー・・・遠慮とかってあると思う?」
「あの状態のあの子には無いわ」
「デスヨネ。後で日坂さんに連絡しなきゃ」




