衝撃の新人デビュー
「はぇ。すっごい見ごたえあるんですね・・・」
「そうだろう。まぁ今回はアークの戦闘の中でも派手な部類ではあるが」
「あの新人マジでやるな。まさかエンターテイメントまで組み込むとは」
ウェスタンガンマンVSざぶざぶ
勝者はざぶざぶ。
その結果に驚きは無いが、内容はすごく濃かった。
まずいきなり繰り出されたざぶさんの新曲。効果は対象の速度と攻撃力に影響するデバフ。
それだけならありきたりな効果だが、曲自体が非常につかみづらいテンポで奏でられたせいで中々に相手はやりずらそうにしていた。
「戦いにリズムは結構重要ですからね」
「蒼君もですか?」
「師匠にリズム・・・?」
「おいこら」
いや無いけどさ。その場で何となく動いてるだけだけどさ。
偉そうに言ったんだからそこは誤魔化せよ師匠やぞ。
「でもガンマンさん?の方の弾綺麗だったね~」
「カラー弾幕・・・って使い手いたっけ?」
「自分は憶えてないっすけど。文屋さんは?」
「私も知らんな。あれは本当に見た目重視だからな」
「強くないんですか?」
「元々戦闘用じゃないんですよあれ」
「え?」
「昔のイベントで実装されたお遊び用のやつでして」
ウェスタンガンマンの戦闘スタイルは、立ち止まっての早撃ち・・・+高機動での撹乱だ。
その全てで放たれる弾丸は全て『色弾』と呼ばれる特殊な弾倉を用いている。
それは威力など全ての性能が普通の物と変わらないとかいう、ただ撃つたびに色が変わる面白アイテム。
でも色が変わる分通常の弾と比べてコストが高い。持ち込める弾が少ないのだ。
なのでこれを実践で使うプレイヤーはまずいない・・・はずだったんだがなぁ。
「ちなみにあれは相談済みか?」
「もちろん。なんでも鮮やかな弾幕を撃ちたいとのことだったからな」
「お前の倉庫に死蔵してたのをくれてやったと」
「そういうことだ」
昔のイベントのアイテムを手に入れる方法で、いつでもやれる方法は一つだけ。
他のプレイヤーから譲ってもらい、そこから複製するやり方だ。
知り合いのプレイヤーとかいう非売品さえ用意出来れば何でも手に入る。
まぁ無くてもイベントの復刻とかで手に入るっちゃ入るんだけど。
「てかもしかして色の弾幕ってもしかして・・・」
「本人から直接聞いたわけじゃないがな。まぁそういうコンセプトというだけだろうな」
「流石に再現はなぁ・・・男だし」
「前にいたはずだがな」
「え、俺知らねぇ」
結構有名なゲームだから再現系を見逃すとは思わなかった。
無駄話をしている間にも、フィールド内では次の準備が整えられている。
さっきの戦いで地面が抉れたからそれを直す程度ではあるが。
それも終わり、完全に元通りになるとすぐに二人のプレイヤーが入ってきた。
片方はもはや説明不要。アーサーだ。
「あの方がアーサーさんですか?」
「そうです。一番付き合い長い奴ですね」
「後で挨拶しないと」
「あのいや・・・いらないと思いますけど」
「敷かれてるようで何よりだよ」
「じゃかしい」
余計なお世話じゃい。
目を再びフィールドに向ける。
すでにプレイヤーは揃っているので、お互いに了承すればすぐにでも戦いが始まる。
今回は事前にこっちでプレイヤーの話をする暇は無いと思ったが、どうもまだ始まらないらしい。
「何か喋ってんな」
「む。しまった設定を変えていなかったか」
「何してんのー」
フィールド内にいるプレイヤーが何を話しているかを外部のプレイヤーに伝える為の設定がある。
でもそれはデフォルトがoff担っているので設定を変えないといけないのだ。
なので俺達に彼らの話を聞く手段は無い。
「蒼君読唇術とか出来ないんですか?」
「流石に無理っすね。もっと近くないと」
「あ、出来るには出来るんだね・・・」
「魔法詠唱で何が来ると判断出来るんで結構使えるっすよね」
「・・・一応訂正しておくが、出来るのは一部のプレイヤーだけなので勘違いなさらぬように」
「そ、そうですよね!」
一部(マスターランクの七割)ってところだな。
でもまぁ時間はあるみたいだし、プレイヤーの話をしたい。
アーサーは・・・まぁあいつは良いよもう。相手の方が気になるって。
「それで?あっちの盾持ち少女・・・今盾持ってないけど」
「魔法式の合成盾を使うせいだな。戦闘時以外は消している」
「レア物過ぎんか?」
レア物通り過ぎて絶滅危惧種では???
「師匠解説が欲しいっす」
「は?お前・・・いや知らなくてもおかしくないのか」
「一度も戦闘経験が無いと言われても不思議じゃない武器ではあるからな・・・」
「そんなにその・・・使いにくい武器何ですか?」
「使いにくい通り越して使う奴はタダのバカです」
なんで今回の注目新人プレイヤーはそういうのが多いんだ。
カラー弾幕やら魔法合成盾やら。
正式には、武具を召喚する『サモンウェポン』を使用している。
そこから生み出した物・・・盾複数を合体させるため『魔法式合成盾』と呼ばれている。
ではこのやり方の何がダメなのか。
まず魔法がダメ。この魔法で生み出せる武具は性能が低い。
利点は自分の好きな武器をデザインできる事くらい。
次に合成盾が弱い。
盾の役割は相手の攻撃を受け止める事。
求められるのは硬さ・・・なのだが、合成盾は複数の盾を合体させているのでその分脆い。
この二つの時点でもうだいぶ弱いんだが。さらにこれを組み合わせてるから余計に性能として低くなる。
一応デザインする際に、合体を考慮したデザインにすればある程度合成盾の弱点はカバーできるのだが・・・だったら最初から普通の大きな盾を使えばいいという話だ。
「じゃあ何でそんなのがあるの?ゲームなら消すとか出来ると思うんだけど・・・」
「一応利点があるんですよ」
「え?聞いた感じ全然ありそうには聞こえなかったけど」
流石に弱点だけではないんだ。てか弱点だけだと流石に運営にクレームが行きそうだ。
「合成・・・合体出来る物は盾だけじゃないんですよ」
「えっと・・・剣とかにも付けられるってこと?」
「正解です」
だから初めは剣にくっ付けておいて大剣などの別武器として運用。
そこから敵の武器や戦闘スタイルに応じて付け替えて調整をその場で行えるという利点だ。
実はこれ、一時期流行った武器種なのだ。
まぁかっこいいよな。合体剣。
だが残念なことに、先ほど上げた性能の低さと使用難易度の高さが原因で廃れてしまった。
結果今では使い手が絶滅したのではないかってレベルで見かけない。
「これで扱いが簡単とかならまだ救いはあったんですけどねぇ」
「まず殆ど別の武器種を使い分ける必要があるのと同義なのだが・・・アビリティのコストが足りん」
「ほぇ~そんな歴史があったんすね~」
「アーサーも昔はそれでやってた時期あるんだけど・・・まぁ察しろ」
あいつ自身が強いからまだ戦績はマシだったけどな。
全体通してみたらかなり酷いことになってたけど。
「ちなみに師匠は戦ったんすよね?」
「もちろん。さっきも言ったけど流行ってたしな」
「ちなみに勝率は?」
「・・・脆い盾ってな、力づくでぶっ壊せるんだよ」
「あっ(察し」
悲しいよな・・・上から殴るだけで倒せる敵って・・・
「まぁそんな話はどうでも良いんだ。今はあの盾少女だ」
「えっと。もう期待出来ないんですかね?」
「・・・文屋」
「まぁタネはある。私も驚いたが」
ここにいるのは、将来有望なプレイヤー。
文屋という戦闘力を見測るうえで最も信頼できる目を持つ男が選りすぐった者達だ。
それが、弱い武器を使っているというだけで実力も低いとは考えにくい。
武器の弱さをカバーするだけの技量、感覚。
或いは弱点を無くす革命的な何かを見つけているか。
「むしろ期待値的には上がったかな?」
「おぉ。師匠がマジの目してるっす。メグさんはこの師匠・・・あっなんでもないっすー」
後から聞いた話だが、この時の俺の表情を見るメグさんの顔はとても綺麗な笑顔だったそうな。
「余計なことは馬に蹴られそうだなこれは」
「死にたくないっすねー」
「ん?何か言ったか?」
「何も?」
「何でもないっすーよ」
「そうか・・・?」
ふむ?何か聞こえたような気もしたが気のせいか。
メグさんも反応してないし本当っぽいな。
そしてこのタイミングでフィールドの二人も話が終わったのか、互いに武器を構えた。
アーサーはいつも通り剣と盾を。
盾持ち少女は話に聞いていた通り盾を・・・・おぉん?
「・・・俺の目が腐ってなきゃ、あれは普通の大楯だと思うんだが」
「そうだぞ」
「いや効率とか・・・新人だからとかあるんか?」
『サモンウェポン』で召喚する武器は基本的に小さい物とされている。
何故かって?いやデカいのなら最初から持ち込むっての。
細かい物をいくつも出せるからこそあれが活きるんだ。
まぁデカい武器を複数一度に使いたいってんなら分からんでもないが・・・いやでもそれはどうなんだろうなぁ。
マルチウェポンで良くね?ハルバードとか使おうぜ。
「まぁお手並み拝見かな」
「度肝を抜かれるぞ」
「・・・あんまり奇抜でも困るんだけど」
折角だからメグさんのお手本になるよな盾捌きを期待したいけど・・・
「ハッ!?そういえばそれが目的だった!」
「えぇ」
「えへへ。見てるの面白くなっちゃって」
「それはそれで良いことではないか蒼よ」
「うん良い事なんだけどね?」
複雑な気持ちを察しほしい。
戦闘が始まった。
初めに動いたのはアーサー。
盾を前に構えて盾少女との距離を詰める。
対して盾少女は特に動揺せず相手の動きを見て・・・盾をぶん投げた。
「は?」
「出たな」
「出オチ!?」
ロメも知らなかったのか驚いている。
メグさんも目を見開いているので、声には出ないが驚いているようだ。
そして当然文屋は驚いていない。
いやてかそういう問題じゃない。
アーサーもまさか盾が飛んでくるとは思ってなかったのか、足を止めてしまう。
盾自体は撃ち落とすことに成功するが、その一瞬で盾少女の姿を見失ったようだ。
だが観客席にいる俺達側からは少女がどこにいるか分かっている。
アーサーの上空。そこで『大楯』を振りかぶっていた。
そのまま盾を下に地面に激突。
アーサーも割と早めに気が付いたので回避は出来た。
ここでアーサーも相手の少女が何をしたか気が付いたらしい。
俺は話を聞いていたので、恐らく先まで理解出来た。
「あの子もしかして・・・」
「分かったか?」
「多分だけど。あの盾、合成盾か」
「ん?どういうことっすか?」
「生み出した盾を組み合わせるんじゃなくて、組み合わせた状態の盾を魔法で作ってるんだ」
「そんなこともできるんすねー。便利な魔法っすわ」
「まぁそう見えるんだが・・・見えるだけだろこれ・・・?」
自分が困惑しているという自覚がある。
何だろうあのやり方。理屈は理解出来るけど本当にやる奴がいるか?
それに結局合成盾だからアーサーの攻撃を何度も受け止めたりは・・・
「出来てるよ?」
「出来てんねぇ・・・」
「出来てるっすね」
今まさにアーサーの攻撃を何度も受け止めている。盾が欠けたりする様子は無い。
ふむ。何か妙だな。
一旦ありえる可能性を考えてみよう。
まず合成盾にある脆弱性がまずない。これ自体はアビリティの組み合わせでどうにか出来る。
召喚魔法のデメリットも同じく。両者の組み合わせで発生するさらなる脆さは初めから合成物を召喚することでカバー。
「根本的な脆弱性は強化魔法か・・・?だが強化幅を考えると・・・やってるのは『ヘビーエンチャント』か」
「流石だな。戦ったことは?」
「あるにはあるが。正直ただのカモだったぞ」
それこそ流行ってた時期に一部のプレイヤーが使ってた脆弱性の解決策の一つだ。
でも『ヘビーエンチャント』は効果の対象物の性能を上げる代わりに重量も増える。
合成盾や召喚武具に使うならそれこそまともに振るえないレベルの強化が必要。当然その分重くなる。
ここで一つ。ある考えに至った。
それは俺にとって非常に馴染みのあるアビリティ構成。
だが他のプレイヤーがやるとは考えた事が無かった。
何せ、その構成はプレイヤーを選ぶどころの騒ぎではなく、使うこと自体が馬鹿のやることだから。
「強化幅最大で・・・後全部身体強化ってマジか?」
「大正解だ!いやぁ。お前を呼んだ甲斐があったというものだ」
「は?それ師匠の専売特許じゃないっすか」
「えっと・・・武器の補正が掛からないっていう話であってる?」
「あ、はい。それであってます」
いやだが一度考えれば理解できるぞ。
盾にも当然補正が掛かるスキルは存在しているが、それは別になくてもいい。
実際アーサーも付けてないアビリティだ。
だが少女を見る限りそれほど盾の扱いが上手いというわけではない。
恐らく滅茶苦茶な強化で重くした盾と身体強化のみに特化したアビリティ構成で無理やり補正無しのデメリットを消したのだ。
攻撃力は盾の重さで、ガードでも重さと強化した頑強さでどうにかしていると思う。
フィールドを見ればあちこちに小さな穴が出来ている。
全て少女の攻撃で生み出されたものだ。
「しかもそれだけではないぞ」
「は・・・ん?盾二枚持ってね?」
「本人曰く、どや顔ダブルシールドだそうだ」
「あの子相当馬鹿だな?」
「少なくとも正気ではないと私は思った」
二枚の盾による連続振り下ろし攻撃。
アーサーでは受けることは出来ないので全て回避しているが、少女のステータス値が高いせいで微妙に距離を取れていない。
これは似たようなアビリティ構成にしている俺だからわかる事だが、まぁあの程度なら余裕とはいかないが振り回せるだろう。
叩きつけた後は消して身軽になれば機動力も確保できる。
でも普通のプレイヤーはやろうとは思わない。何せ他の武器で同じ事した方が強いから。
「俺師匠以上の脳筋って初めて見たっす」
「まぁ蒼は基本部分はきちんと考えるタイプだからな。その上で力づくが良いと判断することは多いが」
何か隣で言われているがそれどころではない。
俺は感動を覚えていた。
あそこまで趣味に全振りで、無駄に強そうに、意味ないレベルの実用化をしたあれはもはや一種の芸術。
俺は絶対にやらない。
「すみませんメグさんあれは参考にしないでください」
「あ、うん」
そんな俺達の目の前で、さらに少女は奇天烈な行動に出る。
二つの盾を合体させ、さらに巨大な盾にしてみせた。
ここからでも分かる。アーサーの顔が引きつってる。
「あ、でも盾の先端に刃があるっすね」
「何の慰めにもならねぇ・・・」
いろんな意味で目が離せない試合になりそうだな・・・!!




