先輩冒険者への相談
「おはよ・・・」
「「「・・・」」」(ザワ
「・・・」
・・・え、気まずっ
「ってことがあってなぁ」
「ふむ。なるほど。割と真面目な相談だったね」
「俺の事なんだと思ってる?」
アークオリンピアにログインし、いつも通り適当に数戦戦っていると奴が来た。
マスターランク レートランキング三位 【真騎士・アーサー】
恐らく俺が最も対戦しているプレイヤーであり、サービス開始直後からの付き合いがある。
当初はこいつがネットリテラシーに慣れておらず色々大変だった。
今はそれなりに慣れたのかそのあたりの心配はしていない。
「しかしまさか一層で鬼が出るとはね」
「・・・今更ながら、海外でも鬼なんだな。オーガじゃないのか?」
「別のモンスターという扱いだからね。名前が鬼なのは日本で初めて発見されたからだよ」
「へぇ。そういうのは早い者勝ちなのか」
アーサーの奴はイギリス人。ゲーム内の名前もアーサー王からそのまま取っている。
そしてこんな話をしているから分かると思うが、こいつも冒険者をやっている。
何なら俺より年上だし、冒険者として世界的に有名な男でもある。
ここで遊んでるとそのあたり忘れそうになるけど。
「実際そんな凶悪な罠って一層からあるもんなのか?」
「稀にだがね。尤も、基本的に目立つだろうから引っかかる者はいないだろうけど」
「それじゃあ罠の意味なくないか?」
「そうでもないさ。罠の先に宝箱があるとか、そもそも罠にかかる事が目的の可能性もある」
「レア個体狙いってことか」
モンスターが出現する罠は基本的に珍しいモンスターが出てくるそうだ。
ただ珍しいならともかく、外れを引いて勝てないモンスターが出てくる事も稀にあるんだとか。
つまり先日のあの件も、どこぞの馬鹿がアホをやった結果というわけか。
詳しい話を桜木さんは教えてくれなかったが、アーサーが言うならそうなんだろう。
「まぁそこはさておき。問題は君のご学友についてだね」
「あぁ。正直困りはしないけど。面倒くさい」
「それは困ってるんじゃないかな?」
アーサーの苦笑いに対して皮肉も言えない。
先日のダンジョンでの冒険者登録と研修。
あれは元々クラスメイト全員で冒険者になろうという、最近の若者にありがちなやつだった。
そこで事故に巻き込まれて、何だかんだあって俺頑張った。
だがその俺に対して恐怖を抱いた者達がいた。俺と同じチームになっていたあの三人だ。
女子はともかく、俺以外のもう一人の男子の方が厄介だった。
そいつは入学してすぐからクラスの中でも目立つようになった男で、そもそも冒険者になろうと言い出したのも奴だった。
そんな奴が俺に恐怖を覚え、何とその時の事をクラス中に教えてしまったのだ。
一応言っておくと、あの事故については緘口令が敷かれている。
その為話したのがバレた奴はそれはもう大目玉を食らったそうだ。
問題は結局俺のあの時の戦いがバレた事にある。
単純に言えば、ビビられている。そして避けられている。クラス中に。
元々特定の誰かとつるむといったこともしていなかった為そこまで変化はない。
だがそれはそれとして、一々変な視線で見られるのはウザイ。
学校に居辛くなっているのだ。変な噂も流れてるようだしな。
それを冒険者の先輩であるアーサーに話してみたのが会話の流れである。
「しかし困ったね。僕はそういう経験はないから」
「だろうね」
「まぁ素直に思ったことを言うならば、気にしなくても問題は無いね」
「何故に?」
「彼らが何を見たかは知らないけれど、モンスターを倒す姿を見た程度で怯えるなら冒険者には向いていないからね」
「はぁ?」
「そんな程度では大成しないから、放っておけばいいのさ!」
「はぁ・・・いやそれ俺が冒険者続ける前提だよな」
「続けないのかい?」
「いやそれは・・・興味は湧いてるんだよなぁ」
「ほう?」
始めは周囲に流されて冒険者の研修に行った。
だがそこで戦ったあの鬼は強かった。つい本気になってしまう程に。
俺が冒険者を続けようと思っていなかった理由は、偏にゲーム内で目標があるからだ。
それはランキング一位の【剣豪無双】を倒す事。
奴とは今まで何度も戦い、いくらかは勝利したこともある。
だがそれは奴が本気になった時の話ではない。
厳密に言えば本気ではあったのだろう。だが全力では無かった。
そもそもゲーム内での戦闘において、やつは殆ど全力を出していない。出さなくても勝ててしまう。
それに気が付いたのは偶然だったが、それを知って以降俺はそれだけを目的にしている。
だからこそ、よそ見をしている暇は無いと考えた。
俺の認識では、ダンジョンとは貴重な品を持ち帰る為の場所だったからだ。
そんな所で時間をつかうくらいなら、ゲームをしていた方が遥かに強くなれると。
しかし実際にはあんなモンスターがいる。
そして下に行けばもっと強いモンスターも多いとか。
それは非常に魅力的だ。
「君の場合戦闘経験はそのまま戦闘力に直結するからね」
「そうなんだよ。しかもモンスター倒せば稼げるんだろ?」
「正確にはモンスターの魔石を持ち帰るとだが、間違っては無いね」
俺も今年から高校生。アルバイトの一つでもしなければとは考えていた。
だから冒険者として稼ぎつつ、戦闘経験も積めるのはとても都合が良い。
ただアルバイトするだけでは戦闘なんて出来ないしな。
「そこまで考えてるなら続けるべきだと思うけれど」
「やっぱり?まぁ正直滅茶苦茶惹かれるんだよなぁ」
「ほぉ~何やら面白いお話をしてますねお二方」
「あん?」
「おや?」
振り返ると、そこには知り合いがいた。
「何してんだ魔法少女」
「久しぶりだね魔法少女君」
「魔法少女言うな」
マスターランク ランキング七位【マジカル元素】
「私にはマナちゃんという可愛い名前があるので」
「そうかいマナちゃんさん」
「君はいつも通りだねマナちゃんさん」
「アーサーさんこの人の変な影響受けてますよね絶対」
「そうか?」
まぁ昔に比べて随分と話しやすくはなったと思うが。
さて、このマナというプレイヤー。先ほども言ったが俺達と同じランカーである。
戦闘スタイルは魔法特化。
アークオリンピアは基本的にどんな戦い方でも出来る。
だが何か特定の物に特化させるプレイヤーは少ない。単純に対応幅が狭いと絶対に勝てないプレイヤーが多くなるからだ。
特定の例外を除いて。
その例外のうちの一人がこのマナだ。
魔法で相手の動きを妨害して、魔法で一撃で仕留めてくる。
嵌った時の爆発力は凄まじく、その分嵌らないとぼろ負けする。
そんなスタイルにも関わらずレートランキング一桁を維持しているのだからその凄さが分かるだろう。
今更だが、基本的にランカーは皆顔見知りだ。
特に今の八位以内のランカーとは付き合いもそれなりに長い。
ランダムマッチとかで対戦相手探してると大体ぶつかるしな。
「それで?もしかしてダンジョンのお話ししてました?」
「してたけど・・・お前興味あんの?」
「そらもちろん。というか私も冒険者ですし」
「えぇ!?」
「何で驚いたんです今?」
「・・・お前年上だったのか」
「いやそれは知ってたでしょう!?」
「ちゃんと言われたことは無いね」
「あれ?そうでしたっけ?」
振ってくる話題が微妙にズレてるので何となくそうなんだろうなとは思ってたくらいだな。
普通ネットの知り合いに年齢とか言わないだろうし。
それにしてもこいつまで冒険者だとは。
何だ?今アークプレイヤーは冒険者になるのが流行りなのか??
「むしろ蒼君が高校生なりたてってのが驚きなんですけど」
「え?今更?」
「ログインの時間から何となく学生なのは知ってましたけど、まさか去年まで中学生だとは思いませんよ普通」
「僕も最初は驚いたね」
「マジか」
「・・・あれ。ということは私当時中学生の男の子をオフ会に誘ってました?」
「そうなるな」
「一歩間違えると事案ですねこれ。ギリギリセーフ」
そういうことはこいつ20より上なのか。
成人女性が中学生男子にリアルで会おうと誘ってくる・・・微妙にマズイ匂いがするな確かに。
性別が逆なら間違いなくアウトな事案だ。
「それで?一体何を悩んでるんです?」
「それがさ」
ここでマナにも事情説明。
学校でのことはとりあえず後回しで、冒険者として活動を続けるのかの話をする。
そしてマナは聞き終わると、目を輝かせてこう言った。
「なるほど!でもそれ止める理由無いですよね?」
「僕もそう思ったよ」
「やっぱり?」
「逆に何で蒼君は躊躇ってるんです?」
「いや。お金的な問題がね?」
「「あー」」
冒険者として活動すること自体はそこまで難しい事じゃない。
ただ本格的にやろうとすると金が掛かる。
うちの家は貧乏とは程遠いという自覚はあるが、俺の小遣いはそこまで多くない。
活動が安定して、稼げるようになれば出費分を取り戻す程度は簡単だ。
だがどうしても初期投資の壁がデカい。手が出しにくいんだ。
協会からのレンタル何かもあるにはあるが、それを使うと金も溜まらないし、性能も良くないとかですぐに切り替える事をお勧めされたくらいだ。
二人もそれを聞いて納得したのか頷いている。
多分こいつらも苦労したんだろうな。
何せ今よりもっと環境が整備されていなかった時期に冒険者になってるんだろうし。
「いえ私はそこまででしたけど」
「僕もだね」
「クソが」
マナは知らんがアーサーは家が名家だから困らんわなそら。
ていうかそもそもダンジョンの管理をしてる家だったか・・・
「これが僕の国なら、援助も簡単なんだけどね」
「難しいのか?」
「ダンジョン関係の国同士の決まり事なんて殆どないからね。下手に動くと大変な事になりかねないんだ」
「勧誘と見られたらそれだけで面倒が起きそうですよねぇ。あぁやだやだ」
「何か思ってたより面倒なのか冒険者」
「余計な事に関われなければそうでもないですよ。何せ自分の事だけ考えておけばいいので」
余計な事ってのは、ようするに探索以外の事で欲をかくなということだろうな。
まぁそういうことなら面倒ではないのか。
結局初期費用の問題が解決してないけど。
というか俺以外でも似たような問題で躊躇ってるの多いんじゃないか?
色々調べたけど皆気長にやれとしか書いてないし。実際それが正しいのかもなぁ。
まだ冒険者のみに集中してるのはプロ冒険者かそれを目指してる連中だけだろうし。
「そういえばプロの連中の場合ってそのあたりはどうしてるんだ?」
「スポンサー企業から物資の提供を受ける形だね」
「代わりにCM出たり、ダンジョンで手に入った物を優先的に回したりしますね。
企業によって当たりはずれは大きいみたいですけど」
「外れとかあんのか?」
「例えばキャンプ用品を作ってる企業がスポンサーだったとするじゃないですか」
テントの出来はいいが、それ以外の物はあまり良い物ではない会社だと外れ扱いらしい。
用品全て自社製品で賄わないといけない為どうしても不便な所が出てくるんだとか。
だから理想は各社の良い品を集めてくれる、集められる企業らしい。
「具体的にはどんな企業が良いんだ?」
「一概には言えませんけど、しいて言うなら芸能関係ですかね」
「芸能関係~?」
「ああ。確かにそうだね」
全然ダンジョン関係ないなと思ったがそうでもないらしい。
今世界で最も注目されている職業である冒険者。
彼らがダンジョンから持ち帰る物は何であれ一定以上の価値を持っている。
「ではここにさらに、冒険者個人の価値を付けようとしたらどうします?」
「そらまぁ顔を売って・・・あ、そういうことか」
「はい。確か今冒険者アイドルとかの企画が動いてるとか何とか」
「詳しいな」
「これくらいなら冒険者してると簡単に集まりますよ」
馴染みの協会員とか出来てこっそり教えてくれるらしい。
面白い話だなとは思うが、あんまりそそられはしないな。
「ちなみにマナはプロ?」
「プロですよ一応」
「だから苦労してない系なのか・・・」
「今結構簡単になれるんですごくも無いですよぶっちゃけ」
「は?プロなのにか?」
「大体五層より下に行ける人なら多分候補には入りますよ」
「え、そんな浅くていいのか?」
何か思ってたより全然進めてないと思うんだが。
もっと20層~みたいなところまで行って初めてプロレベルとかなのかと。
「ああ。君鬼を倒してるから感覚バグってるね」
「は?鬼??何の話ですかそれ」
「実はね・・・」
ここでマナに先日の事故の話を教える。
すると驚いたと同時に、何かに対して怒り始めた。
「誰ですそんなことした馬鹿は!!」
「やっぱりお前基準でも馬鹿なのか」
「罠踏んで返り討ちならまだいいんですよ。所詮自己責任なので」
「じゃあ何がダメなんだ?死んだらどうしようもないと思うんだけど」
「自分の実力も把握出来ないで危険な事をしたのが問題なんですよ。
結局蒼君を巻き込んでる以上、その冒険者はクソ以下ですね」
「言い方ぁ」
でもマナの言い分にもちゃんと理由がある。
研修段階では罠は見かけた場合、回避できるなら回避しろと教わっている。
だがある程度冒険者としての活動が認められると、特定の危険な罠についての詳細を教えらえれる。
突破すると貴重な品だったり、珍しいモンスターが出現する罠についてだ。
桜木さんも言っていたが、オーラを纏ったモンスターは倒すと稀にスキルを得られる。
スキルブックが貴重な為スキルを得られる手段の重要性は誰でも分かるだろう。
そして先日の事故も、そのような罠の存在を知った冒険者が挑んだ結果返り討ちになり、そのままモンスターが別の場所へ・・・という流れだ。
「挑みたがる理由は分からないでもないですよ。スキルの有無は自身の評価に繋がりますし」
「あるだけで高評価なのか?」
「基本はそうですね。でも説明を受けた段階で危険性を何度も言われたと思うんですけどねぇ」
「どこの国でもそのあたりは変わらないんだね。うちでは最近聞かなくなったけれど」
「最近ではそもそも挑むことすら禁止するところも増えてますからね」
「え?禁止とか出来るのか?」
「はい。協会が直接管理している所は無理ですけど」
冒険者協会は国の機関の一つという扱いになっている為容易に禁止出来ないんだとか。
だがそうではないダンジョン・・・企業や個人が管理しているダンジョンではその限りではない。
そもそもそんなダンジョンが何故あるのか。
簡単な話だ。人手が足らないから、委託という形で管理を任せるしかなかったからというありがちな事情だ。
場合によってはそういうダンジョンの方が都合が良いこともあるんだとか。
制限は多いが、その代わりに物資を無償で渡してくれたり。
手に入れた物を全て管理先に売却する代わりに色々な保証が付いたり。
とにかく場所にとって様々だが色々あるらしい。
そういう情報を手に入れて、自分が行くダンジョンを選ぶ能力も優秀な冒険者として必要な能力なんだとか。
「・・・やっぱ面倒くさくない?」
「初期投資が労力な分、お金払わないんだからいいじゃないですか」
「実際君みたいな悩みを持つ人はそういう所に行きがちだからね」
「はぁ」
なんだろう。一気に足が遠のいた気がした。まだ行っても無いのに。