大人たちの苦悩
協会の一室にて、頭を抱える大人三人。
いつものごとく、桜木、佐々木に加えて村田も頭を抱えて何かに悩んでいた。
当然、本日起こった出来事・・・戸村宗次の件について。
「何をどう報告しろと・・・」
「うむ・・・」
「いやぁ。正直今でも信じられないっすけど」
「だが事実だ。実際先ほど納品まで済ませてしまったわけだし」
「頭が痛いとはこのことですね・・・」
戸村宗次が倒した『豊宝竜』
その討伐例は実は今まで無かった。
これは豊宝竜の強さも関係しているが、何より倒す必要がなかったというのが大きい。
姿を隠して近づけば好き放題果実を収穫できる関係上、戦うこと自体が無駄と思われていたのだ。
それにあの巨体故に、人間の攻撃程度では小さな針に刺された程度しか感じないだろうと思われていたのもある。
その豊宝竜が討伐された。たった一人の人間によって。
しかもその人間はその前に特殊個体のモンスターと友誼を結んで力を得ている。
どう報告しても穏便に済まない。
「それにあの戦闘力です。何ですかあれは」
「ああ。そこについては分かるぞ」
「なんですって?」
「彼があの時使っていたのは、恐らく全てアークオリンピアの技だ」
「・・・はぁ?」
「まぁ俺も初めは目を疑ったが」
「ゲームの中の技を、現実で再現したってことっすか?」
「そうだろうな。驚くべき再現度だったが」
『闇の投槍』『インパルスダイブ』『ランソルブブレイド』
これらは『アークオリンピア』に存在しているアーツアビリティの一種。
比較的使いやすい為、使用者が多いのも特徴と言える。
佐々木の予想では、戸村宗次はそのアビリティを魔法を使用して再現したのではないかというのだ。
だがこれには一つ問題がある。
「・・・今まで彼は魔法を持っていなかったはずでは?」
「それこそ彼が言っていただろう。教えてもらったと」
「鎧から教わったというあの話ですか」
「じゃああの鎧はまだ生きてるってことなんすかね?」
「いや。そうとも限らないだろう。単純に意思を持つ装備というのはよくある話だろう?」
「それゲームとかの話・・・ああいや。今もう現実がゲームみたいなもんっすよね」
「そういうことだ」
魔法は本来、マジックブックを使用することで覚える。
そして魔法を覚えたからといって魔法を使いこなせるようになるわけではない。
何度も練習し、魔力の動きを覚え、ようやく切り札となる。
それを飛び越して、いきなり魔法を使うことが出来ないわけではない。
使用者が魔法の才能に溢れていれば確かに可能ではある。
戸村宗次の魔法の才能が素晴らしいものであるというなら、なるほど納得できる話だ。
だが鎧から魔法を教わったとは一体何か。
「正確には魔力の動かし方と魔法の発動方法を本能的に理解しただけなのだろうが」
「あー。まぁ彼ならそっちの方が納得出来ますね。ワイルドですし」
「いやぁ。それはどうなんすかね」
「む?村田は違う意見か」
「俺は本当に鎧が教えた説を提唱しますね!その方が夢があるし!」
「まぁ・・・それはそうだな」
「まぁたとんでもない爆弾ですけどねそれは」
「探索依頼。は、流石に出ないか」
「勘弁してください。特殊個体だけを狙うなんて本当に嫌ですよ私」
特殊個体の出現確率の低さ。その強さ。
まずもって狙って倒しに行くものじゃない。
モンスターが出てくる罠は存在しているが、あれは何度も使える物ではない。
「それにあれだと出てこないでしょう。貴方たち何回やりましたよ」
「五十以上は数えていない」
「俺も同じっすねー」
協会所属の冒険者は、己の能力を高めるための努力を欠かすことが無い。
実力が必要であったというのもそうだが、そもそもそういった行為が好きな者達が多いからだ。
それなりに数のいる協会所属だが、そんな彼らは当然モンスターが出てくる罠を態と踏み込んでいる。
だがその中で、今回出てきたような特殊個体のモンスターは出てこなかった。
特殊個体自体は出てきている。だがそれが人を認め、力を託すようなことは一度として無かった。
「やるならダンジョン内待機か?」
「全国飛び回りですよ間違いなく」
「絶対嫌なんすけど」
「その場合協会やめますね私は」
今の時点でも桜木たちの業務は多岐にわたる。
事務的な面ではかなり楽なのだが、その分実務・・・ダンジョンに実際に赴く回数が多い。
それに加えて一般冒険者達のフォローや研修何かも行っているため、はっきり言って労働環境はブラックに近い。
そのうえで更に面倒な業務が増えるというなら、退職も辞さないというのは無理もないだろう。
このように色々愚痴りながら報告書をまとめる三人。
そんな彼らのいる一室に誰かが入ってきた。
「進捗はどうだ」
「全然ですけど」
「全然だ」
「全然っすね」
「そんなところで口を揃えるな馬鹿ども」
入って来たのはすらっとした背丈の男性だ。
その手には数枚の書類がある。
「隊長こそどうしたんですか?何かありましたか」
「ああ、あの木の買い取り先が決まったぞ」
「なるほど。どこになったんです?」
「大企業全部だ」
「「うわぁ」」
男性は桜木に隊長と呼ばれた。
そう。彼こそが桜木たちのチームの纏め役。
立浪仙波
協会所属の冒険者チーム全体の管理職も兼ねている男であり、
協会最強の冒険者でもある。
彼が持って来た情報は、戸村宗次が倒した豊宝竜の木。
様々な果実のなるあの巨大な樹木の取引先が決定したということだった。
本来ならばこれは手に入れた冒険者。戸村宗次が個人で勝手に決めるべきことなのだが、超貴重ドロップ品と言うことで取り扱いのほとんどを彼が協会に投げたのだ。
個人で扱うには手に余り、スポンサーである七瀬スポーツでも無理。
そうなると冒険者協会に任せるしかないという判断があったからだ。
そしてそれは大正解だった。
かつて果実を収穫するついでに取られた枝一本。
その時は国の研究機関に回されたが、その研究結果でとある効果があると判明していたから余計に大変なことになったのだ。
「魔法効果の増大。つまりはこれで杖が作れるわけだな」
「それ、そんなに見てわかるくらい効果あるんすか?」
「倍になるそうだぞ。最低でもな」
「倍!?」
「それは。どこもかしこも欲しがるでしょうね」
「実際そうなっていた」
冒険者の中でも魔法使用者は多くは無い。
だがいないわけではない。それこそプロ冒険者ともなると数人に一人は魔法を所持している状態だ。
そして世間一般から見た魔法の印象だが、まさに切り札という扱いを受けている。
スポンサー企業によって冒険者が顔を売る際、魔法所持者であるというのが真っ先に出る。
つまり魔法を使える冒険者のスポンサー企業は、それだけ強力な冒険者を抱えているという認識をされているのだ。
その強力な冒険者がさらに強くなったとしたらどうなるか。
有力な冒険者が株式市場に影響を与える今のこの時代でそれがどういう意味をもつか。
もはや考えるまでもない。
だからこそ、各企業はその木を欲しがった。
「一部は例にもれず研究所行きだが、まぁ大体の目ぼしい企業は手を挙げていたな」
「どんだけいきました?」
「全部は見せられないが、とある企業はこれくらいの値段をつけたぞ」
「どれ・・・うっわ!」
「ふむ。まぁそうだろうな」
「一生働かなくて良いですねこれ」
「元から彼は稼いでいる方だったが、これで完全に上がりだな」
協会は冒険者がどれくらい稼いでいるかの凡その額を把握している。
それはダンジョンから手に入ったドロップ品の取引に関しての報告を協会にしなければいけないという決まりがあるからだ。
戸村宗次はその中でもまだ中の中程度の位置にいた。とはいえこれは冒険者歴約三か月では異常なのだが。
それが今回の件で手に入った分で一気にトップに躍り出たようだ。
見せられた書類は取引の一部に過ぎないが、そこから予測される全体額は間違いなく全冒険者の収入の中でも飛びぬけていた。
本来ならば、これ以上稼ぐ必要が無い。
なので冒険者であっても、それを引退して後は悠々と過ごすと思われる。
実際まだ数は少ないが、それなりに稼いで冒険者を引退した者達はいる。
まぁ彼に限っていうなら、それはありえないのだが。
「実際彼は?」
「やる気満々。むしろ今まで以上に殺る気に満ちてますよ」
「だろうな。それは我々にとっては幸運なことだ」
「これでもっとクエストを受けてくれればいいんですけどね」
「無理だろうな。蒼セカンドは強い敵に向かうものなのだ」
「どこ目線なんすか先輩」
「後方腕組みファン目線・・・」
「普通じゃないっすか」
戸村宗次の目的は強くなる事。
そのうえで『アークオリンピア』で最強プレイヤームサシに勝つこと。
なので彼がお金を手に入れたとしてもダンジョンに行くことをやめることはない。
むしろ今まで以上に強敵にのみ狙いを定めることだろう。
それはつまり、強くは無いモンスターはもう狙うことが無いことにもなる。
クエストで要求されるものは必ずしも強いモンスターのドロップ品だけではないので、そこだけは悩みどころではある。
「彼が我々を追い抜くのも近いだろうな」
「いやもうそんなの前から明らかでしたよ・・・」
「そうですな。実際我々が二十層に辿り着いたのは一年以上経ってからだ」
「それが三か月?どんだけっすか」
「更に今回強化されたと。フッ。もう彼をこちらに呼び込んだ方が良いのではないか?」
「無理でしょうね」「無理でしょうな」「無理じゃないっすか」
「む?どうしてだ?」
立浪の彼を勧誘するという言葉に、三人ともそろってそれを否定した。
思わず顔を顰めて問い返してしまうが、何故か三人も顔を顰めている。
何か答えにくいわけでも・・・
「嫌ですよあの爆弾が傍にいるの」
「それに彼が彼女から離れるとは思えん」
「彼女?」
「あの子っすよ。あの鞄少女」
「ああ。日坂巡か。では彼女事 (ごと)抱えるのは?」
「そしたら日坂さん、ダンジョンに行けますか?」
「・・・なるほどな」
戸村宗次を協会所属にするうえで最大の障害は何か。
自由が減る事?いや違う。今も学校に通いながらダンジョンに潜っている以上、むしろダンジョンにいる時間が増えるのは歓迎すべきことだ。
ドロップ品の売却時の取り分が減る事?ありえない。彼は既に十分に稼いでいる。
では何なのか。
答えはそう、日坂巡だ。
「何というか。彼、結構独占欲が強いというかなんというか」
「まさか一度狙われただけでぶちギレる何て思わないっすよねぇ」
「前もその兆候はあったがな。何ならあの時の方がひどかったが」
「鎧蜘蛛の時ですね。あれは私も寒気がしましたし」
「え、あれでまだマジギレじゃないんすか?」
「本気だともっと恐ろしいことになりますよ」
「うっわぁ」
これは本人にもしっかりと自覚があることだ。
戸村宗次は日坂巡に執着している。
自分自身が刻み付けた約束も当然影響している。
だがそれを除いても、彼が彼女に対して持つ感情は異常と言える。
その一端を、彼らは既に何度か目の当たりにしている。
だからこそ協会所属には出来ないと言っている。
日坂巡はそのスキルの重要性から、協会所属になった場合自由にダンジョンに向かうことが出来なくなるのが確定しているからだ。
「ちなみにだが、彼女がもし傷ついた場合彼はどうなる」
「・・・考えたくもないんですが」
「豊宝竜を倒した一撃が外の世界で振るわれることになるでしょうな」
「最悪なんすけど・・・ん?待ってほしいんすけど」
「どうかしたか?」
「今、飛べますよね?」
「「「・・・」」」
一応言っておくと、冒険者の中で空を自由に動けるのは現状だと戸村宗次だけである。
それはつまり・・・
「・・・彼には絶対に敵対出来ないな」
「バカやりそうなところ今のうちに潰した方が良いのでは?」
「その気になった場合容赦なく人を殺すタイプだろうからな」
「情報の隠蔽・・・それに加えて余計なことをさせないようにする必要があるな」
「頼みますよ隊長。いや、マジで」
「流石に空を行かれると止められん」
「最強の座ってもう渡した方が良いのでは?」
「初めからこだわりなど無いがな」
現時点で、空を翔ける戸村宗次を止めることは出来ない。
それが冒険者協会の中でもトップに位置する実力者たちが出した結論であった。
次の話で新章です




