巨大モンスター
「すみませんお待たせしました」
「と、戸村君?何か鎧が体の中に入った様に見えたけど?」
「ん?あ、はい入りました!!」
「元気いっぱいだね!?」
「めっちゃ元気!!」
多分あいつの力が俺に入ったことで回復?したんだと思う。
回復と言うかテンション上がって気にならなくなっただけな気もするけど。
「とりあえず体に異常はなさそうですけど」
「帰ったら病院!!」
「え、めんどう」
「・・・戸村君?」
思いっきり怒られた・・・
「・・・なんすかあれ」
「さぁ」
「分からん」
「いや本当に気にしてます??」
戸村と日坂が話している。いや、日坂に一方的に怒られているのを見ながら、何が起きたかを大人の三人は考えていた。
「ドロップ装備。という扱いでいいのか?」
「どうなんでしょうね。まさかモンスターそのものが望んで鎧になるなんて」
「あ、やっぱりそう見えたんですね」
「ええ。何故かは分かりません。ですが恐らく、誰が見てもそう判断するでしょう」
彼らが持つスキルは、そういったものを判別するもの力は無い。
だが不思議と、その現象があのモンスター望んで引き起こしたものだと。心からそう思えた。
「貴方たちはどうですか?」
「・・・え、あ。すみません。もう一度お願いできますか?」
「まぁ困惑するでしょうね」
桜木が遠島達に話しかけるが、彼女達は全員が唖然とした表情を隠そうともしなかった。
無理もない。
ダンジョンがいくら不思議な空間で、ファンタジーそのものだとは言え。
まさかあのようなものを見ることになるとは。
それも人類の敵と見做されているモンスターが、望んで人間の力になろうとするとは。
あまりの光景に、理解が追いついていない。
これは先ほどのロデオを見たときとは比べ物にならない程の衝撃だった。
彼女達が元に戻るに、実に十分ほどの時間を擁した。
それを確認し、再度桜木は同じことを彼女達に質問する。
いや。それは質問ではなくただの確認だった。
「えっと。何か、あのモンスターが・・・トムラッチの傍にいたがった・・・的な?」
「私も、そう見えました・・・」
「でしょうね。遠島さんもそうですか?」
「は、はい。でも、そんなことありえるんですか?」
モンスターは人間に襲い掛かる物。敵意をもって当たり前の存在。
それはもはや小学生すら知っている常識だ。
そのモンスターが、人の力となった。
人が奪ったのではない。モンスターがそれを望んだからこそ力となった。
今までにない現象。ありえないことが起きた。
遠島達が衝撃を受けたのはそれが理由だ。
ではなぜ桜木たちがそうではなかったのか。
「そうですね。あり得ると言えばあり得ると思いますよ」
「え・・・?」
「同じ現象を見たことは無いですが、起きないとは言い切れないので」
桜木たちは、年単位で彼女達より先輩だ。
冒険者としてそれだけの経験と実績を積んできている。
だからこそ、ダンジョンでは何が起きても不思議ではないということをしっかりと理解している。
例えばモンスターと人が、友情の様な物を結ぼうとも。
それは決して、ありえないことではないのだと。
「それに、我々は似たようなものを見たことがあるので」
「なっ!?」
「そんな情報どこにも・・・」
「公開はされてませんよ。まぁ出来るわけないのですが」
モンスターを殺すことで、ダンジョン内から資源を手に入れる行為に関して。
ここについては実は冒険者制度が出来る前の段階から何度も議論されていたことだ。
結局、倒すと体が消える事、人間に対して敵意以外の感情を向けてこないのがほとんどであることから最終的には問題視されなくなった。
だがもし、そのモンスターと共存が出来るのなら?
「形や実態はどうあれ。喧しいのが出るでしょうしね。貴方たちも、今日のあれは決して人に話してはいけませんよ」
「・・・」
「まぁ後で誓約書とか書かされるとは思いますけど」
それだけ衝撃的な出来事であった。
少なくとも桜木の脳内では、協会長が頭を抱えている姿を既にやけにリアルに浮かんでいる。
同時に、かつて自分が考えていた事は間違いではなかったと確信した。
やはり彼は、台風の目なのだと。
「さて、そろそろ戻りましょうか。日坂さんも、お説教なら上で」
「あ、はーい!帰ったら続きね」
「ドウシテ」
多分結果的には無傷なんだから良いでしょくらいに思ってるんだろうなー戸村さん。と完全に彼の内心を想像する桜木。
実際戸村はこの時そう思っていたのでそれは大正解であった。
でも今日坂が怒っているのは、どちらかと言えば戦いに関することじゃないので意味は無い。
普通あんなことがあったら病院には行きますよ普通は。
佐々木と村田にも声を掛け、元気そうだが一応激しい戦闘後の戸村を中心にして階段の方へと歩を進める。
未だ遠島たちは現状を理解しきっていないのか、それともモンスターの力を取り込んだように見える戸村を恐れているのか。
奇妙に空いた空間が戸村の周りに出来てはいるが、それは桜木の知ったことではない。
そもそも彼は初めから、そういう扱いには慣れていると分かっていたからだ。
「あ、何が出ても戦ってはダメですからね戸村さん?」
「えぇー・・・あの、本当にごめんなさい」
桜木の言葉に一瞬抗議しようとした戸村だが、服の裾を掴んで今にも泣きだしそうな日坂が見えたのですぐに引き下がった。
それを見て日坂は笑顔になった。
あ、そこまではっきりと上下関係があるんですね。
流石に桜木も、それを口に出さないだけの優しさはあった。
「では村田から前で「あ」村田?何かありましたか?」
「いや。ちょっと・・・不味いかもっす」
「は?・・・いやこれはもしや」
「む?何か・・・ああ」
「え?何かあったんですか?」
「いや、この階層のモンスターが出てきてしまったので」
「あー。なるほど。でも階段はここですし、すぐに帰れば」
「それはそうなんですけど・・・二人で行けます?」
「やってみせよう」
「うっへー。かなーりきついっすよね?」
では今度こそ戻ろうと、階段に足を掛けたその時。
村田のスキルがあるモンスターの存在を捉えた。
その後桜木のスキルでも同じくモンスターを検知。佐々木も気配から存在に気がついた。
日坂達レベルの低いメンツは何が起きているか気が付いていなかったが、ただモンスターが出てきただけと聞いてほっとした。
既に階段には辿り着いているため、逃げるだけなら簡単だからだ。
だが佐々木と村田はここに残るらしい。それはなぜか。
「ここのモンスターについては?」
「知ってますけど・・・え、もしかして?」
「はい。レアなので収穫します」
「えぇ!?」
奥多摩食物ダンジョン二十層。
そこに出現する通常モンスターとは。
「あの?どんなモンスターなのですか?」
「豊宝竜というドラゴンです」
「ド、ドラゴン!?」
「ここそんなの出てくるんすか・・・へぇ」
「戸村君ステイ!」
「くぅん」
【豊宝竜】
食物ダンジョンに出現するドラゴンモンスター。
大きな木を背負った巨大な竜で、非常に動きが遅い。
もちろんドラゴンだけあって強大な力を持っているが、何を成すにしても遅いし鈍い。
背中に人間が乗ったところで一切気にせず寝に入るレベルだ。
だが一度暴れだせば並大抵の人間では太刀打ちできない程の強さを見せる。
「ですがあれの最大の特徴は木の部分です」
「木ですか?」
「収穫って言ってたから、もしかして果物とか成ってたり・・・?」
「正解です松来さん」
だが豊宝竜の強さは基本的に話題にはならない。
何せこっそりと視界に入らない様に登れば襲われないのだから。
話題になるのは専ら背負った木になる果実。
様々な果実がなる特殊な木で、そのどれもが非常に美味で高額で取引される。
さらに美味しいだけではなく、この果実にはある特殊な効果があるのだ。
「単純に言うと、食べると健康になります」
「は、はい?」
「一口食べただけで軽い病気なら治せる程です」
もちろんこの果実に薬の様な効果があるわけではない。
ただ食べた者の体調を整えるという謎の効能がある。
その効能が強すぎる為、ある程度の病気ならそれだけで治せてしまうのだ。
今医学界でポーション類よりはるかに注目を浴びているダンジョン資源だと言える。
実際この果実の買取の凡そ九割は医学関係の企業や病院になっている。
「ですが豊宝竜は出現数が少く、しかも姿を消すのが早いんです。そのせいでいつもあの果実は品薄状態でして」
「あー。だからお二人は取りに行くと」
「はい。幸い皆さんを帰らせるだけなら戸村さんだけでもできますし」
「いえい」
「ですが事情が事情ですので今回は私も戻ります。二人とも日坂さんの鞄を持っていますから収穫量は今までで最大になるでしょうし」
「任せておけ」
「疲れるんすよねあれ・・・」
「まぁ戦いではなく木登りですからね」
村田が面倒なそぶりを見せているのは、この果実を手に入れる為に戦うわけではないからだ。
強いモンスターとの戦いなら、村田だってそれなりにやる気を出すし真面目にやる。弱音なんてもってのほか。
だがやることがただの木登りとなれば、まぁ気合が乗らないのも理解できるというものだ。
「とにかく。後は任せましたよ」
「わかった。まぁ隠れるのはお前の方が良いと思うが」
「報告をしたいというなら任せますけど?」
「俺の居場所はダンジョンだ!!」
「先輩ダサいっすよー」
佐々木が逃げる様に豊宝竜に向かうと、それを村田が追いかける。
それを見て一つため息をつく桜木。
そのため息には色々な感情がこもっていたことを、この場にいる本人以外が気が付いていた。
「では、戻りましょうか」
「「はーい!」」「はい」
「ねぇ戸村。本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって、全然ぴんぴんと・・・・遠島!!」
「え?」
戸村が遠島の体を引っ張って押し倒す。
突然の事態に遠島の頭は受け入れることをまた拒否するが、今度はそれに浸る暇は無かった。
何かが巨大な物が、こちらに飛んできている。
それを遠島が見た次の瞬間。彼らに巨大な物が襲い掛かる。
「キャァァァァァ!!!」
遠島の悲鳴が響き渡る。
その後飛んで来た物体。巨大な岩によって巻き上がった土煙で周囲が完全に覆われる。
衝撃や音でもはや事態を把握できない。
遠くからそれを見ていた佐々木たちも、それを見て思わず顔が青くなる。
まだ自分たちが見つかっていない。だが何故か豊宝竜が攻撃を行ってきたことも含めて。
だが土煙が晴れると、青くなった顔がまた別の意味で青くなることとなった。
土煙の中から、黒く巨大な壁の様な物が現れる。
「あ・・・っぶね!?」
「と、とむら・・・」
「遠島!怪我無いよな?」
「う、うん」
「桜木さんたちも大丈夫っすか!」
「大丈夫です。しかしこれは」
「俺の。ああいや。あいつの鎧ですよ」
土煙が晴れると、戸村は黒い鎧を纏っていた。
先ほどの馬のモンスターが彼に与えた鎧だ。
その能力を使い、突然の攻撃から全員を守ったのだ。
「ふぅ。マジで良い鎧だぜブラザー」
「まさかこちらを攻撃してくるなんて。すぐに階段を上がりましょう。その壁はまだ維持できますか?」
「もちろんですよ。ああただ、上がるのは皆さんだけにしてください」
「・・・それを展開中は動けない?」
「いやそういうんじゃないんですけど・・・」
「??」
この時、遠島だけが戸村の目をしっかりと見れていた。
戸村が今誰を見ていたか。
そしてその先の感情を理解してしまった。
「ただ・・・チョット、ブッコロシテキマス」
「!!」
今まさに命の危機にあったとは思えない程冷静だった戸村。
それが一瞬で沸騰、理性が蒸発した結果、そこには殺意しかなかった。
それを近くで見てしまった遠島。彼女はそれを見て・・・
「戸村君!!」
「すぐ戻るんでー!!」
日坂の言葉でも止まらず豊宝竜へと戸村が跳ぶ。
空中を翔ける様に力強い一歩を踏み出すと、そのまま見たことのない速度で遠くまで行ってしまった。
日坂はこの時点で、何故彼がキレたかは分かっている。
だからこそ自分では止められないことも分かっていた。
「ど、どうしよう・・・戸村君、またあの状態に・・・!!」
「まさかこうなるとは・・・ああいや。ここにいるわけには。皆さんすぐに離脱しますよ!」
「は、はい」
「わ、分かりました!」
「・・・」
「遠島さん早く!」
遠島は、飛び去った彼が見えなくなってもその方向を見ていた。
まるで懐かしい物を見たかのような表情で。
「・・・やっぱりあの時のって」
「真昼っち!!」
「急ぎますよ!!」
「え?ってえぇ!?。ちょちょっと!自分で動けるって!」
「動かなかった人が言うことですか!!」
動かない彼女を見て、松来と小鳥遊の二人が遠島を横から抱える事で強引に連れて行く。
もちろん遠島は抵抗するが、小鳥遊の言葉に思わず黙り込む。
階段を抱えられながら上がるとすぐに二十層が見えなくなる。
その最後まで、遠島は戸村が飛び去った方を見つめていた。




