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電脳狂戦士 現代ダンジョンに挑む  作者: saikasyuu
電脳狂戦士 冒険者になる
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戦い終えて

今回は別のキャラの視点があります。

桜木は焦っていた。

ダンジョン出現時よりダンジョンに潜り、協会の中でもトップクラスの実力を持っている彼女。

その彼女にとって、現れた鬼はそこまで苦戦する敵では無かった。


問題は現れた三体の鬼の内、一体が自分を無視して逃がした研修生たちを追いかけたことだ。

最悪な事に残った鬼の片方が【再生】のスキル持ちだった為に仕留めるのに時間が掛かった。

鬼の雄たけびが聞こえて既に時間が経ってしまっている。


これはモンスターの接近に気が付くのが遅れた自分の責任だと、

自らを責めながらダンジョン内を駆ける。

そして衝撃の光景を目撃した。


「ハッハッハッハッハッハ!!!」

「これは・・・」


研修生の中で、最も落ち着いていた子。

本人がダンジョンに興味がない、無関心さ故の強さを持っていた戸村宗次。

その彼が、血塗れでありながら嗤っている。

周囲に鬼はいない。この状況が示す事実を、桜木は一瞬受け入れる事が出来なかった。


「まさか・・・倒したの?あの子が?」


鬼の強さは桜木にとっては強くはないレベル。

だが今日研修を受けたばかりの冒険者から見れば、出会っただけで死を確信する程のレベル差がある。

勝つことなど不可能なはずなのだ。


だが現実として、彼は鬼を殺している。


奥を見ると、腰を抜かしながら彼を見ている他の研修生たちの姿も見えた。

ただ鬼に打ち勝っただけではないのか。


周囲の様子を確認する。

血の散らばり方から、恐らく戦闘時間は短い。

それも狙われたのは一人だけらしい。


つまり彼は、鬼が近づいてきているのを知り一人で足止めを試みたのか。

だが途中で何かがあり、鬼を殺すに至った。

彼が手にした斧。あれは逃がしてしまった鬼が持っていた物だ。

レンタル品の剣に鬼を殺すだけの性能は無い。ならばあれを戦闘中に奪ったと。


「本当に素人・・・?」


冒険者になる為の審査は世間が思っているより厳しい。

審査の際に怪しげな経歴があると判断された場合その時点で弾かれる。

実際にどうかではなく、怪しまれた時点でアウトなのだ。


その為それを突破している研修生たちは何一つ後ろ暗い事が無いと証明されている人達になる。

だが今の光景を見て、本当に何も無いと言える人間がどれだけいるのだろうか。


そこで思考は打ち切られた。

戸村の声が聞こえなくなった事に気が付いたのだ。


「戸村さん!」

「・・・あ?・・・ああ。桜木さんか」

「何があったかは・・・後で聞きますが、動けますか?」

「まぁ何とか。めっちゃ痛いですけど」


顔を見ると脂汗をかいている。負傷しているらしい。


幸い歩くのには問題無いらしい。

なら問題は彼ではなく残りの三人か。


改めてそちらを見る。

その目には恐怖が映っていた。鬼に対する恐怖ではなく、目の前の一人の人間に対する恐怖が。




















無事にダンジョンから帰還。その後すぐに検査されて病院行き・・・にはならなかった。


「これを飲んでください」

「これが噂のポーションですか」

「研修で使うのは前代未聞ですよ」

「嬉しくないですねぇ」


やっぱり壁に叩きつけられた時に骨をやっていたらしい。

帰る途中で痛みが強くなったが何とか耐えた。


そしてダンジョンから出るとすぐに俺だけ別室へ案内される。

ポーションはその途中で渡された。


グイっと一気飲みすると。


「・・・メロンジュース」

「意外でしょう?」


何か中途半端な味がした。美味しくも無いけど不味くも無い。逆に嫌だろこれ。


だが効果は本物だ。

飲んだ瞬間から痛みが引いてきて、ものの数秒でなくなった。

触ってみても違和感が無い。

ポーションのすごさを実感した。どうもこれで最低レベルの物らしい。


「ポーション自体の入手が難しいですからね」

「え、難しいんですか?」

「はい。基本的に薬草を手に入れ調合しないといけないので」


その為の道具はそこそこあるそうだが、作れる人間がいないらしい。

正確には製作時に効果を上げるスキルを持っている人間が少ないんだとか。

スキルの有無で効果には大きな差が生まれる為、ポーション製作の為のスキルを持っている人間は好待遇で囲われるんだとか。


話が終わったあたりで案内された部屋に着いた。

医務室の様にも見えるが・・・


「検査とかするんです?」

「いえ。丁度空いてるのがここしかなかったので」


特に何も無かった・・・


促されて椅子に座ると、桜木さんもテーブルを挟んで体面(対面)に座る。

そこで、ようやく桜木さんと別れた後に何があったかの事情を聞かれた。


語ることは多くは無い。

鬼が近づいて、逃げ切れない事を理解した。

だから俺が残って足止めしようと思ったら三人が逃げるのが遅れた。

鬼に追いつかれたのでヘイトを買うべく一人で突撃した。

そして殺した。それだけだ。


だがその殺したの部分が問題らしい。


「レベル差があるモンスターとの戦闘では、体が上手く動かせないと言う話を座学で聞いてますね?」

「覚えてますよ。あんまり実感できませんでしたけど」

「実はあれ、正確な情報じゃ無いんです」

「はい?」

「実際に動けなくなるのではなく、精神的に威圧されてるだけなんです」


レベル差が大きいモンスターを相対した時、本能的に格の違いを感じ取って体が強張る。

それが結果的に戦闘行動に支障を与える。ようするに気持ちの問題。

だから動こうと思えば動ける。

強く心を持ち、怯えなければレベル差があろうと戦えるのだ。

俺がやったのはそれらしい。


「じゃあ倒せてもおかしくないんじゃ?」

「レベルが上のモンスターは、その分能力が高くなるんですよ?」

「はぁ」

「殆ど通常の人間と変わらない初期レベルで倒せる敵じゃ無いんです。あの鬼は」

「はぁ」


何とも気の抜けた返事しか返せない。

だってそう言われても倒せてしまったのだから。

鬼の動きは目で追えたし、それ以前に動きの予測も出来た。

だから俺の方が弱くても問題なく攻撃は躱せた。


それを伝えると、桜木さんは何かを考え込むように指を顎に当てる。

暫くそのまま止まると、ふと思い出したかのように


「戸村さんは、ゲームをやっていると言っていましたね」

「アークオリンピアですか?結構やってますけど」

「ランクはいくつですか?」

「マスターっす」

「マスター・・・レートの程は」

「正確なのは覚えてないですけど、一応今は二位ですね」


ゲーム全体で二番目に強いことを聞くと、桜木さんの目が大きく開いた。


「・・・もしかして、【狂戦士】の」

「あー・・・そうですね。それで間違ってないです」

「成程・・・」


冒険者でアークオリンピアのプレイヤーは結構強い的な事を言ってたっけそういえば。

多分同僚とかにもやってる人がいるんだろう。

そこで色々聞いてたのかな。まさか俺の二つ名まで知ってるとは思わなかったけど。


「そうか。それなら確かに・・・」


ぶつぶつと桜木さんが呟いているが、ために聞こえてくる言葉は何かを理解するために口に出しているように聞こえる。

結構長い事考え込んでいる。

何か暇だな・・・あ、そういえば。


冒険者カードを取り出してレベルを確認する。

あんなモンスターを倒したんだから、それなりにレベルも上がってることだろう。



戸村宗次 Lv5


所持スキル

【身体強化】



「何かスキル増えてる?」

「え?スキルですか?」

「はい。これなんですけど」


カードを見せると、一瞬固まってある事を確認された。


「・・・倒した鬼って、変なオーラの様な物を纏ってませんでした?」

「確か・・・赤いの纏ってましたね」

「レア個体ですね。倒すと稀にですがスキルを獲得出来る特殊なモンスターです」


へぇ。そんなのいるんだ。

だけど座学中にそんなモンスターの存在は聞いてない。


「レア個体は通常の個体より強いんです。本来ならもっと下に行かないと出現しません。

 なので存在を教えるのは冒険者になってから、ある程度の階層まで攻略出来てから。という決まりなんです」

「じゃあ俺って運が良いんですね」

「・・・良いと思うのですか?」

「え?まぁそうですね。俺が殺せる程度のモンスターで、それがレアだったら幸運でしょう?」


実際そのお陰でスキルが手に入ったわけだし。

しかも今回のは協会側の不手際ってことで貰ったポーションもタダ。

つまり俺はノーコストで莫大な利益を得たのと一緒だ。


「ダンジョンに潜らないとあまり活かす機会は無いと思いますが」

「・・・あー」


そういえばそうか。そんな事も言ったなぁ。

でも今はちょっと違う。少し考えてることがある。

それを実行に移す為には、確信が必要だ。


「質問なんですけど。良いですか?」

「え?はい。構いませんが」

「下に行けば、もっと強いやついます??」

「ッ・・・ええ。あの鬼より手強いのは多くいます」

「へぇ」


良いね。ダンジョンなんて所詮はって考えてたけど興味が湧いてきた。




















桜木は目の前の少年が実に危ういと分かっていた。

強いモンスターがいるか聞いた時の目など、自分ですら背筋に嫌な汗が流れる程だ。

彼の事を考えるのなら、これ以上ダンジョンに潜らせるべきではないと確信していた。


だがそれは出来ない。促す事すら今の桜木の立場では難しい。


今は世界中でダンジョン産の品々の需要が高い。

何でも売りに出せば、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで売れていく。

さらに、ダンジョンは国によって出現数に偏りがある。

国民数に対してダンジョンの数が少ない国は多い。

他の国のダンジョンから得られた品を求めて交渉を仕掛けてくる事も多々ある。


その中で、日本は数少ない国民数に対してダンジョン数が多い国だ。

その為多くの国は日本に対してダンジョンの譲渡を訴えてきているのだ。

管理しきれない。持て余しているダンジョンを寄こせと。

当然そんな要求を飲むわけがない。だからこそ、冒険者の数を増やすのは最優先事項であった。


だから研修まで受けた人は可能な限り冒険者として活動することを求める。

それも一人で、しかも研修を受けたばかりの素人が、本来10層より下に出現するはずの鬼のレア個体を倒せる才能の持ち主を逃がすことはしないだろう。

今回の件は既に上層部に話が回っている。

桜木も何かしらの罰則は受けるだろうが、恐らくほぼ何も無いのと同じ程度の罰だろう。

それだけ、戸村宗次の価値が高い。それを研修で監督していた自分自身も評価される程に。


「もし、ダンジョンに潜るとして」

「??」

「あなたは、一体何を求めてダンジョンへ向かいますか?」

「え?・・・そうですね」


だから最低限、確かめたかった。

彼が本当に冒険者として嫌がるなら、桜木は自身の進退を賭けてでも何とかして見せると覚悟を決めて。


だがその覚悟は無駄になった。


「戦いたいですね。強くなりたいですし」

「強く・・・ですか?」

「はい!恥ずかしい話なんですけど、ゲームで中々勝てない奴がいるんですよ」

「勝てない・・・!!」


一つ思い出した。

アークオリンピアの話を同僚から聞いた時、語っていたのは主に二人のプレイヤーについてだったことを。

一人は目の前にいる戸村宗次。【狂戦士】と呼ばれる程の凶暴で暴力を押し付ける戦い方には多くのファンがいると。

その強みは本能的な直観。避けるべき攻撃を避け、フェイントには決して引っかからない。

何よりアビリティの殆どを身体強化に割り振る事で可能とする能力的なマウント。

考えるより先に体が動く為、常人では彼に追いつくことが出来ない。

話を聞いた際、なるほどそれは純粋に強いだろうと思っていた。



そしてもう一人。その狂戦士を圧倒するプレイヤーがいる事も聞いていた。

刀一本。着流しを纏うその姿は一見強そうには見えない。

だがそのプレイヤーは最強なのだ。無双と呼ばれる程に。

身体能力では劣りながらも、絶対的な剣術で暴力を切り伏せる姿にあこがれを抱く者は多い。


「その相手に、勝ちたいと?」

「ええ。何だかんだ二年程まともに勝ててないんで」

「聞いていた話だと、時折勝っているそうですけど」

「あー・・・それ、ちょっと違うんですよね」

「え?」

「あいつ、本当の本気で戦ったことあんまり無いんですよね」


桜木が聞かされていた戦績は、主にゲーム内での大会での戦績である。

なので公式の記録である事は間違いない。

そして互いに本気である事も疑いようがない。


だがそれでも、戸村は彼が本気ではないと言う。


「お知り合いで?」

「実際に会った事は無いですけど。まぁあんだけ戦ったら気が付きますよ

 だからこそ、ぶちのめしたいなって」


それを聞いた瞬間に、決して彼が止まらない事を感じ取った。


そして恐らく、この先で彼が大きな台風の目になるであろうことも。



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こんな序盤で協会のトップクラスの実力者って言って大丈夫なのかな 協会にまともな戦力なさそうに見える
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