引っ越しとお仕事
呼び出しから二週間後
「お邪魔しますー」
「どうぞどうぞー」
最近何か相談事がある時は大体うちに日坂さんを招いている。
最初は日坂さんも、何度もお邪魔するなんて・・・みたいな感じだったけど、結局他に場所も無いんで諦めたらしい。
日坂さんの家だとちょっとその・・・防音性がね?
盗み聞きするような人が周りにいるとは言い切らないけど、そこはきちんとしておきたい。
特に今回の様な話の場合、あまり外で吹聴するようなことでもないし。
「今日の議題は二つですね」
「一個は私ので、もう一個が戸村君のだよね?」
「そうっすね。まぁ俺のってより、俺に回ってきた依頼の話ですけど」
そちらの方が時間がかかると思うから、そっちは後回しにすることに。
先に日坂さんの方の話を聞く。
こちらは予め聞いてたし、大体把握していることなんだが。
「じゃあやっぱり引っ越しするんですね」
「うん。戸村君と一緒のチームっていうのと、私のスキル的に・・・ね?」
議題その一。日坂さん一家のお引越しの話だ。
今までお金が無いというどうしようもない理由であそこに住んでいた日坂さん一家。
お母さんの体の事もあり、中々そこから動くことが出来なかった。
だけどその問題が凡そ解決し、また悪化してもどうにかなるだけのお金は手に入れた。
さらに、それだけ冒険者として稼ぐことが出来るという保証を冒険者協会がしてくれたので、色々保険が効くようになったのだ。
さらにさらに、何と俺のスポンサーこと七瀬スポーツが彼女に声を掛けたのだ。
もちろん日坂さんはそれを快諾。こうして俺と同じくプロ冒険者となったのでした。
「その節は本当にありがとうございましたー」
「いえいえこちらこそー」
深々と頭を下げる日坂さんにつられて俺も何故か下げてしまう。
顔を上げて見合って、つい二人して笑ってしまった。
「ふふ。何で戸村君まで」
「いやぁ。何となく?」
本当に何となくなんだよなぁ。
話を戻して。
日坂さん一家の家計事情が一気に改善した。
アークに集中的にいた期間も全く潜ってなかったわけじゃないので全く問題なし。
ならばあそこに住み続ける理由も無いよねっていう。
そしてもう一つ、日坂さん自身の評価でそれを推奨された面がある。
「まさか今更私のスキルが本当に永続だったなんてね」
「結構色々入るようになりましたからね」
日坂さんが初めから持っていたスキル『鞄拡大』
身に着けた鞄の容量を増やすという単純かつとんでもないスキル。
現在日坂さんはダンジョンに潜るための三つの鞄を身に着けている。
一つは背負うタイプの山登りでも使われるような大きなリュック。七瀬スポーツからの支給品だ。
残り二つは腰に巻くタイプのポーチ。これも鞄扱いで、スキルの範囲内。
この『鞄拡大』というスキルは、鞄を身に着けている間スキルが発動する特殊スキル。
つまり身に着けていれば身に着けているほど勝手にスキルの効果が高くなっていく。
日坂さんはなんと、そのスキルを強くするためにダンジョン関係なしに鞄を身につける様にしていたのだ。
お陰でものすごい速度で容量が増加。重量が消えるのも相まって、とんでもない量の物資を一人で運べるようになった。
でもこれだけだとただ一人だけが色々運べるだけで、便利ではあるが協会がバックにつくレベルではない。
同じスキル持ちはいないが、似たようなことを別のスキルでやれる人は一応いるのだ。
ではなぜ最近になった評価が上がったか。
それは、日坂さんのスキルの効果を受けた鞄にあった。
「でも日坂さんから離れてもずっと容量増えたままはヤバく無いっすかね」
「私もそう思う」
日坂さんが鞄を身に着け、容量が増えた鞄。
前までは体から離れると効果が消えて一気に小さくなってしまっていた。
中身がある状態だとそれが一気に外に出てくる。あれは大変だった・・・
そんな感じに、体から離す時には気を使わなければいけなかった『鞄拡大』
それがつい先日、まさかの進化を遂げた。
体から離れたはずの鞄が、効果を受けたままだったのだ。
その後あーだこーだあって、結局鞄は協会に預けた。
結果、鞄がまだ効果を保ち続けていた事を伝えられる。
そしてその際に改めて日坂さん印のバッグの買取価格を伝えられたのだが・・・
「まさか鞄一つでお金持ちになるとは」
「本当に世の中何があるかわからないね・・・」
日坂さん印の鞄。例えば日坂さんが今使っているサイズなら一個何百万の単位で協会が買い取りをすることになった。
値段はスキルの効果量次第。つまり拡大がどれほど行われたかで変動する。
同時に日坂さんという存在を守るために、セキュリティの良いところに住んでほしいという要請もあった。
長々と語ったが、日坂さん一家の引っ越し理由はこんなところだ。
「それで?どこ引っ越すんです?」
「大体はお母さんとも相談したんだけど、ここら辺がいいかなって」
「えーっと・・・めちゃくちゃ近所っすね」
「協会の人も、戸村君が近くにいるって聞いたら滅茶苦茶勧めてきたんだよね」
何と引っ越し先の候補はうちから徒歩三分。
俺の部屋からも見える高層マンションの一室。
最近できたばかりのマンションで、確か芸能人もいるとかいないとか一時期噂になっていた。
お値段はまぁ・・・一室でこんなに掛かるのかと思ってしまったくらいの額だ。
それでも今の日坂さんなら全然払えてしまうのだから驚きだ。
「渡された鞄ニ十個くらい全部売ったからね!」
「恐ろしすぎません??」
『鞄拡大』は持った瞬間に一気に最大サイズまで大きくなるわけではない。
ゆっくりとゆっくりと大きくなり、最大になるまで大体一時間くらい。
昔はこの時間ももっと掛かってたから、その点でもスキルは強くなっているのがわかる。
引っ越しを決めたとき、日坂さんは協会にある要請をした。
大きなカバンあるだけ貰えれば大きくするので、適正価格で買い取って欲しいと。
この話を聞いたトップの人の動きは速かった。物理的に早かった。
桜木さん曰くこの人も地味にダンジョンに潜ってるらしい。
とにかく協会中の鞄が集められ、それらを日坂さんが持ち帰って一日中身に着けて拡大。
それらを協会がまとめて買い上げることで大金が手に入ったのだ。
なのでどこに引っ越そうが一括でOK。
日坂さん一家的にもいざという時の貯蓄が減らないし、協会的にも冒険者たちが涙ながらに欲しがるであろう鞄がある程度手に入ったしでウィンウィンだった。
「でもここだと弟君たち学校変わっちゃいません?」
「そうなんだけど、そこはまぁ別に良いって」
「え?そうなんですか。意外ですね。あの年齢だと」
「こっちの学校にも仲が良い子いるんだって、サッカーしてたらいつの間にかって」
確かにこの区域の小学校と隣の区域の小学校は距離が近い。
もうちょっと距離取れなかったのかと思うくらいには。
でもそのお陰で、弟君達が寂しがらないってんならいいか。むしろよくやった。
妹ちゃんの方は千尋に会いやすくなるのが嬉しかったらしくそちらも問題は無かったらしい。
「まぁお母さんはちょっと抵抗してたけど」
「抵抗?」
「いきなり住む環境が変わりすぎるって。主にお金的な意味で」
「あー」
そこは・・・うん。慣れてもらうしかないかな。
「私の方はこんな感じかな・・・あ、ごめんもう一個だけあった」
「ん?なんです?」
「戸村君ってお部屋に何かあったら嬉しい物ってある?」
「はい?部屋にですか?そうですねー」
俺の部屋を見渡す。別に何の変哲もない普通の部屋だ。
しいて言うならばちっさい冷蔵庫があるくらいか?
ベッドなんかも別に普通のベッドだし。
「特にないんじゃないですか?冷蔵庫あれば飲み物とか入れられて便利だなーくらいで」
「わかった。じゃあ置いておくね」
「はい・・・うん??」
何かおかしい気もするけど、多分気のせいだな。
「じゃあ次の俺の話なんですけど」
「なんか依頼が来たんだっけ?」
「そうです。それも協会経由で」
「珍しいんだっけ?」
「そうですね。基本は個人と企業間ですし。俺達の場合七瀬スポーツ経由で来るのが普通なんで」
冒険者としてダンジョンで活動する上で絶対に外すことが出来ない物がある。
それは個人や企業から、冒険者に対しての仕事の依頼。
『クエスト』なんて呼ばれ方をしている、一種の業務依頼の事だ。
俺達の場合、七瀬スポーツがスポンサーにつき、他にも七瀬スポーツと協力している企業もスポンサーとしているような状態だ。
なので基本的にはこうしたクエストはその企業のいずれかから来ることになる。
例えば食品加工を行う企業なら、新しい商品の為にダンジョン内で手に入る食材を持ってくるように依頼したりする。
これがあるからこそ、多くの企業は優秀な冒険者を求める。
何故か俺は今の今まで一度もそういったクエストは受けたことが無いのだが。
七瀬スポーツ側からそういった話を振られた事も無い。
それはそれでおかしな話なんだがな。一応十七層まで行っているから、今世界全体で判明しているダンジョン産の品物に関しては大体手に入れられるというのに。
まぁそれはさておいて。
今回そのクエストは俺に来たって話だ。
奇妙なのはそれが七瀬スポーツからではなく、冒険者協会から来たって点。
七瀬スポーツ側に確認を取ったら、こちらが受けてもいいと判断したら受けてもいいとのこと。
「でも協会ってそんなクエストの斡旋なんてしてたっけ?」
「HPにクエスト乗っけるくらいはしてますけど、直接仕事回すってのは聞いたことないですね」
だから妙だといった。
人手が足らぬと言っている協会はそこまで手を回せない。
それにそういったクエストは協会のHPにぽんっと乗せるだけで結構はけていく。
それなら直接冒険者に仕事を回すようなことをしなくていい。そんな感じだったはず。
けど今回は回ってきた。しかも回ってきた内容が変化球過ぎる。
何かを取ってこいとか、そういう話じゃないのだ。
「何でテレビスタッフの護衛???」
「さぁ」
マジで俺が聞きたい。
今回回ってきたクエストは『番組製作スタッフ及び出演者の護衛』だ。
ダンジョン内がテレビ番組で紹介されるってのは別にそこまで珍しい事でもない。何回かは俺だって見たことある。
でもこういうので護衛をするのは冒険者協会所属の人達。
つまりは桜木さんとか佐々木さんの仕事のはずなのだ。
それがどうして俺達に。しかも冒険者数人に声を掛けるとかじゃなくて俺達に直接話が来たのか。これが分からない。
うーんと頭を二人で悩ますも、協会が間に入っている以上怪しい話ではないはず。
そんなことしかわからない。
「その。誰を連れて行くとかは分からないんだよね?」
「書いてないんですよねぇ。多分情報漏洩的な話で、受けたら教えるよってタイプかと」
「うーん・・・これ私ついていかない方が良くない?」
「まぁそうっちゃそうですね」
日坂さんを守るのはいつもで慣れているので別に問題は無い。
だけどそこにさらに誰かを、それも仕事ってなると面倒なことになる。
正直何かあった場合、俺は護衛対象より日坂さんを優先するだろう。
協会的にもその方が良いと判断するだろうってのは、まぁ最近の流れ的に良いことではあるな。
それでもクエスト的にはそれはNG。やってはいけないことだ。
ならいっそついてこないという選択もありではある。
でも来てくれるなら来てくれるで良いこともある。
「え?何かできるかな私」
「護衛対象の避難とか、安全な場所探しとか」
「あ、それは確かに」
俺が戦っている最中に他のモンスターが来ないとは限らない。
日坂さんはそれを含めて、絶対にバレない様な場所にいることが出来る。
いや本当にどうやってんのか分からないんだけど、何故かバレないのだ。
「大体戸村君のせいだと思うけど」
「え?」
「何でもないよー」
なのでそういった場所に護衛対象たちを連れて行ってくれると俺的には非常にありがたい。
戦いに巻き込まれましたーとか馬鹿みたいな失敗したくないし。
良いところもあるし、悪いところもある。さてどうするか。
「分からないことばっかりで受けるかの判断もできないっすね」
「せめてどこまで潜るのか分かればね」
あまり下すぎるようなら断るし、日坂さんも連れて行かない。
逆に上の階層で良いなら受けて日坂さんに来てもらった方が良いだろう。
持ち込める物資がいっぱいあるっていう点でも、いざって時に取れる手段が多くなるからな。
まぁ結局分からん事ばっかりで判断できないんだけど。
「うーん・・・」
「・・・ねぇ戸村君。ちょっと思ったんだけど」
「はい?」
「これ協会に問い合わせ出来ないの?流石に情報が無さすぎるっていえばちょっとは教えてもらえそうだけど」
「え?まぁそれは・・・あ、そうだ確か」
クエストの紹介はメールで受け取っている。
日坂さんに見せる為に開いていたメールを下まで一気にスクロールして文字を探す。
すると一番下に、詳細をご希望の場合はこちらまでという文字と、協会のクエスト関係の部署の連絡先が書かれていた。
「・・・戸村君?」
「はい」
「最後までちゃんと読もうね?」
「ウッス」
これは普通に俺が悪いわ。




