罠
「おい。そろそろ行くぞ」
『ハッ!』
結局収縮ギリギリまでいることになってしまった。
ムサシがペットショップから離れないから。
『す、すまない』
「どんだけ飢えてるんだ本当に」
生まれてこの方触れたことがありませんってレベルだろこれ。
しかしそこに突っ込んでもいられない。
残念なことに、俺達の今いる場所は安置(安地)エリアからは外れてしまった。
結局ここにいたのかいなかったのかも分からないプレイヤーについても気にするだけ無駄になったな。
「ここを出たらすぐにどっかの建物に入るぞ」
『理由は?』
「障害物ありのバトルロワイアルなら、確実に高所からの狙撃があるはずだ」
当たるかどうかは相手次第だろう。
いるのが分かっているのなら、いくらでも迎撃してやるという気概だけはあるが。
しかしそもそも撃たれないに越したことは無い。
その為に安置(安地)エリア内に入ったらすぐに建物内に隠れてやり過ごすべき。
そう考えるのが当たり前だろう。
だが俺は一つ忘れていた。
今回の相手の中に、間違いなくその手の専門家がいるということに。
エリア内の生存者数が、俺達が安置(安地)エリアにもう少しで入るというあたりで一気に減少した。
「あ?」
『何かあったか?しかしそのような気配は・・・』
「・・・そうかあの人か」
とうとう本領発揮か・・・こりゃ不味いかもな。
『誰だ』
「アルチャ氏だよ。あの人に嫌がらせさせたら右に出る人はいない」
こういう評価をすると文句を言われそうだがそうとしか言いようがない。
アルチャ氏は弓兵としてのセンスも十分ある。
だがそれ以上に、罠を使わせることに関しては本当に強い。
リアルでも経験があるのかと思ったこともあったが、
本人曰く、ここにこれあったら嫌だなぁと自分が思った場所に罠を置くだけらしい。
それが出来たら苦労しないわという。
今大勢が一気にいなくなったのもほぼ間違いなくアルチャ氏のせいだろう。
打倒ランカーの為に手を組んだ連中、そうでないプレイヤー、そして俺達。
残っているのは大きく分けてこの三つ。
その中で最も数が残っているであろう一つ目と二つ目を一気に削ったか。
恐らく早い段階で最終安置を推測し、そこから他のプレイヤーが通る場所を考えて罠を仕掛けたか。
「多分ペットショップで遊んでた時間に・・・」
『成程。やらかしたな?』
珍しく不味いと思ったのかムサシもちょっとだけ申し訳なさそうに言う。
見せないはずの冷や汗が見えるようだ。
まぁやらかしはしたな。うん。
しかしここでそれを警戒して止まると恐らく本当に手遅れになりかねない。
どれくらいの規模で罠を仕掛けたか分からないが、あの減り方からみてかなりのリソースを割いたはずだ。
それならさっきみたいな強行突破自体は可能なはずだ。
「なるだけ急ごう。これなら狙撃も警戒しなくて良さそうだし」
『分かった』
安置(安地)エリアに入る。やはり静かだ、かなり数を減らされたから警戒しているのか誰も動いて無さそうだ。
残りの収縮回数は二回。それを考えるのなら、先ほどの数の減少も含めるとかなり隙間は空いているはず。
「行くなら中央だな。こっちか・・・ムサシ?」
『・・・見られているな』
「あん?」
見られている?・・・いやまさか。
『そこか!』
「こっちもかよ!?」
ムサシに二発、俺に三発矢が飛んでくる。
跳弾スキルで同時に着弾するように設定したのか?
だとしたらこんなことしてくるのは・・・!!
「またかよ!」
『ええい!』
背中を合わせて互いの死角をカバーしながら矢を弾いていく。
連射されているのを考えれば、相手は間違いなくこちらを見ている。
ムサシが感じた視線はそれか。
「だからといって俺達のいる位置まで分かるのかよ!?」
『読まれているな』
「いや流石にこいつは・・・!」
明らかに先読みだけでどうにか出来るものじゃない。
恐らく俺達が通ってきた後についてきたのがいる。
跳弾のセッティング。先ほどの罠による被害。
アルチャ氏の能力を最大限活かした、俺達を追い詰める為の・・・
「気が付いたね」
「っ!!」
「でも遅いよ」
「跳べ!!」
一瞬も遅れずに俺とムサシが同時にジャンプする。
次の瞬間、足元を光の斬撃が薙ぎ払われる。
さらに跳んだ俺達に向かって再び矢が飛んできた。先端に何かついている。
「チッ」
『何を・・・!!』
ムサシを爪で掬うように投げ飛ばして離脱させる。
俺は矢を受けることになるが、幸い鎧を抜くような威力ではない。
それは分かっていた。間違えていたのは・・・!!
「・・・おいおい。とんだ舞台だな畜生」
「気に入ってくれたかな?」
「とってもな」
ここまでの動きを考えた奴・・・アーサーが不敵に笑う。
こいつは全部分かっていたのだろう。
俺達が結託したプレイヤーを突破することも、
何かしらが理由で安置(安地)に近づくのが遅れることも、
一気に人数が減れば、恐らく最短で中央に近づくことも。
全ての筋書きを書いている。
それもこれを書いたのはイベントが始まってからのことじゃない・・・!!
「いつからだ?」
「イベントの詳細が出てからだね。ここの運営はイベント前に何かしらのヒントを出してくれる。君も知ってるだろう」
「当然・・・ああそうか。そういうことか」
「そうさ。君たちがそれを探すことはしないのもお見通しさ」
「やられたなぁおい」
俺はこのイベントが始まる前に何と言ったか。
今回のイベントは、俺達に有利だと。
それは間違いじゃない。制限の内容が俺達にはまるで引っ掛からない以上、有利ではある点は変わらない。
だがそこに胡坐をかくべきじゃなかった。
ムサシという最強プレイヤーと俺が組めば何が来ても強引に突破できると、そう思い込んでしまった。
これは間違いなく油断だ。
そのせいでムサシとは分断され、俺の目の前にアーサーが万全の状態でいる。
恐らく今もムサシの方はアルチャ氏の妨害と攻撃に晒されているのだろう。
いや、進行形で残り人数が減っているのを見るに、ムサシが敵を減らす方向に誘導されたか?
「アルチャ氏を誘ったのは、これを考えたからか?」
「そうだね。トラップのスペシャリスト。そして弓兵と言う非常に融通の利く兵科。何より本人の才覚。
君と戦う為の場所を作る為に、彼女はどうしても必要だった」
「・・・俺と戦う?」
イベントに勝つ為にではないのか?
・・・いや確かにそうだな。イベントに勝つだけなら別の方法を取れる。
それこそ俺達が分からない様に罠を仕掛けて、状況を理解する前に封殺しきることは出来たはずだ。
それだけの時間はあった。じゃあそれをしない理由がある。
「正真正銘。本気の君は、こういう時じゃないと出てこないからね」
「何を・・・」
「おや?君は今、結構腹が立っていると思うんだけど」
「・・・は」
それは・・・
「仲が良いとは言え、他人に好きな様に動かされた」
「・・・」
「そのせいで、君が焦れ手を伸ばす最強が負けるかもしれない」
「・・・」
「ああ、もちろんムサシ君の非も大きい。考えることをしなかったのは二人ともだろうからね」
「・・・おい」
「何かな?」
「それは・・・俺があいつに負けることを望まないという前提があるな?」
「そうだね。実際当たってるだろう?正確には、自分以外に負けるのは許さないが正しいんだろうけど」
それは・・・その通りだ。
成程認めよう。俺は今、とても腹が立っている。
アーサーとアルチャ氏が組んだ時点で、何かしら企んでいると考えるべきだった。
そうすればペットショップで遊ぶムサシをもっと強引に動かしていただろう。
あの構えていたプレイヤーの集まりを突破する時もそうだ。
追撃が少ないのを、俺達が撒いたのではなく背後から来たこいつらにやられたのだと考えるべきだった。
アーサーはムサシにも非があるというが、それは間違いだ。
何故なら、今回の動きをその場で考えたのは俺だから。
今回負けることがあれば、それは全て俺のせいだ。
俺のせいで、負ける。
「・・・おい」
「フフ。何かな」
「分かってると思うが・・・」
「・・・」
「楽に死ねると思うナヨ・・・!!」
「ハッハッハッハッハ!!!」
「■■■■■■■■!!!!!!!!!」
「それを待ってたんだよ!!!!!!!」
俺達の声を合図に、黒の激情と、白き閃光が激突した。
「あははは・・・いやぁまじぃ?」
『ふむ。中々だった』
蒼セカンドとアーサーの戦いが始まった頃、彼らの為に用意された舞台から引き離された場所。
そこにはムサシとアルチャの二人しかいなかった。
つい先ほどまで、その場にいたのはアルチャだけだったのに。
それはつまり。
「私の仕掛け抜けて、そのうえで他の連中全滅とは流石に驚きだわ」
『彼らがあなたの罠に逃げまどっていなかったならば、より時間は掛かっていただろう』
「よく言うわ。それ見つけるのが大変だったって話でしょ?」
『ふむ?・・・今回の件を考えたのは貴方か』
「いんや?細かいところはアルチャさんも手を加えましたけど、大筋は騎士様よ」
『何?それは・・・厄介だな』
「厄介?」
ムサシとアルチャの近接戦闘力の差は歴然としたものがある。
何より今回アルチャは跳弾とトラップに殆どリソースを割いているので近寄られるとまともに戦えないレベル。
それはムサシも理解している。そのうえで厄介だといった。
『あなたがこの状況を想定していないとは思えない』
「あはー・・・これ参ったね。油断とかしてくれない感じ?」
『するわけがない。いや、先ほどまではしていたと言っても否定できないのだが』
それはそうだ。
そもそもこの状況になったのは、自分のせいであると。
ムサシは誰に言われることなく分かっていた。
確かに蒼に指示を仰いではいた。だがそれはこの手のイベントに自身が不慣れであったためだ。
だから自分が彼に指示を仰ぎ、それが結果的に間違いでも責めるべきではない。
しかし、一つだけ自分には明確にミスがある。
そしてそれがあるからこそ・・・
『故に・・・これよりすべてを切り伏せよう』
「うわぁ。ちょっとこれは想定外かなぁ」
ムサシは腰に携えていた刀を消し、別の刀を虚空より取り出す。
それは鞘に収まってはいるが、蒼いオーラが漏れ出ている。
まるで抑えきれない殺意が、刀身からあふれている様に。
この一本こそ、ムサシが最強たるゆえん。
自らの全力の技量を受け止めるだけに全てを注いだ名刀。
「名刀【戦鬼】・・・見るのは初めてだけど」
『であろう。これを抜くのは、彼以外にはほとんどない』
「へぇ。そんなものが見れるなんて・・・でもその刀」
『?』
「彼がモチーフなのかな??」
『・・・貴様』
「へっへー。怒った?その方がやりやすいんだよね・・・!!」
『!!』
ムサシの背後から鉄球が飛んでくる。
だがムサシはそれを禄に見ることなく斬り捨てる。
『怒っては無いさ。ただ黙らせる必要があるとは思っている』
「やれるもんならやってみなっての!!」
二人の立っていた場所の中心地が爆発する。
アルチャの目的はムサシの足止め。
ムサシの目的は早急な敵の排除。その後蒼の援護に向かうこと。
互いの目的の為、負けられない戦いが始まった。




