最強とエンカウント
「鬼畜ショタ殺し・・・」
「馬鹿言ってねぇで反省会するぞ」
「うっす」
数回戦った後、コロセウム近くの広場で設けられたカフェで反省会を行うことに。
基本俺がこいつの取った動きに対してダメ出しするだけなんだけど。
戦闘の映像は予め設定しておけば様々な角度から見れる動画として個人の機器に保存される。
これはどのプレイヤーにとっても必須の機能で、逆を言えばこれをしない奴はほとんど伸びてこない。
自分の動きを鑑みて、次に活かせないのに強くなれるわけないからな。
「師匠ってそういうところはストイックっすよね」
「あん?」
「いやぁ。だって師匠素振りとかしないじゃないっすか」
「というか稽古場そのものを使ったことないぞ」
「それで見直しがどうこう言われてもっすねー」
「仕方ないだろ」
稽古場ってのは街のあちこちに開かれた個人スペースで様々なことが出来る場所の事。
主な利用法はロメも言っていたが素振りなどの鍛錬行動だ。
したところで別に能力が上がったりはしないが、するしないではやはり違いは出てくる。
俺がこれをやらないのは・・・単純に俺にとっては意味が無いからだな。
それをするくらいならその分を実際の戦闘に回した方が遥かに効率が良い。
「じゃあ自分もー」
「お前は忍者刀の二刀流とかいう変則スタイルなんだから素振りはしろ」
「うっす」
ちゃんと振らないと防御が薄い奴にすらまともにダメージ入れられない武器はそこはさぼれないな。
数回行った戦闘のうち、まずは最初の戦闘から見ていく。
「これが一番ひどかったな」
「うっ」
何を緊張してたのか、明らかに動きに精彩を欠いていた。
高速機動自体は問題ないが、攻めのタイミングを何度か逃している。
そのせいで俺の牽制行動に引っ掛かってそのまま潰されている。
「俺は分類的には重量武器なんだから、動きを見ないのは論外だわな」
「つ、次からは出来てるんで・・・」
「まぁそうだな」
次の戦闘に動画を切り替える。
ロメの言う通り、次からはかなりマシになった。一度目でボコボコにされたお陰で集中出来たんだろう。
結果自体は当然俺の勝ちなのだが。
「ここの防御は良かったな。俺の攻撃を地面に流したのは見事だ」
「でもすぐ対処されたっすよね?」
「想定内だから当然だろ」
「あれこれ自分今褒められたっすよね?」
受け流す方向自体はありきたりではあった。
だが受け流し自体は見事だという話だ。
受け流しを完璧に行うなら全身を使ってやるのが普通だ。
武器だけで行うことは可能ではあるが、それは相手の攻撃が軽い場合の話。
俺を相手にするならそれは絶対にやってはいけない。
もしやろうとしたら、俺はそれに合わせて攻撃を変化させてそのまま武器事 (ごと)相手を潰すと思う。
下に攻撃が流されたことで、巨大な爪が地面に突き刺さって俺が動けなくなっている。
そこを万全を期して埋まった右腕の方から近づいて追撃しようとロメが動く。
だがそれは上手くいかず、爪を軸にして体を回転させることで左の爪がロメの体を切り裂いた。
「アクロバット得意なんすか?」
「動けるなら何でもできるってのを最近学んでな」
「えぇ・・・」
鎧蜘蛛との戦闘のことだ。
右足を糸に取られて動けなくなったあの時。
その時は【赫爪】の力をもって突破したが、今考えれば別の動きが出来ると思うんだ。
だからいくつか体の動かし方を自分自身で検証してみた。
結果、軸となる部分さえあれば身体能力で強引に動くことが可能であることが分かった。
普通ならその動きは隙だらけで意味のないものになりがちだが、そこは使い時を選ぶことと圧倒的パワーで解決した。
その後も戦った分だけの動画を確認して、ロメにダメ出しをしていく。
同時に俺の動きにも改善の余地が見られたためそこは反省する。
「武器変えた分重量がってところか」
「そんなに違うんすか?」
「軽くなってるな。その分を武器の変化に割り振ったからな」
「あーそれはきついっすね」
こいつ自身武器の重量が大事になるタイプだからその辺は分かるだろう。
重すぎれば振り回され、軽すぎれば威力が無くなる。
その為ここの調整は非常に細やかに行わなければならない。
幸い俺は自身の能力について、追加できるものも含めてすべてをステータスの上昇に振っている為威力については気にしなくてよかった。
だけど一撃の速度が速くなる分は気を付けないと空振りしかねない状態にはなっている。
まぁロメとの戦いでは最後の方は大分慣れてきていたな。
「んで?お前から見て俺はどんな感じだった?」
「相変わらずクソ強過ぎてわかんねぇっす」
「理解を投げてるだけっていわないかそれ」
「いや実際元々相性良くないのにさらに悪くなったんでどうしろとって感じっすね」
「そこが分かってるなら・・・まだいいか」
「ほっ」
俺は武器と防具、ステータスの関係で早く動くことは出来ても素早くは無い。
直線状でかっとぶ様に動くのならロメ以上。
だが曲がったり細かくブレーキを掛けたり、そういった動きではロメには勝てない。
だけど今回から覚えたアクロバティックがそれをカバーし始めた。
どの状態でも体のどこかを地面に壁に突き刺して軌道の変更を行う。
ロメから見たら今まで逃げることは出来たのにそれすら出来なくなった為、より相性が悪くなったと見えたわけだ。
実際のところ間違っては無い。まだ足りない部分はあるが。
「えぇーどこっすかそれ」
「自分で考えろ」
「うぇー」
「んで俺から見た、今回のお前の一番良かったポイントなんだが・・・」
動画からいくつかの場面を切り取ってスクショ形式で見せる。
その写真は全て、俺の何かしらの攻撃を武器で受け流しているロメの姿だった。
「これだな」
「あ、これは結構自信があったっす!」
「てか、だから挑んできたんだろ?」
「そうっすね。まぁボッコボコにされましたけど。一回も攻撃に繋げられませんでしたけども」
「いや実際驚いたよ」
今までも攻撃を流されることはあった。
だがそれはそれ前提というか、俺がそうするように仕向けたからできたことが多い。
そうじゃないと俺というステータスの暴力をどうこうすることは基本出来ない。
しかし今回はそうではなかった。
割と手を抜いてはいたとはいえ、それでも意図していない攻撃を完璧に流された。
対処できたのは最近変な動きをする練習ばかりしていたからなので偶然ではある。
いやそれ抜きでも問題は無かったけどな???
「受ける瞬間に握り方を変えてるな。タイミングがズレれば一瞬でお陀仏だが」
「いやー。死ぬほど練習したっす」
「うんうん。それは分かる」
まだマスターの領域には届かないだろうが、確実に一つ強くなったな。
こういう細かな部分の業というのは非常に役に立つ。
後衛型のプレイヤーでない限りすべてに通用するのも良い。
「これなら一回本気で狙ってみてもいいと思うがな」
「え?もしかして」
「ああ。マスターランクまで、レート上げてみたらどうだ?
「・・・そこまで強くなって」
「は無いけど良い経験が出来ると思うぞ」
「しょぼーん」
口で言うもんじゃないだろそれ。
まぁ絶対に無理とは言わない。
ランクを上げるためには、一定期間で一定数レートを上げる必要がある。
一度でも上位のランクに到達すれば、その後は常に到達した最高ランクとして扱われる。
なのでワンチャンを狙ってレート戦に潜る奴は多い。
俺とロメがやったようなレートの関係ない試合・・・アンレート戦は内部レート以外は基本気楽にできるんだが。
話を戻すが、このワンチャンを狙う連中はマスターになれるのか。
答えとしては言うと、なれないことは無い。だがその確率はとても低い。
その理由は、常にレート戦に潜っているような連中が上には蔓延っているからだ。
マスターを目指すがなれないでいる連中。そういう連中はレートを上げる為に卑怯ともいわれることをすることもある。
そういった連中に当たるとワンチャン狙いではどうしても負け続けることになる。
そしてそういった連中は負けてもそれを経験値に出来ない。だから勝てない。
その上で、今のロメなら十分経験として負けを得られると判断した。
「実際お前に教えてるやつも同じこと言ってただろ」
「いや実はそうなn・・・あれ・」
「ん?」
「・・・何で気が付いたっすか?」
「気が付かないわけあるか」
ロメが行った武器を用いての受け流し。
握り方を変えるのも見事だが、それ以外にも目を引く点はある。
例えば上体の重心のずらし方とか。
「俺、これには見覚えがあるんだよねぇ」
「ぎくっ」
「いったいいつから知り合いなのかは聞かねぇけど。てか、俺よりそいつの方で習った方が多分良いと思うんだが」
何せ何度も戦った相手で、奴の方が理に適った動きをすることを知っている。
ロメがどちらかと言えば俺よりそっち向けなのも、もちろん分かってる。
だけどロメは俺の言葉に対して、ものすごく顔をしかめた。
「ほんっとうにあれっすね。鈍感っすね」
「はい?」
「まぁいいっすけど・・・知り合ったのは最近っすよ」
「あ?そうなのか?」
「はいっす。師匠が冒険者になったーとか聞いたあたり何で・・・先月くらい?っすかね」
「・・・一月でこれ覚えたのか」
「えへへー」
これ地味に難しかったと思うんだけどな・・・
ここで、周りに人が増えていることに気が付く。
正確にはカフェの前にプレイヤーが増えていて、こちらを見ていた。
何かあったか・・・?
するとロメが誰かに気が付いたようだ。
俺の後ろにいたそいつに。
「あ、先生おはようございますっす!」
「は?」
振り返るとそこに奴はいた。
相変わらず被った笠で顔は見えない。そういう設定なのだ。
一振りの刀を腰に携え、じっと俺を見ている。
「・・・いや何か声掛けろよ」
『・・・邪魔になると思った』
機械音声が聞こえる。これも設定の一つで、自分の肉声を隠せる。
てかあれか。こいつがいたから外があんな騒がしいのか。
正確には、俺とこいつの二人がいたからか。
「じゃあ後はお任せするっす~」
「は?」
「自分ここで失礼しますっすー。お疲れさまでした~」
「ちょ」
そういうと本当にロメはログアウトしてしまった。
残されたのは俺ともう一人・・・【剣豪無双】
「・・・あー、お前も何か用か?【ムサシ】」
『その通りだ。そもそも彼に貴公を足止めしてもらったのも私だ』
「いやそれは初耳だけど」
『・・・忘れてくれ』
「おう」
マスターランク。レートランキング一位の【ムサシ】
彼こそアークオリンピアの頂点に立つ存在であり、俺が目指す唯一の目標である。
機械音声と、本人が無駄なことは喋らないことも相まって寡黙なクール系だと思われている。
だがその実態は割かし抜けている部分がある。
無駄なこと以外は喋らないのは本当なんだが、それでも周りが考えているよりは無駄口を叩ける。
総じて人付き合いが良い方ではあるんだ。近寄りがたいオーラのせいで、俺と数人以外と話している姿を見たことは無いが。
だがこいつが俺に用って何だ?
戦うだけなら態々直接会う必要はない。フレンド登録はしているからそこにメッセージを送ればいいだけだ。
つまり直接会って話さないといけない様な案件ということになる。
「んで?なんの用なんだ?」
『うむ・・・次回のイベントは知っているか?』
「イベント?ああ確か・・・コンビを組んでのバトロワだったか?」
アークオリンピアは当然ゲーム内イベントがある。
それは結構な頻度で行われている。短いときには一週間に二回とかもあった。
そんなゲーム内イベント、次回行われるのはバトルロワイアル。
エリアが徐々に狭くなるマップで、数人で組んだチームの中で最後まで生き残ることを目指すイベントだ。
前に行われたのは確か三か月前だったか。その時は参加していたからよく覚えている。
だがムサシは今までそれには参加してこなかったはず。というかこいつは一人で戦うイベント以外は全部不参加だったはず。
それが何の気まぐれでそんな話を・・・いやまさか。
「まさか、出るのか?」
『そのつもりではある。だが、問題がある』
「ああ?問題?」
別にあれって出るのに条件は無い・・・いや、一個だけあるな。
こいつだと突破しづらいであろう条件が一つある。
パーティを組むという、こいつにとってはとんでもない難易度の条件が。
「・・・あれだ。あのアスカの奴とか組めないのか?」
『彼女は当日に外せない件がある』
「ああうんなるほどね」
アスカとはこいつが話す数少ないプレイヤーの一人だ。
他の連中と比べても明らかに仲がいいので、リアルでの付き合いがあるんじゃないかとも噂されている。
しっかし話が見えてきたぞ。
『つまりは、その・・・』
「自分と組んでほしいってことか?」
『・・・そうなる』
それにしては随分と言い辛そうにしてるが・・・無理もないか。
こいつは俺が、自分の事を目標としているのを知っている。
だからそんな自分と一時の事とは言え組むのが嫌がるのではと思ったのだろう。
まぁ思うところが無いってわけじゃない。わけじゃないんだが。
「別に構わんぞ」
『・・・良いのか?』
「お前は確かにそのうち倒すけど、だからといって嫌ってるわけじゃないんだがな」
『・・・』
「ちなみにこの話自体は前もしてるからな?」
『・・・そうだったな』
倒したいから嫌っているというわけじゃない。むしろ好意を抱いていると言ってもいい。
こいつ自身、ストイックな性格は俺と似ており、強さに胡坐をかくことは無い。
そういう姿勢は非常に好感度が高い。別にかしこまって頼まれんでもその程度なら全然OKする。
「んじゃよろしく」
『ああ。よろしく頼む』
こうして、ゲーム史に残る最強で最恐そして最凶のコンビが生まれた。
この光景を目撃したプレイヤーで、イベントに参加する予定だった者達は参加を見送るか考えたそうだ。
「そういや、ロメの奴とよく知り合えたな」
『いや。元々目は付けていた』
「あ、そういう感じか」
『イベント開示の折に、ちょうどよくいたのでな』
「はぁ。そんなこともあるんだ」
というか、あいつが言ったお任せしますって俺向けじゃなくてこいつ宛か。
それはそうとして、事情を話せば普通に待ってやったのに。
なので今度ロメはボコボコにしよう。




