巡から見た戸村宗次
2024/06/20 改稿しました。話数が増えてます。
話は私の家ですることになった。
私の家は小さなアパートの一室。
四人で生活するにはちょっと狭いなと思う。
誰なんだろうかと思った。
すぐに戸村君だと分かった。
急に物事がスムーズに、都合の良い方向に進んで行った。
あまりに急すぎて、多分まだちゃんと理解出来ていない。
一つ分かることは、とりあえずお母さんが助かると言う事。
その手引きをしたのが・・・戸村君だって事。
しかも大金は支払った後だという。
おかしな話だ。
赤の他人になんでそこまでするのか。してくれるのか。
聞きたかった。聞かないといけなかった。
これ以上、この人から一方的に貰うわけには行かなったから。
「あ、あの。何で、戸村君は」
「あー・・・まず話は、桜木さんから聞いたんですよ、先週とかに」
「桜木さんに・・・?」
戸村君はどうして私の家庭の事情を知っていたのか、全部話してくれた。
どうやら冒険者協会が私のスキルの有用性に注目していたとかで、色々調べていたらしい。
そこからチームを組んでいた戸村君に色々教えたそうだ。
・・・思う所がないわけではない。
ただそのお陰で、お母さんが助かるのは決定事項になった。
理解は・・・まだ全然追いついていないけど。
それにまだ聞きたいことはある。
「で、でもどうして。話を聞いたって、戸村君には関係ない事じゃ」
「まぁそうっちゃそうですね」
「なっ」
思っていた以上に、簡単にそう言った。
本当にそう思っているんだ。関係のない事だと。
だから、猶更分からなくなった。
働くようになって、お母さんの治療に掛かる費用がどれだけのモノか正しく理解出来るようになった。
その額は私が数年働いてようやく稼げるかどうかの額。
冒険者でも、中々稼ぎ出す事が出来ない金額なのだ。
それを、どうして関係ないと言い切った女の親の為に使えるのか。
それにお母さんが移る病院だって、私でも知ってるくらいの有名な病院。
ただでさえ掛かる。治療費が、さらに増える事は簡単に想像がついた。
「ど」
「ど?」
「どうして、そんなことしちゃったの!?」
「・・・日坂さん?」
「だって、だって!私、何も出来ないのに。何もしてあげられないのに!!」
分からなかった。
彼が、別に自分の近くで困っている人がいるから助けるなんてことをしないのは、よく分かっていた。
だからお母さんを不憫に思ったとか、そう言う事ではない。
考えられる理由は一つだけ。
私の為だ。
それだけの為に、この人は。
「わたし、なんかのために・・・!!」
涙で視界がゆがむ。
泣く資格なんて無いのに。
私なんかが・・・
そう思った時。
頬を摘ままれた。
「・・・ぇ」
「んー・・・日坂さんは、あれですね。ネガティブっすね」
「な、なに・・・?」
戸村君はいつの間にか隣にいた。
そして私の頬を摘まんで、話しかけている。
「あと自分を卑下しすぎだと思いますけど」
「・・・そんなことは」
「あるでしょ。だって」
戸村君は、私が頑張っていると言ってくれた。
家族を支えるために働いて、冒険者にまでなったのはすごいことだと。
「で、でも。戦えないし・・・結局」
「あー。俺だけに戦わせて、何もしてないとか思ってるでしょ」
「・・・実際、そうだから」
「はぁ。やっぱりネガティブ~」
今度は頬を突かれる。
彼は、何が言いたいんだろう。
「それは俺が望んだ事じゃないですか。で、代わりに日坂さんは俺の分のご飯とか持って来てもらう」
「でもそれは、本当は私じゃなくても・・・私がいなくても、一人で」
「出来ますけど、助かってるんですよ、俺は」
本当にそうなのか。
正直、今の彼を見ているとそう思ってしまう。
今の彼は、何かを隠しているように見えた。
だからやっぱり、私が必要には思えない。
私にそれだけの価値があるとは思えない。
どうして、彼は私に・・・執着しているのか・・・
・・・えっ。なんで、どうして今・・・そう思ったの?
「ねぇ日坂さん」
「っ。な、なに?」
「俺・・・おかしいんですよ」
「・・・え?」
それは
「頭がおかしい。心がおかしい。何度か直接言われた事がありますよ」
「・・・」
「けど自覚はあるんで気にしなかったんですよね。ぶっちゃけ」
「そ、そうなの?」
「どうでも良いんで」
「ど、どうでも・・・」
そして気が付いた、戸村君が【剥がれて来た】
いや違うんだ。
剥がれて、戸村君が出て来た・・・そんな感じがする。
「だからまぁ何かに思う事とか、欠片も無かったんですけど」
「え、えーっと・・・?」
話が分からなくなってきた。
私の話ではなく、彼の話になっている。
でも多分、重要な事なのだろう。
だから遮ることはしなかった。
結果、それは正解だったと思う。
「面白い事に、日坂さんがいなくなるかもって聞いたら・・・キレそうになったんですよねぇ」
「き、キレる?怒りそうに・・・なったの?」
「なりましたね。いや、こんなの初めてでしたよ」
アハハと嗤う彼は、どこか子供っぽく見えた。
その顔こそが、彼の本当の顔だとも思った。
目を、離せなくなった。
「日坂さんが離れるのが・・・ビックリするくらい、嫌だったんですよ」
「戸村君・・・」
「だからまぁ、色々やりました。日坂さんが冒険者を辞めないように」
「・・・そう、なんだ」
「日坂さんにとって家族が大事な様に、俺にとっては、貴方がそうでした。そうなってました」
「う、うん・・・//」
徐々に恥ずかしくなってきた。
本当に私の為に、ここまでしてくれたのだ。
それに離れてほしくないって言葉は・・・最早プロポーズでは無いか。
と、というか、私さっきから頬を触られてるよ!?
ちょ、ちょっと大体過ぎるかもぉ・・・//
ただそんな浮かされた気分は、別の熱で沈められた。
「だから」
「と、戸村君?」
「離れるな」
「っ!?」
急に雰囲気が変わった。
ついに被っていた仮面の様な物が全部剥がれたような、そんな感覚。
彼の顔を見る。
そこには、あの時見た戸村君がいた。
戦っている時に見た、心の底から嗤って楽しんでいた戸村宗次君が。
狂気を浮かべて、それしか考えていない顔で、そこにいた。
「俺に、救われろ」
「・・・はぃ」
後になって、よくこの時声が出せたと自分で思った。
「善い・・・けどまぁ」
「・・・あ、あれ?」
そしてまた戻った。
こちらも戸村宗次君だった。
「ここからは、日坂さんにも手伝ってもらいますけどね」
「・・・え?」
「千尋に・・・妹に怒られたんですよねー。一方的に救いを与えるのは、色々問題だって」
「は、はぁ」
「んでまぁ・・・俺と一緒に、ダンジョン行きましょうか」
「・・・う、うん・・・???」
・・・あれぇ?
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