救いの手は、■の手
2024/06/20 改稿しました
病院の廊下で、一人俯いている巡。
母親が倒れた。
その一報を受け取った彼女は急いで母親が連れていかれた病院へ向かった。
そこで聞かされたのは、彼女にとって残酷な真実だった。
余命半年未満。
それが母親に残された時間だった。
しかも何かあった場合、すぐにでも体調が悪化するとのことだった。
それは、巡から意味を奪った。
働く理由を・・・生きる理由を失わせた。
ダンジョンに行かなくなったのも、それが理由だ。
それだけが理由ではないが、一番大きいのはそれだった。
絶望すら生ぬるい。
巡にとって、母親は・・・家族が全てだった。
高校生だった時に父親が亡くなった。
母親は病気の関係でまともに働くことができない。
だから卒業してすぐに働くことにした。
そうすることで家族を支えられる。助けられると思ったから。
だが母親は何度も倒れた。
治療がちゃんと出来ていなかったのだ。
お金が無かったから。
だから冒険者になった。
冒険者は働き次第で大きな金額を一気に稼げるから。
でも上手くいかなかった。
戦えなかった。それも致命的なまでに。
しかし、幸いなことに彼に出会えた。
異常なまでに強い彼。
彼は自分の事情を聞こうともしなかった。
それが逆に巡にとってはありがたかった。あまり詮索されたいことでも無い。
結局そのまま日が経って、一か月が経とうとしていた。
そんな時だった。
彼にとって、自分は必要じゃないと分かったのは。
一人で戦える。生きれる。
何も気にしない。する必要が無い。
ダンジョンで彼の役に立てることなんて何もなかったのに、お金だけ貰っている。
屈辱的だとは思わなかった。
けど、恥ずべきことだとは思った。
相手は年下なのだ。それもまだ高校生。
そんな相手に依存している自分が、とても情けなく、愚かな人間に思えた。
それでも我慢出来た。家族の為なら。
お金が溜まって、お母さんを治すまでは。
それが出来たら・・・謝ろうと思っていた。
許されることなら何でもするからと謝ろうと。
お母さんが治れば、家族は自分無しでも大丈夫だと思っていた。
だけどそれより早く、母親がダメだった。もたなかったのだ。
その結果が今だ。
何も、間に合わなかった。
巡は無力感すら感じなかった。
もう、何も考えたくなかったのだ。
でも。
「あ、いた」
「・・・ぇ」
「日坂さん。大丈夫・・・なわけねぇか」
いや、だからこそ彼は来た。
「とむら・・・くん・・・?」
「どーも。戸村君です」
だけどその様子は、いつもと違った。
いつもより・・・外れているように見えた。
「日坂さん」
「とむらくん」
声が・・・平らだと思った。
振るえて(震えて)もいない。
何も感じていないというか・・・考えたくないのだ。
「何しにきたの?」
「んー・・・まぁすごく簡単に言うと、助かってもらうために来ました」
「・・・え?」
うーむ。我ながら意味不明な言葉だ。
だがそうとしか言いようがない。てか、それ以外に言う気も無い。
「ど、どういう・・・?」
「失礼します。先にこちらがお話しても?」
「ああ。お願いしますね」
「え、あ、あの」
「失礼しました。私は・・・」
巡さんは気が付いていなかったようだが、俺の後ろにもう一人いる。
その人は今日初めてであったが、まぁ俺の知ってる人が寄こした人だ。
要件は日坂さんの母親の事。
具体的には。
「本日は、貴方のお母さまの手術についてのお話を」
「・・・え、ま、待って、待ってください」
「はい?」
「しゅ、手術って、でもそんなお金は」
「??。いえ、既に入金は済んでいるはずですが」
「えっ・・・と、戸村君!?」
「何です?」
「何したの!!」
「まだ何も」
お母さんの治療の話だ。完全に治すそんなお話。
ありえない程都合の良いお話だ。
都合が良いって言うか・・・まぁ何でも良いか。
「いや。本当に何もしてないんですよ。まだ」
「ど、どういう」
「俺の出番は後からなんですわ。まずはこの人の話聞いてください」
「・・・」
まぁすごく簡単にまとめるとだ。
まずお母さんの入院する病院を移す。
ここはまぁ俺が身内に力を借りて、いい病院を紹介してもらった・・・海外のだけど。
どーも治療費が大きくなる理由はそこにあったらしい。
日本の保険の適用外ってことだ。
んで治療も海外じゃないと例がないってんで、医者もやりたがらないと来た。
ほんまくそ仕事しろ。
ちなみにお金もその病院を紹介してくれた人に建て替えてもらっている。
そこで手術を受けて、完治まで入院する。
まぁ話を纏めるだけなら、そういう話だ。
体調が落ち着いたら、こっちに戻って入院だから・・・まぁ帰ってくるまで、一月くらい?知らんけど。
「こちらにサインしていただければ、すぐにでも動き出せるのですが」
「・・・」(ポカーン
日坂さんは話を聞いて茫然としている。
何でいきなりそんなことになったのか、理解が追いついていないんだろう。
実際急だったとは思う。
ただ話を聞いた感じ、日坂さんのお母さんの容態はかなり悪いと判断した。
だから俺の方も、日坂さんに話をしている余裕はないと考えた。
かなり強引な進め方だという自覚はある。
まぁ・・・本当は、身内の承諾すら無視することは可能だったのだが。
そこは辞めておいた。というか、止められた。
「日坂さん。サインを。ちゃんと読んでね」
「と、戸村君。ダメだよ、こんなの」
「日坂さん」
「っ」
「信じてください」
「・・・」
ひとまず、日坂さんはサインをしてくれた。
これでお母さんの転院手続きと手術が行える。
それを確認すると、着いてきた人は急いでその場を離れた。
この後は、色々手続きをして、終わりまで一直線だ。
そして・・・ここからが、俺の仕事だ。
千尋が言っていた。
手放したくないなら、言葉を尽くせと。
「日坂さん」
「戸村君・・・」
「話しましょう。ちゃんと。色々聞きたいことも、話したいこともあるんで」
話すのはそこまで好きじゃない。
けど、やってやろうじゃないか。
そうでなければ、ここまでした意味がない。
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