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電脳狂戦士 現代ダンジョンに挑む  作者: saikasyuu
電脳狂戦士 仲間が増える
18/885

チームメイトの事情

2024/06/20 改稿しました

「・・・来ないなぁ」


日坂さんがダンジョンに来なくなって、一週間経った。

まぁそれでダンジョンに行くことに支障が出るわけではない。

元々戦っていたのは俺だし・・・ああでも、持ち帰れるドロップ品が減ったのは問題だわ。


あ、あともう一個あるわ。

活動時間が短くなったことだ。

体力的には問題ではない。そもそも問題にならない。

問題なのは物資的な事。

水とか、食べ物とかそういう話だ。

今までこれを日坂さんが持ち込んでくれていたのだが、その量が減ったのだ。


日坂さんが持っていた【拡大鞄】のスキル。

あれは単純に容量が増えるだけではなく、入れた物の重さが消える効果があった。

鞄に入りきる量しか重さは消えないから万能ではない。

だが間違いなく持ち込める物資量が増えていた。


お陰で俺は荷物そのものを持たなくて良い様になり、戦いに集中出来ていた。


それをまた自分でやるようになった。

これが大変だなと、改めて思った。

動きづらいし、戦いの最中で気になるから集中出来ない。楽しめない。


日坂さんには日坂さんの事情があるのは分かっている。

けど、出来るだけ早く復帰してほしいなぁと、切実に思っていた。


「てか。連絡先くらい交換すべきだったか」


これは、俺の悪い癖が出たな。

どうせここで会うし、ダンジョンで会うんだから良いだろと思ってしまった。

元々携帯を携帯しないことで怒られていたが、これじゃどっちにしろ意味なんて無いな。


「ふぅ・・・さて、そろそろ行くか」


コーヒーを飲み干してゴミ箱に投げ入れる。

同時に、休憩スペースに知ってる人が入って来た。


「ああ。ここにいましたか」

「あら?桜木さん?」


休憩スペースに入って来たのは桜木さんだった。

桜木さんは協会の人だから、専用のスペースがあってこっちには来ないんだけどな。


俺を探しに来てたみたいだが・・・。


「何かありました?」

「先日お預かりしたまあ道具(魔道具)について調査結果が出ましたので、その件ですね。かなり良い物でしたよ」

「なるほどー」


そう言えば預けてたっけ。日坂さんの方が大事だから忘れてたわ。


どうも完全に新規で発見された魔道具らしい。

ここで話をするのは不適当だということで、また協会の部屋を借りることに。

その道中で、最近の活動についての話になった。


「そういえば。最近もまた活躍されているようですね」

「そうですかね?」

「一か月でボス攻略は快挙ですよ。現状では、最速です」

「まぁ大抵の敵は斧で切れるんでね。後は避ければ良い」

「それが難しいんですがね?・・・まぁ戸村さんですし」

「どういうことです???」


何か妙な納得のされ方してない?


「それにチームも組んだようですしね。私もダンジョンで一度確認しておりますが」

「え、いつの間に」

「ふふふ。流石にまだ、私の方が上のようですね」


どっかに隠れてた?基本戦ってると楽しいから気にしないんだよね。


まぁそれはそれとして、いつかは超えてやるか。

色々恩はあるが、俺は寛大なのだ。

・・・何が?


「ですが・・・彼女の方は、大変なようですね」

「は?」

「いえ、彼女の母親が・・・聞いて、無いんですか?」

「何を?」

「・・・戸村さん」

「はい」


立ち止まり、真剣な顔でこちらを見てくる桜木さん。

その目は・・・ちょっと、怒ってる?


「彼女と。日坂さんと自分達に関するお話はしましたか?」

「はい?いや・・・してないですけど」


する必要性が無いと思ったから、していない。

精々家族構成くらいか?

あとはダンジョンでどう動くかとか、何を買うかとかしか話してないな。


「・・・チームを組んだのなら、お互いを知るべきなのは、分かりますよね?」

「まぁそれは知ってますけど」


アークオリンピアでもそうだったしな。

たまーにイベントで他のプレイヤーと組むことがあるのだが、その時に関係している。

相手の事情によっては急に参加できなくなるとかもあるからな。

個人情報に関わる部分はあれだが、それ以外で問題ない部分は割と話したりするのだ。


だが・・・極端な話、それは俺にとって必要じゃないのだ。

というかあれだ。無くても問題ない。

だって俺は一人で戦えちゃうわけだし。

日坂さんが来なくても、ちょっと不便なだけで問題にはならない。


・・・まぁ、寂しいっちゃ寂しいけど。


それが顔に出ていたのだろう。

桜木さんはため息を吐いて、俺の目を見て言った。


「戸村さん」

「何です?」

「日坂さんは、大事な方ですか?」

「はい?」

「答えてください。重要な事なので」

「・・・まぁ、いないとなんかなぁとは思いますけど」


一人で戦うのは良い。むしろ邪魔されたくない。

だけど、一人で歩いて、ご飯食べてってのは・・・何かな。

そこに日坂さんがいてくれて、本当に良かったと思ったんだ。


「それなら何故・・・いえ、そうですよね。まだ貴方は子供ですよね」

「はぁ」

「・・・実は、前々から協会は、日坂巡さんに目を付けていました」

「はい?何ですいきなり」

「聞いてください。【拡大鞄】のスキルは、それだけ貴重・・・いや。世界で現状唯一確認されたスキルなのです」

「らしいっすね?でもそれがどうしたんですか?」

「スキルにはある現象が起こることがあるのですが、それによって齎されるものを期待していたのですよ、我々は」


だから注目していた。

万が一俺と組めなかった時は、協会側で雇うのはどうかって話が出たくらいに。

しかもかなり確定していたそうだ。

それだけ、【拡大鞄】は有用だと判断されていたのだ。


まぁ分からんでもない。

俺だってその恩恵にあずかっていたわけだし。


しかし、スキルに起こる現象って・・・曖昧だな。


「でも。その話が今と何の関係が?」

「彼女が冒険者を辞めようとしている事に関係してます」

「・・・はっ?」


なんだ、それは。


「どう、いう」

「元々、彼女に関してはうちで直接雇おうという動きがあるくらいの注目株です。

 なので辞めようとした場合は引き留める事は当然ですよね?」

「まぁ・・・」

「だから彼女の周りに関しては、色々調べていたのですよ」


そして判明したのは・・・日坂さんの母親の事。

俺が知ろうともしなかった日坂さんが冒険者になった理由。

何で普通の仕事を辞めてまで冒険者になったのか。


「彼女の母親は、ある時大きな病に罹ったそうです」


桜木さんが話してくれたのは、日坂さんの家族の事だった。


「末っ子の女の子が生まれてすぐだったそうです」

「それは」

「旦那さんは、何とかしようと懸命に働いたそうです」

「・・・働い、た?」

「亡くなってるんです。過労で」


日坂さんの母親の旦那さん。

彼は日坂さんのお母さんを助けるためにかなり無茶をしていたらしい。

どうも治療には、莫大な費用が掛かるという話だ。


その為に身を粉して働いて・・・自分が体を壊した。


そして亡くなってしまった。

病気で弱った妻と、子供達を残して。


「ですが奇跡的に奥さんは体調を回復させたんです」

「なら良いんじゃ?」

「回復と言っても、万全ではありません。無理をすれば、また」


日坂さんが高校を出てすぐに働き始めたのにはそこが関係しているようだ。


暫くはそれで問題なかった。

だがお母さんの体調は、思っていた以上に悪かったのだ。


「何度か倒れる事もあったそうです」

「・・・」

「そこで日坂さんが、一度にまとまった収入を得られる冒険者になった・・・ここまでは良いですか?」

「はい」


そこまで聞いたから、俺はそこから先を予想出来た。


「その後は紆余曲折あって、戸村さんと出会ったわけなのですが・・・」

「・・・また、倒れた?」

「はい。そして今度は」


命が危ない。そういうことか。

だから日坂さんは、来なくなったのか。


「で、冒険者を止めるって話は?」

「日坂さんが冒険者になった理由がなくなるからです」

「・・・そうか。お母さんが死んだら」

「はい。弟と妹はいますが・・・言い方は最悪ですが、楽になりますから」

「態々危険なダンジョンに行く必要がなくなると」


どうも日坂さんの前の職場はかなり良い場所だったようで、何かあったらまた戻ってきてと言っているらしい。

成程。そら辞めるわ。冒険者を続ける理由がない。



だが



「ですが問題は」

「日坂さん自体の問題」

「はい・・・私は、そちらの方を危惧してます」


ああそうか。そういうことか。

だから俺は遠のくと感じたのか。


でもそれはやっていいのか?

あの人が俺に言わないってことは、助けを求めていないという事。

望まれていない救いを与えていいのか?


それは・・・許されるのか。


「戸村さん・・・っ!?」

「いやだが・・・これは、俺の」

「・・・戸村さん。戸村さん!!」

「ああ?・・・ああ、桜木さんか」

「だ、大丈夫ですか・・・?」

「何が?」

「い、いえ・・・」


しかし。しかしだ。

恐らく、俺が我慢できない。


ああ理解したぞ。


「ねぇ。桜木さん」

「な、何でしょうか?」

「日坂さん・・・今、何処にいます?」


本来なら答えてくれないだろう。

同じチームとはいえ、そこは個人情報だ。


だが答えないは、許さない。


是が非でも、答えてもらう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] “だから彼女は母親を助けるために、本来手を付けてはいけないお金に手を付けた。 彼女たちの為に、両親が残していた進学貯金に。” ここは助けるためにって言ってるのに倒れたってのはショックで…
[良い点] 感想見た感じかなり評判悪いですが、日坂さんの気持ちは多少理解出来るなぁ…自分も色々挫折した側ですし。
[一言] ここまで面白かったのにいきなり無駄なフラグを立てるもんだから冷めたわ……フラグたてるにしてもちょっと無理矢理過ぎる気がする……まじで貧乏人なら手段とかてめぇのプライド何てとっくの昔に捨ててる…
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