強敵を求めて
ある日、家でくつろいでいるとこんなことを言われた。
「お兄ちゃん最近楽しそうだね」
「は?楽しそう?」
「うん。なんて言うか・・・満たされてるって感じ?」
「うーん・・・あれかな、目標が近づいてきたからかな」
「現実的になったってこと?それは良かったねー」
「いやぁ・・・まぁ多分肉の数減るけど」
「それは許さないけど???」
「どうして・・・」
「でもちょっと残念だなー」
「はい?」
「いや。チーム組んだって聞いたし。女の人なんでしょ?」
「そうだけど・・・ああいや。そういう方向はねぇよ?」
「ちぇ」
日坂さんとチームを組んで早二週間。その間で九と十層に挑み続けていた。
結果的に、日坂さんはきちんと逃げることが出来る人で、俺は戦いに集中出来るのが判明した。
前も思ったが、やはり隠れるのが上手い。
全く誰にどんな才能があるかはわからない物だ。
なにせ本人も自覚してなかったわけだし。
まぁ戦闘に直接使えないのであんまり意味ないと項垂れていたが。
そこは・・・うん。他の才能がね?隠れるだけうまくても意味ないわな。
しかしそれも含めて考えて、俺がちょっと前から考えていたあることを実行出来るのではないかと思い始めた。
この数日間それをしなかったのは、日坂さんの能力の底上げを図ったためだ。
「えぇ!?良いんですか!!??」
「必要な事ですしね。俺は経験が得られれば良いんで」
こんな会話があったのも数日前の事だ。
要するに、俺が瀕死にさせたオークたちを日坂さんがとどめを刺す。
これだけでレベルは上げられるのだ。
戦いの経験が積めないので強くなったかと言われると俺は絶対にノーと答えるが。
前に経験値が欲しいとは言ったが、多少なら譲っても問題ない。
この程度なら将来への投資と考えればむしろ安い安い。
結果、日坂さんのレベルはあっという間に十を越えた。
その日の探索が終わった後に、日坂さんは何度も自分の冒険者カードを眺めていた。
よほどうれしかったのだろう。
「戸村君戸村君!」
「何です?」
「今日はいつまで潜るんですか?休日だから夕方までですかね!」
「そうですねー」
そうしたこともあってか、日坂さんは大分肩の力が抜けてきた。
今まではなんと言うか。私がやるしかないんだみたいな使命感?強迫観念ともいうか、があった様に感じた。
だけど徐々に薄くなって、最近では全く感じなくなっていた。
スキルの【鞄拡大】も使い続けて、中身を詰込み続けた結果効果が上がっている。
最初に出会ったときと比べて魔石が五個分くらい容量が増えたかな。
だから今日の日坂さんは結構張り切っている。
今日いつまで潜るかなんて今まで聞いてきたことなかったのに。
そしてそんな日坂さんに対して非常に申し訳ないのだが・・・
「今日はワンチャンすぐに帰るかもしれないですねぇ」
「・・・え?」
そう告げると驚いたような顔をする日坂さん。
そしてすぐに手を伸ばして背伸びして・・・
「あ、あの屈んでもらえますか?」
「はい?」
まぁ良いけど。
屈むと日坂さんの手がでこに触れる。
この動作って・・・
「いや熱は無いっすね」
「だ、だってあの戸村君がすぐに帰るなんて風邪としか」
「俺の事よくわかってくれたみたいで何よりですね」
だが風邪ではない。
「いやちゃんと理由がありましてね」
「そうなんですか?。あ、もしかして妹さんが体調不良とか?」
「風邪から離れてください」
千尋が風邪引くなんて今まで見たことないぞ俺。それこそまだあいつが赤ん坊の時くらいか。
リアはちょくちょく体調崩すけど毎回一晩で治るからそっちも困らない。
俺?嫌だなぁ。俺が風邪ひくわけないでしょ。
というかいい加減風邪の話をやめよう。
別に何か用があって早く帰るわけではない。
ただ結果的にそうなる可能性が高いってだけの話だ。
すると何となく嫌な予感がしてきたのか、日坂さんの顔が曇る。
「あ、あの・・・何をする気で・・・」
「・・・まぁ行きましょうか」
「ちょ!?戸村君!!??」
「あ、あとこれ持っててください」
「へ、あちょ・・・煙玉??」
「それ無いとワンチャン死ぬんで」
「・・・え゛っ。もしかして」
気が付かれたらしい。まぁ構わんのだが。
「今日はボスに行きます」
「・・・えぇぇぇぇぇ!!!???」
非常にわくわくしております。
さて、ボスとはいったい何だという話だな。
これはどこのダンジョンも共通なのだが、十層毎にボスが存在している。
そのボスは同じ種類のモンスターより強化されている特別なモンスター。
要するに罠とか踏んで出てくるあれと一緒だ。違いはスキルは絶対に手に入らないってこと。
今回は俺たちがいるダンジョンのボス、オーガとゆかいな仲間たちに挑もうというわけだ。
このボスを倒すことは冒険者にとって一つの目標となっている。
それはボスを倒すことで実力の証明になるというのもあるが、倒した際に手に入る物が、運が良いととんでもない額で取引されるからだ。
日坂さんが驚くのも無理は無いというところか。
「い、いやいやそういうことじゃなくって!」
「なんすか」
「ボスは一人で戦うものじゃないでしょう!?」
「ハハハハ」
「冗談言ってないですけど!!??」
ボスにも階層と同じで、推奨レベルが存在している。
そのレベルは割とあっさり超えているから問題にはならない。
問題となるのは、推奨チーム人数だ。
ボスは基本的に四人以上で戦うことが推奨されている。
だが当然、俺はそれを無視する。
日坂さんに煙玉を渡したのも俺が戦うのに集中するためだ。一個千円で結構高いんだあれ。
値段を聞いて日坂さんは煙玉を落とさない様にすぐに鞄にしまった。
この人変なところで貧乏性だよな。別にその程度簡単に稼げるのに。
「はいはい行きますよー」
「ヒェェェェ・・・」
何だかんだ逃げないのは、ちゃんと分かってるからなんだろうなぁ。
「はいやってきましたBOSS部屋前」
「何で発音良く・・・しかも今日に限って誰もいないしぃ」
「ラッキーっすね」
「あんらっきー・・・」
ボスは一度倒されると十分間はその部屋を自由に通ることが出来る。
だけどその時間が過ぎるとボスが復活。再度倒さないと先に進めなくなる。
だからボスに勝てないけど先に行きたいという場合には別のチームが来て倒してくれるのを待つのも一つの選択肢になる。
普段はそのドロップや報酬の良さから結構討伐待ちの列が出来たりするんだけど、運が良いことに今日は誰もいなかった。
「ほら。内容全部分かってる上にやろうと思えば封殺できるんですから行きますよ」
「そ、それはそうですけど・・・心の準備が・・・」
「そうこうしてるう間にドアドーン!!!」
「えぇ!!・・・もう驚くのも疲れちゃった・・・」
ルンルンでドアを蹴って開けるとそこにはしっかりボスの姿が。
ボスは開けた扉を閉じない限り襲ってこない。そしてこちらからも攻撃出来ない。
なので戦うためにはドアを閉めないといけないんだが。
「早く入らないと閉めますよ?」
「私ここで待機じゃダメですか?」
「良いですけど報酬減りますよ?」
「うっ。そうだったなぁ」
ボスは部屋の中の人数によって討伐時の報酬が変化する。
少ない程良い物が、人数分出てくる。
その為完全に一人で挑むよりも二人くらいで挑むのが報酬だけを見るなら最も効率が良い。
日坂さんがそろそろと部屋に入って端っこに行くのを確認すると扉を閉じる。
完全に扉が閉まり切った瞬間、背後から矢が飛んできた。
「戸村君!!」
「はい?」
音は聞こえたので首を傾げて躱す。この程度に当たるわけが無い。
ボスの内容はオーガ二体、今まで見たことのない装備をしたゴブリンが二体。
ゴブリンは二体とも弓を持っている。射ってきたのはこのどちらかか。
だけどぶっちゃけゴブリンはメインじゃない。
俺の目的はオーガの方だ。
個体的に見れば、オーガは鬼の劣化個体だという。
だが俺の戦ったことのある鬼、罠を踏むことで出現した特殊な鬼。
モンスターが本来いないはずの階層に罠などで現れた場合、その階層に応じた弱体化が施される。
されてなお、初心者と言われるレベルの冒険者を軽く殺せるレベルの能力はあったのだが。
長々と語ったが、俺の目的は俺の記憶にある鬼とオーガを比べることだ。
レベルも上がった今、本来は比べるものではないとわかっているが・・・どうしても気になったのだ。
一体俺は、あの時と比べてどれだけ強くなったのかを。
「日坂さん隠れといてねー」
「わかってますよ!!」
そう言うや否や、日坂さんが煙玉を地面に叩きつける。
すると日坂さん付近が煙で覆われて姿が見えなくなった。
俺と話したことで日坂さんを認識したゴブリンがそちらに弓を向けていたが、煙が出ると混乱したかのようにオロオロし始めた。
そう。ここのボスの攻略法がこれなのだ。
こいつら、文字通り煙に巻くことが出来る。
ゴブリンは攻撃すらままならなくなるから倒すのが非常に簡単。
オーガは流石にそこまでは行かないが、まぁ戦闘力は大きく落ちる。
日坂さんに煙玉を持たせたのはこのためだ。
モンスターに狙われない様に、ゴブリンを手早く処理するために。
「いっちょうあがりー」
迫りくるオーガの間を抜けて、未だ混乱していたゴブリンを二体とも斧で潰す。
一体は上段から斧を振り下ろし、二体目はそのまま横に薙ぐ事で倒した。
その辺りでちょうどオーガが追いついてきた。
その場から飛び退くと、ちょうど俺にいた位置にこん棒が叩きつけられる。
重い物が叩きつけられた音が部屋の中に響く。
「パワーは特殊鬼以上・・・かな」
少なくともあいつのパワーで投げられたものを受け止めたくは無いな。
やったら今度は骨折だけじゃ済まなさそうだ。
斧を肩に担いで、剣鉈を左手で持ち構える。
「良いね。楽しくなってきた!」
この胸の高鳴りはいつ以来だろうか。
鬼の時は、周りに守らないといけない奴がいたからそんなこと考える余裕は無かった。
それ以降は強いと思える敵に出会えず、はっきり言えば退屈していた部分はある。
オークはその点良かった。強さという点では最初はともかくあっという間に物足りなくなってしまったが、肉が美味しかった。
だから単純な強さで、楽しみだと感じたのは久しぶりなのだ。
日坂さんが狙われることは無い。
もし俺が負けそうになっても、煙玉を投げてもらえる段取りになっているから最悪もない。
命がけだが、比較的安全な状況。まるでゲームの中で戦う気分だ。
「シャァァァァ!!!」
「「ガァァァァ!!!」」
吠える様な叫びが、戦闘開始の合図だった。




