ダンジョンの定番肉
魔石三十二個
オーク肉いっぱい
その他もろもろドロップ品
俺が今まで一回の探索で持ち帰っていた成果がこれの半分以下であることを考えると、いかに破格かわかるだろう。
「ま、魔石だけで二十万越え・・・?」
「うーんやっぱりこれくらいかぁ」
「何で不満げ・・・?」
魔石の相場価格は基本的に階層が下の魔石ほど高くなる。
そしてその価格の上がり方はある一定の階層で大きく変化する。
九層なんかはまさにそうだ。こことそれより上の階層の魔石では大きな差がある。
ではさらに下に行くとどうなるかというと、一気に跳ね上がることは無い。もちろん上がり続けはするのだが。
もちろん魔石としては下の階層の物の方が良いのは間違いない。
それでも上がらないのは、現状ではそれだけの魔石は持て余すという現状があるからだ。
魔石の主な使用法としてもっとも利用されているのは魔石の魔力を吸収することだろう。
簡単に言うと、それをすることで人間は健康になる。
若返るとでも言った方が良いのかもしれない。それだけ魔力には力がある。
これはダンジョン内でレベルを上げれば同じことが起こるのだが、まぁ誰しもがダンジョンという危険な場所に来たがるわけではない。
時間が作れないという人も多いしな。
あと一応言っておくが、別に不満なわけではない。
俺と同じくらいの階層に潜る冒険者に比べたら俺たちははるかに稼いでると言える。
これは出費の少なさが大きな理由だ。
日坂さんは逃げるだけ、俺は戦うだけだがそれらに消耗品を使うことは無い。
精々水と食料くらいなものか。それだって大した額にはならないし。
怪我もしないから医療品も減らないから補充しないしな。
「ところで、肉どうします?俺は一部持ち帰りますけど」
「あー。うー・・・持って帰ってもいいですか?」
「全然いいっすね。そもそも二人で分けたんでお好きにって感じです」
「そうなんでしょうけども」
とにかく、魔石というのは現状では人が魔力を吸収するのに使われるのが多い。
だからあまり下の階層の魔石があっても意味がないのだ。
一般人が求めるのは、しっかりと効果が出るほど魔力があり、お手頃価格、予算を越えない魔石だ。
つまり、1~8までの魔石は一般向け。それ以降は研究所、企業向けといった一種のラインがある。
研究所や企業が買うような魔石は逆に良い物であればあるほど良い。
なので下の階層の魔石は高値で売れる。でもあまり高くなりすぎることは無い。
どこも無限に金を出せるわけじゃないからな。そこばかりは仕方のないことだ。
研究といえば、今は魔石を利用した発電方法の研究が行われていたはずだ。
エコでエネルギー問題の解決にもなるとかで結構注目を集めている。そもそもある程度はもう形になってるんじゃなかったか?
「それじゃあ今日は解散で。お疲れ様でしたー」
「あ、お疲れ様でしたー!」
日坂さんは足早に帰途へ着いた。
あまり身の上話はしていないが、何となく想像は付く。
そもそも日坂さんの年齢で大学に通わず、就職もせずダンジョンに来てる時点である程度は察せられる。
だが深入りはあまりしたくない。人の事情に首を突っ込むのが好きじゃないというのもあるが、
それ以上にそこで起きた物事に関しての責任が取れないからだ。
面倒事の領域までいかないのならいくらでも手助けしようと考えるくらいか。
まぁそれでも、日坂さんが直接助けを請うならば・・・
いや。これは余計なことを考えたな。あまり憶測で物を言うものではない。
そもそも寄り道してる時間が俺にあるのかと言われると微妙なラインなのだから。
「帰ったぞー」
「肉!!」
「ハイ肉」
「肉!!・・・あ、お兄ちゃんおかえり」
「それは肉の前に言ってほしかったなぁ」
ここに肉に脳を焼かれた者がおる・・・妹なんだよなぁ。
ダンジョンで魔石以外で注目を集める物はなんだろうか。
答えは、食物だ。
肉でも魚でも野菜でも、なんでもダンジョンには存在する。
その中でもオーク肉は有名で、取引されることが多いものだ。
まるで高級品の様な味わいを持つそれは、今誰もが一度は食べたいと願うほどだ。
だけどそれは一般人が容易に手を出せるものではない。
これは畜産業に関わる人たちを守る為だ。
もちろん冒険者が売るので当然買えはする。だが高い。
普通の豚肉の数倍以上の値段が普通に付けられる。そしてそれでも即完売する。
なので手軽にオーク肉を手に入れるための手段は一つ。自分が冒険者になることだ。
まぁ流石に危険すぎてそれだけの理由でダンジョンに来る奴はいないだろうけど。
オークだって普通に見れば弱くは無いんだ。普通に見ればな。
千尋は俺からオーク肉を受け取ると、サクッと軽い出迎えだけ済ませ再び台所へと消えていった。
俺が九層に行ってからは大体あんな感じだ。どんだけ気に入ったんだ。
「ん?珍しいなリア」
「・・・仕事終わり」
「なるほどね」
そしてリビングにはリアが珍しくいた。普段自分の部屋にこもってるリアがだ。
事情を聴けば仕事終わりだという。それなら納得だ。
リアは人形を作る際に集中するためにそれ以外の行動をほとんどとらなくなる。
流石にトイレにはいくが、風呂は入らないし飯も食わないことがある。
だがそれはあまりにも不健康だし、逆に効率が悪くなるので普段は引っ張り出している。
だから夕飯の前の時間帯にリアが外にいることは非常に珍しい。
いるとしたら、本人も言った通り仕事終わりくらいのものだ。
「今回は短かったな。何作ったんだ?」
「子供用の人形」
「小さいやつか?珍しいな」
「貯金したい。お金が良かったから」
「へぇ」
ソファに横たわると、テレビの電源を入れてチャンネルを変える。
普段俺しか使わないから基本リモコンは俺のものだ。
大体こうなると俺たちの間に会話は無くなる。
だけどそれに居心地の悪さを感じたことは無い。むしろ安心感すらある。
しかし、今日に限ってはいつもとは違うようで。
テレビを見ていた俺の顔に影がかかる。
ふと上に視線をやると、リアがこちらを見て立っていた。
「ん?どうした?」
「質問がある」
「おーん?まぁいいけど」
珍しいこともあるもんだ。リアが質問とは。
いや別に全くされないわけじゃない。でも大体は俺たちが勝手に話すことが多いからリアから聞いてくることがないんだ。
今日はよっぽど興味がある何かがあると。しかも俺に関係することで。
そうなると・・・ダンジョン関係か?
「今何層にいる?」
「今?まだ九層だけど」
「今日は妙に物が多かった」
「ああ、それか。実はさ」
飯でも食いながら話そうと思ってたけど別にいいか。
日坂さんと出会ったこと、そしてチームを組んだことを話す。
お陰で大量にドロップ品を持ち帰れたことも同時にだ。
すると納得したのか頷いて、そのあと顎に手を当てて考え事を始めた。
何となく起き上がってみると空いたところにリアを座らせてみる。
素直に従ったので完全にこっちに意識向いてないな。
でも考えが纏まったら流石に気が付く。
「・・・?。何で?」
「何となく??」
「そう」
なら仕方ないと言わんばかり。それだけで話が終わる。謎の時間だったな。
「その人とはずっとチームを組むの?」
「今のところはそうしたいなーとは思ってる。色々条件良いからな」
「条件?」
「ああ。戦闘は俺だけ、ドロップ品は均等配分」
「???。それ、良いの?」
「最高だね」
実のところ、この条件を決める際にちょっともめた。
戦闘無しなのは良い。そもそも日坂さんは戦えないと自分でも言っているのだから。
しかしそれでドロップ品を均等に配分するというのを日坂さんが嫌がったのだ。
自分は荷物持ちしかしていないのだから、均等はおかしいと。
まぁ言いたいことは分かるが、別に金銭がメインの目的じゃない俺からしたらそこはどっちでも良い。
正直経験値の問題の方がよほど関心が高い。
結局俺が押し切って均等配分にした。帰り際に日坂さんが終始浮かない顔をしていたのはそのせいもあるだろう。
それを説明すると
「相変わらず」
「何がだ?」
「何でもない」
一瞬ムスッとした表情を見せるがすぐに戻った。
でもそれは本当に一瞬。次の瞬間には別の話題にいったので俺も言及することは無かった。
「じゃあ問題は解決したのね」
「したした。これからが本番だわな」
「ふーん・・・じゃあ一つ頼みたいことがある」
「あん?俺に?ダンジョンで??」
はて、リアがダンジョン関連で俺に頼みそうなことなんて・・・ああ、あるか。一個あるか。
俺はそれを大分前に聞いている。
確かあれは糸の話だったか?
それは正解だったようで、リアが俺に頼んできたのはダンジョン内のドロップ品を手に入れることだった。
「十七層にいる蜘蛛の糸が欲しい」
「十七?まだ八つ下だぞ?」
「期間は問わない。手に入れば一年後でも良い」
「随分気長だな。普通に買った方が良いんじゃないか?」
「・・・回ってこない」
今度は先ほどよりわかりやすく表情が変わった。
誰が見てもわかるくらい、私不満ですといった感情が伝わってくる。
それだけ欲しい物のようだ。
「でもあんまり詳しくないんだけどさ」
「うん」
「実際何がそんなに違うんだ?」
いや、こいつが人形を作っている関係で話は聞くから俺も糸の重要性は分かっているつもりだ。
可能なら丈夫な物で、細いものが良いくらいの認識ではあるが。
確かにダンジョン産の糸はその条件を満たしている。
だがそれは今世界中にある普通の糸と比べたとき、そこまで大きな差があるとは思えないのだ。
オークの肉は確かに普通の豚肉と比べると美味しい部類になる。
だけどそれは食べ物だから実感しやすいのであって、そうでないなら分かりづらい気がする。
つまりこいつの商品にそれを使っても、買い手はそれを認識できずに無駄に価格だけ上がることになりかねない。
そうなれば困る・・・困ることは無いが売れなくなるのは確実だろう。
なのでそんな質問をした。してしまった。
「・・・ソウジ」
「は、はい」
「今夜寝たくないのね?」
「すみません俺が悪かったです」
にっこり笑う表情を見て地雷を踏みこんだことに気が付いた。
いかんこれはあまりにも迂闊だった・・・!!
この話の何が地雷だったか。
売れなくなるあたりか?客は価値がわかってないといったあたりか。
違う。リアが怒ったのはそこじゃない。
怒った理由は、俺が彼女が何故人形を作るのかをうっかり忘れてしまったからだ。
「良い子の為には、良い物がいるの。分かるわよね?」
「ウッス」
彼女が人形を作るのは、俺がアークオリンピアで剣豪無双に勝ちたいと思っているのと似たような理由だ。
要するに具体的な理由なんてなく、ただそうしたいから。
そこに妥協などというものは存在しない。あるのはひたすらにそれを求める心だけ。
だから少しでも彼女の作品を作る上で良い物があるのなら、彼女はそれに対して労力を惜しまない。
特に自分の作った人形たちを自分の子供の様に扱う彼女にしたら、僅差は大差なのだ。
そんな大事なことを、家族である俺がすっかり忘れていたとしたら・・・まぁ怒るわな。
いや怒られたところで怒鳴られたりとかそういうのはされない。
ただひたすら、笑顔か真顔で詰められるだけで。
それが逆にメンタル的に来るんだよなぁ。あと単純に長時間拘束されるので寝れなくなる。
一応その時間はリアの機嫌や体力、或いは製作の途中かによって変わる。
そして今回はダメなパターンを全部引いた。
逃がさないとばかりに脚を絡めてくる。手もこちらの手首を掴んできているあたりマジでガチな奴が来ている。
・・・本当に今日は寝れないかもしれない。色気もくそもない理由でそれは勘弁願いたい。
俺ダンジョン帰りなんだけどね。
しかし、今回は救いの手があった。
「ご飯できたよー」
「リアさん?」
「・・・仕方ないわね」
タイミングよく千尋が声を掛けてきた。
しかもこちらで何が起きているのか分からない位置でだ。
これがもし見られると何かを察して奴は逃げる。なんて薄情な妹なんだ。
でもそうじゃないなら素晴らしい妹だ。
リアは基本千尋には逆らえないから、ご飯だと言えばご飯が優先される。
そして時間を置けばリアの怒りも収まる。
勝った・・・勝ったぞ・・・ッ!!
リアが仕方ないといった具合に立ってテーブルに向かうので俺も一緒に行く。
何故か手首をつかまれたままだからな。
そしてテーブルについて千尋の一言。
「お兄ちゃんはもうちょっと考えて発言しようね」
「ウッス」
「これで勘違いしてるんだからなぁ」
「はい???」
「チヒロ」
「分かってるって。ほら冷めないうちに食べて食べて~」
「ん?まぁそうするか」
「せーの」
「「「いただきます」」」
何か聞き逃した気もするが、まぁ気のせいか。
余談だが、今日は生姜焼きだった。
「え、うっま。漬け込んだのかこれ」
「違うよー。ただちょっといつもと違う作り方した」
「・・・お代わり」
「お姉ちゃんがお代わりとは珍しい。今持ってくるねー」
夕飯のお陰で、リアのお説教は無くなった。
ありがとう千尋様。




