学校にて
「学校行きたくねー」
「あれ。珍しいね。お兄ちゃんがそんなこと言うなんて」
「・・・いじめ?」
「いや違う。ていうかその場合やり返しにいくだろうから登校はする」
「あーやりそー」
「じゃあ何で」
「・・・俺が行くと雰囲気重くなるんだよなぁ」
「「はぁ?」」
学校内での俺の立場は現在非常に面倒なことになっている。
例の件でのことを聞いて、そういう人なのかと思い距離を取る。
よく知らないけど噂ではそうらしいと遠巻きに見る。
クラスメイトは当事者たちの怯え様を見てこちらを見ようともしなくなった。
なのでクラス内の空気は最悪に近い。
昼休みの時間とか俺が気を使って出ていくくらいだからな。
別に俺悪いことしてないのに、何かやらかした気分だ。
それでも一応、俺に関わろうとする人はいる。
「とむら~」
「お前は本当に何なんだろうね?」
「はい?何が??」
お昼休みの時間になり、教室を出ようとした俺を呼ぶ女子の声。
例の件があってから。いや、それより前からも時々こうして呼ばれていた。
「お前は変わらんね遠島」
「何・・・?あと真昼でいいって言ってるじゃん。姉さんと分からなくなるし」
「考えとくわ」
遠島真昼
冒険者研修で同じチームだった遠島の双子の妹。
これを知ったのもその日だったな。
高校に入学してから初めての友人だと思う。タイミング的に。
何せ入学式でいきなり声をかけられたからな。
教室前にいても邪魔になるので誰もいないところが良いと移動する。
裏庭の花壇前は隠れスポットだ。人はあまり来ない。
俺は妹お手製弁当。遠島も弁当。これは毎日変わらない。
遠島の弁当箱が何か高そうな木材のやつで最初はビビったが。
「それで?今も変わらないかんじ?」
「変わんないな。何かする気もないけど」
「あらら。まぁ実際できることってなさそうだからなぁ」
話は俺のクラスの事だ。
あのクラスの現状は、他のクラスにも知れ渡っている。
事実が人を介する過程で内容に変化が起きるってことは無かったのは幸いか。
あ、でも俺が鬼を倒すときに笑ってたって話はあったっけ。
そのせいで戦闘狂扱いされてるらしい。そこだけは大変遺憾である。
これを遠島に言うと、微妙そうな顔になり、
「いや否定は出来ないんじゃないかな」
「何故に」
「アークでの戸村見てるとなあ」
「グウ」
思わずグウの音が出た。
遠島は俺がアークオリンピアのプレイヤーであることを知っている。
俺から教えたわけではなくて、偶々動画を見ていた所に俺の戦闘動画が流れてきたらしい。
それをちらっとだけ見て、最近似たような人見たなと思ったら俺だったらしい。
なんともまぁ変な縁もあることだと、その時は驚いた。
確かにアークでの俺は戦闘狂と言われても否定できない。
何せ暇があれば常に対戦に潜り、その辺にいたマスターランクを捕まえて戦うことも頻繁にやっている。
目と目があったらアークバトル・・・とまでは流石にいかないが、とにかく戦闘回数が多い。
多分全体で見ても俺より上なのは少ないんじゃないかな。
俺の場合戦いの経験値がそのまま戦闘能力に直結する部分があるから。
本来なら回数だけこなしても意味はない所をあえて回数をこなす必要があった。
「まぁ俺のことはもういいんだよ。そのうち慣れるだろ」
「そうだねー。結局君が何もしないと思われればいいんだしね。何か噂流したりしよっか?」
「いいよ面倒くさい」
こんな提案をさらっとしてくるあたり、遠島にも心配させているな。
こいつ自身は容姿の良さと性格も相まって非常に友人が多い。
だから今言ったことは本当に出来ることなのだろう。
でも態々やらせるようなことでもない。
俺が言った通り、時間が経てばそのうち落ち着くはずだ。
人間ずっと同じ感情を持ち続けるのは難しいからな。
精々俺がやることは、大人しくしておくってくらいかね。
「ところで、お前今ダンジョン行ってるんだって?」
「そうだよー。戸村も一昨日いたね」
「は?お前あの時いたの?」
「うん。何か美人さんと一緒にいたようだけど・・・?」
にやにやしながらそんなことを聞いてくる。こいつ分かってやってんな。
「研修の時の監督官だよ。タイミング合ったから一緒に潜っただけだ」
「やっぱりー?それにしてもラッキーだね。監督官さんと一緒なんて」
「まぁそうだな。俺より強いし。色々教わったよ」
桜木さんからは、探索中に色々覚えておくと便利なことを教えてもらった。
特に長期間ダンジョンに滞在する際の食糧やら水についての知識は面白かったな。
ある階層にいるモンスターはそのまま食べられる物をドロップするから、そこまでの分があれば意外とどうにかなるってのが特に。
「どの階層まで行ったの?」
「三層。二層にいられると邪魔だって」
「あー。まぁ話聞く感じ、上にいると人の獲物奪っちゃうことになるのか」
「おんなじこと言われたよ。んで、三層でも足りないから装備整えたらすぐにまた下だって」
「え?またその人と一緒にダンジョン行くの?」
「あ?まぁ・・・タイミング合えばじゃないか?そもそも行くか決めてないけど」
「えぇ!?」
何やらとんでもないことを聞いたかの様な反応の遠島。
別に変なことを言ったつもりはないんだがな。
不思議そうにしている俺を見て、今度はため息を吐いた。なんだこいつ。
「えーっと。戸村ってそもそもまだ冒険者やるつもりないの?」
「無いっていうか。決めかねてる感じ?」
「はい?」
初期投資のコストについて説明する。
すると納得してくれたらしく、半ば呻きながら天を仰ぎ始める。
「あー。だからかぁ」
「だから?」
「いやこっちの話。でもそっか、下に行くの確定だからもっとお金かかるよね」
「最初に想定してたのよりかかるんだよな俺の場合」
実は桜木さんにも同じような話をした。
その時に言われたのだが・・・
『え?足りない?』
『はい。戸村さんの場合これでは全然足りません』
想定していた額の話をした時にそんなことを言われた。
一応ネットで色々調べて、マナやアーサーが最初にしていた準備も参考にして出した数字だったから自信はあったのに。
でも理由を聞くと納得せざるを得なかった。
現状俺の適正階層はかなり下になる。そしてどこまで下に行けばいいかわかっていない。
そしてネットなどの参考にした情報は、一層から下に向かうための準備の情報。
いきなり三層以下の階層に挑む様な人間がする準備としてみるなら心もとなかったのだ。
これがどこの階層が適正ですと確定しているのなら良かったのだが、そうじゃないからな。
ある程度深いところまで行くのを想定して、準備もそれなりに必要になってしまう。
そんなことを聞いて、より足が遠のく。流石に許容範囲を超えちゃったし。
「やるにしても中途半端な状態でやるのも・・・なぁ?」
「何となくわかるなぁそれ。やるならキチンとした状態でやりたいしね」
「そうそう。でも金がなぁ」
「あははは・・・そこはどうしようもないね」
一応手がないわけでは無い。桜木さんにそのあたりも教わったから。
だけどなんというか、あんまり性に合ってなさそうな感じがすごくしている。
選べる手段で一番楽しそうなのはゴブリンの魔石集めだ。
でもあんまり強くないし、個人的にゴブリン嫌いだしでやる気が起きない。
わがまま言ってる自覚はある。でもそこは非常に大事だろう。個人的な最優先事項まである。
そんな話をしながら弁当を食べ終わったら教室にもど・・・らない。
今戻ってもまた空気重くするだけだしな。
遠島もそれに付き合ってくれるのか、片づけはするが立とうとはしない。
なので話が続く。今度は遠島の話だ。
「は?遠島さんと一緒に潜ってるのか?」
「そうだよ。あと遠島が混ざってるから私は名前でね?」
「前向きに検討する」
「それしないやつだよね?」
遠島がダンジョンに行っているとはここにきてすぐに話たが、まさか姉の方も一緒だとは。
遠島・・・雪夜だっけか。
割とクラスメイトの名前の方ってあいまいなんだよな。苗字は何とかなるんだが。
姉の方は、妹の方と違って大人しい。というか引っ込み思案か。
研修時にも話していたが本人はあまり人付き合いが得意ではないそうだ。
だから彼女がまだダンジョンに行っていると知って驚いた。
「正直。トラウマにでもなってると思ったがな」
「まぁ姉さんにも色々あるみたいなんだよね。誘ってきたのもあっちだし」
「ますます意外なんだが・・・」
どうも妹の方から言い出したことではないらしい。あの人がねぇ・・・
元々俺と一緒で冒険者やダンジョンには関心が無いように見えたんだが。
一応彼女たちは今は四人でダンジョンに行っているらしい。
遠島姉妹と、大学生の親戚とその彼氏の四人。
親戚と彼氏さんはそれなりに経験はあるが、そこまで本格的な冒険者ではないらしい。
今は二人の様子を見るのに1か2層で活動しているんだとか。
「実際どうなんだ?コウモリとかってキツいのか?」
「どうだろ。私はあんまり苦戦って感じはしないけど」
「けど?」
「姉さんが大変そうでさ。あんまり運動得意じゃないし」
「ますます何でダンジョン行ってんだ?」
「さぁ?」
妹も知らないって本当に何が理由で・・・欲しいものでもあるのかね。
ダンジョンに潜る理由として、今最も多いのはお金の為だ。
魔石はどこの階層の物でも小遣い稼ぎにはなる。
桜木さん的には四層より下に行くと一気に効率が良くなるんだとか。
でもこの理由で遠島姉がダンジョンに行くとは思えない。
小遣い制でもあんまり無駄遣いしそうに無いし。
そうなると欲しいものがあって、そのために頑張っている可能性が高い。
小遣いだけではちょっと手が出ない物とか、ダンジョンにある何かとか。
「そのあたりはどうなんだ?」
「・・・あ、だったら魔法かな」
「そっちかー」
それもまた人気の理由だ。
冒険者になる人の八割は魔法を使ってみたいと、何かのアンケートであった。
俺個人は魔法があっても無くてもどっちでもいいんだが、世間的にはやはり魔法は人気だ。
何せアニメやゲーム、漫画の世界の力や技を使えるかもしれないんだ。
ファンなら誰だって飛びつくだろう。実際飛びついた人は多い。
でも魔法を覚えるのは非常に大変だ。
何せ手段がマジックブックを手に入れて読むことでしか覚えられない。
しかもこのマジックブックは非常に貴重で、手に入れても売る冒険者はごく少数。
自分や仲間が使わない魔法でもそのうち使えるかもしれないと残しておく人が大半だ。
なので魔法を手に入れようとするなら自分でダンジョンに行くしかない。
遠島姉がどれくらい魔法への憧れがあるかは知らないが、妹が理由として思いつく程度にはあるんだろう。
それならまぁ納得しないでもない。トラウマレベルの出来事を超えられるほどかと言われると微妙なラインだけど。
「戸村は魔法とかいらないの?」
「いらないってか、あんまりイメージ湧かないんだよな」
「それはまた・・・どうして?」
「いや、やっぱり俺の戦い方のイメージってアーク内のあれだから」
「あー・・・」
アーク内の俺の戦闘方法は単純明快。能力を上げて全部まとめてぶっ潰す。以上。
ほとんど武器すら持たず、身体能力と鎧の頑強さによるゴリ押し。
近づいて殴る。遠距離なんて知らない・・・無いわけじゃないんだが。
とにかく魔法という魔法は一切使用しない。
むしろそういうのが得意なのが近くにいる分、自分が使っているイメージがどうしても湧かない。
「じゃあ流石に使えないね」
「そういうことだ」
魔法の使用には術者のイメージが非常に強く影響する。
もはや自分が使っているイメージすらできない俺では、使用することすら難しいレベルなのだ。
だからどちらかと言えばスキルが欲しい。特に身体能力を上げるタイプの。
普通の強化は持ってるからそれと被らないとなおいい。
「っと、そろそろ戻らないと不味いか」
「あ!そうだね。いやぁ。戸村と話すのはやっぱり楽しいね!」
「はいはい」
全くこいつは、高校生男子がすぐに勘違いしてしまいそうなことをポンポンと言ってくれる。
俺以外だったらそのまま勘違いしていた。




