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三題噺もどき2

さよなら

作者: 狐彪

三題噺もどき―にひゃくじゅうご。


※最後注意※

 


「……」

 雨が降り出した。

 この時期の雨の冷たさと言ったら。

 雪でもない癖に、氷を浴びているような気分になる。

 ここは風も強く吹いているせいか、なおの事冷たさが肌を刺す。

「……」

 夏は日差しに刺されて。冬は空気に刺されて。

 生きていてろくなことないなぁ。

「……」

 空にあるはずの星は、分厚い雲に覆われて、その姿を隠している。もちろん月も。

 視界で光っているのは、チカチカと鬱陶しい人口の明かりだけだ。

 星のように柔くもなく、月のように優しくもない。ただ固く、冷たい、人の作り出したその灯りだけだ。目に悪い事この上ない。

 ―雨の中車を運転したことがあるだろうか。ああいう時に、よく思うのだ。ライトの眩しさとか、目の痛さとか。余計に光が広がって見えて、もうなんだか、やってられなくなる。常にハイビームで照らされている気分だ。だから雨の中で運転するのは嫌いだ。

「……」

 しかしまぁ、星明りや月明かりだけでは生活できないことも事実としてあるから。

 いやまぁ、きっと、この人工の明かりのせいで、自然の明かりでは生活困難になったのだろうけど。

 全く本当に、生きずらいものだ。

「……」

 あぁ、しかし。ホントに寒い。

 寒すぎる。

 傘なんて持ってきていないから、雨を防ぐものがない。この身一身に雨を受けている。

 おかげで全身濡れ鼠だ。

 服が水分を含んでずしりと重くのしかかる。普段身に着けている分には何ともないのに、なぜここまで煩わしいモノと化すのだろうな、服というものは。

「……」

 足はすでに素足になっているので、濡れた靴下の気持ち悪さはない。それは不幸中の幸いという所だろうか。

 代わりにというか、当然と言うか。足の感覚はすでにない。

 冷え切ってしまって、もう既に死んでしまっているようだ。

「……」

 全身を刺すような寒さと共に、降り落ちてくる雨をうけながら。

 ぼう、と上を見上げる。

 あぁ、空がいつもより、こんなにも近いのに、何も見えないというのは、ホントに悲しい。たまには星を見たいと、何者にも邪魔をされない星を見てみたいと、こんなに近くまで登ってきたのに。

 こんなにも、うまくいかないのかと、嘆きで胸がいっぱいになってしかたがない。

「……」

 こんな時でさえ、何も味方はしてくれないらしい。

 いつも、いつも。

 味方なんて、いないらしい。

 こんな時ぐらい、神様だけでも味方してくれればいいのに。

 ―もともといなかったものに、救いを求めても意味はないか。

 最後ぐらいはと思ったのになぁ。

「……」

 ホントに、生きていてもろくなことがない。

「……」

 視線は、雲の広がる空から離れ、目下に広がる星に向く。

 これを、星に例えるのはもうなんだか、烏滸がましいにも程があるとおもうのだが。

 雨でゆがむ視界の中で、チカチカと瞬く星だ、人間が作り出した、ちっとも美しくもなんともない星だ。

 これにもう少しでも美しさでもあれば―いや、まぁ無理だな。この景色はどうやっても嫌いだ。

「……」


 びゅぅ―


「――――ぁ」


 突然一際強い風に、背中を押された。

 まぁ、当然。

 バランス感覚なんてものは皆無だし。

 もとより、そのつもりで来たから、何とも思いはしないのだが。

 せめて、もう少し心の準備とかさせてほしかった。

「―――

 あぁ、ほら。並べた靴の横に置いてあった、チョコレートを食べるぐらいよかったじゃないか。最後に、好物を食べて。口内だけでも幸せにして。そうしていこうと思ったのに。どろりと溶けるチョコレートを、口いっぱいに感じながらにしようと、思っていたのに。

「―――

 こんな時すら、何もままならない。

 思い通りにならない。

 誰も、何も、神様も。

 助けてはくれない。

 味方はしてくれない。


『さよならだけが人生だ』


 風に包まれ、落ち行く中で。

 頭の中に流れたのは。

 走馬燈なんかじゃなくて。

 昔誰かが言った、そんな言葉だった。



 お題:さよならだけが人生だ・チョコレート・星

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