~相互扶助~
「おい、兄ちゃんぼーっとして大丈夫か?」
「・・・え?」
目の前に犬の頭をした屈強な男がいた。
「え、えぇ、大丈夫です。」
「ならよかった。こんな往来のど真ん中で突っ立ってたら危ないぜ?気を付けな」
そう言って犬頭の男は笑っていた。
「これは夢か・・・?というか、ここは・・・?」
いまだにぼぅっとしている頭で記憶を辿る。
「俺は何をしていたっけ・・・」
ドォォォン!
記憶を呼び起こす前に大きな爆発音が鳴り響いた。
「大変だ!南の鉱山で爆発事故が起きた!」
「なんだって?!あそこは冒険者ギルドの管轄だろう?!今何人くらい潜ってる?!」
「数十人は潜っているらしい!」
「南の鉱山に潜ってるのはGランクの子供が多いだろう?!どの辺りでの事故だ!」
慌ただしく獣人が往来を駆ける。
「わからないがとにかく入口が塞がってしまっている!
このままじゃ全員助からない!」
ヒソヒソ
「獣人の冒険者がなんだってんだ。所詮手に職もつけれない半端もんだろう」
「汚い子供減って助かるわ。最近は鉱山のせいで治安もままならなかったですし。」
往来を駆け回っていた犬頭の屈強な男がそれを聞きつけ
「てめえら!誰のおかげで生活をおくれてると思ってるんだ!」
「マスター!揉めちゃまずいですよ!」
「黙れ!手に職とか言うが材料は誰が手に入れてると思ってるんだ!俺らが命懸けで集めてるだろうが!」
・・・冒険者?子供?
「・・・ッチ、取り敢えず鉱山に向かうぞ!」
「はい!」
犬頭の屈強な男たちは大急ぎで駆けていった。
「あの、すみません」
「・・・なに?」
俺は近くにいた、恰幅の良い女性に話しかけた。
「ちょっとお伺いしたいのですが、事故があったのに皆さん救出には行かないんですか?」
「はぁ?何言ってんのよ。鉱山に潜るのなんて孤児の子供でしょう?そういうのは冒険者ギルドとかの仕事でしょう」
「でも、子供が犠牲になってるんですよね?それにさっきの方も言ってましたが、材料が取れなくなったら困るんじゃ?」
「あんたはどっからきたのよ?どこの街でも孤児なんて掃いて捨てるほどいるじゃない。働けなくなるのは確かに可哀想かもしれないけど、それは運が悪かっただけのこと。その仕事を選んだ自己責任でしかないよ。それに獣人の事までわたしゃ知らないよ!」
「そうですか・・・ちなみに怪我をした子供たちは・・・」
「度合いにもよるさ。また働けたら鉱山に潜るし、酷かったら野垂れ死ぬだけさ。」
「そんな・・・危険な仕事なんですから補償があったりとかは?」
「『補償』?なんだいそれは?自分で選んだ道何だから、自分で責任を取る。当たり前じゃないか!そんなもの、冒険者ギルドに入る時に『説明を受けてる』だろうよ!」
ズキン
「・・・わかりました。変な事を聞いて申し訳ありません。」
俺はその言葉を聞き、鉱山があるらしい方向へ駆け出した。
「おい!『土魔法の魔導師』か、『剛力』を使える冒険者はいないか!入口が完全に塞がっている!」
「だめだ!これじゃ魔法以外でどかしたら崩落するぞ!土魔法の魔導師だ!」
現場は騒然としていた
「・・・!、さっきの人族のにいちゃんじゃないか!もしかして土魔法が使えるのか?!」
犬頭の獣人が問いかけてくる。
「いえ、申し訳ないですが、魔法を見たこともないです。ただ、いてもたってもいられず・・・」
「・・・そうか。人族もまだ捨てたもんじゃねえな。ただすまねぇ、こんな状況だから離れていてくれ」
「土魔法使いが来てくれたぞ!入口をあけろ!」
ゲームで見たような光景が広がり、崩落で完全に塞がっていた入口が開いた。
「土魔法使いと剛力を持ってるやつは中に入って救出にあたれ!それ以外はギルド行って医務室の確保だ!」
犬頭が指示をどんどん出していく。
「あの!すみません!私にもなにか手伝えることは!」
俺は咄嗟に犬頭に話しかける。
「助かる!そしたらにいちゃんには申し訳ないが、教会に行って治癒師をギルドに呼んできてくれ!俺ら獣人が行くよりも話がはえぇ!」
「わかりました!」
俺は犬頭から教会の場所を聞き急いで向かった。
「すみません!」
「どうしました?」
「南の鉱山で事故が起こり、たくさんの子供が怪我を!」
「・・・南の鉱山?あそこは獣人が多く出入りしているところですね?」
「はい!獣人の子供が怪我を!」
「・・・獣人とわかってあなたはここに依頼に?」
「獣人だから何なんですか!怪我人が出てるです!治癒師を冒険者ギルドにお願いします!」
「・・・わかりました。すぐに向かいましょう。」
「ありがとうございます!」
「にいちゃんほんとに助かった。」
「いえ、幸い子供達も大きな怪我も残らず良かったです。」
「にいちゃんのおかげだ。俺ら獣人が教会に行ってもな・・・」
「教会は治癒師を派遣してくれるんじゃないんですか?」
「あぁ、確かに教会は治癒師を派遣してくれる。ただ、人族と獣人とでは値段が違う。人族は今回くらいの怪我なら銀貨1枚もありゃおつりがくるが、獣人は少なくとも金貨1枚は取られる。今回の治療もガキどもは払えねえから、一生を掛けて払っていくことになるだろうよ・・・」
「ギルドから補償とか、補てんとかは出ないのですか?」
「そんなもの出せるわけないだろう?今回巻き込まれたガキどもには申し訳ないが、俺らから出来るのはなるべく良い依頼を回してやることだけだ。」
「そうですか・・・」
「・・・にいちゃん人族のくせに良いやつだな。ここらで見ない顔だが、最近この街に来たのかい?」
「・・・そんなとこです。この辺りの常識に疎いので色々聞きたいのですが・・・えーと」
「ラルフだ。自己紹介がまだだったな。俺はこの街ローレンの獣人冒険者ギルドのマスターをしている。今回はうちのギルドのガキともを救ってくれて、本当に助かった。ありがとう。」
「・・・インシュと申します。子供を救うのは当たり前のことですので当然の事をしただけです。頭をあげてください。」
「いや、にいちゃんも見ただろうがこの国は特に獣人差別がひどいんだ。奴隷とまではいかないが人族とは扱いが違う。そんな中でにいちゃんみたいに人族でも親身になってくれるってのは、ほんとにありがたかったよ。」
「獣人の人達はそんな苦しいなかでどうやって生活を?」
「こうやって獣人ギルドを作って人族がやりたがらない仕事を引き受けているのさ!獣人ギルドはこの街にいくつかあるが、人族は何だかんだ言いながらひ弱だからな!俺ら獣人は腕っぷしには自信がある!だから鉱山発掘や、魔獣狩りなんかの危険な仕事とかで稼いでいるのさ。」
「そうなんですね。でもやはり、力仕事だと今回みたいな危険も?」
「あぁ。何だかんだ言っても人族の国だ。鉱山とかも整備はされてねぇし、今後も国をあげては整備はされねぇ。その代わりと言っちゃなんだが俺ら獣人でも人族と同じくらい稼げる。」
「そうですか・・・ちなみに鉱山は子供が多かったのですが大人の人は?」
「大人の『人』・・・か。それはそろそろわかるだろうよ?」
バン!
その時ギルドの扉が勢い良く開いた。
「マスター!帰ったぜ!今回は大物だ!怪我も無かったから丸儲けだ!」
鎧に身を包んだ屈強な猫頭の獣人達が入ってきた。
「言ってるそばから帰ってきたか!無事で何よりだ!」
猫頭がこちらを見てぎょっとする。
「おい!何で人族がいるんだ!とっとと出ていけ!」
「まぁまて。今日鉱山で事故があったんだが、このインシュのおかげで全員無事だ。金の問題はあるがな・・・」
「なに?!・・・今日の俺らの稼ぎはガキどもの治療費に全額充ててくれ」
「それだとお前らも赤字だろう?」
「仕方ないだろう?ガキどもがさっさと鉱山を卒業して、魔獣狩りが出来るようになったら出世払いで払って貰うさ」
「・・・すまん。恩に切る。」
「・・・よし。決めた。ラルフさん、俺をギルドで雇って貰えませんか?」
「人族のお前が?見たところお前さんは良いところの出だろう?何のメリットがある?」
「私は見ての通りひ弱で魔法も使えません。ただ、あなた達を救える保険が提供できます。」
「保険?」
「えぇ。保険です。見たところギルドの家計は火の車。仕事に出て誰かが怪我でもしようものなら大きな負債を抱える可能性がある。違いますか?」
「確かにそうだが・・・」
「私のいた場所では保険を提供することでお金に困った人が出ても、困らないようにするという仕組みがありました。私はその仕組みを提供できます。」
「・・・なんでうちにこだわる?にいちゃんは人族だ。金に困ってるなら人族のギルドで雇って貰えばいいだろう?」
「俺は困っている人を助けたいんです。」
「偽善だな。同情ならよしてくれ。」
「同情なんかじゃない!俺は『今度こそ』困ってる人の力になりたいだ・・・!」
「・・・どんな物かわからないうちに『はい』とは言えねぇな。・・・ただ、うちのギルドは万年人手不足だ。何せ獣人は腕っぷしには自信はあるが、書類仕事には向いてねぇ。まずはただの職員からってのでもよければ歓迎するよ。事情はわからねぇがお前さんには何か『物語』がありそうだ。」
「・・・ありがとうございます!」
「あんたのいう保険?に関してはおいおいだ。まずはギルドの仕事を覚えてくれ。」
こうして俺は獣人ギルドにお世話になることとなった。