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盗賊物語  作者: 平一
第一章 旅立ち編
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第9話 古文書と秘宝

ここはクムラン洞窟。古文書と秘宝が眠る場所。そしてこの洞窟内では、今まさに、複数のゴブリンとそれを従えるボスゴブリンとの戦いに、決着が付いた。がしかし、安堵する二人の前に鎧を着た一匹のゴブリンが現れた。なんと生き残りがいたのだった。

「ケッケッケ」

笑いながら立ち尽くすゴブリン。そして、横たわる月花の前に立ち、刀を構えるアトラ。しかし、アトラの構えを見たゴブリンが慌てて両手を上げ、座り始めた。それはまるで戦闘の意志がないと言わんばかりに……

「ちょっ、ちょっ、待ってください!」

しかしアトラは構えを解かず今にも突進しようとしていた。

「ググッッ!」

脚に力を入れたアトラ…そして、横たわりながら二人の様子を見ていた月花がアトラの服を掴んだ。

「ガシッッ!」

「ん!?」

「アイツは殺さないでいいわ。聞きたいことがあるから」

「……分かった」

月花がアトラにそう言うと構えをやっと解き、草薙を鞘に納めた。それを見て安堵するゴブリン。

「ケッケッケ。そうそう。平和にいきましょう、平和に…」

そしてゴブリンが笑みを浮かべ立ち上がり、ゆっくりと二人の元まで歩み寄りると、月花もまた、フラフラになりながらも、ゆっくりと立ち上がった。すると突然ゴブリンが二人に頭を下げた。

「まずは、ボスから解放してくれてありがとう」

「ん?解放??」

「ケッケ、そうですよ。強い者には従わなくちゃいけないんで……それがオイラ達のルール。モンスターの理なんで……だから嫌々でも従うんですよ」

「……嫌々?だってあなたモンスターでしょ?」

月花が目を細め、疑いの眼差しをゴブリンに向け再度質問をするとゴブリンが呆れた表情で答えた。

「かぁぁ~~…これだから!いいですか?オイラ達モンスターにもいるんですよ。友好的なモンスターは!ただ人間が一方的に拒絶をして区別をしているだけなんですよ」

そんなゴブリンの話を信じられる訳がない月花であったがアトラは違った。まだこの世界の事を細かく知らない子供のアトラには、そんな話でも納得してしまう。対照的な二人の様子を見てゴブリンが二人に提案した。

「分かりました。姉さんがまだ信用してくれないんで……案内しますよ。子供達の場所に」

「聞きたかったのはそれよ!……でももし、裏切ったら……分かってるでしょうね?」

「信じてください……ゾクゾク」

「ん?……ゾクゾク」

急に寒気が襲ってきたゴブリンと月花。それもそのはず、月花の、裏切り、の言葉に反応をしたアトラは先程までとは違い、物凄い殺気と禍々しい、物凄い量のオーラを身に纏っていたのだ。

「アトラッッ!!!」

月花が慌てて声をかけた……今にもゴブリンに襲い掛かろうとしていたのか、はたまた自分にも襲い掛かろうとしていたのか……両雄に向けられた殺気は月花の呼び掛けにより一気に収まってた。

「ん?どうしたの?月花?」

我に返ったアトラがキョトンとした表情で月花に聞いた。

「どうしたの?じゃないわよ。何なのよ、今の殺気は?」

「殺気?何の事??」

過去の悲劇がトラウマとなっていたアトラは、無意識、無自覚のままその言葉に反応をしていたのだった。

「……では、お二方、付いてきてください。子供達のいる場所に案内いします」

そして、ゴブリンが二人を先導し、左の道をどんどん奥の方へ進んでいった。すると奥に進むにつれて声が響き渡ってきた。

「ギャャーーー!!」

「助けてぇ~!」

「誰かぁ~~!」

「うわぁ~~ん!」

その声は助けを求める子供達の声であった。二人は先導のゴブリンを慌てて追い越し、声の元に走り出した。そして、一番奥に到着したアトラと月花の視界には大きな空間に檻が5つ、その中に泣きわめいている子供が檻に6人づつ入れられていた。

「もう大丈夫だから安心して!私達が助けに来た。だから一緒に帰ろう」

優しく子供達に話しかける月花。その横をゆっくりと檻に向かって歩くアトラ。

「少しだけ離れて」

「うん…」

草薙を抜き檻に向かって一振りするアトラ。

「バキィィィーーーン!!」

鉄の切れる音と共に檻が切れ子供達が月花の方に走り出す。そしてその様子を見たアトラが次から次へと檻を切り子供達を救出していった。

「ねっ?罠なんか無かったでしょ?」

両手を横に広げるゴブリン。すると今度は月花にとって目を疑う意外な事態が……

「ゴブリンさん……助けを呼んできてありがとう」

なんと子供達全員がゴブリンの元に駆け寄ったのだ。

「いや、たまたまこのお二方がこの洞窟に来たから……それにしてもよかった。本当に良かったぁ~」

子供達に言葉をかけたゴブリンの表情は、本当に優しく満面の笑みを浮かべ、子供達を暖かく包み込んだ。そして、驚く月花が子供達に言う。

「何故?相手はゴブリン、モンスターなのよ?あなた達怖くないの??」

この世界の人間達にとっては当たり前の疑問。何故なら人よりも強いモンスターは、町や旅商人を襲う…そんな存在だったからだ。

「他のゴブリンは怖かったけど……このゴブリンさんだけは、違う。優しかったの」

子供達がゴブリンの手を強く握りしめ、月花の質問に答えた。そして次のゴブリンの言葉で月花のこれまでの常識が覆った。

「いいですか?さっきも言ったようにこの世界には友好的なモンスターもいるんです。ですが……その者達は少数派…だから多くのモンスターが人を襲うので区別、差別されるんです…オイラみたいな少数派は、理由がなければ人を襲わない!」

子供の手を握りながらゴブリンが喋りそれを真剣に聞き入れ頷く月花。

「……分かったわ。それじゃあ子供達と一緒に村に帰るとしますか」

檻から子供達を救出し、任務を終えたので帰ろうとする月花。しかし、その月花の言葉を聞いたアトラは慌てて止めにはいった。

「ちょっと待ってよ!!…まだ最奥の部屋に行ってないよ。そこに行きたい!!!」

アトラの大きく力づよい言葉が洞窟内に響き渡った。

「はぁ~……全く…しょうがないわね。ついでよ。早く行きましょ」

呆れた表情と大きなため息をする月花。それとは逆に目を輝かせながら好奇心が止まらないアトラがゴブリンに言う。

「ね~、今度はこの洞窟の最奥の部屋に案内して。そこに古文書と秘宝があると思うから」

「最奥?……あ~!それなら中央の道の一番奥に古代文字で書かれた書物が確かありましたけど………」

「そうそう!そこまで案内して!!」

「分かりました……でも秘宝らしき物は何も有りませんでしたよ?」

「…えッッ!??」

ゴブリンの言葉を聞いて目の輝きが少しだけ失ったアトラ…

「まぁっ、行きましょう。案内します」

そして、皆でゴブリンの案内の元、しばらく歩歩き続けると、目的の最奥の部屋に到着した…が…そこにはゴブリンが言った通り、古文書らしきものが地面に落ちているだけで、見渡しても他には何も無い、本当に質素な場所であった……その光景を目にして唖然とした様子で立ち止まる一同……するとアトラが静かに落ちている古文書の方へと歩き出すと、それに続いて皆もアトラの後を追うように歩き始めた。そして古文書を拾い上げ読み上げるアトラ……

「ここに、壁画の意味を書する。ドラゴン、笛を吹く者には道を譲り、吹かないものには試練を与える。笛の名は秘宝ハーレムン。その音、この世の全てを魅了す……ドラゴンを越えし者、セントマーチンズへの扉開けり。その楽園、この世界とは異なる世界なり……」

「笛……あッッ!!??」

そう、ここで気付いたのだ。ボスゴブリンが笛を吹いていたのを……それが秘宝ハーレムンの笛だと言う事に……

「この、おバカぁ~~!!」

「ゴツゥゥ~~ン!!!」

月花の怒号と共に渾身のげんこつがアトラにクリーンヒットしその音が洞窟内に響き渡った……

「イッッッテェェェ~~~!!いきなり何するんだよぉ~月花……う~痛いよぉ~」

大きなたんこぶが出来たアトラは、それを擦りながら泣きそうになる。

「痛いよぉ~…じゃないわよ!!あの笛さえあればこの世界で最強の存在、ドラゴンを従えられたのよ!!どうしてくれるの!!」

「そんな事言ったってぇ~……それにちゃんと月花を助けられたよ……イテテ」

その言葉に弱い月花は、アトラから視線を反らすと、モジモジしながら小声で答える。

「そ、そ、それについては、まぁ~助かったけど………もしかして直るかしら?」

「無理だよぉ~」

「無理です」

アトラとゴブリンが同時に月花を否定した。しかし月花は諦めなかった。

「物は試しよ!入り口に急ぎましょう!!」

意気揚々と月花が先頭を歩き、その後ろをついて歩く一同。そして、最初の広い空間に到着し、辺りを見渡していると、無惨にもバラバラに壊れている笛を見つけた月花。

「よし……やるわよ」

早速、笛の修復作業に取りかかった月花。セロハンテープみたいなもので次々とくっ付けていく。そして、それを呆れ顔で見つめるアトラとゴブリン。すると一人の子供が月花の行動を理解できなくてゴブリンに聞いた。

「ね~、ゴブリンさん……このお姉ちゃんは何をしているの?」

「ん~?これはね~壊れた笛を直しているんだよ」

優しく語りかけるゴブリン。そしてついに……

「……直ったわよ!!!」

「おぉぉ~~~!パチパチパチ」

「月花吹いてみてよ!!」

「ふん、見てなさい」

「スゥゥゥ~~」

大きく息を吸う月花!!そして次の瞬間!!

「シュュュ~~~」

「……」

「……」

音は音でも見事にバラバラになった隙間から空気が抜ける音がしただけだった……直らなかったのだ!!当然である……

「…」

「…」

「…」

無言で月花を見つめるアトラとゴブリンと子供達。

「ふん、さっさと、帰るわよ!!」

そこには不機嫌になる月花がいた。そして、一同は洞窟を出て薄暗い森の中をゆっくりと歩いていると一人の子供がアトラに声をかけた。

「ね~、お姉ちゃんは服で忍者って分かるけどお兄ちゃんも忍者なの?」

「いや、違うよ。俺は盗賊だよ!」

「盗賊!?じゃあ悪い人なの?」

「ん~…父上からの教えじゃ無いところから盗むな、弱い者には手を差し伸べろって言われてたからな~……まだよく分かんないや」

「ん~?…でも私達を助けてくれたからきっと悪い人じゃないよ」

「そうだね……父上みたいな立派な盗賊になりたいな……ははは…」

笑顔の中に少しだけ寂しげなアトラの表情がそこにはあった。そしてほどなくして進むと、久し振りの日の光が見えてきたのである。こうして一同は、月花を先頭に薄暗い大森林ミュルクヴィズを抜けるのであった。



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