第7話 未開の洞窟クムラン
大森林ミュルクヴィズの薄暗い中を東に進む二人の姿、アトラと月花である。月花が先頭になり神経を尖らせ、ゴブリンの気配がないかと辺りを見渡しながら進む一方、呑気に月花の後を歩きながら木の実を食べる続けるアトラ。
「モグモグ…ゴクリ、月花まだ着かないの?モグモグ」
木の実を食べながら月花に言うとその姿を見た月花が遂に激怒した。
「ちょっといつまで食べてるのよ!いい加減辺りを気にしながら着いてきなさいよ…全く」
怒る月花に無邪気に木の実をプレゼントするアトラ。
「モグモグ……食うか?」
「食べるわよ!まったく!!それにそろそろ着くから静かにしなさい!!!」
「大声を出してるのは月花だろ」
木の実をアトラの手から力強く取り、思い切り一噛りする。
「全く……ガジリ、モグモグ」
そして月花が木の実を食べ終え、しばらく歩き続けていると、目の前に大きな岩山が現れた。
「ここよ。隠れて」
咄嗟に二人が木の裏に身を潜める。すると岩山に大きな穴が空いていた。洞窟である。そしてその洞窟の入り口には、ゴブリンが二匹、まるで門番のようにこん棒を手に持ち立ち塞いでいた。そして二匹のゴブリンを見て月花が言う。
「倒すしかないわね…」
「モグモグ…ゴクリ…分かった」
木の実を飲み込んだアトラが月花の前に出て歩き始めた。しかし、慌ててアトラを止める月花。
「ちょっと待ちなさいよ。あんたそれを持ったまま行く気?」
なんとアトラは、木の実を大事そうに両手いっぱい持っていたのだった。呆れる月花を横目にアトラは沢山の木の実を地面に置き、時を止め、ゆっくりと歩き出した。そして、ゴブリン二匹の前に立ち、時を動かした。
「ねぇ~?ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
ゴブリン達の前にポケットに手を入れ、緩く立ち問い掛けるアトラ。そして、先程まで横に居たアトラが突然目の前から消え、ゴブリンの前に立っている姿を見て驚く月花。
「消え……えッ?何でそこにいるのよ」
更に目の前に現れた子供に困惑するゴブリン達。
「ん?人間の子供?……おい?何処から現れた?……まさか檻から逃げたしたのか?」
ゴブリン達の言葉を聞き不敵な笑みを浮かべたアトラ。
「ふ~ん……檻にいるんだ……聞くまでもなかったね」
「ん?何を言っているんだ?」
困惑しているゴブリン達はアトラの言葉が理解できなかった。そして次の瞬間、アトラは魔法クロノスで時を止めると、鞘から草薙を抜き、薄ら笑みを浮かべながら首を斬るとまた時を動かした。
「ズバァァッ、ズバァァッ!!」
「ブッシャャー、バタッ、バタン!!」
ゴブリン達が血を吹き出しながら倒れる様を見てまた、不敵な笑みを浮かべるアトラ。そして、消えては、現れ、消えては、倒して、とアトラの行動に理解が出来ない月花が慌てて、背後から駆け寄り声を掛ける。
「ちょっとあんた、さっきから今まで本当に何をしているのよ?」
月花の方を振り向くアトラ。そこにはもう不敵な笑みはなかった。
「ん~?何にもしてないよ。ところで月花。この洞窟の中に檻があってその中に子供がいるっぽいよ……どうする?」
自分の魔法クロノスの事は、内緒と言われていたアトラが、月花の質問に対して話を反らした。
「ふぅ~ん……まぁいいわ。話したくない事は誰にだって一つや二つはあるもの。それよりもどうするかよね。ん~~……」
月花が深く考え、そして閃いた。
「うん!これしかないわね!いいアトラ?よく聞いて」
月花がアトラに向かって言うとアトラが頷く。
「洞窟に入ったら戦いながら暴れて、その隙に私が暗闇に紛れて洞窟内を調査するから…いい?分かった?」
アトラの訳の分からない強さが本物と感じた月花は、アトラを囮にする作戦を思いついたのだった。
「分かった。騒ぎながら戦って、敵を引き付ければいいんだね?」
大きく頷き、囮になる事を快く引き受けたアトラ。何故なら少しだけアトラに思惑があったのだ。
「それじゃあ、行くわよ」
「うん」
そして二人は、並んで暗闇の洞窟の中に入る。するとそこには驚きの光景が……。それは、入り口からは想像も出来ないような広々とした空間、そしてその大きな空間の壁には、無数の松明が火を灯し、辺りを明るく照らしていた。なので人が想像するよりも遥かに明るかったのである。
「大きな部屋だな~……ん?」
アトラが感心しながら大きな部屋を見渡すと、その部屋から繋がる三つの道と、天井には太古に書かれたであろう壁画が大きく描かれていた。その壁画をまじまじ見るアトラ。その書かれていた内容は……左に、笛を吹く人を先頭に大人数の人、中央には大きな雪山とその頂上にはドラゴン。そして、右には草木が生い茂りその上には空飛ぶ円盤が書かれていたのだった。それらの壁画の下には古代文字が書かれていた。
「この洞窟の名はクムラン。クムランここに示す……この洞窟の最奥に古文書と秘宝眠る…」
それを読んだアトラは目を輝かせながら興奮する。しかし一方の月花は、壁画の事に興味がまるでなく任務遂行の為にアトラに言う。
「ちょっとアトラ!何見てるのよ!!予定通りに騒いでちょうだい」
「うん!分かった」
そして、アトラが大きく息をし、大声を上げた。
「子供が逃げたぞ~!!ここにいるぞ~!!」
アトラが叫んだ後、直ぐ様、複数の松明を消しその暗闇に身を潜めた月花。するとその後すぐに左側の道からゴブリン達の言い争う声が聞こえてきた。
「おい、何で檻から逃げられるんだ?まさか鍵を閉め忘れたんじゃねーよな?」
「それは俺に言われても分からん。鍵を持っているのはボスだけだろ」
声の聞こえる道を見つめるアトラ。そして、走ってきたゴブリン達がアトラ達のいる広い空間へと入ってきた。
「ん?あれ!?子供?……どうやって折から逃げた?他の子供達は?」
アトラの大声が、自分達の仲間の声だと思っていたゴブリン達。まんまと騙されたのだ。そのゴブリン達が困惑し、目の前に立っている子供アトラに質問をするが、その質問に対して顔を横に振りながら答えるアトラ。
「いや、俺は逃げてないよ。それよりも檻はどこにあるの?」
「ん?逃げてないって事は……貴様、侵入者か?外の見張りの者は何をやっているんだ…全く」
「それならもう倒したよ」
そのアトラの言葉を聞いたゴブリン達がバカにしながら嘲笑った。
「倒したぁ~。ダハハ。子供が一人で?倒せるはずがないだろ。ダハハ」
「ムッ。じゃあ見てこいよ」
笑われ少しだけムッと来たアトラが言うと、一匹のゴブリンが入り口の方に向かい歩き始め外を確認した。
「こ、こ、殺されてるぞ~」
首をはねられ横たわる仲間の死体を見たゴブリンが大声で叫ぶ。
「ね?言ったでしょ?次はちゃんと質問に答えてよ。檻はどこ?」
平然とゴブリンに問い掛けるアトラ。すると目の前のゴブリンが大声で叫ぶ。
「教えるはずないだろ。侵入者だ~!!!」
すると続々と三つの道からゴブリン達がいっぱい出てきた。
「何々?侵入者だと?」
「まだ子供じゃねーか!」
「さっさと檻に叩き込め」
「ガヤガヤ、ざわざわ……」
あちこちから大きな罵声がアトラの耳に入る。
「ちょっとうるさいな~!……ビリビリ!!」
本当にうるさく感じたアトラは、服の布を小さく破り両耳に入れたのだ。
「………うん、これでよし。さぁ~始めようか」
罵声が全く聴こえなくなり、目の前の複数のゴブリンに対して草薙を抜き構えるアトラ。それを見て更に笑うゴブリン達。
「ダハハ、この小僧、生意気にもやる気だぜ。おい皆、大事な、商品、だ。傷が残らない程度に遊んで檻へ入れようぜ……ダハハ」
嘲笑うゴブリンを見てアトラも薄ら笑いを浮かべる。そして次の瞬間、先に動いたアトラは、ゴブリンに向かって物凄いスピードで突進し刀を振り下ろした。
「ズバァァー!!」
「ぎ…ぎゃゃ~~~!!!」
斬られ叫ぶゴブリン。なんとこの草薙、ゴブリンの分厚い皮も意図も容易く斬ったのだ。その手応えのまま右に左へと刀を振り下ろし一気に三匹のゴブリンを斬り殺した。
「ズシャャー、ズシャャーー!!……バタッバッタン!!!」
斬り終えると後方に飛び、薄ら笑みを浮かべながらまた間合いを開けるアトラ。そして、その戦いを闇に隠れ見届けていた月花は、笑顔で斬り殺し続けるアトラを見てゾッとしていた。
「何?笑いながら……アイツの戦い方は……狂ってるの?まぁいいわ、ゴブリンだし。後は任せたわね。アトラ」
そう言い残し月花は、闇の中に消えて行き、その気配を感じ取ったアトラがゴブリン達に言う。
「な~んだ…この程度か。魔法を使わず自分の力が何処まで通用するか試したかったのに……ハァー、分かったよ」
そう、それが思惑だったのだ。自分の素の力を試したかったのだ。しかしゴブリン達が弱すぎてガッカリするアトラ。すると、それを見て本気になるゴブリン。
「おい、子供だからって舐めて掛かるな。こいつは……強いぞ。囲んで一斉にかかれ」
その言葉通り、アトラの回りをゴブリン達が取り囲む。しかし、それを待っていたかのように刀を構え、薄ら笑いのアトラが小声で言う。
「……皆殺しだ……」