第3話 魔法
日が沈みかけの夕方。大きな木の下でクースとアトラが立ち会い稽古を終え、四人で座りながら談笑をしている。
「父上、勝ったら教えてくれると言っていたその刀は何ですか?」
アトラが興味津々な顔でクースに聞いた。
「あ~、これか?これは遠い東の国の古代遺跡から盗み出したオーパーツだ」
クースが鞘から刀を抜き高々と上げアトラに見せる。
「古代遺跡?オーパーツ?」
「そう。この世界はとてつもなく広いんだ。まだ見ぬ古代遺跡、未開の地、砂に覆われた国、氷で出来た大地、大森林の中にある町……アトラが知らない世界がまだまだ沢山あるんだよ」
「へ~。いつか行ってみたいです」
「アトラ、大丈夫だよ。旅をしていればその内行けるさ」
クースが笑みを浮かべ、アトラに言うとアトラが頷きクースの話の続きを黙って聞く。
「そして、古代遺跡の中には太古の昔、神々が作ったとされる遺物、秘宝があるんだ。それを人はオーパーツと呼ぶ。その中の1つがこれだ」
クースの言葉に興奮し真っ赤に輝く刀身をギラギラと見つめるアトラ。
「へぇ~!!世界には色々あるんだね!!!」
そのアトラの表情を見て笑顔になるクースがそのまま話を続けた。
「そう。この刀の名前は妖刀、草薙、持ち手の力、潜在能力で色を変える。青、黄、赤の3色で切れる物が変わってくる。赤が1番強くて鉄をも切れるんだぞ」
「父上すごいです。俺にも持たせて」
「それは駄目だ」
「何故ですか?父上のケチ」
アトラが頬っぺたを膨らませ不貞腐れるとクースが優しい表情そして、口調でアトラに向かい喋る。
「いいか。アトラ。自分の愛用とする武器は例え仲間、家族であっても触れさせてはならないぞ。癖が付いてしまうからな。……でもそうだな……じゃあ俺が死んだら形見として貰ってくれるか?」
「そんなんじゃいらない。父上が死ぬなんて嫌です」
「ダハハ、そうか」
そして、笑いながらクースが静かに刀を鞘に納める。
「父上の話は面白いです。この世界には他に何があるんですか?」
アトラの好奇心が止まらない。まだまだ無邪気に目を輝かせている。
「後はそうだな。この世界には色々な種族や、モンスターがいるな。ドワーフ、エルフ、鬼人、巨人、それに俺も見たことがない精霊。モンスターも色々いるな。この中でも手を出したら駄目な種族は巨人族と鬼人だ。なにしろ強すぎる」
「父上でも勝てないんですか?」
「まず勝てないな。だからもし会って敵対する事があれば逃げろ。いいな」
「はい。父上でも勝てないなら無理ですね……」
「そうだよ。でもこの世界最強はドラゴン……種族、モンスターの頂点に君臨するドラゴンは一匹で町1つを滅ぼすとされている……これに出会ったならば何も考えず逃げろ。いいな」
アトラに釘を刺すかのように、二回にわたり危ない種族、モンスターを言い聞かせるとアトラは小さく頷いた。
「さてと、アトラ。次はこちらからの質問だ。さっきの立ち会い稽古で何をした?いきなり目の前に現れて驚いたぞ」
クースが目を細めてアトラに聞く。
「あれですか。一瞬だけ時を止めました」
「はぁ~」
3人が驚き開いた口が塞がらない。でも、それを横目にアトラが至極当然のように、平然と喋り続ける。
「正確に言うと時間を操るって言った方が正しいのかな?相手の動きを遅くしたり止めたり出来るようになりました」
「ちょ、ちょ、待て待て、出来るようになりましたっていつから?」
「半年前からです」
「はぁ~!?」
クースと大婆が更に驚いている横でムサシが納得のした表情で頷く。
「やっぱりか……半年前から若に攻撃が全く当たらなかったから……これで納得が出来る」
そして、クースが大婆に尋ねる。
「大婆……そんな事ってあり得るのか?聞いたことがないぞ」
すると大婆がボソッと小さい声で言う。
「……魔法……」
「いやいや、そんな魔法聞いたことがないぞ」
聞いたこともない魔法を信用出来ないクースは大婆の言葉を疑うと今度は、はっきりと大婆が語りだした。
「そうじゃとも…普通は火、水、雷、氷、風。そして魔法の上位に光、闇、癒の8つじゃ。しかし前に遺跡で古文書を読んだときにそれ以外の魔法の存在が記されていた……確かその魔法の名は…クロノス」
「クロノス?」
「そうじゃ……その魔法、時を操りし者、世界を統べる者なり…と書いてあったのじゃ。でもその魔法は伝説の言い伝えでしかなかった……それをアトラ様が…」
「………」
3人が驚きの表情でアトラを見つめる。しかし、3人が何で驚いているのか全く分からないアトラはキョトンとした表情で言う。
「えっと……珍しいんですか?」
「珍しいに決まっとる。魔法が使える者が町に一人か二人程度しか居ないのですぞ」
大婆が少し興奮気味でアトラに魔法は珍しいと伝えるが、肝心の本人アトラは全然珍しいと感じていなかったのだ。そして頷いていたムサシがアトラに言う。
「若、魔法はその人の素質、才能なんですよ。なので皆が持っている物じゃないんですよ。なので魔法を使えないのが当たり前の世界なんです」
しかし、皆が言い聞かせても、まだ、世界を知らない子供のアトラには到底理解が出来なかったのであった。そしてクースが静かに立ち上がり少し寂しげに言う。
「……ここに来てもう十年か……そろそろ違う場所に移る時かも知れないな」
アトラの成長を目の辺りにいたクースは、いい頃合いだと思い旅立つ事を決めた。その言葉を聞いて大婆も立ち上がる。
「クース様、確かに十年……1番長く居座りましたね。それで、次はどちらに向かわれる予定なんですかえ?」
「そうだな……北に行ってみようと思う。それと今日の夜、広場に皆を集めて出発の事を伝えようと思うからムサシ……ノイルと一緒に夜広場に皆を集めてくれ」
「はッ!!かしこまりました」
「さて、そろそろ日が沈む。帰るか」
そして、薄暗い中を四人は歩きながら野営に戻る事に……しかしそんな中、一人考え事をしているクース。
「皆、少し考えたんだけど…アトラの魔法の事はここだけの秘密にしてもらいたいんだが…」
その言葉にムサシも賛同する。
「確かに。珍しい物は何でも狙われやすい。少しでもリスクが減るなら黙っていた方がいいですね」
「そう。だからアトラ、自分の魔法の事は誰にも言うんじゃないぞ」
「分かりました。父上」
アトラが頷き、クースが大婆の方を振り向くと大婆は無言で首を縦にふった。そして野営に着いた頃には日が沈み夜になっていた。
「それじゃあ、大婆、ムサシまた3時間後広場で」
大婆が自分のテント、ムサシはノイルと合流するために各々歩いていった。そして、アトラとクースもまた自分達のテントに帰るのであった。
「母上ただいまー!!」
テントの幕を開けアトラが元気よくシキに挨拶をすると優しい表情でシキも挨拶をする。
「お帰り、アトラ。もうすぐご飯が出来るから座って待っててね」
「はい!!」
アトラとクースが腰を下ろして雑談をしながら食事を待っていると、美味しそうな匂い漂わせた料理をシキが持ってきた。
「はい、お待たせ……ん?」
するとシキが料理をクースの前に置いてある事に気が付いた。それは…クースの服が斬れている事を……
「あなた、それは何?」
それを見たシキが心配な表情で尋ねると笑いながらクースが答えた。
「あ~、これか。アトラに切られた。ダハハ」
クースの言葉を聞いたシキが慌てる。
「ついにアトラに反抗期が来たぁ~。どうしましょ、どうしましょ」
そんな慌てるシキにアトラが、なだめるように言う。
「違いますよ。母上。父上が刀を振り回したんで服を斬ったんです」
しかしこのアトラの言葉……正に逆効果……シキが更に慌ててしまった。
「あ~、父さんが遂に虐待を始めた~。どうしましょ、どうしましょ」
「母上、落ち着いて」
「母さん、落ち着いて」
アトラとクースが同時にシキをなだめ、クースが事の本末を説明する。が……説明を終えると同時に、シキ激怒し、テーブルを力強く叩いて、斬れている服に指を指す。
「ガシャーーン!!!で?誰がこの服を縫うと思ってるの?何で真剣で稽古をするの?何かあったらどうするんですか!」
「……すいません」
アトラとクースが謝り下を向く。
「全くもう……もういいから早く食べちゃってください」
アトラとクースを見てシキが呆れ顔になる。そしてその時、アトラはふと思った。この盗海旅団で1番強いのは母上なんじゃないかと……そして、ご飯を食べ終えた二時間後……
「ガヤガヤ、ざわざわ」
野営の広場に人が集まり賑わっていた。するとそこに大将クースが現れ、仲間達の前に立ち大声で喋る。
「皆ー!聞いてくれ」
「……」
クースの大声で仲間達が一斉に静まり返り、クースを見つめる。そして静まり返り仲間達が耳を傾けるのを確認したクースが大声で話始めた。
「 ここに来てもう十年。そろそろ違う土地に移動しようと思う。出発は5日後の朝。それまでに各自荷物をまとめておくように……では解散」
その言葉を聞いた仲間達が大将クースに笑いながらヤジを飛ばした。
「ダハハハ、大将!やっと重い腰を動かすか!ダハハハ」
ヤジを飛ばされ笑顔になるクースが手を上げ引き始めると仲間達も続々と自分達のテントに戻っていった。
こうして、出発前日までは、穏やかで、それでいて荷造りに忙しい日々が続いていた。しかしこれから起こる悲劇を盗海旅団は、まだ誰も知らない……ある者を除いては……
第4話から毎週月曜日投稿予定です。引き続きお楽しみください。