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盗賊物語  作者: 平一
第一章 旅立ち編
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第1話 伝説の誕生

「オギャー、オギャー」

颯爽と草木が生い茂る草原の中にテントがポツン、ポツンとある大盗賊の野営。その数あるテントの中でも一際立派なテントの中から大きく元気な産声が野営に響き渡る。そのテントの中には背の小さい白髪のお年寄りと赤ちゃんを抱いた美しい女性がいたのである。

「シキ様、おめでとうございます。元気な男の子ですぞ。もう名前は決まっておるのですか?」

「大婆様、ありがとう。名前は主人が決めるって言っていたわ」

「そうですか。大将クース様ならきっと力強い、いい名前を考えてそうですね」

「ええ、今日も無事で早く帰って来てほしいわ」

そして場所が変わり、野営から1番近い町イスタード。この町並みは、ボロボロの家が建ち並ぶ一方、1番奥には一際目立つピカピカの大きな領主の家がある。そこが今回のターゲットだ。そして、盗賊団が夜の闇に紛れ領主の館に攻めむ……が護衛に気付かれた。

「盗海旅団が攻めてきたぞー!領主を守れー!」

その大声で1人の男も大声を上げた。

「仕方がないなぁ~…お前ら~。一人も殺すなよ。縛り上げてここの金銀財宝を全て貰うぞ!」

「了解だ。大将」

その大将の大声で仲間達が領主の護衛を次々と縛り上げていった。そして大将が最上階の扉を開けようとしたら鍵が掛かっていた。

「ちっ、しょうがねーな」

舌打ちをした大将が、物凄い勢いで扉を蹴り飛ばすとその大きな部屋の片隅で震えながらうずくまる領主の姿があった。

「うっうっ。殺さないで~」

泣きながら震える声で領主がお願いする。

「大人しくしてれば命だけは取らないぞ」

そう言うと大将が領主を縄で縛り上げ、窓から外の様子を伺う。すると外での戦闘がもう終わっていた。正に疾風のごとく速い決着だった。そして、あっという間に領主の館を占領して金銀財宝を荷馬車に積み終える。

「クース大将、ここの領主、沢山溜め込んでましたね。これだけ有れば当分の生活に困りませんよ」

「お疲れ、ノイル。しかし、これだけ溜め込んだって事は弱い民達がどれだけ苦しんでるか想像がつくな。落ち着いたら盗んだ物を民達に配る手配を頼む」

「へへ、分かりました。それはそうと今夜辺りじゃないですか?大将とシキ様との間に子供が産まれるのは?」

「そうだな。大婆が今夜辺りって言ってたな」

そして、荷馬車に金銀財宝を大量に積み、早歩きで盗海旅団は町を出て自分達の野営に帰る。するとその帰り道、ふと大将クースが空を見上げるとそこには、美しい星空が有り、その星空の中、流れ星が一本の線を描きキラッと光った。そんな星空の元をしばらく歩いているとやっと野営が見え、その入り口には大婆様が立っていた。

「大婆ただいま。今日の収穫は上々だったぞ。ダハハ」

出迎えてくれた大婆に笑顔で答えるクース。しかし、大婆は慌てていた。

「そんな事よりクース様や、元気な男の子が産まれましたぞ。早くシキ様の所に顔を出してあげな」

慌てた大婆がそう言うとクースは一目散にシキの元に走り出したのだった。そして、野営の一番奥のテントに着きテントを捲る。

「シキ!」

するとシキは人差し指を口に当てて小さい声で言った。

「しー。今寝たばかりだから。…お帰りなさい、あなた。この子の顔を見てあげてください」

「ああ、分かった」

静かに歩き我が子の元に向かうクース。

「お猿さんみたいだな。これから末永くよろしくな」

小さな手を握り小さな声で我が子に語りかけるとシキがクースの目を見て小さな声で尋ねた。

「あなた、この子の名前は決めてあるの?」

「アトラ。この子の名前はアトラ」

「アトラ??どういう意味なんですか??」

顔を横に傾げるシキに対してその名前の由来を話すクース。

「アトラ、これは失われた古代文字で……」

「まぁ、それは素敵な名前ね」

「だろー。ダハハ。こいつには俺の全てを教えるよ。さてと、じゃ皆に報告してくるね。よく頑張った。ありがとう」

そしてまた、静かに歩きテントを出るとそこにはクースの右腕、ノイルが立っていた。

「大将、無事産まれて良かった。名前もいい名前じゃないですか」

「ノイル、盗み聞きはよくないな~。名前の意味は皆には内緒にしといてな」

「大将、俺らは盗賊ですよ。何でも盗むよ。それが大事な話でも……それよりも何故内緒なんです?いい意味じゃないですか?」

「まだ時期じゃない。それよりも皆を広場に集めてくれ。今夜は盛大な宴にしようじゃないか」

「へへ、分かりました」

1時間後……ノイルが走り回り仲間に知らせ、広場に盗海旅団が続々と集まった。

「ガヤガヤ、ざわざわ」

「皆ー!今日は色々と良い報告がある」

「………」

大将クースの掛け声で周りは一気に静まり返りそのまま話を続ける。

「まず最初にイスタード町に出向き領主から無事に金銀財宝を強奪する事に成功した。ある程度皆に均等に分け与えるつもりだが、残った財宝は町の住人達に分け与える。これに異論のある者は今この場で申し出てくれ」

「大将、俺達は盗賊だけど義賊だ。困ってる人に分け与えるのは当たり前だから異論はないですよ」

「そうだ、そうだ」

仲間達が大将クースの意見に賛同する。

「ありがとう。皆の心意気に感謝をする」

大将クースが深々と頭を下げた。そして、頭を上げ胸を張り話を続ける。

「そして、今夜……俺とシキの間に息子が産まれた。名はアトラ。俺の息子だーー!」

「おー、おー、おー!」

「アトラ、アトラ、アトラ」

「大将、おめでとうございます」

仲間達の大きな歓声とアトラコール、祝福の声が広場に響き渡る。

「皆ありがとう。本当にありがとう。ただ……俺は息子を溺愛する」

「………ダハハ。大将が親バカになってるぞ。ダハハ」

「でも、息子を甘やかすつもりはない。俺が溺愛する変わりに何か間違った事をしたならば容赦なく怒ってくれて構わない。大将の息子だからとか気を使わないでくれ」

「おー!!おー!!」

まだまだ仲間達の歓声が止まない。

「続けて教育担当をここでお願いしたい。名前を呼ばれたものは前に出てきてくれ。まず勉学を教える者、大婆、マーケ」

「はいはい」

大婆、マーケがゆっくりと前の方に歩いて来た。

「大婆、俺に色々と教えてくれたことを今度は息子に教えてあげてくれ」

「分かりました。私の持てる知識を全てを教えますぞ」

「次に剣術指南……ムサシ」

「おー!!」

仲間達がどよめきだしていると後ろの方から声が聞こえた。

「大将……よそ者の俺なんかで良いんですか?」

白髪のロン毛で少し背の大きい男、ムサシが前に出てきた。

「確かにムサシは遠い東の国の者だ。だけど仲間になったならそんな物は関係ない。東の国で剣聖と呼ばれていたその技術、知識を教えてくれ、頼む」

「うむ……分かりました」

クースの頼みでムサシは深々と頭を下げた。

「良し、話は以上だ。それじゃあ宴を始めるぞ。勝鬨と息子の誕生に………かんぱーい!」

「おー!!かんぱーい」

こうして、盗海旅団の宴は日が登るまで続いていった。そして10年後………野営から少し離れた大きな木の上。

「大婆様の勉強は退屈だ。今日はここで見つからないように昼寝でもするか」

木の上で勉強をサボる立派に育ったアトラの姿があった。

Hyタクシーに続く2作目、盗賊物語。初回は、一挙3話投稿するので引き続き、暇潰し程度でお楽しみください。

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