第三話
「島津司令官、天下取りを始めるのは構いませんがまず何処の城を攻めるので?」
会議で近藤大尉は島津にそう聞いてきた。
「そう言うと思って静岡出身の兵を連れてきた」
島津はそう言って静岡出身の兵士を連れてきた。兵は緊張しながらも口を開いた。
「い、一等兵の中西です。少し離れていますが、今の菊川市の東横地に横地城という城があります。城は室町の時に築城されましたが、今の時代だと廃城になっているはずです」
「そこを仮の根拠地とするか……」
「それと掛川市には高天神城もあります」
中西一等兵が地図に指を指して説明をする。
「……とりあえずは横地城に陣地を作ろう。牛山大尉」
「は!!」
「歩兵一個中隊と砲兵一個小隊を指揮して横地城に向かい、陣地を構築しろ」
「は!! 直ちに向かいます!!」
「それと司令官。食糧の事ですが……」
南場大尉の言葉に島津は表情を崩す。
「……それは頭が痛くなるな。どれくらい残っている?」
「米麦は良くて一月。さつま芋は一月半はあります」
「……農民から略奪するわけにはいかんな」
「上からの要望で自給自足に備えて田植えはしたばかりです」
守備隊の周辺は田んぼや畑等が作られていた。しかし、量的にはまだ少なく耕している最中である。
「農民には年貢は三割しか取らないと流布しましょう。その後に検地して決めるとか……」
「とりあえず横地城に陣地を構築してからだな。砲は……野砲の四斤山砲は使えそうか?」
葛城は南場大尉に視線を向けるが南場大尉は首を横に振る。
「砲は使えるでしょうが、砲弾は難しいかと思います。四斤山砲の砲弾は榴弾ですが場合によっては石弾や鉄弾を製造して転用する」
「……なら予備砲扱いにしよう。南場、1中隊を牛山の支援に出せ。それと牛山も混成大隊砲中隊を出すんだ。ただ砲弾は節約しないとな。あぁそれと、農民達に我々の事を流布しないとな、これを持っていけ牛山」
「拝見します……これは?」
「我々は日本軍だ。なら我々は何だ?」
兎も角、混成牛山隊を編成して廃城の横地城に向かったのである。
「こりゃあ……至難だな」
横地城に到着した牛山大尉はそう呟いた。横地城は既に廃城のため残っているのは土塁、曲輪くらいな物であった。
「……兎も角、整備しよう」
牛山隊は木を切り倒して柵を作り簡易の防御陣地を構築した。勿論、付近の農民はそれを遠目から見ていた。
「何じゃろなあの集団は……」
「ほんにのぅ……今川様が討たれたばかりじゃのに……」
「下剋上というやつかの?」
「それに……あの走っとるのは何じゃ?」
農民達が見ていたのは九四式六輪自動貨車と九七式四輪自動貨車であった。それらから兵が乗り降りをしていた。
「何じゃろな……」
勿論、農民達の事は牛山大尉も気付いており、直ぐに農民達(村長)から事情を話した。
「農民の皆さん、我々は戦乱の世を止めるために参上した。我々は貴方方を害したりは決してしない」
「へぇ……」
「ほんなら今川様に戦でもするのか?」
「手始めに遠江は攻略するがね。もし、我々が遠江を攻略すれば年貢は三公七民だ」
「何? それは本当だか?」
「あぁ。ただし検地はするぞ」
「……本当だか?」
「あぁ。我々は嘘はつかん」
「……儂らにどうしろと言うんじゃ?」
「なに、簡単な事だ。高天神城の小笠原に助けてくれと言ってほしい。横地城に山賊が住み着いて我々を脅かしている、ぜひ討伐してくれとな」
「……そのような事で宜しいのか?」
「あぁ」
「……分かった。やってみよう」
村長はそう頷き、使いが高天神城に走った。その間に混成牛山隊は陣地構築をし相良油田から援軍として九七式中戦車九両、八九式中戦車三両更に海軍陸戦隊の第3警備中隊が横地城に到着した。付近の農民達は中戦車に腰を抜かしていた。
「な、何じゃありゃあ!?」
「ば、ばけもんじゃぁ……」
農民達は中戦車に恐怖していた。そして高天神城から小笠原氏興が兵五百を率いて横地城に進軍していた。
「鉄のばけもんとは何じゃ……」
「分かりませぬが、山賊ごときがそのような代物を持つなど有り得ませんな」
小笠原氏興は息子の信興とそう話ながら進軍していた。
「桶狭間で義元様が討たれた。今は家中がしっかりやらねばならぬ」
「その通りです」
二人はそう話しつつ横地城に到着した。
「たかが木の柵程度か。一捻りにしてくれるわ!! 掛かれェ!!」
『ウワアァァァァァァーーーッ!!』
小笠原の足軽達は雄叫びをあげて横地城に突撃した。しかし――
「……今だ、撃ェ!!」
陣地から二個歩兵中隊程度の小銃(30年式歩兵銃やドライゼ銃、22年式村田銃等)が一斉に火を噴いた。大東亜末期なら旧式の小銃であるが、戦国の世では種子島より遥かな高性能な小銃であった。
またドライゼ銃は種子島と同じ単発式であるが種子島は前装式でありドライゼ銃は釘打式ボルトアクション方式でありその装填時間は格段に速かったのである。
「た、種子島だと!? たかが山賊風情が種子島を大量に装備しているだと!?」
次々と倒れていく足軽に氏興は唖然としていた。そして横地城では2門の九七式曲射歩兵砲が準備していた。
「支援弾、各砲一発ずつ撃ェ!!」
九七式曲射歩兵砲が一発ずつ九七式榴弾を発射させ、山なりの弾道を描きつつ小笠原の軍勢に直撃した。
「こ、今度は何だ!?」
「わ、分かりません父――」
「信興!?」
信興がドライゼ銃の流れ弾に命中して馬から落ちた。氏興が直ぐに起こすが、弾丸は信興の額付近に命中していて即死していた。
「信興!!」
「殿、後方から何かが――」
家臣の指差す先にはいつの間にか後方から現れた九七式中戦車四両があった。完全に挟み撃ちにした九七式中戦車はそのまま発進して氏興に迫り来る。
「ヒ、ヒ、来るなァァァァァァァァァァァァァァ!?」
一両のチハが腰を抜かした足軽を踏み潰して混乱する小笠原軍を蹂躙していく。
「に、逃げよ!! この場から直ぐに逃げるのじゃ!!」
氏興はそう発して慌てて馬に乗る。もう死んでいる信興に構ってはいられない。氏興はそう思った。しかし、馬も混乱していて氏興は馬から落ちた。
「ぐ……」
痛みに堪えて立ち上がった氏興であったが、一発の弾丸が氏興の左胸(心臓)を撃ち抜いた。
「ガハッ……」
氏興は何事も理解出来ずにあの世へと向かったのである。結局、高天神城に逃げ帰ってきたのは足軽十数名だけであった。
生き残った数名は日本軍に捕らわれたが残りは全て討死である。
「間違いありません。この人が小笠原氏興様と信興様です」
「うむ、首は取るが遺体は丁重に葬ろう。他の遺体もな」
生き残った足軽に氏興と信興の首を確認させ、牛山大尉はそう指示を出す。その頃、わざわざ駆けつけた近藤大尉は戦車の状況を見ていた。
「チハとチロは血だらけだな……」
「御払いしておきますか?」
「……そうしておこう」
チハとチロは戦車砲や機銃を撃たずにただ動き回るだけだった。そのかわり敵兵を踏み潰していたので血だらけだった。
「肉片とか付着してそうだな」
「慣れるしかありません」
近藤の呟きにチハの戦車兵はそう答えるのであった。
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