第三十話
さて時は少し戻った11月の初め頃、冬の雪が越後が降る前に越前を追い出された足利義秋は上杉輝虎の元に身を寄せたのである。
「義秋様、よくぞ御無事でありました……」
「輝虎殿、真に感謝致しますぞ」
春日山城にて二人は対面をし輝虎は義秋に歩み寄り、その手を握る。
「義秋様、今は旅の疲れを癒して下され。越後の温泉は疲れを癒すでしょう」
「忝ない輝虎殿……」
輝虎の言葉に義秋は涙を流すのである。そして義秋らが退出すると輝虎は重臣達を集めた。
「景綱、義秋様が越後に来られたのは好機と捉えるべきか?」
「……難しいと思われまする」
問われた直江景綱は苦しそうな表情でそう答える。
「義秋様は義輝様の弟ではありますが、ただそれだけです。今の将軍は三好家が定めた義栄が朝廷から正式に14代将軍として就任しております」
「だが、少なくとも我が家は義栄を推してはいない。そこに突き入れるのでは無いか?」
「場合によっては朝廷に背いたとして朝敵とされるやもしれません。可能性はゼロではありませぬ」
「ムムムッ……」
景綱の言葉に柿崎景家はそう唸るのみであった。そこへ口を開いたのは輝虎であった。
「では……義秋様に実績があれば如何か?」
「実績……まさか北条を?」
「ウム。儂は関東管領の職を義栄から解かれてはおらぬ。そこで義秋様を主にし共に関東へ出陣し北条を討つ。さすれば義秋様に実績は付くであろう」
「それは……さながら……」
「景綱の不安も分かる。日本軍とやらであろう?」
「……はっ。つい先日は武田軍を駿河にて撃退し信玄をもが死にました」
「ウム。信玄とはまた戦いたかったが……これも戦国の習いじゃ、仕方あるまい」
輝虎は悲しそうに呟く。好敵手とも言える信玄が正体が曖昧で急に現れた家にその身を討たれたのだ。輝虎にも寂しいという気持ちはあった。
「関東が荒れる原因の北条を駆逐しその勢いを以て北陸から京へ向かう」
『御意ッ』
輝虎はそう決断し景綱達もそれに従うのである。そして年が明けた1566年の1月中旬、北条が居城である小田原城では北条氏康らが軍儀を重ねていた。
「恐らくは上杉は今年も来るでしょう。今の越後は雪なので雪解けの4月から来るかと思われます」
家臣の中でも相談役に等しい北条幻庵はそう説明する。
「それまでの防備は致しませんと……」
「しかし、上杉もだが厄介なのが……」
「武田を破った日本軍……」
松田憲秀の呟きに氏康は元より北条綱成も顔をしかめる。風魔小太郎に命じて風魔衆に富士川の合戦を偵察をさせたが日本軍の戦法に氏康達は頭を悩ませるしかなかった。
「鉄車や大量の種子島に大筒……」
「噂では数千も保有していると聞く。しかも我々が保有している種子島よりも射程距離が長いと聞くぞ」
「しかし、たかが種子島ではないか? 接近して斬り合いを行えば良いのでは?」
「詳しくは分からんが日本軍の種子島は種子島で弾丸を装填し発射が可能らしい。しかも連射をする種子島もあると言うぞ?」
「ムムムッ」
憲秀の言葉に綱成は唸る。
「殿、如何なされますか?」
打開を探るために幻庵は氏康に視線を向ける。皆からも向けられた氏康は頷く。
「……日本軍とは和を結ぶ」
「御意。そうなると婚姻ですかな?」
「そうなる。だが、儂には娘は幼い」
この頃(1566年)、氏康の娘は六女の娘(史実の北条夫人)以外は嫁に出しておりいない状態であった。その六女も永禄7年(1564年)に生まれたばかりであるので無論、婚姻からは除外される。
「ならば殿、儂の娘は如何ですかな?」
「幻庵のか?」
「御意。幸いにも娘が一人おりまする。儂の娘を殿の娘としての養子を出しますので問題はありませぬ」
「フム、妙案じゃな。それでいこう」
氏康は我が意を得たとばかりに膝を打ち北条の方針は決まった。そして北条の使者が直ちに今川館で駐屯している日本軍のところに向かったのであったが使者は幻庵でありこれは氏康からの命でもあった。
というのも、軍儀後に幻庵は再度氏康に呼ばれ二人だけの密会をしていた。
「日本軍は恐らく我々の要求をそう簡単には呑まないだろう」
「殿……」
「日本軍の様子を風魔を使って調べさせたが……対等な同盟は出来んだろうな」
「……でしょうな。日本軍のこれまでの戦はほぼ相手を降伏させていました。例外は越前朝倉くらいでしょう」
「であろう……幻庵、最悪は北条家の血筋が残れるくらいになるやもしれぬ。御主を日本軍の下に行かせるのは彼らの窓口となってもらいたいのじゃ」
「ははっ、お任せください」
そのような経緯があり幻庵が使者となって今川館に向かったのである。そして今川館では島津達が再度軍を編成して進出してきたばかりだった。
「北条からの使者で使者は北条幻庵ですか……」
「確か北条早雲の末子だったよな……」
「というよりも……」
「北条は降す予定ですから今更婚姻同盟など……」
「儂も要らんなぁ……葛城君の方に回すかい?」
「その……葛城隊長の正室がまた怒りますよ?」
「駄目かい? うーん……」
参謀である栗田の言葉に島津は困ったなぁという表情をしつつ頭をポリポリとかく。
「取り敢えずは臣従するかの同盟か対等な同盟で考えましょう」
栗田がそう言うと南場が立ち上がる。
「臣従させるしかありません。仮にも関東……神奈川や東京等を抑えているんです」
「ですな。恐らく北条が此方に来たのも上杉対策でしょう。上杉が関東に来たら我々にも手伝わせるのでしょう」
「成る程……栗田君はどうかね?」
南場らの主張に島津は頷きつつも栗田に問う。島津は陸戦だけではなく海からの視線も欲しかった。問われた栗田は全員に視線を向けてから口を開いた。
「自分も臣従です。但し、北条も北条早雲以来の面子もあります」
「フム……それで?」
「伊豆・相模の二か国安堵で臣従をさせてみてはどうですか? 向こうが蹴るならそれはそれで良し。此方が攻める理由にもなりますし」
「フム。織田とかは一国だが北条を二か国にしたのは?」
「北条の方がまだ善政を敷いているからです。織田等は善政の象徴とも言える楽市楽座はまだしておりませんでしたしまだ北条のが人気があるからです」
「成る程……では栗田君、一先ずはその方向で交渉を頼みたい」
「分かりました」
そして栗田は翌日に幻庵と対面したのである。二人は他愛ない話を少々してから栗田が踏み込み、島津らと話し合った事を幻庵に告げる。
「……臣従せよ……と?」
「武田のようになりますか?」
「……………」
栗田の言葉に幻庵は苦虫を噛み潰したような表情をする。信玄亡き後の武田家では信濃国で国人達が反乱を起こしていた。元々、信玄の力によって抑え込まれていたが信玄が亡き今ではそれは無力と化していた。当主の信廉は何とか家中を纏めようと奔走していたが今のところは焼け石に水である。
「ですが我々も鬼ではありません。伊豆・相模の二か国安堵で手を打ちたいと思います」
「成る程。伊豆・相模の二か国ですかの……(小田原城を接収とまでは言わないか……)」
幻庵はそう思うが実際は違っており、日本軍としては武蔵国の江戸城を抑えたら良いと認識していた。日本軍としては何れ江戸城を皇居と定めて陛下らを史実よりも早いが来てもらいたいと思ってはいたものの、土地開発が全然進んでいないのであればどうしようも無かったのである。
「では栗田殿、二か国安堵であれば北条からの嫁も貰い受ける。そういう事で宜しいか?」
「えっ? いや嫁とかは別に……」
「是非とも島津殿に貰い受けてもらいたいッ!!」
幻庵はそう言って自らの頭を下げる。
「ちょ、幻庵殿……」
「貰い受けてもらえるなら二か国安堵で我々は満足しましょうッ」
「……一応島津司令には伝えておきます。どう判断するかは島津司令ですのでそこはご了承ください」
「無論ですッ」
一先ずの交渉は終わり、栗田は序でにとばかりに日本軍の演習を幻庵に見せたりするのであった。
「フム……北条側がどうしても……か……」
「はい。如何されますか?」
「……仕方あるまい。取り敢えず会うだけ会ってみよう。だが、北条側は大丈夫なのか? 氏康と幻庵だけで内部を抑えられるのか?」
「……難しいでしょう。内部には武闘派の北条綱成などもいますし……まさかッ」
栗田は何かに気付いた。その様子に島津は問う。
「何か懸念でも?」
「……可能性としては一度は北条と戦うかもしれません……ですが、これは粛清を兼ねる戦いになるやもしれません」
「……まさかとは思うが……」
「……おい、待てよ栗田君。それだと……」
何かに気付いた南場達も冷や汗を流す。恐らくは気付いたのかもしれない。
「……はい、皆さんが思っている通りかもしれません……恐らく北条は戦になった最悪の場合、我々との戦を利用して内部粛清して頭を下げるかもしれません」
栗田はそう苦々しく言うのであった。
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