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第二十八話






 両軍は富士川を挟んで対峙する。島津の日本軍は岩淵辺り(現在の富士川SA付近)に陣を構え、武田軍は柚木辺りに(現在のJR柚木駅付近)に陣を構えた。


「直線距離だと約182町程になります」

「野砲の砲撃で直接叩けます。やりましょう!!」

「いや、此処は戦車を先頭で渡河をして陣を叩きましょう!!」


 近藤と南場はそう主張し島津は栗田に視線を向ける。


「栗田君、君はどう思うかな?」

「……戦車で渡河中に武田の騎馬隊が突撃してくる可能性があります。此処は同時攻撃にしてみてはどうですか?」

『同時攻撃?』


 栗田の言葉に島津達は首を傾げる。


「戦車隊が富士川の河川敷まで前進します。恐らく戦車隊の音で武田軍は渡河してくると見て出陣の準備をするでしょう。戦車隊で釘付けにしている間に野砲隊の砲撃で武田軍を砲撃、武田軍が混乱している隙に戦車隊及び歩兵隊が渡河して向こう岸に進出しましょう」

「フム……どうかね近藤大尉に南場大尉? 栗田君の具申が最適だと思うが?」

「確かに……利はありますね」

「異存無しです。やりましょう!!」

「但しです。武田軍が夜襲をして来なければになります」

「……夜襲を仕掛けて来ると?」

「可能性はゼロではありません。武器の差を埋めるのであれば突撃しかありません。それは日露の二百三高地等で実証されています」

「フム……宜しい。ならば今夜は武田軍の夜襲に警戒して攻撃は明け方としよう。警戒は厳とせよッ」

『ハッ!!』


 島津達の作戦はそのように決定した。また、攻撃は明け方となりその日は警戒厳となった。一方で武田軍は夜襲を選択していた。


「恐らく奴等が使う武器は夜を想定していないでしょう。そこを攻めるべきです!!」

「信綱殿の申す通りです!!」


 父に代わり信濃先方衆となった真田信綱はそう主張する。隣では同じく武田二十四将の三枝昌貞も同調する。


「フム……喜兵衛はどう思うかね?」


 信玄は武藤喜兵衛(真田幸綱の三男)に視線を向ける。


「やれるかと……奴等の鉄車が動く気配が無ければ勝機は十分にあります」

「フム……宜しい、仕掛けてみようッ」

『オオォォォッ!!』


 武田軍は夜襲をする事になる。先方は真田信綱に三枝らで4000の兵力、中軍に土屋昌次に原昌胤と諏訪勝頼の8000、後軍に信玄らの13000が控えていた。

 そして1565年11月15日2200頃(亥の刻)、此処に富士川の合戦が開始されるのである。

 先方隊は富士川の河川敷まで前進していた。しかし対岸が明るい事に気が付いた。


「信綱殿、あれは……」

「ムゥ……警戒されている……」


 対岸では歩哨らしき足軽達が警戒していた。彼等の手には江戸時代に発明された龕灯が握られており川に蝋燭の光を当てていた。日本軍の中にも農村出身がおりまだ龕灯が使用されていた事もあり夜襲対策で作られて配られていたのだ。


「どうする信綱殿?」

「……光が当たるギリギリまで近づき、矢で仕留めよう。幸いにして数は10人前後しかいない」

「成る程。それでいこう」


 信綱は手勢200を率いて先に川に入る。恐る恐る近づき、矢を放つ。しかし二人を倒す事が出来ず、二人は懐から竹の呼子笛を取り出して『ピィーッ!! ピィーッ!!』と吹いたのである。


「しまった!?」


 信綱は仕留めきれなかった事を悔やみつつ抜刀した。


「掛かれェ!!」

『ウワアアアアアアァァァァァァァァァァ!!』


 信綱の手勢200は雄叫びを挙げて突っ込む。それに続いて後方で待機していた三枝の残り3800の先方隊も突っ込むのである。

 一方、夜襲を受けた日本軍では直ぐに迎撃態勢が敷かれた。


「やはり夜襲を仕掛けてきたか。それで兵力は?」

「未だ不明です。ですが四桁はいるかもしれません」

「ムゥ……」


 そうしているうちに九二式歩兵砲が星弾(照明弾)を撃ち上げた。富士川の周辺は瞬く間に昼間のように明るくなる。


「な、何と……」

「昼間のように明るいとは……」


 後軍にいた信玄や喜兵衛らは明るくなり幾分かしてまた暗くなる富士川周辺に驚きつつも軍を進める。そして信玄側からでも銃声は聞こえてきた。


「撃ちまくれェ!!」


 歩兵隊を率いる牛山大尉は久しぶりの夜戦に喜びつつも馬防柵からの射撃を継続させる。


「軽機と手榴弾!!」

「軽機準備良し!!」


 十一年式軽機関銃を持つ兵とその120発弾薬箱を持つ兵が来て、兵が軽機を構える。


「撃ェ!!」


 十一年式軽機関銃は軽快な音と共に射撃を開始する。しかし、直ぐに装填不良を起こしたり射撃が継続出来なかった。


「クソ、この不良品が!?」

「愚痴るな上等兵。小銃隊の支援射撃を継続すれば良い」

「ハッ!! ありがとうございます!!」

「良し、手榴弾用意!!」


 他の兵が手榴弾ーー四式手榴弾を準備する。


「準備良し!!」

「投擲!!」


 三発の四式手榴弾が富士川方向に投げ込まれ二回爆発する。爆発付近にいた武田軍の足軽は吹っ飛ぶ。


「チッ、一発は不発か」

「陶製ですからねぇ」

「射撃は継続!!」


 各歩兵中隊は射撃を継続しつつその後方では第1大隊砲中隊(青銅製固定式曲射歩兵砲×4)と第2大隊砲中隊(青銅製固定式曲射歩兵砲×4)が砲撃を開始していた。


「砲撃始めェ!!」


 曲射歩兵砲は次々と砲弾(石弾)と炸薬を装填して砲撃していく。放たれた石弾は放物線を描き突撃する武田軍の頭上から落下してくるのである。


「グハッ!?」

「ギャッ!?」

「おのれ、何と言う武器なんじゃ……」


 富士川を渡河する武田軍の足軽達は頭上から降ってくる石弾に恐怖する。更に渡河しようとする馬防柵からの銃撃がありこれでは近づく事は困難であった。

 それでも信綱の手勢110名は渡河に成功して馬防柵に迫ろうとした。


「破壊しろォ!!」


 馬防柵に取り付こうとした足軽達であったが其処を更なる射撃があった。


「重機、到着しました!!」

「済まない!!」

「伝令!! 戦車混成大隊の第3中隊と第4中隊、到着しました!!」

「来たか騎兵隊!!」


 到着したのは5丁の三年式機関銃と戦車混成大隊の第3中隊と第4中隊であった。先に第3中隊の89式中戦車甲型×11両と95式軽戦車1両が榴弾を放った。

 この榴弾の一発が後軍を襲った。しかも信玄の近くであった。


「グォッ!?」

「お館様!?」


 榴弾の破片は信玄の左手を切断し、衝撃で騎乗から落馬した。直ぐに喜兵衛が救助し手当てをする。


「グッ……」

「お館様!?」

「……皆は……」

「は、負傷多数です。お館様、このままでは……」


 喜兵衛はそこからは言えなかった。自身の口から「退却」という二文字は言えなかったのだ。しかし、信玄は勝敗が見えていた。


「……構う事ない。使番を走らせ退却をするのだ」

「お館様!?」

「急ぐのだ!!」

「……はッ!! 使番、全軍に報せ!! 退却だ!!」


 使番は直ぐに前軍と中軍に向かい退却を伝える。


「何!? 父上が負傷したと!?」

「ハッ、それにより全軍退却の指示でございます!!」

「~~ッ!? 口惜しやじゃ!! 分かった、直ちに退ーーー」


 勝頼はそこから口から発する事が出来なかった。勝頼の額に歩兵中隊から放たれた改良ドライゼ銃の弾丸が撃ち込まれたのである。

 額から大量の出血をする勝頼はグラリと落馬した。


「か、勝頼様!?」


 原昌胤が慌てて下馬して勝頼を抱き起こすが勝頼は既に戦死していた。


「勝頼様……ッ」


 原は仕方なく勝頼の遺骸を自身の馬に乗せて中軍の退却を指示したのである。そして先方隊ーー前軍でも退却しようとしていたが信綱は腹を撃たれて負傷した。


「信綱殿!?」

「三枝殿、儂に構わず行くのだ!!」

「……済まない!!」


 三枝はそう言って退却するのである。しかし、三枝は退却中に転がってきた砲弾に吹き飛ばされるのである。


「島津殿、追撃しますか?」

「……止めましょう。逆撃の備えがあるかもしれません。此処は追い返すのみにします。追撃する時は長秀殿らの力を借ります」

「御意。その時は腕が鳴りましょうぞ」


 丹羽長秀の具申に島津はそう答える。


「取り敢えずは両軍の負傷者を救助します」

「御意」


 島津はそう命令を発する。なお、この救助活動で負傷して富士川の草むらに身を隠していた真田信綱が捕縛されるのであった。

 この富士川の合戦で日本軍は死者14名、負傷者279名を出すも武田軍の夜襲を退けるのである。代わりに武田軍は死者及び生死不明約3400、負傷者2400を出して柚木に構えていた陣まで退却するのである。しかも信玄は左手切断という重傷付きという。更に死者の中には三枝昌貞、諏訪勝頼も含まれていたのだ。

 そして明け方の0430、日本軍と織田・今川連合軍は予定通りに進撃を開始して富士川を渡河した。


「申し上げます!! 敵軍、富士川を渡河しました!!」

「直ちに迎撃だ!!」

「待て、お館様が負傷しておられるのだぞ!! 此処は引き退くのじゃ!!」

「勝頼様まで討たれたのじゃぞ!! このままでは済ませられるわけがない!!」


 武田の本陣にて馬場信春と小山田信茂は言い争っているが日本軍は進撃を続けており、富士川の陣からは野砲隊(長四斤山砲)が時折武田軍の陣地を砲撃しており負傷者は増える一方であった。


「……甲斐まで……退却せよ……」

「お館様!?」

「此処に留まりては皆、やられてしまう……甲斐まで……退却するのだ……」


 止血に成功した信玄は重臣達の前に姿を現して床几に座り辺りを見渡す。


「……四郎は如何した?」

「……四郎様は……」


 信玄の言葉に原昌胤はそれ以上は言えなかった。それを察した信玄を目線を地面に向け、目を閉じるも一瞬の事であった。


「……ならばこそ余計に甲斐に退却する必要はある。全軍、甲斐まで退却だッ」

『ハハッ!!』


 決断した武田軍は早かった。殿は原昌胤が付いた。


「必ずや逃がしまする!!」


 昌胤は此処を死地とし覚悟を決めていたのだ。昌胤の軍勢3000は迫り来る織田・今川連合軍を引き付けた。この昌胤の殿により武田軍は退却する事に成功する。しかし、甲斐に昌胤が帰って来る事は二度と無かったのであった。







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