第二話
「やはり毎日同じか……」
「みたいですね。夢幻だったら良かったのですが……」
葛城の呟きに副官の栗田少尉はそう答えた。相良油田守備隊が何処かにタイムスリップをして一週間が過ぎた。当初は混乱していたが守備隊司令官の島津少将の一喝に落ち着きを取り戻し付近の捜索及び情報収集に陸海とも展開していたのだ。
だが、斥候隊が持って帰ってくる情報は大体同じであったのだ。そこへ伝令がやってきた。
「隊長、島津司令から1800に司令部に来てほしいとの事です」
「ん、了解した」
伝令の報告に葛城は頷き伝令は退出する。今の時間は1745、今から行く必要があった。
「司令部に行ってくる」
「了解しました」
葛城は栗田にそう言って守備隊司令部に向かうのである。司令部の作戦室に通されると既に守備隊司令官の島津少将の他にも歩兵大隊長の牛山大尉、戦車大隊長の近藤大尉、砲兵大隊長の南場大尉らが揃っていた。
「遅れました?」
「いや、今来たばかりだ。それでは結果報告といこうかの」
島津少将はお茶が入った茶碗を啜りながらそう告げる。その言葉に牛山大尉が椅子から立つ。
「本日は我々、昨日は近藤大尉の斥候隊が付近の捜索をしました。が、やはり町はあらずあるのは村等が複数点在するのみでした」
「そして村人? らしき人達からの情報で今は永禄3年……西暦だと1560年になります。国についてはやはり駿河国であり一月前に尾張の桶狭間で今川義元が討たれたと言っています」
「……確か歴史だとそこから織田信長の躍進が始まる……か」
「まぁ岐阜を落とすのに10年は掛かっていますがね」
島津の呟きに葛城はそう答えた。それに目敏く島津は気付いた。
「ほぅ、葛城少佐は歴史に詳しそうだな?」
「まぁ……人よりかはある程度……でしょうか。副官がよく知っていますが」
「しかし……司令、我々はこれからどうします?」
そう声を挙げたのは牛山大尉だった。
「我々は計らずもこの戦国という世ですか。その時代に来てしまいした。部下達の去就も……」
「それについては三つの案がある」
『………………』
島津の言葉に全員が黙る。島津の言葉を誰もが待っていた。
「甲案……このまま此処で時を過ごす。誰にも接触する機会は少なからずあるがそれでもマシだ。乙案……この基地を全て破壊後、隠匿のため全員自決して靖国へ行く。丙案……天下を取る」
『…………………』
島津の提案に誰もが困惑した。天下を取る? 馬鹿な、何を……。
「島津司令、丙案は……天下統一をすると?」
「うむ。信長や秀吉……家康らを軒並み倒して素早く日本を統一し富国強兵を行い……今度こそ日本をアメリカの侵略を受けないよう強国を作る……これだな」
島津はそう言ってお茶を啜る。島津の言葉はつまり……。
「歴史を変える……そういうわけですね?」
「そうだな」
「そこまで覚悟が……ありますか?」
「少佐!?」
不意に口を挟んだのは葛城だった。牛山や南場らは驚愕の表情をしつつ島津と葛城、両者を交互に伺う。
「少佐、ワシは窓際の大佐であり戦争はワシにはそこまで関係無いと言えばそうかもしれん……守備隊司令官に就任しても上からはそこまで求められていなかったし司令部の参謀達も後から就任する予定だったからな……だが3月の東京空襲で家族を失ってからはワシは死に場所を探していた」
『……………』
島津の告白に葛城達は無言だった。
「だがこの世界に来てワシは天命を得たと思ったよ……この時代から富国強兵を行えば少なくとも、あのような惨劇にはならなかった……そう思うのだよ。だからワシは日本を統一したい、どうかね?」
今度は葛城が答える番だった。
「まぁ……自分自身もガダルカナルで嫌という程感じていますよ。だから自分も賛成の立場になります」
そう言って葛城はニヤリと笑う。
「全く……俺達はそう決意を固めても部下達はどう思うかは分からんぞ?」
「無論、全部隊に相談するしかないな」
牛山や南場達は苦笑しながらもそう話すのである。そこで解散となり葛城は陸戦隊司令部に戻るのであった。そして葛城は栗田達陸戦隊員全員を集めて話し合う事にした。
「……というわけだ。皆も意見も聞きたくてな」
『………………』
葛城は全員を見渡す……が、全員の表情はやる気に満ち溢れていた。
「隊長、我々は少なからず米軍の空襲で家族や両親を失っています。その者達が空襲で死なないなら……我々は鬼にでもなりますよ」
古参の兵曹長がそう答えた。それに続くように他の隊員も答えた。
「そうだそうだ!!」
「どうせ皆死んだんだ……ならその歴史を変える道があるなら!!」
「通子……俺はやるよ……」
「やりましょう隊長!!」
「やりましょう隊長!!」
次々と湧く声に葛城は頷いた。
「……分かった。我が海軍陸戦隊は腹を括るぞ!! 日本の未来のために!!」
『オオオォォォォォォォォォォォォ!!』
陸戦隊員達は雄叫びを挙げる。それは何処の箇所でも同様な雄叫びが挙がっていた。それを司令部で島津は聞きながらお茶を啜る。
「……頼むぞ……皆……」
斯くして相良油田守備隊は覚悟を決めた。日本を天下統一しあの未来を回避するためにである。そして島津は司令官として演説を始めた。
「諸君、我々が進む道は棘の道だろう。だが我々は成し遂げねばならない。我々は最早ただの日本軍ではない!! 諸君らには家族、友、妻がいた。その人達をあの歴史に歩ませないためにも、此処で我々が立ち上がらねばならないのだ!!」
『ウオォォォォォーーーッ!!』
「我々は八百万の神々に選ばれたのだ!! あの歴史を繰り返すわけにはいかないのだ!! 諸君、我々は未来の日本のために戦わなければならないのだ!!」
『ウオォォォォォーーーッ!!』
「では往こう。全ては諸君らの働きにかかっている!! 海軍の言葉を借りるならまさにこの言葉だ。『皇国の興廃此の一戦に在り、各員一層奮励努力せよ』である!!」
『オオオォォォォォォォォォォォォ!!』
「………演説は恥ずかしいな……」
演説を終えた島津は赤面しながら葛城達に言い葛城達も苦笑するのであった。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m