第二十六話
京へ上洛した葛城率いる日本軍だったが、それを拒む者達がいる。それは今は亡き三好長慶が率いた三好家である。
「畿内の支配者は我々だ!!」
「おのれ久秀め、裏切りおって!!」
「軍勢を整えて久秀を討ち破ってやる!!」
三好を裏切り、葛城に頭を下げた松永に対し三好三人衆は激怒しつつも葛城の出方を探った。しかし、彼の長であるはずの三好義継は久秀の手引きにより三人衆から離れてそのまま葛城に降伏したのである。
「河内北半国と若江城の所領は安堵とするが、後に国替えで移動してもらう」
「国替え……それはどちらにでございまするか?」
「あぁ、三好氏は本来阿波国の出身と聞く。阿波、讃岐に加え土佐を三好とする」
「し、四国のうち三国をですか!?」
「何か不満でもあるのか?」
「い、いえ有りませぬ(こ、これは……棚から牡丹餅かもしれぬ……)」
義継はそのように思っているのであった。それは兎も角、義継にも逃げられた三人衆は大和国の国人である筒井順慶と手を結び葛城に対抗しようとした。
「三好三人衆の支援に堺の会合衆も付いたようですね」
「それは仕方ないだろうな。それで数正、首尾は如何に?」
和将は数正に視線を向ける。
「は、雑賀衆は残念ながら此方に見向きも致しませんでしたが根来衆は此方に付きました」
「むぅ……やはり雑賀は本願寺に付くか……」
「は、雑賀衆は本願寺との関係も深かったですので……」
「まぁ良い。根来衆でも付いただけでも御の字だ。それでは数正に恩賞として三河をやろう」
「!? そ、某を国持ちになれと……」
「うむ。難しい交渉をしてくれた礼だ」
「あ、有り難き幸せ……!!」
「これからも頼むぞ(三河者は頑固者が多いからそれを知る数正は適材適所だな)」
涙を流す数正だったが葛城は内心、そう思っていた。というよりも三河を任せられる者は三河出身者しかいなかったのだ。
「さて、問題は三好三人衆ですね。一応京周辺からは追いやってはいますが本拠地の阿波で勢力を建て直しているでしょう」
「久秀は信貴山城で筒井順慶と大和を巡り合ってるしな……先に大和を片付けてはどうだ?」
「フム……大和となるとやはり鍵を握るのは興福寺でしょう」
「殿」
「どうした半兵衛?」
「興福寺には朝廷から御墨付きの領地を与えて此方に引き込むのは如何でしょうか?」
半兵衛は和将にそう提案する。
「ふむ……どれくらいだ?」
「最初は一万石、最終的には二万石を与えては如何ですか?」
「うむ……正信」
「はは」
「済まないが興福寺と交渉してくれるか?」
「御意。某にお任せ下さい」
「それと……」
「ふむ……」
半兵衛は更に案を出し、正信は頭を下げて興福寺の代表と極秘に接触を行う。
「して……我等とは何をやりたいので?」
「……大和国は我が葛城家が抑えます」
「ほぅ……」
「興福寺は大和国統一の為、我々に協力してもらいたいのです」
「……成る程……して我等に利は?」
「これを」
正信は書状を僧に渡した。僧はそれを受け取り、内容を一目すると目が見開いた。
「これは……!?」
「葛城家からの朱印状です。それに葛城家の朱印状を認める関白近衛前嗣公の書状もあります」
正信は僧に葛城家の朱印状と近衛公の書状を渡す。葛城家の朱印状には興福寺に一万石の安堵が書かれていた。
「信用ならぬのであれば右大臣花山院家輔、左大臣西園寺公朝の書状もあります」
「こ、これは……いやはやこれ程とは……」
書状を持つ僧の手が震えていた。いくら今では力が無い朝廷でもその権威は未だ衰えてはいなかった。
「また、大和国が無事に葛城家の物となれば感謝の証として倍の一万二千石の加増も考えております。如何でしょうかな?」
「……分かりました。直ぐに話し合いましょう」
「良い返事を期待しています」
正信はにこやかに答えた。そして興福寺は葛城家に協力する事になる。
「興福寺は此方の味方に付けた。久秀」
「はは」
「大和に葛城の援軍を送る」
「感謝致します」
「大将は織田信包、副将織田信治とし軍師は半兵衛を付けて一万八千を大和に送る」
「御意」
「それで大和を無事に攻略したら久秀、大和は御主にやろう」
「……有り難き幸せ(うつけか大物か……やはり)」
頭を下げる久秀は内心、そのように考えていた。そして部隊は大和攻略に向かう。その間の京の守りは二万の兵力でするが、その情報が三好三人衆に届いてしまう。
「大軍で押し寄せれば勝てる。それに松永が大和で孤立するぞ」
「うむ、京に進軍すべきだろう」
「畿内を三好の手に戻すぞ!!」
三好三人衆はそう意気込んで葛城より多い四万の兵力を集めて山崎に進軍した。
「……半兵衛の読み通りだな」
「そのようですな。向こうの知恵も浅はかではありますが」
葛城は二万の軍を率いて出陣していた。上洛に当たり戦車隊はいなかったが、野砲隊はいるのでまずまずの心配はなかった。
「作戦はどのように?」
「……島津の釣り野伏せとするか。三好の戦力は出来るだけ根こそぎに刈り取らないとな」
「史実の信長包囲網は四面楚歌ですからね……」
和将の呟きに水姫之はそう呟いた。信長包囲網を作る義秋はまだ朝倉家の越前にいたが今のところ何の気配もないが警戒は必要であった。
「あのクソ坊主、ある意味不気味だが……まぁ良い」
「今は前の敵に集中しましょう」
そして三好三人衆と葛城は山崎で激突した。後に『山崎の戦い』と呼ばれる戦いである。両軍の戦闘は序盤は三好軍が押していた。そこへ葛城は士気向上のため前線に訪れたが、そこへ三好側が放った矢が葛城に命中して負傷、後退してしまう。
「御大将負傷!! 御大将負傷!!」
伝令の報告に足軽達は士気低下して逃げ出す者が続出してしまう。
「やむを得ません、後退しましょう」
負傷した和将に代わり、臨時に指揮を取る水姫之は後退を指示して部隊が後退する。それを見た三好軍が更に追撃をしてきた。
「予想通り獲物が食い付いたな」
「ではやりましょうか」
日本軍が十里程後退した時、草むらから三好側は銃撃された。
「何!? 待ち伏せか!!」
「撃ェ!!」
左右に伏せていた二個大隊が一斉に射撃を開始して三好軍の足軽を薙ぎ倒していく。更に後退していた部隊が反転して付近に待機していた野砲隊と合流して野砲隊が砲撃を開始する。
「な、何だあの物体――」
着弾して転がりながら足軽を薙ぎ倒す実体弾(石弾)を初めて見る三好軍は完全に混乱していた。ちなみに相良油田基地の簡易工場で榴散弾は生産されていたがまだ数が圧倒的に少ないので和将の方も石弾が使用されていたのだ。
「三好軍は大混乱になっています。隊長」
「ん。忠勝……止めを刺せ」
「御意ッ。本多隊、突撃するぞ!! この本多忠勝に続けェ!!」
混乱する三好軍に戦国最強とまで言われた本多忠勝隊が止めを刺すばかりに突撃を開始した。
「おのれ葛城め!! 奴は一体何をしたんだ!?」
三人衆は最後まで分からないまま撤退をするが、追撃される道中で岩成友通が水原隊の射撃に討たれてしまい、生き残ったのは負傷者を含めて一万三千であった。
その為友通を討たれた三好軍は本拠地阿波まで撤退する事にしたのであった。
「これで一先ずは三好の勢力を畿内から放逐は出来ましたね」
「あぁ。それで堺の動向は?」
「三好が畿内から追い出されたので此方に降伏する方向と報告を受けています」
「堺に5日待つと伝えるか」
「分かりました。そのようにしましょう」
そして三好を畿内から駆逐した日本軍は威風堂々と河内国の飯盛山城へ入城してから5日後、堺から使者が来たのである。
「隊長、堺から今井宗久が使者としてお見えです」
「今井宗久か」
「恐らくは降伏の事でしょう」
「分かった、通せ」
そして今井宗久が葛城の御前に現れる。
「今井宗久です。お会いできありがとうございます」
「前置きは良い。それで用とは?」
「は、我等が堺は頭を下げますとの事ですわ。私がその仲介を担う形で訪れました。それで少しばかりですが……」
今井はそう言って自身が持ってきた松島の茶壺や紹鴎茄子など史実で信長に献上した品物を葛城に献上した。
「……分かった。御主の誠意に免じて御主に仲介しよう」
「ありがとうございます」
「ついては堺に対し矢銭三万貫を課す。受け入れるなら我々葛城が堺を保護しよう」
「ほほぅ、矢銭三万貫ですか……」
「無理かな?」
「いえいえ、無理を通すのが商人という物ですわ。私にお任せ下され」
今井宗久はそう言って堺の会合衆と交渉して見事に矢銭三万貫を条件に堺が降伏するのであった。
「これで河内、堺は手中に治めた。残りは……」
「石山本願寺の摂津ですね」
後に信長と対立して実に十年間も信長を苦しめたのが石山本願寺の一向一揆である。
「十年も時を費やす事はしたくない」
「なら外交ですか?」
「うむ。だが加賀と長島は何れやらねばならない」
「……殲滅ですか?」
「……そうだ」
葛城は水姫之の言葉に頷いた。
「……分かりました」
水姫之達も決断するのである。
「となると此処は直接腹を割って話すべきではないですか?」
「直接会談をか?」
「えぇ。寺内町の領有を認めるのを餌にしましょう」
そして水面下で本願寺と交渉に入るのである。
御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m




