第二十四話
何とか間に合った
小谷城を占領した和将達は一旦は付城に戻った。そして小谷城を誰に任せるかの議題に入ったが将和はある程度の目星を付けていた。
「長秀」
「ははッ」
「御主を小谷城の城主とし浅井の旧領をそのまま与える。そして朝倉への備えとせよ」
「そ、某に北近江を下さるのですか!?」
「うむ、御主だからこそ任せられる。頼むぞ」
「……ははッ!!」
長秀は感激して頭を下げるのであった。そして佐和山城に和将達が戻ると降伏した南近江の六角親子が挨拶に訪れていた。
「六角四郎承禎でございまする」
「六角四郎義治でございまする」
「うむ、葛城将和だ。御主らの所領は書状通り安堵とする」
「「はは!!」」
二人は葛城に頭を下げる。なお六角は生き残りに成功し現代にまで続く血筋を残すのであった。なお、六角に続く形で高島郡の朽木も和将に服従する旨の文書を陸戦隊に渡した事で服従を認可されたのである。
そして和将の陸戦隊が京へ上洛が整った……かに見えた。
「は? また足利義秋からの文か……」
「はい。読みましたがどう見ても上洛に協力せよとの事です」
「…………」
水姫之から渡される文を見つつ和将は溜め息を吐いた。文面は最初は葛城家の進撃を褒めつつ中盤からは自身の上洛の為に軍勢を引き連れて合流せよと記載されてあった。文はそのまま破り捨てられる。
「どう見ても却下だな」
「役割が信長と同じとは……甚だしいですね」
溜め息を吐く和将達であったが東ーー日本陸軍は忍びからの情報に驚愕していた。
「何!? それは真か鍾馗!!」
「は。甲斐の虎、武田晴信が駿河へ侵攻を始めましたッ」
相良油田基地で忍びの鍾馗からの報告を受けた島津は驚愕の表情をした。それは栗田や牛山達もである。
「早い、早すぎる侵攻だ」
「恐らくは我々の今川侵攻に触発されたのでしょう」
「かもしれんな。それで駿河の状況のどうか?」
「当初は今川も混乱していましたが、氏真が建て直しを図って武田の侵攻を抑えております。ですが……」
「武田が駿河を蹂躙するのは時間の問題……か」
「申し上げます!!」
そこへ新たな伝令がやってきた。
「只今、駿河の今川家から使者が訪れておりまする」
「今川家の使者だと?」
「どうしますか隊長殿?」
「……会おう。直ぐに通せ」
「はは」
そして島津の御前に今川の使者が赴いた。
「降伏……すると?」
「は、我が主氏真は島津殿に降伏するとの事であります。此方がその書状です」
使者からの書状は栗田を通して葛城に渡された。
「あい分かった。重臣と話すから少し待たれよ」
「ははッ」
使者が下がると直ぐに島津は直ぐに牛山達と評定を行った。
「どう思う?」
「ただ単に大名の権威を捨てて我等に助けを求めたのか、それとも武田と我等を戦わせるのかの二者ですな」
島津の問いに牛山はそう返した。栗田や他の佐官達も頷いている。
「今出せる兵力はどれくらいか?」
「援軍を出すのですか?」
「これが密書なら黙殺をするが、正式に使者を出している。しかも黙殺すれば我々の評判は地に落ちる」
「……やむを得ませんな」
そう言って牛山が溜め息を吐いた。
「一個歩兵大隊、一個砲兵大隊、二万の軍は出せるでしょう」
「……ならば私を総大将、軍師に加藤を遣わせる。それで良いか?」
「異論有りませぬ」
島津の言葉に皆は頷いた。そして島津は尾張から派遣されている織田信興に視線を移す。
「信興殿」
「ははッ」
「御主は直ぐに尾張に戻り更なる増援部隊の派遣を尾張にいる信広殿に具申してもらいたい。そして増援部隊を率いて此方に来るように」
「御意。直ちに尾張へ向かいます」
「司令、そうなると北条との戦はどうなりますか?」
「今は北条の相手をしている暇はない。駿河の半分で手を打ってもらおう」
「成る程。分かりました」
島津の命を受けた信興は直ちに尾張へ向かい、島津も二万と一個歩兵大隊、一個砲兵大隊の準備が出来次第、率いて駿河方面へと向かったのである。そして今川派遣軍は一月後には遠江から駿河に侵攻したが今川から更なる使者が参ったのである。
「今川氏真です」
「これはこれは……まさか今川当主自らが使者とは……」
今川からの使者は何と氏真と母親の寿桂尼だった。
「当主自ら参られるとなると……状況は酷いようですね」
「……全く以てその通りです。何とか防戦はしていましたが、家臣は相次いで裏切り、そのまま武田に降伏しました」
氏真は残念そうな表情をしながら島津に告げる。
「いやはや……父上を討たれて以降、今川はボロボロでした。それに島津殿らが遠江を奪って以降も酷かった」
「心中御察しします。さぞ我々をお怨みかと存じます」
栗田は氏真に頭を下げるが氏真は気にしない表情だった。
「いやいや、これも戦国の世の定めです。怨みなどありませぬ」
栗田にそう言う氏真だった。氏真達を収容した派遣軍は護衛隊を出して氏真らを相良油田付近に向かわすのである。
「此処が……島津殿達の始まりですか?」
「えぇ。南蛮から本土を守るために……」
栗田はそれ以上の言葉を言わなかった。氏真もそこのところは理解した。そして駿河方面に派遣軍が駐屯をしたのを武田も乱波等の情報で手に入れていた。
「ふむ……」
「如何なさいますか御館様?」
思案する武田信玄に武田四天王の一人である山県昌景がそう促す。
「……昌豊」
「は」
信玄は同じ四天王の内藤昌豊に視線を移した。
「御主に五千の兵を与える。日本軍とやらの軍勢を蹴散らして参れ」
「御意。お任せ下さい」
内藤は頷いて五千の兵を率いて出陣するのであった。武田軍の動きに派遣軍も気付いた。
「情報だと敵将は内藤昌豊との事です」
「ふむ……」
「司令、具申します」
「栗田少尉、何か策でも?」
栗田の具申に島津はそう尋ねるが栗田は苦笑した。
「以前にうちの隊長が出来なかった事をしたいと思います」
そして派遣軍は三方の軍勢に分かれて島津率いる五千は内藤の軍勢と交戦を開始した。
『掛かれェ!!』
『ウオオォォォォォォーーッ!!』
同等の兵力でぶつかった両軍だが、練度の差は明らかであり島津隊は苦戦していた。
「これ程までとは……いやはや流石は武田の軍ですね」
「感心している場合ではないぞ栗田少尉」
「そのようですな。では引きのきましょうか」
そして戦いが始まって三十分、島津隊はゆっくりと後退を始めた。
「日本軍の軍勢はゆっくりと後退していますな」
「うむ。ここいらで一気に踏み潰そう」
家臣の言葉に内藤はそう判断して島津隊を追撃する。そして島津隊は完全に敗走を開始した。
「引けェ!! 引くのだ!!」
島津隊の雑兵は我先にと逃げていく。その後方から内藤隊が追撃していく。そして――。
「今だ、撃ェ!!」
左右の草むらに待機していた歩兵大隊、足軽鉄砲隊が一斉に射撃を開始した。
「な、何!?」
次々と倒れていく雑兵に内藤は目を見開いた。
「織田に一杯食わされたか!!」
内藤はそう叫ぶがその間にも射撃で次々と雑兵が倒れていく。その少し離れたところでは長四斤山砲隊と固定式曲射砲隊が砲撃を開始していた。
「撃ちまくれェ!! 砲撃の手を緩めるな!!」
内藤隊からは完全に分からないところから砲撃をし、状況が掴めない内藤隊は完全に支離滅裂な状態だった。
「殿、此処は引きましょう!!」
「……やむ得ない!! 引け――」
しかし、撤退をする前に内藤の近場で砲弾が炸裂した。しかも炸裂した砲弾はただの石弾や鉄弾ではなく、試作の榴散弾――キャニスター弾――であった。
弾の中には金属片や鉛玉が詰められており、破裂した瞬間、近場にいた内藤達に金属片と鉛玉が襲い掛かったのだ。なお、この製造の発案は栗田少尉であった。
「グワァ!?」
身体に多数の鉛玉がめり込み、倒れた内藤はほぼ即死であった。撤退を指示する者がいなくなり、更に後退していた信包隊も再度反転して支離滅裂状態の内藤隊に襲い掛かったのである。
内藤隊が全滅した報せが信玄の元に届いたのは翌日の事であった。
御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m




