戦国日本軍リメイク

第十七話

　さて、戦乱の傷が癒えぬ沓掛城に入城した葛城達だったが村木砦はまだ落ちていなかった。それはその筈であり何せ林が裏切って真っ先に沓掛城を早期に攻略したからである。

「確か捕虜の中に前田利家……犬千代がいたな？」

「はい。まさか解放するので？」

「あぁ。俺の書状を携えて解放し村木砦に行ってもらう。それに信長の首も返そう」

　そう言って葛城は犬千代を呼び出した。葛城の前に出された犬千代は何事かという表情で葛城を見る。

「前田殿、貴殿を解放する」

「………」

「解放して直ぐに村木砦に向かい砦にいる河尻殿にこれらを渡してほしい」

「――ッ！？」

　葛城は犬千代の前に首桶と二通の書状を置いた。犬千代は首桶を見て目を見開いた。

「この首桶は……」

「信長殿の首桶だ。我々が返すより前田殿から返すのが手だと思ってな」

「……晒し首にしないのか？」

「なに、晒し首に関しては裏切った林がなっているから心配ない」

　既に林の首は早速陣中に晒されていた。

「……分かりました。村木砦に行きましょう」

　犬千代は直ぐに村木砦に赴いた。村木砦は宮島大尉の第2警備中隊が取り囲んでいたが葛城の命令により攻撃は停止されていた。

「犬千代ではないか！？　無事だったのか！！」

　村木砦に入城した犬千代は河尻に喜ばれた。しかし、犬千代が持っていた首桶を見て表情を変えた。

「その首桶……まさか！？」

「……殿だ。林秀貞が裏切った！！」

「秀貞殿が！？」

「だがその林秀貞も葛城に討たれたそうだ。良い気味だな……」

「……それで貴様が来たという事は降伏開城か？」

「……分からない。葛城からは殿の首と二通の書状を渡されて解放されたからな」

「……書状は読んでも？」

「葛城は構わないと言っていた」

　許可を得た河尻は書状を一目する。そして書状を見た河尻は重々しく口を開いた。

「……村木砦は犬千代と殿の首を対価に引き渡せか。そしてもう一通が……」

「尾張の全面降伏……」

　書状には村木砦の引き渡しと尾張の全面降伏が記されていた。

「……村木砦からは退却しよう。尾張の全面降伏の事は我等で話すべきではない」

「……御意」

　そして村木砦は生き残りの千二百が尾張方面へ引き上げて宮島大尉達が入城した。

「俺も沓掛城にいよう」

「分かりました」

　葛城達は引き続き沓掛城にいた。なお、虎姫は嫡男虎丸の事もあり掛川城に戻った。本人は満足していなかったが、帰還前日に虎姫が無理矢理葛城を夜這いし、これが原因で後日懐妊する。（長女紫）

　それはさておき、村木砦から撤退した河尻は直ぐに小牧山城に戻り、待機していた丹羽長秀に事の詳細を伝えた。

「……殿の事は分かった。問題は……」

「家督……でございまするな」

　信長が死んだ事で織田家の者が家督を継ぐ必要があった。しかし、信長の子である奇妙丸（後の織田信忠）はまだ八歳であった。

　これでは不味いと判断した長秀は信長の兄である信広（信長の庶兄）と弟信包を小牧山城に呼び、事情を説明した。

「そうか、信長が死んだか……」

「はい、殿の嫡男奇妙丸様はまだ幼く尾張を到底治める事は出来ません」

「だが長秀、儂は家督を継がんぞ。親父殿に継がす事はないと言われているからな」

　信広の母は庶民の方であり、初めから家督継承権はなかったのだ。だが信広も当初は家督を継ごうと信長に謀反をしたりしたが信長から許されたので以後は信長を全力で支えていた。

「まさか……俺か？　俺にそんな家督を継げる自信はない」

　弟信包は十分に家督継承権はあった。しかし、長秀は首を横に振る。

「あくまでも織田家の跡継ぎは奇妙丸様だと某は思います」

「……なら奇妙丸が元服するまで我等で代理とするしかないだろうな」

　信広はそう頷いた。家督代理は信包となり信広と長秀がそれを支える事になる。

「そして問題は……降伏か」

「長秀、兄上亡き今……戦えると思うか？」

「……無理……でしょう。権六もいませんし我等はあの戦で将を多く失いました」

　織田は柴田勝家を筆頭に木下藤吉郎、池田恒興等が討死をしていて織田家の中はガタガタであった。そして今回の林の裏切りである。

「……降伏……しかありません」

　長秀の言葉に信広は溜め息を吐いた。ただ、その表情は予想していたというものだった。

「……やはりか」

「長秀、兄上は葛城をどうしたかったのか聞いてないか？」

「詳しくは聞いてませんが……市姫を側室に出す考えだったようです」

「ムゥ……市をか……」

　この時、市姫はまだ浅井長政に嫁いでいない。そもそも嫁ぐのは1567年であり今は1562年である。

「……それらも視野に入れるか」

　信広達はそう頷いた。そして長秀が使者となり沓掛城に赴いた。

「代理信包様は降伏の所存でありまする。これは織田家の総意でございます」

「うむ、無駄な血を流さなくて済むよ。林の晒し首はそちらでも市中に引き回すか？」

「は、清州の城下町にて引き回します」

　長秀は苦々しく言うがよほど林が憎いのか後に清州の城下町にて一月ほど晒されていた程であった。

「織田家は今後、我が日本軍……取り分け西方での中核を担う役割になるだろう」

「ははっ」

　長秀と葛城の会見はそこで終わった。その後、長秀と水姫之が密かに会談をしていた。

「ほぅ、市姫を……」

「はい。織田家と葛城家の発展に何卒……」

「……分かりました。隊長が納得するかどうかは兎も角ですが……それとあの方にも来ていただきたいと思います」

「あの方……ですか？」

「……信長殿の正室と言えば分かりますか？」

「ッ！？　まさか……」

「そちらにいるのも何かと不都合かと。ならば此方で引き取ります」

「……分かりました（何が目的だ……？）」

　長秀は少し納得いかなかったが承諾するのであった。その後、日本軍は清州城に入城した。

　その際には警備中隊が城下町からの行進を行った。

「進めェ！！」

　警備中隊が行進する様子を城下町の人間は珍しそうに見ていた。

「あの足軽達は凄いな。一緒に歩いているよ」

「あぁ凄いな」

　行進というのに見慣れていない住民達は目を輝かせながら見るのであった。その後、一旦は清州城を居城にする事になり掛川城にいた虎姫や虎丸達が引っ越しに来た。しかしそこで戦が勃発したのである。

「側室の帰蝶です」

「同じく側室の市です」

『宜しくお願い致します和将様』

「(；゜Д゜)」

「( ; ゜Д゜)」

　評定の間で葛城と虎姫は唖然としていた。葛城の御前にて二人の女性が頭を下げていた。その二人は信長の正室帰蝶こと濃姫と信長の妹市であった。

　なお、虎丸は分からないがキャッキャと二人に笑顔を向けていた。

「……どういう事ですか和将様！？」

「い、いや俺も分からないんだよ虎ぁ……」

「分からない事があるかァ！！」

「あたッ！？」

　虎姫が激怒して葛城の服を掴み持ち上げる。なお、いきなり始まった喧嘩に濃姫と市姫は茫然としていた。

（やっぱり夫婦喧嘩に突入したじゃないか）

（大丈夫です大丈夫です）

　それを葛城と虎の夫婦喧嘩を尻目に近藤達はそう話していた。なお、虎姫はグーで葛城の顔を殴っていた。

「私だけしか興味がないと言っていたのは嘘なのか！？」

「いやだから……それは嘘じゃないけどもさ……」

　涙を流す虎姫に葛城も反論出来ずにいた。なお、帰蝶と市の二人は葛城と虎姫の夫婦喧嘩に唖然としていたが段々と居心地が悪いのか表情を暗くしていく。

「まぁまぁ虎姫様……実は今回の事は織田家から言ってきた事なのですよ」

「何？　織田家が……？」

　そう言って水姫之が助け船を出す。葛城を殴っていた虎姫の視線が水姫之に向かう。その表情に一瞬凄むが口を開く。

「そうです。織田家としては我々との関係を保ちたいがためです。戦国の世なので分かってあげて下さい。虎姫様も身に覚えはあるでしょう？」

「……分かりました。戦国の世ですし仕方ありません。ほれに殴るだけ殴ったので許します」

「（俺だけ損してる気が……）いや構わない」

　そして葛城の嫁に二人の女性が加わるのであった。

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