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第十二話







 コメが実を付けて青々と繁り蝉が出てくる八月、相良油田で葛城達は緊急の会議をしていた。


「それで今後の侵攻予定ですが……西と東のどちらに?」


 栗田少尉は葛城にそう聞いた。即ち西とは三河、尾張方面で東は駿河方面である。


「うむ、急遽皆に集まってもらったのは実はそこなんだ」

「……仮に東になさいますと、何れ武田と北条を相手になります。片方の侵攻であれば防げますが同時侵攻だと防ぐ事は出来ないと思われます」

「博雅殿、それは島津殿の部隊でもか?」

「左様です正信殿」


 栗田と正信は仲が良く名前で呼びあっていたりしている。


「消去法になると西の三河、尾張方面でしょう」

「……だろうな。俺もそう思う」


 栗田の言葉に葛城は頷いた。だが島津らは頷く事はせず、じっとしていた。


「司令、何か腹案があるので?」

「うむ……腹案というか無いというかなんだがな……」

「実は葛城少佐、我々も話していたのですが……軍を二つに分けて攻略を目指すべきと思っているのです」


 歯切れが悪い島津の代わりに牛山大尉がそう主張した。牛山大尉の主張に葛城もやはりと頷く。


「早期に日本……日ノ本を統一しようと思えばやはり軍を分けるしかありませんね」

「それと西へ行こうとするとやはり海があるだろう? 海なら専門家でも海軍の葛城少佐らの陸戦隊が適任なのではないか……という話に至っているのだ」


 近藤大尉が補足するようにそう言う。


「とすると我々陸戦隊が西方面へと?」

「うむ。そして我々陸軍が東方面へだな。無論、兵力は均等に配分する」


 葛城の言葉に島津は頷き、兵力の均等配分化を約束する。葛城は腕を組みながら何かを考えたがやがては頷いた。


「分かりました。兵力の分割をしましょう」

「ありがとう葛城少佐」


 斯くして日本軍は二つに分かれる事になりそれぞれの任務に精を出すのである。






「それで……そろそろ家臣にならんか本多忠勝殿?」


 掛川城に戻った葛城は自身の正面に座る青年に視線を向ける。青年の名前は本多平八郎忠勝であった。

 二川の合戦で捕縛されて以来、掛川城で監視付きの軟禁されていた。普通なら斬首でもされるが惜しむらくは後世に伝わる忠勝の武勇であろう。葛城達からすれば忠勝の武は今の日本軍に欲しい逸材である。

 しかし、忠勝は頑なに無言を突き通すのみであった。一回、葛城は正信に任せようとしたが正信は「某は嫌われておりますので逆に殺されまする」と言ったので任せるのはやめたのである。


「……本多殿、何故に頭を下げぬ?」

「……某の主君は松平家のみにござる」

「だがな本多殿、元康は既に亡く、子の竹千代は駿河の今川家にいる。それでも松平家を主君とするのか?」

「………」


 葛城の言葉に忠勝は何とも言えない表情をする。確かに元康の嫡男竹千代は駿河の今川家にいた。


「貴殿は十分に松平家に忠義を尽くしたではないか。それでも最早存続が危うい松平家に忠義を尽くすのか?」

「……それが武士の務めでござる」

「……そうか。おい、縄を解け」

「隊長?」

「本多忠勝を解放する。速やかに三河にお戻りなされ」

「殿!! それはなりませぬ!!」


 葛城の言葉に正信が反論するが葛城は首を横に振る。


「三河武士が頑固なのは知っている。なら戦でもう一度撃ち破って本多忠勝を家臣にしてみせよう。おい、忠勝殿の鎧や刀を返して差し上げろ」


 葛城はそう言って忠勝を解放するのであった。


「次は戦場で会いまみえよう本多殿」

「……忝ない」


 忠勝は葛城に頭を下げて三河に帰還するのであった。


「……宜しいのですか隊長?」

「まぁ本音を言うならば本多忠勝は家臣にしたいな……」

「ならば殿……」

「だが強要し続けると松平家への忠義の板挟みで忠勝が腹を切る可能性もある。それは阻止したかった。だから解放した」

「成る程……」

(普通なら頭を下げるけど三河武士だからなぁ……)


 正信は感心したように頷いた。内心、葛城はそう思っていた。そして忠勝は無事に三河国岡崎の西蔵前に帰還するのであった。

 忠勝の帰還に三河の国人達は喜び、葛城に当たる事にした。漸く争っているべきではないと判断したのである。

 しかしその判断は遅すぎた。コメの収穫と麦撒きを終えた十一月、吉田城へ一万二千の大軍が攻め込んできた。


「三河の軍勢は凡そ一万二千!!」

「……一個師団分か。隊長には報せたか?」

「勿論です」

「よし、なら防戦に入ろうか」


 吉田城の兵力は一個警備中隊に加え十門の四斤山砲、松井氏約二千がいた。早馬は直ぐに掛川城に伝えられた。


「隊長!!」

「どうした水姫之?」


 この時、葛城は虎姫と十月に生まれたばかりの嫡男虎丸と遊んでいた。葛城は初めて生まれた子どもに溺愛するほどだったが虎姫が時折躾ていたので水姫之達も問題視はしていなかった。


「吉田城に三河の軍勢凡そ一万二千が攻めて来ました。更に宮島大尉の第2警備中隊も出撃準備完了しています」

「国人達は?」

「飯尾連竜が千二百、大沢基胤が千五百、久貝正勝が千の兵を率いて間もなく掛川城に到着します」

「よし、近藤大尉にも連絡しろ。チハとチロも伴って出撃する」

「分かりました」


 葛城の指示に水姫之は頷いて下がる。葛城は虎丸に頬すりをする。


「虎丸、ちょっと行ってくるからな」

「キャッキャッキャ♪」

「和将、気をつけてな。掛川城の守りはあたしに任せな」

「うん。掛川城の守りは任せた」

「おぅ」


 葛城は虎姫にそう言って掛川城から出撃して軍勢を率いて吉田城に向かった。吉田城では青羽大尉の第3警備中隊達が防戦していた。


「装填良し!!」

「撃ェ!!」


 装填が完了した四斤山砲から鉄弾が次々と放たれていく。鉄弾は少しだけの放物線を描いてから着弾。着弾付近にいた雑兵を踏み潰して転がっていく。

 転がる鉄弾に雑兵達は成す術もなく己の四肢や場合によって頭に命中して頭ごと吹き飛ばされたり腹に命中して下半身と上半身が永遠の別れを遂げていたりする。


「数正、このままでは……」


 遠江から帰還した忠勝は傍らにいた石川数正に声をかける。


「うむ、全滅されるかもしれん」


 既に国人達の多くが冥土に送られ地に伏せていた。そこへ伝令の足軽がやってきた。


「申し上げます!! 本多重次様討死!!」

「何!? 重次が討たれたと!!」

「は、種子島の弾を頭に……」


 伝令の足軽は悔しそうにそう告げた。数正と忠勝は溜め息を吐いた。


「……大筒が彼処まで威力があるとは……」

「やはり向こうは南蛮と繋がっているのか?」

「いや、南蛮と繋がっているなら遠江に宣教師がいるはず。忠勝、遠江で宣教師はいたか?」

「……いやおらなんだ」

「……そうか」

「申し上げます!!」

「何じゃ?」

「遠江方面から葛城の軍勢が押し寄せて参ります!!」

「……これまでか。急ぎ豊川を渡河をする。全軍引け!!」


 数正は撤退を決意、生き残りの約七千の軍勢は豊川を渡河して三河に撤退したのである。日本軍は戦傷が残る吉田城に入城した。


「死傷者はどうか?」

「死者は警備中隊は無し。しかし、松井の方で若干数、負傷者は全体で五十足らずです」

「そうか。やはり四斤山砲が効いたか」

「は、ですが四斤山砲ばかり頼っては近接の時には甚だ不安が残ります」

「ふむ……」

「隊長。具申します」

「何だ水姫之?」

「相良油田のガソリンを使い、火炎瓶を作ってはどうですか?」


 水姫之の言葉に葛城達は納得した表情で頷いた。


「成る程」

「瓶は流石に無理なので酒の徳利を使用してはどうでしょうか?」

「うむ、急ぎ研究してくれ」

「分かりました」


 こうして火炎瓶が作られる事になる。一方で葛城は軍勢を三河方面に進めて長沢城、五井城等を攻略する事が決定されたのであった。








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