第十話
さて、無事に戦場を離脱して吉田城に逃げ帰った元康であったが砲弾で左手を失い左脇腹を抉られておりそのまま出血多量で吉田城にて死去してしまうのである。
「正信の意見をもっと聞いておけば……」
「殿!?」
「殿ォ!!」
生き残りの本多正信や板倉勝重、内藤正成らが見守る中、松平元康は史実のように徳川家康とならず幕府も開かず、僅か19歳(数え年)というその生涯を終えたのであった。元康には子がいた。それが幼名竹千代で後に松平信康と名乗る子である。
しかし竹千代はまだ生まれて一年と少し、松平の当主になる資格はあったが年が幼すぎた。しかも信康と母の築山殿は三河にいなかった。駿河の今川館にいたのだ。
これにより三河は混乱状態に陥るのだがそれはまだ先の話であった。日本軍は勝ち戦で意気揚々と掛川城に戻っていた。
「皆の者、大義であった。これで大打撃を受けた三河は暫くは攻めては来んだろう。では恩賞に入る」
今回の戦、三河に攻め込んだが領土を奪っていない。なので土地の恩賞はないが金銀と米の恩賞となった。なお、大分口調がそれっぽくなっている葛城であった。
「……次、井伊直虎」
「はは」
「汝は女の身でありながら松平の重臣鳥居元忠、平岩親吉を討ち取るのはまさに快挙。源平合戦時の巴御前のような働き、誠に天晴れだ」
「はは!!」
葛城の言葉に直虎は感激して頭を下げる。
「その功績を讃え、黄金七十枚、銀十貫を贈ろう」
「はは!!」
恩賞は直虎が一番多かったのであった。そして少しだけ時が過ぎた正月、元旦だと言うのに葛城は朝からそわそわとしていた。
「隊長……少しは落ち着いたらどうですか?」
「いや、それは分かっているんだが……何しろ嫁を貰うというのだがら緊張してな」
部屋の中をウロウロする葛城に水姫之は見えないところで溜め息を吐いた。合戦後、葛城は島津に呼ばれ嫁を貰う事になったのだ。葛城も最初は驚いたが前々に話し合われていた話なので葛城も頷いたのである。
「隊長、我々がこの世界に来て半年以上は過ぎました。最早我々はあの時代に生還するのが不可能と存じます。なら我々はどうすべきは島津司令官が仰ったはずです」
「うむ。我々が天下を取り、あの戦争を回避するためだ」
「その通りです。それに我々はこの時代に生きたという証拠を残さねばなりません」
「……子どもか」
「はい。まずは隊長が祝言して下さらぬと兵達も出来ませぬ」
「やっぱ兵達はもう関係を持っているのか?」
「はい。既に数名が祝言を決意していると……」
葛城が初めて聞く内容だった。葛城達は兵の性的欲求を吐き出させるために小さいながら遊郭を作り、遊女を呼び寄せていた。
しかし、遊女ではなく町に繰り出した時に他の女性と関係を持ってしまったのが数名いた。といっても関係を持った女性は農家の子ともあり葛城はそこまで知らなかったのだ。
「……そうか。俺が祝言せねば皆も苦労をかけるか……」
「申し訳ありません」
「いや、余計に決心がついた。皆のためにも俺は祝言せねばならんな」
(……言わなくて良いのか副官?)
(サプライズ……という形ですので)
(喰えん奴だな……)
そう話す近藤と水姫之であった。そして広間に一人の女性が通された。
「井伊直虎にございます」
「……どういう事だ?」
「……水姫之殿、まさか殿は……」
「知らせてません。何かと忙しいのでこのような驚きもまぁたまには宜しいかと」
南渓瑞聞の言葉に水姫之はハッハッハと笑い言葉を濁す。対して葛城は唖然としながらも白無垢姿の直虎を見つめていた。見つめられた直虎は葛城の視線に気付いて顔をうっすらと赤らめる。
「それでは始めましょうか」
そして葛城と直虎の祝言が挙げられたのであった。花婿は葛城和将、花嫁は井伊直虎。参加者は近藤大尉や水姫之中尉を筆頭に遠江の国人達である。なお、葛城は終始緊張した顔つきだったのは言うまでもない。
その夜、二人は寝室に腰を降ろしていた。
「……疲れたか?」
祝言が終わり、寝室に敷かれた布団の前で葛城と直虎は向かい合って座っている。
「いえ……ですが私で良かったのですか? 私はこの通り男勝りな性格です」
「いやいや、俺は貴女で良かったと思っているよ」
「え……?」
「初めて……直虎と会った時、俺は貴女に一目惚れをしていたよ」
「……貴方が綺麗だと仰ったのは私の耳にも届いてました」
「ハハハ、これはうっかりだった。だがまぁ……これから宜しく頼む直虎。男勝りなところを見せてくれ」
「……はい、和将様。……よし、こうなったら私も覚悟を決める。寝床に行くぞ和将様」
「……性格を現すの早くない?」
「先ほどの発言を撤回するのかい?」
「……ククッ、成る程。確かに面白いよ直虎」
「だろ?」
そして葛城と直虎は夫婦となり初夜を過ごしたのであった。ちなみに、葛城はタイムスリップからこの時まで性的欲求をしていない。というよりも陸戦隊隊長であり遠江国の政務もあったため仕事に忙しくて遊女のところに行っている暇なんてない。決壊寸前のダムのように溜まりに溜まっていたのであった。
後に直虎は「朝は起きれず、昼餉まで腰が抜けていた」と侍女に語るがその表情は幸せそうだったという。対して葛城も「十発目から数えてない」と水姫之に対して意味深長な言葉を残しているのであった。(水姫之自身は呆れていた)
それは兎も角、葛城が直虎(通称虎姫)と夫婦になり遠江全体が祝福に包まれるのであった。
その一方で尾張では織田信長が三河から来訪した酒井忠次が凶報を携えてに驚いていた。
「竹千代が死んだと申すか!?」
「ははっ、一月も前にございます」
「何故に直ぐに言わなんだ!!」
「……三河は今、動乱に包まれていまする」
「何……?」
三河は松平元康という象徴を失い、家臣達の結束が崩壊していた。さながら三河は三つ四つの国人勢力に分かれて対立をしていた。しかもこれに連鎖するかのように一向一揆が勃発し、三河は日ノ本の中でも苛烈な国となっていたのである。
「うぅむ……(下手に三河に手を出せば火傷をするのは必中。然らば此処は……)あい分かった。三河の事は三河の者に任せる。同盟も今暫くはそのままとする」
「ははッ!!」
忠次も信長がただでは動かないと思っていたので内心は驚いていた。だが当の信長本人は三河より美濃に興味があっただけである。忠次は何とか信長の三河侵攻を防ぎ家中の結束を高めようとするのであったが1561年二月、吉田城にて何者かに暗殺をされ三河の地は益々混沌になるのであった。
そして五月、遠江国の麦がそろそろ収穫の時期になろうとしていた。葛城は三河の動向を警戒するために掛川城に陸戦隊の警備大隊が駐屯していた。
「麦の収穫と田植えか」
「戦をなさるのですか?」
「まさか。虎の妊娠が分かったばかりだと言うのに」
水姫之の言葉に葛城は苦笑する。つい先日、虎姫が妊娠している事が発覚して二日間の宴会をしたばかりである。別に初夜の時ではないと思いたい。
「それとも外から誰か来たのか?」
「……三河から本多正信が来ております」
「……何?」
水姫之の言葉に葛城が目を見開くのであった。
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