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33話

 まずは荷物を自分達の部屋に置いて指定された場所へすぐに全員集合する必要がある。

 部屋に入ると、三段ベッドが二つ。

 どの位置を自分の寝床にするか、まず位置決めが始まる。

 一番高いところを好むやつと、低い場所を好むやつ。

 こだわりがあるやつから先に場所を選んで、どこでもいいと感じているやつが後から余った場所に入る。

 俺は余った二段目の位置が自分の寝床になる。

 場所決めが終わったら、荷物を自分の場所に置いて集合場所に集まる。

 全員集まった後、施設の人を交えて再びこの宿泊学習の注意点などの説明が行われた。


「では、これから昼食の時間になります。食堂でバイキング形式になります」


 話が終わると、そのまま全員揃って食堂へと向かう。

 到着したのが正午を過ぎて、その後説明などが長々とあったので少し遅めの昼食。

 みんなお腹を空かせているのか、足取りも軽く食堂へと向かっていく。

 それに対して俺は長時間バスに乗っていたこともあって、大して食欲など湧かない。

 食堂に入ると、様々な料理が並んでいる。

 ラインナップは中学の頃などの修学旅行などであったバイキングとほぼ変わらない。


「……」


 食べる気がしないことや、バイキングが元々苦手な俺からすると何を取ればいいかいつも迷う。

 うちの家族はバイキングというものがとても嫌いである。

 理由としては、マナーの悪い人が荒らしたものを食べるのが嫌だから。

 そのため、家族でバイキングに行った記憶はない。

 バイキングの経験としてはこういう宿泊学習や修学旅行の時だけ。

 それに加えて、両親に食事のマナーを小さい頃から厳しく指導されたこともあって、人の性格や食べ方など品が出るバイキングには苦手意識しかない。

 まぁぶっちゃけ人の食い方なんて、大して見てないと言われたらそうなのだが。


「……お前ら、めっちゃ乗せるな」

「そりゃいちいち取りに来るの面倒だしな。この生徒数だぜ? 並び直すこと考えたら一回で済む方がいいだろ」


 友人達はとにかく食べたいものを皿に乗せまくっている。

 そんな山積みに取られていく料理を見ても、何も欲しいと感じない。

 かといって、食べないとそれも注目を集めることになって面倒になる。

 胃もたれしなさそうな料理を探すが……。


「ボイルウインナー、唐揚げ、エビフライ、ナゲット……」


 一緒にいる友人たちがそういうがっつりしたものを欲しがっているので、自然と近くにはそういう料理しかない。


「この先にあるサラダ山積みに取るしかねぇな……」


 この肉コーナーを越えると、サラダコーナーがある。

 バイキング形式なので、野菜をあまり食べたくない人も多いのかあまり量が減っていない。

 とりあえず、取り皿にそこそこな量のサラダを取る。

 適当にあるドレッシングを選ぶが、いつもなら絶対にかけない青じそドレッシングを選んだ。

 元々あんまり好きでないドレッシングを敢えて選ぼうとしているあたり、もう心が弱ってきているらしい。


 先に友人たちが向かったテーブルに向かおうとすると、葵にばったり遭遇した。


「なぁに、あんたサラダしか食べないの? ダイエット中の女子みたいじゃない」

「何も欲しくないけど、食べないわけにいかないから仕方なくこれ」

「もうすでに元気がないのね。あんたは環境の変化に弱すぎるのよ」


 俺の元気のない様子が面白いと言わんばかりに笑っている。

 このままだとずっと葵に煽られそうなので、コップにお茶を入れてそのままテーブルに向かおうとした。


「待ちなさい。これあげる」


 そんな俺を引き留めた葵は、ひょいっと小さな一口ゼリーをトレーにいれてきた。


「さっき、デザートのところにあったのよ。食欲無くてもそれなら食べられるでしょ?」

「確かにそうだが、何で?」

「何かさ、小学校の頃のバイキングを思い出したから」

「は?」

「小学校の修学旅行でボイルのエビがあったけど、私は手が汁で被れるから食べられないな~って思ってたら、あんたが気を遣って身を取り出してくれたことをなんかね今更思い出した」

「……あったな。そんなこと」

「そのお礼を今してあげる。感謝しなさい?」


 そう言うと、葵はそのままテーブルの方に向かっていった。

 トレーに置かれた一口ゼリーを一瞥して、そのまま友人たちのいるテーブルに向かおうとすると――。


「あれ、桑野くん?」

「お、古山と吉澤か」


 今度は古山と吉澤に遭遇した。


「桑野くん、何か顔が疲れてませんか?」

「もうホームシックなのと、バスでの長時間移動はきつい」

「それでサラダしか食べないってこと? なんか申し訳程度にゼリーあるし」

「女子みたいなラインナップですね……」


 吉澤が葵と同じようなことを言っている。

 こういう時にサラダだけ食べて意識高いとこ見せていく女子はやはり一定数いるということだろうか。


「何かあんまり欲しくないけど、食べないといけないし……。しぶしぶ選んだのがこれ」


 まぁゼリーは生意気な幼馴染が勝手に置いて行ったものだが。


「それではダメだぞ! 私からオレンジを差し上げよう!」


 そう言って古山はみかんをそのままポンと俺のトレーに置いた。

 というか、こういう時にあるオレンジって皮付きの切り分けでそのままかぶりつけるような形じゃないのか。

 なぜ、丸々一個なのか。


「確かにしっかりと食べないとダメですね。私からはこちらを差し上げましょう」


 そう言うと、吉澤は別皿に取り分けてあったデラウェアの小さな房を渡してきた。


「感謝してくださいね??」

「はい……」


 何故それをこちらに渡してきたのかと尋ねる元気もなかったので、そのまま受け取らざるを得なかった。


「じゃ、桑野くん! 残さず食べるんだぞ!」

「一粒ごとに私に感謝しながら食べてくださいね」


 二人とも言いたいことを言うだけ言ってそのままテーブルに向かっていってしまった。

 俺のトレーには、一口ゼリーと一個のオレンジと小さな房のデラウェアと本来なかったはずのものがたくさん乗っている。


「亮太、遅かったな。そんなに選ぶの迷ったか?」

「……いや、選ぶのはそんなに時間かからなったけど、なんか色々あったわ」

「???」


 もりもりと食べる友人達の前で青じそドレッシングの酸味の効いたサラダをゆっくりと食べる。

 そのサラダを食べ終えると、三人からもらったデザートを口にした。

 それぞれが甘味や酸味を引き出して、少しだけ元気になれたような気がした。



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