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7話

次で最終話となります。

この日の目覚めは最悪だった。とても静かなことに居心地がよく思い、外を見てみれば相変わらず朝の日差しが強く暑そうであった。

スマホで日付を確認してみると5度目となる7月19日を示していた。

「はぁ…また戻ったのか」

前回のことを踏まえると彼女は僕が何をしようとも結局20日には死ぬ運命にあるのだと考えられた。

「さて、どうしようか…どうせ学校行っても掃除するだけだしなぁ…」

誰に言うでもなく天井に話しかけていた。

「悠斗 早く起きてご飯食べちゃいなさい」

部屋の外から母さんが話しかけてきた。

「…………」

寝たフリでやり過ごそうと黙っているとノックもせず部屋に入ってきた。

「もう起きなさい あと明後日から夏休みだから頑張りなさいよ」

「あぁ…体調悪いから今日は休むよ」

「ふ〜ん まぁ確かに顔色が少し悪いわね今日は休んでもいいけど明日は行きなさいよ」

「わかった。もう1回寝るよ」

僕がそう言うと母さんは部屋から出ていった。

部屋には再びの静寂が訪れた。

カーテンを閉めれば部屋は薄暗くなり、外の音は聞こえず耳をすませばかろうじてリビングからの音が聞こえる程度であった。

(とりあえず寝るか)

そう思い目を閉じると、ついさっき起きたばかりだというのに直ぐに眠気がきて再び眠りにつくまでそう長くはかからなかった。


[夢の中でー去年の夏休みは、受験勉強で忙しかったことを懐かしんでいた。

僕自身あまり頭がいい方ではなかったのであの頃は必死で勉強していたと思う。

結果は惜しくも第1志望の高校に落ちたので、結局後期試験で今の高校に入ったのだ。

今の高校も学力的に平均よりは少し上であったけど最初はどこか受験に落ちた自分に劣等感を感じてしまっていた。

けれどもクラスメイトはみんな優しくて、親友とも呼べる友人もできた。それに、初めての彼女だってできた。

そんな可愛い彼女はクラスメイトからも信頼されていて僕とは不釣り合いだったかもしれないけど、僕のことを好きと言ってくれて、付き合ってくれたのは本当のことだ。

友達にも恵まれ、可愛い彼女も出来て、高校のレベルを落としたから勉強だって正直な所みんなより出来ていた…はずだ。

いつしか僕はそんな環境で優越感に浸っていたのかもしれない。

これはその報いなのだろうか…]


電話の音が聞こえた。その音で目を覚ますと、枕元に置かれていたスマホが鳴り響いていた。

画面を見ると遼太郎からであったので電話にでると電話口では必死な様相で、

『悠斗か! 今どこにいる?どこにいてもいいけど今すぐ街の西の病院に行け青葉が…青葉が屋上なら飛び降りて今、救急車で運ばれて行った!』

『そっか…遼太郎は彼女が飛び降りること知っていたか?』

『は?そんなの知っていた訳ないだろ!とにかー』

『わかった。ありがとう。今から向かうよ』

そう告げて一方的に電話を切った。

冷静に振舞おうとしていた訳ではなかったが、遼太郎に対して冷たい態度を取ってしまうほど落ち着いていたと自分でも思う。

流石にこれは親友に悪いことをしたと反省した。しかしこれにより、前回彼女が飛び降りたのは20日の出来事で、今日は19日であるのに彼女は死んでしまうことになった。

僕が頑張れば明日には彼女は死に、何も行動を起こさなければその死期が早まるのだと確証づけられた。

そう理解できればもはや、

僕は何もしなくていいのでは?

無駄なことをする必要はあるのか?

初めから助けることは出来たのか?

そんな風なことを考えながらも病院に向かう準備をしていたが、実際何をしに行くのかさっぱり分からない。

(どうせ…どうせ彼女は死ぬのだからそれを見守っている必要はあるのか?)

ならば、行くとこは別だと思い家を出た。


何時に家を出たかは覚えてないが学校に着いたのは14時半頃になってしまった。

おおよその場所は分かっていたのでそっちの方へ行ってみると、そこは警察の人達が来て既にブルーシートによって現場は見えないようにされていた。

(やっぱここに落ちたのか)

確認が済んだので目的地である屋上へと向かった。

昇降口でも廊下でも誰とも会うことなく、屋上への扉は簡単に開いたので不思議と誘いこまれている様に感じられた。

下は警察が色々事後処理をしているみたいであったが、ここは全くの手付かずであるのも不思議に思った。

上から見ると事件のせいなのか部活動をしている学生も見当たらなかったので、強制的に下校をさせられ、先生達は今頃会議室にでも集まっているのではないかと察しがつく。

学生の声もせずに、いつもはやかましく思うセミの声もしないので時間が止まっているかの如くその場は静かであった。

この場に来れば何か、彼女に対する思いも溢れてくるかと思ったが涙なんて出てくるはずもなかった。

そこにはただひたすらに虚しさだけが居座っていた。

僕は屋上の真ん中まで行く仰向けになって寝転がった。

太陽によって熱せられた地面はとても熱かったが太陽自体はさほど眩しくは無かった。

目を閉じればそんなことは関係無くなるが眩しくない方が落ち着くのは確かだ。

目を閉じていると、ついさっき見た夢のことを思い出した。

―今までも努力をすれば大抵のことは何とかなると思って生きてきたがあの時の受験の失敗は中々に堪えるものがあった。

何事も上手くいくことの方が少ないのは当たり前だし、失敗した時には次どうすればいいか考えればいいだけ話なのだ。

そんな単純なことが案外難しいこともその頃に気付かされたのだと思う。

彼女を助けようとしている時にだってそう思った。

(今日がダメでも明日どうにかすればいい)

(ここさえ乗り越えれば楽しい未来がある)

なんて考えて僕なりに考えて努力した。出来ることはなんでもやったはずだ。

それでもダメだった

結局何度やり直しても最終的には彼女は死ぬ運命であったのだ。

僕にはどうしようも出来ない結末。

彼女の物語は僕がいなくても成り立つものだった。僕にとってのヒロインは、ヒロインからしてみればただの脇役の1人。

それでも僕はただ…傍にいたかった。

彼女にとっては数ある内の1人だったとしても、僕にとっては唯一の存在だった。

死ぬ間際に彼女は何を思ったのかは分からない。

僕はこんなにも彼女のことを考えて、考えて、考えて、思い悩んでいることを彼女はきっと知らなかっただろう。

信じたくはないが今でも彼女のことをこうして考えている時点でまだ僕は彼女のことを好きなのかもしれない。結局の所、本心は誰にも分からないー。

「はぁ〜なんかバカらしいな」

そう自嘲気味に呟くと幾らか気持ちが楽になった気がした。

そうして帰ろうと思い立ち上がると、柵の向こう側に何かが置かれているのが目に入ったので近づいてみると、それは上履きであった。

綺麗に揃えて置かれており、こちらから置こうにも無理があるようなので、おそらく柵を超えてから置いたのであろう。

自殺防止の啓発の意味で置かれたのでは無いかと考えられたがそれは違うようであった。

何も考えることなく柵を越えその上履きを手にした。

そこから下を覗き込むと、その場所からは丁度ブルーシートによって隠されていた部分を上から見ることが出来た。

やはりこれは予防の為ではなく結果として残されたものなのだろうが、これが誰の物なのかは今さら考えるまでもなかった。

上から覗いたそのブルーシートに隠されていた地面には赤く美しい花が咲いていた。

何故だか、その花に触れたいという衝動にかられ手を伸ばすが、全く届く気配はない。

あの花を手にすれば自分自身の本心が分かるような、そんな気がしてならなかった。

(手を伸ばすだけじゃダメだ…踏み出さなきゃ近づけない)

思い返せばあの時も高嶺の花の様に感じていた彼女に勇気をだして告白して良かったと思う。

その1歩のおかげで彼女と付き合うことが出来たのだから。

(だったらもう1度踏み出せばいいんだよ)

既に離れてしまった心も、再び歩み寄ろうとすれば触れられるのだと今なら自信を持って言える。

なんたって告白した時は成功したのだから。

今もそう考えられるということはやはり、彼女のことを未だに好きなのであろう。

その心に気づき、触れられた事で少しは救われた気がした。

(ほらね、こんな風に)

その花に触れた時の感動は思っていたよりも温かく大きなものだった。

その直後、大きな音が校舎の壁に反響した。

薄々分かると思いますが、後味悪めかもとは気づくかなぁ

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