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6話

この章は少し長いかも?

目が覚めた。とても静かな朝だった。

僕の隣には遼太郎が寝ていてそのまた隣のベッドでは結衣が寝ていてまだ2人は寝息を立てていた。

ついさっきまで星を眺めていた気がする程に寝た気がなく眠気はまだあった。

身体を起こすとテーブルの上には昨晩食べたお菓子などが広げられたままなのが見える。

スマホを見ると時刻は6時半を示していた。日付は7月20日。

(やっとここまで来られたか…)

僕は深い安堵のため息を吐いたが内心はとても疲労感が溜まっていた。

繰り返された日々を思い出すといくつもの辛い思いをしたがようやく結衣のいる20日を迎えられ今までが報われたような気がするとそれも悪くなかったと思えてしまった。

すると、突然アラームが鳴り響いて、

「うぅぅん……はぁ…」

「おはよう 結衣」

「うん」

「まだ早くないか?」

「女の子は準備があって朝が早いのよ」

「そっか。 大変だね」

「そう言う悠くんも早いね」

「目が覚めちゃったからね」

「そっか」

短い会話ながらも結衣が生きていることを十分に確認できるものであって嬉しかった。

「もう2人とも起きていたのか」

「遼太郎もおはよう」

「あぁ。なんかアラームが聞こえて」

「それ私のだ。ごめんね」

「いや、大丈夫だ。それに青葉は準備あるだろうし。…俺らは部屋から出た方がいいか?」

そういうとこすぐ気遣える遼太郎をカッコよく思えてしまった反面自分が少し情けなく思ってしまった。

「じゃあ…先に着替えちゃうかな」

そう言うので僕と遼太郎は部屋から出て顔を洗いに行った。

「昨日は良く眠れたか?青葉の隣で寝て悪かったな」

「いらない気遣いだよ」

「何もしなかったのか?」

「当たり前だろ!遼太郎だっているし…」

「もし、いなかったら?」

「いなくても出来なかっただろうね」

「それは可哀想になぁ、これで最後だっていうのに」

「今度は遼太郎いなくてもお泊まりに来てみせるよ」

「…そっか。まぁ頑張れよ」

遼太郎はそういうと顔を洗い出してしまったので会話はそこで打ち切られた。


登校する用意が終わった遼太郎は「俺は先に行くからな」と言って先に出ていってしまったので僕はリビングで朝ごはんをご馳走になり、いつも通り結衣と2人で登校することとなった。

「明日から夏休みだけどどうしようか?」

僕はここに来て初めて未来の予定について結衣に聞くことが出来た。

今までは次の日のことだけで精一杯だったが今日が来れば気持ちは幾らか楽になるものだ。

「休みだから会えなくなるかもしれないよ」

そんな僕の考えを打ち砕くかのように彼女はうつむきながらもはっきりとした口調でそう言ってきた。

その雰囲気はどこか怖さを覚えたが、何も聞き返すことが出来ず沈黙が生まれてしまった。

そのまま新しい話題も出てこずに並んで通学路を歩くだけとなってしまった。


教室に着いてからも結衣は女子の輪の方に行ってしまったので僕は1人机に伏していると遼太郎が「喧嘩でもしたのか」と話しかけてきたが「してない」と素っ気なく答えてしまった。

怒っている訳ではなく考え事をしていただけだったのだが遼太郎は「そうか」とだけ答え歩いて行ってしまった。

"会えなくなるかもしれないよ"というこの言葉が何度も頭の中でループしていた。

ようやく結衣が僕の隣に居てくれているのにまたすぐにどこかに行ってしまうような恐怖が押し寄せてきていた。

結衣と並んで進むために何度も来た道を戻ったのにいつの間にかすれ違い追い越されていた様な気分であった。

今日でこのループが終わり明日からは未体験の日常になると思っていたのに僕は先に進める気が全くしなかった。

(終業式なんて2回も受けなくていいか)

そう思ったし、不安のせいからか頭が痛くなってきたので保健室で寝ることにした。


「…て。起きてよ。終わったよ。」

誰かに起こされた気がした。

どれくらい寝たのかは分からないがまぶたがとても重く感じる。

それほど眠かったのだろうかと覚醒しきってない脳で考え僕を起こしてきた人物を探した。

「悠くん体調悪かったの?」

「結衣だったか…寝たからもう大丈夫だよ」

「だったか って失礼ね。少し話があるからついてきて」

「うん…わかったよ」

僕達は保健室を出て屋上へ出た。

初めて屋上に出たが本当は入っては行けない所だったはずである。

そこからは普段見ることの出来ない平坦な街並みが見え高いビルもこの街にはないので遠くには連なる山すら見える中々に良い景色であった。

太陽が真上から少し西へ傾き初めていたので結衣は終業式が終わってしばらくしてから起こしてくれたのであろう。

そんな炎天下にしては、暑さはさほど感じず下校中や部活動をしている生徒の声もセミの声も微かにしか聞こえないほどで、のどかな気分になれた。

そんなことを思っていたら結衣は奥まで歩いていき屋上の柵へ背中を預けた。

この学校は生徒が立ち入ることを前提としていないためか高いフェンスがあるわけでもなく寄りかかっている結衣の背より少し高い程度の柵であった。

僕と結衣はぎりぎり普通に話して声が聞こえる距離まで出来ていた。

「ここ凄い見晴らしがいいね 空もこんなに近い」

「結衣?」

「きっと空に近い方がお願いも聞き届けやすくなるよね」

「何を言―」

「昨日の話だけど」

先程までの普段の口調と変わって大きくも弱々しい調子で結衣が叫んだ。

この状況も掴めないまま突然のことで何も言えないでいると、またいつもの優しい口調に戻って続けた。

「昨日、入院中にお願いしたって話しさ」

「え、うん」

昨晩の話はまだ鮮明に思い出すことが出来、改めて結衣の幸せを願ったばかりだった。

「星にはね"友達が出来ますように"ってお願いしたけど他にもお願いしたの…あの時ね…変な夢を見たの」

結衣は真っ直ぐこちらを見ながら更に続けた。

「その夢に人のような何かが出てきて…契約をしたの」

にわかには信じ難いことだがあまりにも真剣に話すし、何より結衣の話を信じない訳にはいかなかった。

「"病気が治りますように"ってね。そしたら不思議と次の日からどんどん良くなって直ぐに退院出来たの。でも…」

「でも?」

「その人みたいなのとその時もう1つ契約をしたの。それだと…みんな平等に接しないといけないみたい…それって多分好きな人とか出来ちゃダメだったの」

「……え?そしたら僕はー」

「悠くんのことはちゃんと好きだよ」

"それなら良かった"と言おうとしたが本当にそうなのか考えると違う気がした。

そもそもどんな意味かも、何と返すのが正解なのか全く分からない。

その訳の分からない契約で結衣の病気が治ったのなら良い事だとしても、その代償が"人を好きになってはいけない"のだとしたら僕は一体どういう立場なのであろうか。

そんな、理解してあげようにも無理がある話を聞いた僕の思考は停止しかけていた。

そんな止まりかけた思考の中で1つだけ確認しておきたいことが思い浮かんだ。

「その契約?を破ったらどうなるの?」

僕のこの問いを聞いた結衣は不敵に微笑んだ。

「本当は思い当たることないの?私がどうなるか」

いたずらに彼女は笑ったがその目は虚ろに見えた。

「でも、聞いて?本当は直ぐに罰を受けるはずだったけど、それは嫌だったからその前に夢の中で何度もお願いしたの。好きなうちは待ってくださいって」

「なら、なんで!なんで…僕のこと好きだって…」

理解などとうに及ばない話だった為かつい感情的になってしまった。

ただ少しの、ほんの少しの彼女との心の距離を感じてしまったのだ。

それは、彼女の僕に対する気持ちが変わってしまったのだと気がついたからだろう。

「だんだんと好きな気持ちが罪悪感に変わったの。そしたら最近またその人みたいなのが夢に出てきた時にこれ以上延ばすには条件をつけられちゃってね。どんな条件だと思う?」

「それは…"一緒に帰ること"とか?」

昨日、その条件というのを気がついた時は自信があったが今は全くなかった。

そもそも"一緒に帰る"という行為にどのような意味があるのか分からなくなっていた。

「うん、不正解…だよ」

「じゃあなんだよ!こんな何度も好きな人を失って、ようやく辿り着いた答えだと思って、実際今だってこうして目の前に居てくれているじゃないか」

至極落ちついた様子を見せている彼女と違って、僕の情緒はずっと不安定だった。

悲しさや怒りがいつの間にか彼女に対する好意を上回っていた。

その時気がついてしまった。僕も彼女に対する気持ちが変わってしまったのだと。

彼女の為にと思っていたことが、結局は自分の為ではなかったのではないかと。

これ程取り乱した僕を見ても彼女は動じることなく口を開き、

「正解はね、"言葉以外の会話"だよ。LINEとかだろうね」

「そんな…」

「それがない限りは延びたみたい。だけどね、もう嫌なの。

悠くんからLINE貰って嬉しいと思う前とは違うの…今はいつ死ぬのかが怖いの…。迷惑なの…だから…」

何か言いたげな言葉を残すと、彼女は僕に背を向け、柵から身を乗り出すと瞬く間に校舎の陰に消えていった。

彼女からの衝撃的な言葉とあまりの一瞬の出来事にすぐには足が動かなかった。

ドンッという大きな音が下から聞こえるとようやく身体の硬直が解け、僕は急いで彼女の落ちたであろう場所に向かおうと階段の方に振り返って駆け出した。すると、入り口のとこに人影が現れた。

「ごめん!どいてく…なんで遼太郎がここにいるの?」

そこには親友の姿があったが、出入口を塞ぐように立っていた。

「青葉に頼まれていたことだ。飛び降りた後お前は助けに来ようとすると思うからそれ止めてくれって」

「どうしてそんなことを…というか、遼太郎は結衣が死ぬことがわかっていたのか!?いつからだよ!なんで…なんで止めなかった…」

遼太郎に八つ当たりしても意味ないことは分かっているけど、この怒りと悲しみをぶつける先が出来たと言わんばかりにまくし立ててしまった。

それでも遼太郎は僕の言葉を受け止めて、答えてくれた。

「昨日だよ…昨日青葉がアイス落としたからってお前が買いに言った時だよ。驚いたし嘘だと思ったよ。でもな、お前は分からないだろうけど、あんなに頼み込まれたのは初めてで、本気だと思えば断るよりも力になりたいと思うものだ」

「な、何を頼まれていた?」

「今こうして話すことと、伝言を一言だけな…」

そう言って遼太郎は1度黙った。

その様子から彼自身でも言いにくいことなのだと察せたので早く下に行きたい気持ちを抑え遼太郎の受け取ったという伝言を待った。

「それじゃあ言うぞ…」

と、遼太郎が言ったので「わかった」と覚悟を決めて応えた。

「結衣からな……"迷惑だからもうやめて"って伝えるように頼まれたよ」

「そっ…かぁ…」

そう言われるとは予想していたわけではなかったが、さっきまでの彼女自身の口振りから考えると妙にその発言を受け入れざるを得ないように思えてしまい、不思議と納得してしまった。

昨日までならば、こんなことを言われたらショックを受けて立ち直れなくなっていたかもしれない。

だが、今では何も言い返す言葉が見つからなかった。

それほどまでにこの夏の暑さにそぐわず、彼女に対する愛が冷めてしまったのかもしれない。

「ありがとう遼太郎、僕達のことなのにまきこんじゃったね」

「いや、お前たちの友達として頼ってくれたのが俺は嬉しいぞ。あと、救急車は先に呼んである…でも、もう…」

「そっか…うん…まぁ、無理だろうね」

「ごめんな。でもー」

「じゃあね。先帰るから 」

親友の言葉を最後まで聞くことなく僕は彼に背を向けた。

とてもじゃないけど彼に顔向け出来る状態ではいられなかった。


屋上で遼太郎と別れた僕は1人で教室へ行きカバンを持つと下駄箱へと向かった。

案の定、玄関を出ると外は救急車が停まっていたが終業式だったということもあってか生徒の影は見当たらなかった。

そもそも、落ちたと思われる周囲にはブルーシートによって見られないようにされていた。

形の変わった彼女を見たい訳はないが、せめて最後のお別れに一目だけでもなんてことは思っていた。

それが叶わないと分かったので重たい脚を動かし家路へと向かった。

炎天下の中、登下校をするのはいつだって辛いがこの時はフラフラとして倒れてしまいそうになりながらも何とか帰ったと思う。

それほどに何も考えることもなく、記憶が曖昧になっていた。

保健室で休んだ程度では昨晩の夜更かしの眠気は解消されず、その後の出来事により精神的な疲労も相まってベッドに制服のまま横になると意識が遠のいていった。

"いっそこのまま…"なんて考えが最後に浮かんできた。

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