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5話(後編)

夜ご飯をご馳走になるわけにはいかないのでファミレスに行ったが長らく話し込んでしまったので結衣の家に着いたのは21時を少し過ぎたぐらいにお邪魔することになってしまった。

そんな時間になってしまったのに「おかえりなさい」と明るく出迎えてくれた。

結衣の母親とはいつもインターホン越しにしかやり取りをしていなかったので初めて見たのだが、なんというか…結衣の母親だった。

「「お邪魔します」」と僕と遼太郎はそれぞれ応えると結衣の母親が、

「あなたが悠斗くんね この子すぐに2度寝しちゃうから悠斗くんが迎えに来てくれないと遅刻しちゃうかもしれないの」

(なにそれ…可愛いな)

と思ったが口にする訳にもいかないので、「大丈夫ですよ 僕も一緒に登校したいだけなので」と返すと、

「2学期からもよろしくお願いするわ」と頼まれたが、その返しに困ってしまい「分かりました」と素っ気ない応えになってしまった。

気になって結衣の方をちらっと見ると、結衣は笑顔で返してくれていたのが、その笑顔に僕は心苦しかった。

「さて、玄関で長く話しちゃってごめんなさい みんなお風呂に入っちゃいなさいよ」

と、結衣の母親に言って貰ったが少し気恥しいのでシャワーを貸して貰うことになった。


玄関で立ち話をしてから時間も少し経ち、今はとある部屋の前に遼太郎と立っていた。

その部屋の中からは「入っていいよ~」と結衣の声が今しがた聴こえて来たので僕達は目を合わせて、

本日2度目の「「お邪魔します」」を言った。

時間は少し戻り、玄関で結衣の母親としばし話したあと僕達は順番にシャワーを浴びることになった。

家主ということもあり、部屋をキレイにするために結衣が1番初めにシャワーに入り、僕達2人はリビングで待たせて貰っていた。

シャワーを浴び終えた結衣は顔を見せることなく部屋に直行してしまい、その後は僕が先にシャワーを借りた。

遼太郎の入っている間は1人リビング待っていた。

その間は結衣の母親となんともいたたまれない気持ちになりながら話していたら、15分程で遼太郎が戻ってきたのでその時はつい安堵の声がもれてしまった。

そうして僕が入った後、結衣の部屋の場所を教えて貰い部屋に行ったのであった。

そして現在、部屋に入る許可を貰った僕達は結衣の部屋のドアを開いた。

遼太郎はそんなことないと思っていたが、女子の部屋に入ることなんて初めてだったのでどうもドキドキを隠せないでいた。

「2人とも適当に座っていいからね」

遼太郎は「おう」と応え座ったが、僕の方は当の本人を見ると何も応えられなかった。

大人びた雰囲気のある結衣が少し濡れた髪をハーフアップにすると色気というものを感じてしまいその雰囲気引き立つ様だった。

そんな自分の彼女に見とれていたことを悟られまいと遼太郎の隣に座ると申し訳程度に誤魔化すように部屋を見渡した。

部屋自体は特に変わった所はなく、むしろ女の子らしいぬいぐるみや小物の類いがないのでシンプルな部屋だったがそれも結衣らしいと言えば納得がいくものであった。

ただ1つ目に止まったのは、立派な望遠鏡が窓際に置かれていた。

「これ、結衣のものなの?」

「ううん、お父さんのやつ。小さい頃はキャンプによく行って星見ていたから持っているの」

「へぇ〜天体観測好きなこと知らなかった」

「なんでお前より青葉の方が楽しそう何だよ」

「え!?いや、楽しみだよ」

こんなに結衣が星を見るのが好きなこと知らなかったし、それよりも今は彼女の部屋にお邪魔させてもらっているこの状況の方が、テンションが上がるものだった。

「この時期だとペルセウス座流星群になるだろうけどちょっと時期が早いからホントに見られるのかなぁ」

結衣が不安がっているが僕にはよく分からなかった。

僕は単純に朝、テレビで言っていたから見られるのだろうと思って「ニュースになっていたし…」とつぶやき、ほんの出来心で天体観測をやろうと言ったことを少し後悔した。


「もう1時も過ぎたか」

「私、こんな遅くまで友達と遊ぶこと初めてだからホント楽しいよ」

「そっか、お泊まり会とかやらないの?」

「…ウチこういうやつ厳しいからね」

ただでさえ友達が家に来るのが珍しいのに男子2人で来ることをよく許してくれたなと思ったがそれは心の隅に置いておくことにした。

「ところで、何時ぐらいから流星群って見られるの?」

「結構バラつきあるけど2時過ぎとかだと思うよ」

「あと1時間あんのか。それなら1回寝れば良かったな」

「確かに。22時頃からこんな感じだしね」

僕達は結衣の部屋に招き入れられてからというもの、結衣が既に準備していた人生ゲームやらトランプなどをしたり、ダラダラと話をしたりで3時間ほど過ごしていた。

「えぇ〜2人ともそんなこと言わないでよ 」

「えっ、あぁ…ごめん。そんなつもりじゃなかったから」

「そうとこだぞ、青葉がこんなに楽しそうにしているのに可哀想だろ」

思いっきり不貞腐れる結衣に対して僕はフォローを入れるも、さすがに遼太郎の言い分には納得がいかないものがあった。

「でも、ゲームも飽きてきちゃったよね〜」

「ほ、ほら結衣もこう言っているし…」

「そうだ、こういう時といえば卒アルとか見るものじゃないか?」

「え!?そうなの?」

驚いたような顔を見せると直ぐに結衣は考えこんでしまったが少しすると何か意を決したように結衣は、

「悠くんが見たいなら…いいけど…」

困ったような口ぶりや今見せている少し悲しげな表情は思っていた反応と違った。

正直、こういう場面だと恥ずかしがって、嫌がるものだと思った。

しかしそんな結衣の口ぶりや雰囲気からしてそれらとも違い、何か覚悟を持たないといけない気がして即答は出来なかった。

遼太郎の方を見てみると、遼太郎も何か感じたのか空気をよんで静かに僕の決断を待っているようであった。

それならば僕の気持ちも正直に伝えるしかなかった。

「見てみたい。 でも何か嫌な理由があるならそこは無理しないでいいからね」

僕の返答を聞いた結衣は、先ほどまでとはうって変わり安心したようにも見える笑顔で、

「そんなたいしたことじゃないよ…2人には感謝しているし。でも、なんかハードル上がっちゃったかなぁ」

そんなことを言いながら頭をかく結衣の様子は微笑ましくも場を和ませようと振る舞ったに違いなかった。

そうして結衣は立ち上がると壁際にあった本棚の1番下の段から卒業アルバムを持ってきた。

「これは中学生の時の…です。小学生のやつは出せないかな」

やはり恥ずかしさがあったからなのか敬語になってしまいながらも僕達に渡してくれた。

僕達は渡されたアルバムの表紙を見ればこの辺の中学校ではないことに気がつき遼太郎と目を合わせた。

その後、僕達が2人でアルバムを見ている間結衣は窓際に立って外を眺めていた。

僕達が長いこと熱心にアルバムを見ていたからであろうが結衣が、

「私の写真はみつかった?」

と聞いてきた。

「いや…」と僕は答え遼太郎の方を見たが、遼太郎も首を横に振るだけであった。

実際、結衣の写真は3年生のクラス人が全員写っているページでしか見つけられず、行事を撮った写真などでは見つけられなかった。

実際、結衣の写真は3年生のクラス人が全員写っているページでしか見つけられず、行事を撮った写真などでは見つけられなかったが、結衣は僕達の反応がわかっていた様子で、

「その時は入院ばかりしていたの。それで治ったからまたこっちに戻ってきたの」

僕達は何も言葉が出なかった。

何かあるかもとさっき覚悟を決めていなければ良くも悪くも何か口から出ただろうけど、何も声をかけてあげられなかった。

「今はね、病気は治ったからまたこっちに住んでいるけどその時期はここら辺の病院じゃダメで…たまたま親戚の住んでいる近くに治せる病院があったから中学の時はそっちの方に住んでいたの。

だか…ら……友達もいなくて外で遊ぶこともなくってね…。今はみんないるから幸せだよ」

後半は泣いてしまってほとんど言葉になっていなかったがしっかりと僕達に聴き届いていた。

そんな状態の結衣見ていられなくなり僕はすぐに立ち上がって泣いている結衣を抱きしめて背中をさすってあげた。

そのまま「ありがとう。ありがとう」と何度も結衣に声をかけてあげていたら肩を震わせながらも結衣は徐々に落ち着いてきていた。

そんなタイミングを見計らったかのように遼太郎が窓の外を指さして、

「今、空に何か通ったぞ」

と、教えてくれて僕と泣き止んだ結衣は2人で窓の外を見るとちょうど一筋の光の軌跡が見えたとこだった。

それを見て元気になったのか、結衣は部屋を暗くして窓を開け放った。

部屋に入り込んだ夏の空気は嫌な熱さはなく暖かいものであり風が心地よく感じた。

2階である結衣の部屋から外を見渡すと家々の明かりも消えており、空は煌々としていた。

遼太郎も結衣もすっかり空を見上げていたので、僕も見上げてみると頻繁にではないが確かに流れ星は見えた。

「入院していた時にベッドからずっと星を見ていたからそれもあって星が好きなの。その時に見えた流れ星にもお願いしたの。"高校生になったら友達がいっぱい欲しい"って」

左隣にいる結衣がそう呟いた。

その顔は暗くてはっきりと見えなかったがそこにも光るものが見えた気がした。

すると、僕の右隣にいる遼太郎が

「なら青葉の願い事はちゃんと叶ったな」

と空を見上げながら言った。

遼太郎は熱心に空を見上げ顔を下げようとはしなかった。

そんな2人を見て何故だか僕まで涙がこぼれてきた。

結衣だけではなく、僕にもこんなにも大切な友達が出来たのだから何に感謝したらいいのか到底分からないが願い事は叶うものなのだと思えた。

「なら次は何をお願いしようか」

「私は…みんなのおかげで幸せになれたから、みんなのことを悲しませたくない」

「俺は誰かの役にたちたいな」

「2人とも他の人の為なのか…僕なんか、"こうして友達と楽しく過ごせたらなぁ"なんて思っていたのに」

「私はいいと思う!やっぱ笑顔がいちばんだよ」

「そうだな、俺はそれをサポートしてやるよ」

「ホント2人とも凄いや」

僕達は眠気も忘れてしばらく星を眺めていた。

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