5話 (前編)
ちょっと長いのでここ前後編で分けさせて頂きます。
今朝は目が覚めるのが早かった。
日の出の時刻はとうに過ぎているのかセミの声がジージーと聴こえていたが台所の方から音が聴こえないのでまだ母さんは起きていない様子であった。
(今日も19日か)
いつも通り携帯で日付を確認するがもはや驚きもしなくなった。
あのまま当たり前のように20日をむかえても結衣がいなければ意味が無く、何より結衣のいない未来に進むのが怖かった。
「さて、今日もまた結衣を迎えに行って…帰りは…どうすんだ?」
毎朝結衣の家には迎えに行くことはすでに習慣となり始めていたが、放課後については引っかかる点があった。
どうも最近は一緒に帰っていないことに気がついた。
いつもは2人とも部活がないので帰りの会が終われば出来る限りは2人で帰っていたのだが最近は結衣に「先に帰っていて」と言われている事が多い気がした。
(最後に帰ったのは3日前…っていうか18日になるのか)
そこまで考えると僕はこの事象について1度経緯を思い返してみた。
(20日に1度目の結衣が死んでしまった。18日の放課後は一緒にデート…の練習をして、19日の初めは階段から落ちて…2回目は交通事故…)
「19日は…一緒に帰ってない…これなのか!?」
思わず叫んでしまったがこれは叫ばずにはいられなかった。
「なに朝から何叫んでいるの!起きているなら早く行く用意しなさい」
どうやら母さんを起こしてしまったらしく、戸を叩いて怒られてしまったので「ごめん」とだけ伝えた。
しかし、結衣を助けるための糸口を掴む事が出来たと思うので結衣の死んでしまう未来を変えるための計画を立てられるようになった。
「放課後に結衣を待つ口実がなんか必要かなぁ」
僕は学校へ行く準備をしながらその事について考えながらリビングへ行くとテレビでは今日観られるのであろう流星群についてのニュースが流れていた。
「流星群かぁ……母さん、今日の夜出掛けるから」
「はいはい、好きにして頂戴 」
あっさりOKを貰い今日の放課後の予定が立ったので遼太郎にこのことをLINEで送ると直ぐに「了解」と返信がきた。
これから会うし結衣には後で直接伝えることにした。
いつもと同じ時間に結衣の家に行き2人で通学路を歩いている時に僕はさっき勝手に1人で決めた今日の予定を結衣に詳しく話した。
「今日掃除終わったら遼太郎と3人で流星群見るためにさあそこの山に行こうよ。夏休みにはちょっと早いけどキャンプって感じで」
「いいねぇ~ でもそれなら2人とも私の家に来たら? 望遠鏡もあるし」
「え、行っていいの?男子2人で?」
「悠くんだけの方が心配だし大丈夫だよ。お母さんに連絡しておくね」
「ちょっとショックなこと聞いちゃったけど…お母さんによろしく頼むね」
前半部分は濁して言うも初めて結衣の家に入れさせてくれるとの事で遼太郎も誘っておいて良かったと安心した。
掃除も3回目となると流石に嫌気がさしてきたが効率は確実に上がっていた。
「今日の夜のことだけど遼太郎は大丈夫?」
「大丈夫だけどまさか青葉の家に行くことになるとはなぁ。部活用の着替えはあるけどせっかくだから色々買って行かないとだよな」
「そうだね 放課後3人で買いに行こうか」
「夏休みは明後日からっていうのに随分浮かれているな」
笑いながら遼太郎はそう茶化してきたが、僕からしてみれば夏休みはとっくに来ていたはずで、そんなことは説明しても無駄だと思い「少し早いね」としか言えなかった。
放課後さえ結衣から目を離さなければ大丈夫だと思ったので今日は掃除用具を片付けるとこまできちんとやりチャイムがなるまで遼太郎と適当に過ごしていた。
放課後になると予想通り式の準備があるために結衣が「先に帰っていて」と僕達に言ってきたが「この後買い出し行きたいから待っているから」と伝えると、「わかった。早く終わらすね」
と言い足早に歩いて行くのを見送り僕達は教室で待つことにした。
結衣が行ってしまうと直ぐに遼太郎から、「悠斗って星好きだっけ?」と聞かれ、考えてみれば勢いで流星群を見ようと言ったが別に今日一緒に帰ればいいだけだと思うし、夜まで一緒にいる必要はないだろうけど、結衣と一緒に20日を迎えたかったというのもあるので言ってしまったのだと思うことにして、
「あっ…普通かなぁ〜でも流星群見たいと思わない?」
と曖昧に答えると、
「まぁな、珍しいし見たい気もするな」
と返してきたのでなんとか誤魔化せたのではないかと思うことにした。
そこからは2人で期末テストがどうだったかとか部活の合宿が辛そうだとか他愛もない話をしながら、待つこと20分ほどで結衣が戻ってきたので3人で買い物に行くこととなった。
買い物自体はお菓子ぐらいしか買うものがなかったのでその後も3人で街をブラブラするなどして時間を過した。
慣れない男子2人がいる中3人でプリクラを撮ったり、みんなでアイスを買ったら結衣がはしゃいでアイスを落としてしまい僕が結衣の分をまた買いに行かされたりと、2人でデートの練習をした時よりも緊張せずに自然な感じで遊べたと思ったが、同時に自分が今まで見ていた結衣と少し違う気もして嬉しくもあり怖くなってしまった。
(今日みたいな1日を夏休みも過ごせたら…)
口に出してしまえばそんな未来がアイスのように溶けてなくなってしまうと思い、その言葉を飲み込んで今この瞬間を楽しむことした。