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1話

初めまして。

私にあなたの時間をくれませんか?

全9話になる予定です。

ここまで長いのは初めてですがもし良ければ。

最後まで読んで頂いた時に思うことは”ここまで読んで損した”と思う人もいるでしょうが、私は好きな終わり方にしているので最後までお付き合い下さい。

夏が始まったのだと思わせるには充分すぎる程暑い夏の朝の通学路。

遠くの山の方には入道雲が見えているので夏が本格的にやってきたのだと思い知らされる。

そんな今日は7月20日、うちの学校の終業式の日であり、明日から高校生になって初めての夏休みが始まることをとても心待ちにしていた。

嬉しさのあまり気が乗ってしまい少し早く学校に着いてしまった。

まだガランとした教室に僕1人が入っていくが全く寂しい気持ちはしなかった。

「まだ、8時前か…家出るのも早かったかもなぁ」

そう独り言を呟きながらも気分が良かった訳を明日から夏休みが始まるというだけでは無いことを自分でも分かっていた。

恥ずかしげもなく僕はこの胸の高鳴りを最近になって初めての彼女が出来たからなのだと宣言できよう。

まだデートも行ったこと無いし、手を繋いだことすらないそんな初心な僕と付き合ってくれることになった僕の彼女、クラスメイトである青葉結衣のことが心の底から好きなのだが、どこのクラスにも居るような平凡な僕が告白に成功したことを今でも不思議に思うことがあった。

こんな見た目も平凡な僕に対して、結衣は日焼けを知らないような白磁色の肌に、手入れがいき届いている艶のある長い黒髪なので和服の似合う凛とした日本人の女性という見た目をしている。

背もそんなに高くないのに加え人懐っこいところもあるので小動物を想起させる様な可愛らしい印象を誰もが持つだろう。

誰にでも優しい所が結衣の1番良いところだが彼氏となった今ではみんなに対して優しい所がなんとも複雑な気持ちであった。

「まだ彼氏としての余裕がないのだろうか」などと長らく1人、机伏せながらそんなことを考えていたら、すでに8時20分を少し回った位になっていてクラスメイト達がだいぶ教室に居ることにようやく気がついた。

付き合うことになってからの朝はいつも僕が、結衣の家まで迎えに行って一緒に登校していたが今日は僕が早く起きてしまったのでLINEでメッセージを送ると、しばらくしてから、「先に行っていいよ」と返信が返ってきたので、僕だけ先に早く来てしまったのだがそれにしても未だに結衣の姿が見えないこと何故だか不安に感じていた。


8時30分に朝のチャイムが鳴ると、少し遅れて先生が教室に入って来たが、教室では明日からの夏休みのことで皆浮かれていたので先生が入って来たのを確認するのが遅れて、先生から注意されてから急いで席に着いていった。

生徒達の気持ちとは対照的に先生はとても暗い雰囲気であることを僕は不審に思ったがそのまま朝の会が始まった。

いつも通り「おはようございます」の挨拶をした後に出欠確認が始まった。

出席番号順に呼んでいくのだが何故か1番最初である青葉結衣の名前が飛ばされた。

先生が呼び忘れただけなのかと思い、僕は結衣の席を見たが結衣は今日休みのようだと周りの生徒も皆確認したようだった。

そのまま出欠確認が終わるとすぐに終業式が始まるので体育館に行くのに廊下に整列しろと先生が言うのでみんながぞろぞろと教室を出ていくのを僕は自分の席から見ていると、

「お前はなんか心あたりないのか?」と同じクラスで、頼りになる親友の遼太郎が近くにまで来て聞いてきた。

「僕が朝早く起きたから「早く行こう」ってLINEしたら「先に行っていいよ」って返信が来たけどそれだけかなぁ」

遼太郎は「そっか」とだけ言うと考えこんでいたが、僕の方がなんで休んでいるか知りたいとこであった。

今日結衣が休むことを先生は知っていたから飛ばしたとしても、朝のLINEでは体調が優れないことなど言っていなかったから、登校中に熱中症で倒れてしまったのではないかなどと余計なことまで考えてしまう始末であった。


終業式の間も僕は結衣が居ないことを心配に思い、式のことなど上の空であった。

クラスメイトが休んだだけなので周りの人達は前後の人と話したり、寝ていたりしていたが僕にとってはこのことは心配の種であったのだ。

それはいつの間にか校長が終わりの挨拶をしていた程である。

校歌が歌い終わり式も終わったので教室に帰ると、すぐに帰りの会を始めると先生が言うので皆急いで席に着くと先生が朝見た時よりもさらに暗い雰囲気で話始めた。

「みなさん1学期はお疲れ様でした。まだ1年生のみなさんは初対面の人がほとんどだったことでしょうけど仲良くなれましたか? 高校生は勉強も大事ですが友達と遊ぶのもまた夏休みの過ごしかたです。」

そこまで言うと先生はしばらく黙った。明らかに言葉を探しているようだったので誰しもが静かに待っているとやがて、重苦しい雰囲気の中ついに口を開くと、

「それと1つ悲しいことを言わなければなりません。今朝、青葉さんは登校中に交通事故に遭いすぐに救急車にて搬送されましたが、先程搬送先の病院で死亡が確認されたとの報告が入りました。皆さんも浮かれてしまい危険な思いをしないように安全に…楽しい夏休みを過ごして下さい。夏休み明けにまた元気なみなさんに会えることを楽しみにしています。

これで帰りの会を終わりにしますので気をつけて帰ってください。私は…今から病院へと向かいます」

辺りからは色も失われ重たく冷たい雰囲気が僕たちにのしかかり動けなくしている様な空気があった。

先生が教室を出て行ったが、誰も帰る素振りは見せず、喋る者もいなかった。

朝の盛り上がりなど嘘の様で外で鳴くセミの声すら聞こえない程教室は静まりかえっていた。

話しかけられるまで遼太郎の存在に気づかなかったが遼太郎がこちらに向かって来て、

「悠斗…帰るぞ」

「え、あぁ…わかった」

そうして僕達はなるべく音をたてずに教室から出ていった。


帰り道もしばらく無言が続いた。

教室から出ても重く冷たいものがまとわりついてきている気がして昼すぎだというのに暑さを感じられなかった。

どれだけ考えないようにしてもそんなことは無理だし、何か話そうにも話題など思い浮かばなかった。

遼太郎も何も聞いてこないし何も話しかけてこないがそれが彼なりの気遣いなのだろうと思うとやはり遼太郎が友達で良かったと思える。

「ありがとう、気にしなくていいよ」

僕が初めに出たのはそんな感謝の言葉だった。

「別に…なんて言葉をかけてやったらいいかわからないだけだ」

ほんの少し間が空いたが遼太郎も小さな声で一言答えてくれた。

それが、今は本当にありがたかった。

「結局結衣とはあまり遊びに行けなかったなぁ。夏休みは何処か遊びに行こうかと思っていたのになぁ」

せめてもの強がりのように明るく言ったが、そんな小さな夢すらもう叶わないと思うと一気に虚しさが込み上げていると、遼太郎はあきれたように、

「お前らが付き合っていたのはクラスみんな知っていたから堂々としいてれば良かったのにさ」

「みんな知っていたのか!?そんなこと気づかなかったよ」

僕と結衣は傍からみると釣り合いが取れてないと思い、誰かに知られるとどこかから叩かれるのではないかと多少の覚悟は持ち合わせていたので秘密にしていたつもりであった。

それこそ僕は遼太郎にしか話していなかったので衝撃の事実であった。

「青葉は男子からも可愛くて人気だったから羨ましがることはあってもアイツの悲しむようなことは誰もしないだろ」

「やっぱりみんな結衣のことが好きだったのかぁ、僕とは違うよ」

「それでもお前のことを選んだのだろうよ」

「そ、それは…かなり嬉しいな」

こんなに嬉しいことは中々なく思わず口元が緩んでしまうと、

「だいぶ元気になったみたいだな、さっきまでのお前は死んだようだったぞ。まぁ…それも仕方ないことだろうけどな」

「そうだな…ありがとう 遼太郎のおかげだよ」

「気持ち悪いからやめろ」と、照れたように遼太郎は言ってきた。


 遼太郎と別れた後は1人になったが、僕の帰り道に結衣の家はあり、今そこを通ると彼女がいるのかもと思い何をするか自分でもわからないので寄り道などしていたらいつの間にか日も暮れていたので郷愁の中家に帰った。

親が「おかえり」と言ったのだろうが僕には聞こえなかった。

あるいは聞こえないふりをしたのかもしれないが、自分の部屋に入りそのままベッドに横たわった。

部屋で1人になると、とたんに独りになったと錯覚を起こし涙が自然と流れてきたがそれを止めることを出来なかった。

別にこの世に独りになったわけではなく大切な人を1人失っただけなのに、その1人の存在が今の自分には大きすぎるものだったと今更思い知らされた。

 やがて泣くのにも疲れ、落ち着いてから親には体調が悪いから寝るとだけ伝えてその日はそのまま寝ることにした。

明日から夏休みが始まることを楽しみしていた自分などもうどこにもいなかった。


「そろそろ起きる時間じゃないの?」

すっかり熟睡していたらしく、母親の声が聞こえて薄目を開けると、昨日カーテンを閉めずに寝たために朝の陽光が差し込んできているのを確認すると再び目を閉じた。

「えぇ…今日から夏休みだからまだ寝かせてよ。それに…」

「何寝ぼけているのよ、夏休みはまだ早いでしょ! 最後まで休まず行くのよ」

昨日のことで泣き疲れたのでもう一度寝ようと考えていた僕には何を言っているのか全く分からなかったが、とりあえず携帯の画面をみると一瞬で目が覚めた。

「えっ…今日は18日だって…?」

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