勝ちたきゃ従いな!
オレはケンカを買ってもらえず、あいつはドラゴン退治に向かってゆく。
悔しかった。
地面を叩いた時の感触は今でも忘れない。
痛かったから。
それでも、その痛みなどどうだっていいくらい、悔しかった。
遠くであいつがデッキを確認しているのが見える。
背を向けていてわからなかったが、きっとニヤニヤしていたのだろう。
……と、数秒後にそいつは全力でこちらへ駆け戻ってきた。
鬼の形相で。
わけがわからず眺めていると、目の前に着いたそいつはデッキを突き付けてきた。
そいつは低い声で問うた。
「……何だこれ?」
「は? デッキだけど?」
「そんなことはわかっている! この雑魚だらけのデッキでどう戦えと言うんだ!?」
立場逆転。
オレの目の前で必死こいてるそいつを見て、心の底から嬉しかった。
思い出しただけで気分がいい。
なので、その時オレはこう言った。
「ちゃんと人の話を聞かねえからだ。タコ!」
「ああん!?」
そいつは胸倉を掴み、オレを引き寄せた。
正直怖くない。
何しろ主導権はこっちにある。
「さっきみたいに聞くだけ聞いて捨てられちゃ堪ったもんじゃねえ。バトルが始まったら教えてやるよ」
「……お前を信じろと? ふざけるな!」
「いいのかよ? 役立たずのままで。オレが丁寧に教えてやるから、戦いに行け」
「……騙したら神への反逆だからな!」
文句を言いながらもそいつはデッキを取り込み、ドラゴンのいる彼方へ向かって手を翳した。
「ターゲット、ロックオン。バトル開始!」
宣言と同時に手の平から5枚のカードが飛び出し、宙に浮かんだ。
ドラゴンもこちらに気付き、向かって来ている。
その間、毎秒そいつは白や青の光を纏っては、それをカードに込めて放っている。
モンスターが次々と召喚され、ドラゴンへと向かってゆく。
バトルの速度に圧倒されていると、不意にそいつが振り返った。
「早く使い方を教えろ!」
「お、おう! 小型モンスターで注意を惹きつつ時間を稼げ! 勝ち筋はエリミネイター。そいつならどんな強敵でも一撃で倒せるんだろ?」
「だが、あの炎で焼かれたらどうする!? 確かにあいつは目の前の敵を襲う習性を持つが、背後からの接近に対し、火を吐くこともある!」
「大丈夫だ! 二体同時に出せば、片方を囮にできる!」
「もし大暴れでもして周囲全てを焼き尽くされたらどうする気だ!?」
「それも想定済みだ! カウンタースペルを使え!」
「……これか! その時にこいつを使えばいいんだな!?」
そいつは一枚のカードを手に取り、オレに見せた。
さっき召喚した幼きエスパーの効果により、既に引き込めていたようだ。
それにしても驚いた。
こうしている間にも繰り広げられている攻防。
当たり前だが、リアルタイムで戦闘は進んでゆく。
毎秒繰り出される攻撃。
散ってゆく味方。
オレが元いた世界でやってたカードゲームにおいて、ターンと呼んでいた時間はこんなに短かったのか。
多くのシリーズで共通していたルールの一つに「召喚してすぐには攻撃できない」というのがあった。
その「すぐ」って何だ?
この、現れた直後の一秒にも満たない間のことか?
1ターンって……たった一秒のことだったのか!?
感動するオレの目の前で、そいつは休みなくカードを使っている。
そして、その時が来た。
「召喚! 別々に向かえ!」
二体同時に出したエリミネイターが、左右に分かれドラゴンへ進軍する。
さらに、もう一枚カードを手に取ると、青い光を込めて放った。
……しかし、何も起こらない。
不思議に思っていると、彼方でドラゴンが息を吸うのが見えた。
「まずい! カウンタースペルを……!」
必死に叫んだ。
だが、あいつは余裕の表情でオレに振り返った。
ドヤ顔で。
そしてこう言った。
「もう、使ってある」
ニヤリと笑うその背景で、ドラゴンが息を吐く動作が見えた。
しかし、何事も起こらない。
ここでオレは理解した。
書いてあったカウンターという能力の意味を。
オレはてっきり、これは攻撃の後に対抗できる効果だと思っていた。
だが、実際は予備動作に向かって打つことにより、発動そのものを阻止できる効果のようだ。
納得しているオレを置き去りにし、戦闘は続いている。
今度は予備動作なしで火を吐くドラゴン。
しかし、吸い込みが足らず前方にしか炎は広がらない。
その炎に焼かれ散るエリミネイター。
だが、反対側にもう一体いる。
次の瞬間、鋭利なナイフがドラゴンを貫いた。
さすがはアサシン。堅い鱗を避け、的確に急所を突いたのだろう。
命を失い、急降下するドラゴン。
その体は空中で淡く光り、あいつの手元にカードとなって表れた。
高ぶる思いがこみ上げてくる。
それを言葉にし、オレはそいつに伝えた。
「どうだ? オレの言った通りにしたら勝てただろう?」
清々しい気分だ。
そしてそいつもこう言った。
「まあ、役には立つようだな。これからも利用してやる」
オレは思った。
やっぱりドラゴンじゃなくてこいつをぶっ倒すべきだった、と。