こっちだって遊びじゃねえ!
その後、そいつの能力や目的を詳しく聞き出した。
わかりやすくまとめると、こうだ。
そいつは神の命令で動いており、魔法を全て封印するのが目的。
そのために与えられた力が、カードを用いた魔法。
何でそんな面倒なシステムなのかというと、裏切り防止のため。
つまりは枷だ。
具体的なその内容は、カードゲームをモチーフとしている。
デッキを予め作っておき、体内に取り込んでおく。
その際、枚数などの規定もきちんと守らなければならない。
一戦毎に魔力を貯め直さなければならず、戦うには毎回ターゲットを指定する必要がある。
一度にターゲットに指定できる対象は一つ。
とまあ、こんな感じ。
これを聞いてふざけてると思ったなら、あんたの感覚は正常だ。
実際、馬鹿げてると思う。
命がけの戦いで、カードを使ってるというだけならまだしも、なぜご丁寧にデッキを組む必要がある?
そんなの、全カード制限なく使えよ。
そう思ったが、どうやらそれを封じることにより裏切られた際に始末しやすくしている、ということらしい。
で、その裏切者にこいつらが苦しめられることもあるのだとか。
裏切者は悪魔に寝返って、その制限を解除するから厄介なのだそうだ。
本末転倒なんじゃねえの? 神様さんよぉ。
魔法を封印するために魔法を使っちゃってさ。
でもまあ、乗りかかった舟なので、こいつの現状の悩みを聞いてやることにしたんだ。
「お前の話したことはわかった。で、何でオレは呼び出されたんだ?」
「知らん。お前など、見るからに弱そうで鍛えてるようには思えんがな。その証拠に、能力を使わずともお前をあっさり負かすことができた」
「悪かったな! こちとらインドア派なんで力勝負はからきしなんだわ」
「ますますわからぬな。何故お前が呼ばれた?」
「知らねえけど、オレは元の世界でプロゲーマーをやってた。わかるか? ゲームでお金を……」
「知っている。私は作られた時から全ての世界の在り方を知識として得ている」
作られた、という言い方が引っかかった。
が、この時は一度流し、話を続けた。
「なら話が早えや。そういうわけで、一応はカードゲームが得意だ。お前、カードのことで何か悩んでたりするのか?」
聞いた途端、そいつは鼻で笑いやがった。
「お前に話してどうする? 私はお前の助けなど必要としていない」
「ああ!? 何だその言い方! 助けが必要だから神が呼んだんだろうが」
「思い上がりだな」
「じゃあ何で劣等感抱いてたんだよ? 神に貢献できてない自覚があるんじゃねえのかよ!?」
「何だと!?」
当然のように取っ組み合いに発展。
しかし、何しろ体力には自信がない二人(勝手にこいつも含めたが、まあ魔術師の類だし間違ってないだろう)だから、数分後にはお互い息切れ。
自ずとケンカは一時休戦となり、質疑応答を再開した。
「いい加減……話せよ! 神様の思いを……無下にする気か?」
「……神の思し召しなら、仕方あるまい」
ゆっくりと息を整えるそいつ。
しばらくして、奴は彼方を指さした。
目に映ったのは、遠くに飛ぶ赤い竜。
「あれが見えるか?」
「……ドラゴン?」
「ああ、そうだ。見ての通り獰猛で、目に入った者へ無差別に襲いかかる」
そいつの言う通り、ドラゴンは遠くでやたら暴れ回っている。
たぶん、虫か小鳥でも追い回してるのだろう。
「あのような巨大な魔法生物も相手にしなければならぬのだが……」
「勝算がねえわけだ? じゃ、デッキをオレが組んでやればいいんだな? コンセプトはもう浮かんでいる」
そう言ったら、そいつはまた鼻で笑いやがった。
「コンセプトだの何だの。お前が俗に言うオタクと呼ばれる存在か。これは遊びじゃない」
「何ぃ!?」
オレはそいつの胸倉をつかんだ。
不意のことで相手も予想していなかったのか、今度は上手くいった。
「こっちだって遊びじゃねえんだ! 負けてばかりじゃクビになる! 生きてくために必死なんだよ!」
「ッ! だが、コンセプトだとか趣味や趣向を組み込もうとしただろう!?」
「はあ!? 何言ってんだ?」
「推しだとか、そういう文化はいらん! こっちは真剣なのだ!」
その言葉を聞いて、オレは気付いた。
こいつがとんでもない勘違いをしているということに。
「あのな? コンセプトって、そういうもんじゃねえんだわ。速攻とか長期戦とか、どういう戦略で戦うかを決めたもの。その戦略に沿ったカードを、デッキ全体のバランスを考えて一枚一枚吟味する。そのことを指して使う言葉であって、お前が考えてるような意味じゃねえよ」
そう教えてやると、そいつはポカンと口を開けた。
意味が伝わったのかどうかわからないような、間抜け面で。
オレは胸倉から手を離し、わざと大き目に溜息を吐いてから手を差し出し、こう言った。
「とりあえず、カード出せよ」