ローリー・アロー
「いえ…大丈夫です…あー何か御用ですか?」
イザベラはかなり驚いたが、眉毛だけ動かし謎の男を見つめた。
「この近くに住んでいるのですが、今回の事件で気になることがありまして…」
男はこのスラム街に住んでいる割には、丁寧な言葉遣いと物腰だ。
「あぁ、それは大変ありがたいです。何かお聞きになられたのですか?」
「いや、見たとか聞いたとかではなくて…噂なんです。」
「なるほど。嘘でも構わないので教えていただけないでしょうか?」
「最近…子供を見かけないんです。家族に聞いても遊びに行っているとだけ…」
それは聞いた話じゃないかとイザベラは心の中で突っ込んだ。
「それはどこのお子さんなのですか?」
「そこまでは分からないんです、通りがかりに聞いただけなので…」
イザベラは噂の意味を理解した。
「その話を聞いたのは1人だけですか?それとも何組かの家族?」
「2組ぐらいです。あまり話したがらないそうです。」
イザベラは頷くと男の顔を見た。その目は生気がないどこを見ているのか分からない…しかし男が瞬きをした瞬間、その視線はイザベラを射抜いていた。
「他に何か聞きましたか?」
「いえ、それだけです。」
「分かりました。事件解決の参考にさせて頂きます。ご協力感謝いたします。」
イザベラはそういい少し微笑むとこの謎の不気味な男性から離れようとした。
「あの…!申し訳ないんですけど…今の話誰にもしないでいただけないでしょうか…?」
そういってイザベラをのぞき込んでいた目は犬のようなあどけなさと困惑がにじんでおり、先ほどの瞳からは想像が出来なかった。
「えっと…なぜでしょうか?」
「噂なのに、あまりそこに重要性を見出してほしくなくて…この辺を警察にかき回されたくない気持ちもあって…」
確かにこのスラム街周辺は薬や酒、売春などの犯罪が横行しているが、それで生きている人たちも大勢いる。自分の仲間がその一員だったこともあり、その辺の事情は警察よりも同情はできる。
「まあ、確かにそうですね…小耳にはさんだってことで、片隅に置いておきます。」
「ありがとうございます、あの、あとこの辺のことなら詳しいので、何かあったら探しに来てください。協力します。」
警察に言うなや協力するなやどっちだと思いながら、イザベラは笑顔で頷いた。
「ご協力感謝します、お名前をお伺いしても?」
「ローリーです。ローリー・アロー、一応心理学者です。」
「アローさん。ありがとうございます。また何かあれば、ひとまずここで失礼します。」
イザベラは早口でそういうとローリーが口を開く前にそそくさと来た道を戻った。今まであまり感じたことのなかった雰囲気だったので一刻も早く帰りたかったのだ。目で恐ろしいほど何かを語ろうとする姿は恐ろしくもどこか魅力的だった。イザベラは警察が自分の行動をとやかく言う前に家に帰ろうと思い、足早で事件現場を後にした。
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イザベラが家に帰ってきたときは、何人かが活動を始めているところだった。さっきまでの謎めいたエリアとは違い、ここが自分に適していると改めて感じさせられた。
「おはよ~イザベラ。起きたらいなかったから、びっくりしたよ」
リリーがのんびりとした口調で言った。
「おはよう、放りっぱなしでごめんね」
「どっか行ってたの?」
ルージュがコーヒーを片手に問いかけた。
「そう、昨日言ってた現場にね…」
「朝からイザベラは頑張り過ぎ。私らも手伝うんだから、1人であっちこっち行かないでよ。いつかいなくなるんじゃないかとヒヤッとするよ。」
「そうだよね…リリー、ありがとう。出来るだけ頼るようにする。」
そうこなくっちゃとリリーは呟き、キッチンを後にした。
「…で、何かあったの?」
さっきまで黙っていたエマが口を開いた。
「あったっていうか…うーん、何か変な人がいたぐらいかな。」
イザベラはエマに、ローリー・アローのことを伝えるか一瞬迷ったが、もう二度と会わない可能性がある人の情報を伝える必要も無いかと思い、誤魔化した。
超久しぶりの投稿です。